最初で最後の一人
如雨露から水が垂れ落ちる。公にさらされた太陽の光。その光が如雨露の水で虹を描いたとき、光の扉が現れた。
時は今からはるか昔の出来事。太陽と月の間に広がる空間。そこに繋がると言われている光の塊。それは木々や動物、人までも吸い込むことがある。当然吸い込んだのちには帰ってきた者はいない。人々はそれを恐れるようになった。あるものは地に隠れ家を作り、またあるものは勇敢にその光に立ち向かおうと、いつまでも光の前に佇む。だがそのものもあっけなく吸い込まれた。幾年かの時が過ぎる。そして光の塊が徐々に徐々にと大きく、広がっていく。
逃げ回る者は既にいない。つまり、皆が絶望しているのだ。
ふと気が付くとその星には人と呼べる生物がたった十数人だけになっていた。そして光がその集団に近づき他のものとは離れたところにいた男を残し、すべての生き物を吸い込んだ。男は何も抵抗せず、ただ立っていただけだった。
最後の一人だけになったのがわかると、光の中から声が聞こえた。
「最後の一人、それを味わうとどう思うか。」男は口を一向に開かない。光からは続けて
「何も言うことがないというのならそれでいい。何もなくなって話すことすらできないのなら、お前も消滅させてやる。」
男は
「ぁ・・・ぁぁぁ・・・・」
小さくそれだけ唸ると、膝から崩れ落ちるように倒れた。
光はその男の頭に近づく、そして語る。
「正常なお前に戻してやろう。そして恐れるがいい。最後の一人を・・・」
男が目を覚ますと、そこは男の思っていた世界とは全く違う世界だった。見渡す限り周りには何もなく、ただあるのは石や土、泥で作った瓦など。他に生き物がいないような、絶望しか待っていない世界。男は座り込んだ。だが絶望の中、男はあることに気付いた。頭の中で疑問に思ったことがすべて、手に取るようにわかるのだ。何故こんな世界になってしまったのか。何故自分だけが残ったのか。そして男は悩んだ挙句に見つける。
『どうすれば他の人がいる前の世界に戻れるのか』
それはすぐに浮かんだ。
男はそのあいまいな頭の中からでてきた答えに沿って、石を使い、地面に模様を描いた。それは恐ろしさと悲しみの詰まった絵だった。それが完成すると男はブツブツ小さく何かを言う。
その直後に、すべてを光が呑み込んだ。
如雨露の水でできた虹。そこに現れた光からは男が出てきた。
まるで這うように、何か恐ろしいものから逃げるように。
そして人々は気付く。その光の存在と男の存在に。男の容姿はまるでどこかの貴族のような、きちんとした格好をしていた。それ故に人々は何か、おびえるような眼差しで男を見る。そして口々に言った。
「へ、変態だ・・・」
と。