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Bloody Chaos  作者: SIN
9/19

2―3 [Seeking]

春の始まりを歓喜するかのように、東京湾の海は眩い陽光を反射し続けていた。空に飛んでいるカモメは、まるで迷い込んだ子供のように泣いている。東京湾の港のいつもの光景であった。汽笛を鳴らしながら、今日もタンカーや輸送船が出入りしている。

が、1区画だけ他の区画と比べて静かであった。

大井追悼付近のコンテナターミナルだ。いつもなら、輸送船に運ばれたコンテナを多数の人々が降ろしているはずなのだが、今それらはいない。代わりに存在するのは、その手にAK―47アサルトライフルを持った、統一感のない服装の男たちだった。

小さな火の花が、密かに開花しようとしていた・・・



AM 11:37

東京都 東京湾 コンテナターミナル

「治安維持軍まで出演なんて、聞いてないぞ?」

不機嫌な表情をしながら、キースは毒づいた。傍にいる修羅も、呆れたようにため息をつく。

キースたちが今いる場所―――コンテナターミナルの入り口ゲート前には、治安維持軍の兵士や装甲車が集結し、封鎖線を敷いていた。このコンテナターミナルに、今回の救出対象である人物、アウネス・バリー氏を連れ去ったテロリストが潜伏しているからだ。情報によると、午前6時頃に軍が到着している。

「チッ、番犬共が。嗅ぎつけることだけは早いな・・・」

実際、キースたちVIPHにとって、軍は単なる障害でしかない。VIPHは非公式な組織であるため、『CRADLE』という後ろ盾があっても、表の法には敵わないのだ。ゆえに、軍はVIPHを犯罪グループとして見ていることになる。

「関わり合うのは面倒だ、西側から侵入する」

「同意だ」

キースはゲート前で固まっている軍を一瞥し、その場から去った。修羅もそれに従い、大きな直方体型のケースを背負ってキースを追う。

軍はターミナルの中央に展開しており、正面から行くのは難しい状況だ。遠回りになるが、西側から侵入し、アウネスを確保するのが最善の策だろうとキースは判断した。

「修羅、まだか?」

ターミナルの外周を囲んでいるフェンスに、スプレーを噴きかけている修羅に、周りを警戒しながら聞く。

「もう少しだ・・・」

低い声で答えつつ、作業に集中する。一見普通の殺虫スプレーのようにも見えるが、中身は違う。金属を腐食させる薬品が入っており、これで有刺鉄線などの金属製のバリケードを突破することができる。

スプレーをフェンスに四角形上に噴きつけると、噴きつけた部分が銀色から錆色になり、修羅がフェンスを引っ張ると、バキッ、と音を立ててフェンスが外れる。

「よし、外れた」

「急ぐぞ」

二人は自身の装備を確認し、フェンスの穴をくぐってターミナルに突入した。コンテナターミナルというだけあって、様々な色、大きさのコンテナが積み上げられ、長蛇の列を作っていた。コンテナの影で暗くなった通路を、二人は慎重に、だが、足早に歩いていく。

ここはすでに、テロリストによって占拠されている。いつ、どこから出てきてもおかしくない状況なのは確かだが、それにしては静かすぎた。何せ、『音』がない。話し声すらも聞こえないのだ。もっと奥にいるのか、それとも、息を殺して待ち伏せているのか・・・

心配するのはそれだけじゃない。軍もそろそろ突撃を開始するはずだ。そうなれば、手柄だけでなく、身柄までも拘束されてしまう。そうなれば刑務所行き。最悪な場合、北方の囚人収容施設にぶち込まれてしまうだろう。それだけは何としても避けなければならない・・・例え任務を放棄してでも。

「・・・敵だ」

波止場の近くのコンテナに身を隠しながら外の状況を確認し、修羅に指示を出す。視認した敵は6人。5人が男で、AK-47アサルトライフルを手に持っている。残りの1人は、女であった。黒色の長髪で、少々寝癖が残っているのか、所々に跳ね上がっている部分がある。服装は白のハイヒールに黒ストッキング、そして・・・白衣だ。科学者や医者が着ている、あの白衣だ。女は自分の目の前に対して何かを言っているようだが、周りの男たちが陣取っていてよく見えない。だが、おそらくは拉致されたアウネスだろう。

「・・・クルーザーまで用意している。周到な準備だな」

また、波止場には10人くらい乗れそうな白い小型のクルーザーが一隻停泊している。用が済んだら、それで逃げるつもりだろう。

(奴ら、イギリス大使に何の用があってこんな・・・)

今回の事件は、何の要求も明らかにせず、ただアウネスを拉致し、この場所にまで逃げ込むという経過に至った。さらに、1隻のクルーザーも用意してだ。アウネスに目的があったのであれば、すぐにクルーザーでどこかに逃げてしまえばいいものを、軍が到着した現在でも、逃走する気配を見せない。

「・・・修羅、CODE:W-S-00でいく。そのでかい『ゲテモノ』を用意して待ってろ」

専用の作戦コードを伝え、頷く修羅を見た後、キースはコンテナの取っ手部分に向かって跳躍した。取っ手を片手で掴み、その勢いで手に力を加えてまた跳躍し、一段上のコンテナの上に降り立つ。

「相変わらずの運動神経だ・・・感心しちまうよ」

そんな修羅の呟きを背に、キースは跳躍してコンテナからコンテナへと飛び移っていった。

敵の近くのコンテナに行くまで、さほどの時間はかからなかった。うつ伏せに倒れ、下を覗く。先程確認した6人ともう1人―――金髪のショートヘアーの男がいた。茶色のスーツ姿で、両手を後ろに縛り付けられ、集団の中央に膝をついている。ポケットからアウネスの顔写真を取り出し、確認する。今回のVIP、アウネス・バリーだ。確認を済ませたキースはすぐさま写真をしまい、ポケットから棒状の機器―――指向性マイクを取り出し、それに差し込んであるイヤホンを耳につけ、マイクを集団に向ける。敵の狙いが分からない以上、むやみに攻撃することはできない。最悪の場合、アウネスが殺されてしまう可能性もあるのだ。

『・・・さっさと答えたらどう?あたしたちはあんたに危害を加える気はない。ただ教えてくれればいいのよ』

雑音混じりに、わずかに幼さが残っている声が聞こえた。女の声だ。

『もうB-USBはこの手にあるし、血液もあなたが寝ている間に採ったわ。あとはあなたがパスワードを教えてくれればいいの』

『・・・どういうつもりだ?』

アウネスの声だ。怯え混じりの低い声で問いかける。

『あたしたちの目的?』

『国家機密文書のデータが入ったそれを使って、一体何を企んでいる?金か?テロか?それとも国の支配か?』

『それを知る必要は、あなたにはないわ』

『・・・どちらにしろ、パスワードは言う気はない。例えお前たちに殺されるとしてもだ!』

『あらそう。じゃあ・・・』

ジャキッ・・・

僅かな金属音。聞き慣れた、銃を構える音。

『死になさい』

その声が合図となり、キースはイヤホンを投げ捨て、コンテナから飛び出した―――集団に向かって!

すかさず二丁銃を取り出し、近くにいる敵兵2人の頭部を撃ち抜いた。数秒よろけ、糸が切れた人形のように倒れる。2人の死亡を確認する間も取らず、右手にあるデザートイーグルをホルスターにしまい、左腰の『残毀閃』の柄に手を置く。こちらにAK-47を『やっと』向けた敵兵に向かって落ちていき―――交錯すると同時に刀を引き抜き、敵の喉を切り裂いた。溢れる血の雨。それを頭に浴びながらも、キースは構わず、次の標的に目を光らせる。残りは2人。AK-47を向けているが、まだトリガーは引いていない。隙を見逃さず、最も近い敵に接近する。一気に間合いは縮まり、敵の顔が目と鼻の先に現れる。左手でAK-47の銃口を下に向け、刀の柄で顔面を殴る。一時的に意識が飛んだの確認すると、USPをもう一方の敵に、『目もくれず』に連射する。腹部、心臓部、左上腕部と、敵の体中に風穴が開いていき、最後の頭部のクリーンヒットをくらって後ろのめりに倒れ、海に落ちた。意識が飛んだ敵が回復したが、遅かった。すでに心臓を黒い刃が貫いていた。刀をゆっくりと引き抜き、横に退かす。先程の敵と同じく、死体は水面に落ちていった。

残った女に目を向ける。左腕を上げ、USPを構えた。アウネスはキースの後ろにいるため、人質にされることはない。

「・・・見事じゃない」

女は怯えた様子もなく、ただキースを褒めた。感心を含めた声で。

遠くからで見えなかったが、彼女の顔はまるで西洋の人形のような純白の肌で、声だけでなく顔つきにも幼さは残っていた。身長は華奈より少し小さいぐらいだ。

「1人で5人も倒しちゃうなんて・・・腕利きのVIPHのようね?」

「御卓はいらない。昔から褒め言葉は嫌いなんでな」

皮肉を言いつつ、キースは少女を睨みつける。少女はそれに構わず、余裕の表情で微笑みを浮かべながらキースを見る。まるで、キースを隅々まで見るかのように。可愛らしい顔とのギャップはかなり大きかった。

「先程の話は盗み聞きさせてもらった・・・イギリスに喧嘩でも売る気か?」

「いや~?喧嘩を売る価値もないわ」

「なら何故イギリスの国家機密文書を狙う?」

さらに睨みつけながら少女に問い詰める。それに比例するように、少女の余裕の表情は顕著になっていく。

なぜ笑っている?

なぜそんなに余裕なんだ?

「答えろ」

疑問を振り捨て、声を荒げる。少女の表情は変わらない。

「言ったはずよ?知る必要はないって。当然、あんたもその範疇よ?」

「少しは立場を考えろ。あと少しすればその綺麗な顔が吹っ飛ぶぞ?」

「フフッ・・・」

少女が突然笑った。含みのある笑みを、キースに向ける。不快感とともに、警戒心が高まる。

「何が可笑しい?」

「立場が分かってないのはあんたよ。だって・・・」

一瞬、体中を悪寒が走った。体じゅうがまるで凍りついたかのような気分が、キースに襲いかかる。少女の笑みからのものでもあったが、それだけではなかった。一時、キースは少女から周りに焦点を当てた。そして、それはすぐに見えた。少女の後ろに止まるクルーザーの奥・・・船の先端部分から見えた、『反射光』。考えなくても、狙いは分かる・・・自身だと。

「くっ!」

キースが動いたときに銃声は鳴り響いた。右足のあった場所に火花が飛び散る。もし気付けなかったら、使い物にならなくなっていただろう。キースはさらに迫る狙撃をかわし、アウネスの体ごと、傍にあった防波壁に隠れる。隠れてもなお、銃撃は止まない。

「クソがっ!・・・!」

足止めを喰らっているうちに、少女はクルーザーに乗り込んでしまった。このまま身を出せば、死にに行くようなものだ。追うことはできない。

一際大きいエンジン音が鳴った。クルーザーが動き出した!

動き始めた後でさえも銃撃は止まない。キースはその場から動くことができず、クルーザーは全速力で海原を駆け出していった。銃撃が止んだころには、クルーザーは遠くに行ってしまっていた。

「・・・ハッ。本当に分かってないのはお前だ、クソアマ野郎」

遠のくクルーザーを見ながら、キースは携帯電話を取り出し、修羅に繋げた。

「CODE:A-D-00Q」

キースはそう告げると電話を切り、クルーザーを見つめた。



『CODE:A-D-00Q』

キースのコードを聞くと同時に、修羅は背中に『ゲテモノ』を背負いこみ、クルーザーを見据える。彼が今持っている、先端部が太い土管のようなランチャーは、FGM-148 ジャべリンだ。ジャべリンは、ヘリコプターや戦車の迎撃に用いられる対地空ミサイルだ。一番の特徴として持ちあげられるのが、ロックオン機能だろう。銃身から左に突き出たセンサーで車両をロックオンし、それをミサイルの先端部にある画像赤外線シーカーと内蔵コンピュータが受信し、目標を撃破する。

弾道を垂直弾道トップアタックモードにセットし、センサーでクルーザーをロックする。ピー、と発射準備の完了を表わす機械音が鳴った。

「お気の毒様。会えたら地獄で会おうや」

お悔やみの言葉を呟き、トリガーを引いた。銃身から巨大なミサイルが飛びだし、間を置かずに後部から火を噴き、斜め上に飛んで行った。空高く飛んだミサイルは斜め下に急旋回し、クルーザーへと向かっていく。

「死に際ぐらい看取ってやるよ・・・ん?」

双眼鏡でクルーザーの散り際を見ようと、クルーザーにズームした修羅は、あるものを見つけた。

船に佇んでいる、1人の女性。黒いライダースーツ姿で、長身の体の輪郭をくっきりと色っぽく魅せている。皮膚は雪のような白色、髪も白色のショートボブだ。そしてその手に持つのは、H&K PSG-1狙撃銃のようだが、先端の銃身がなぜか分厚い形をしている。

女は空を見ていた。無表情のまま、ただ静かに。迫りくるミサイルを見ているだろうか。女は諦め、死ぬのを待つように見えたが―――女の目つきが、鋭くなった。女はしゃがみ、PSG-1を構え、上空に向けた。

「あいつ、撃ち落とす気か!?」

どう見てもそうでしかない。彼女は狙撃銃で、ミサイルを撃ち落とそうしているのだ。だが、出来る筈がない。PSG-1の威力では、ミサイルは落とせない・・・

         そう思えたのは、束の間だった

突如、PSG-1の分厚い先端部が、『縦』に割れたのだ。割れた部分は、銃身の延長上まである。そして、割れ目が突然光り始めた。その光は眩しさを増し、修羅は思わず双眼鏡から目を離した。そして、上空を見る。ミサイルはすぐそこまで来ていた。

着弾まであと何秒かだろう

そう思った矢先―――


        ―――ズガァアァァアァァン・・!―――


蒼穹の青空に、稲妻と、火の花が生まれた・・・





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