表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Bloody Chaos  作者: SIN
8/19

2―2  [Hello, New Days.]

「・・・半蔵が死んだ?」

「はい。深夜、偽装ペースメーカーの信号途絶が確認されました。間違いなく、殺されました」

「ふむ・・・若、これをどう思いなさっているので?」

「どうもこうもない、荊部・・・奴め、毒を持つのもおろか、敗れたか・・・」

「S・Eは搬入済み・・・あの男の役目は、もう終わったのでは?」

「馬鹿かてめぇは?そしたら、兵器開発は誰がする?あのジジィ、偽装対策に集中し過ぎて、設計図すら書いてないんだぞ?」

「確かにそうだな。これでは、作りようがない・・・」

「・・・どうするつもりなのですか?これから・・・」

「・・・半蔵はいずれか殺す予定だった。手間が省けただけで、計画は変わらん・・・各自、引き続き「ブツ」の捜索と回収を続けろ・・・さて、リリア。定期報告を頼む」

「はい。『品』の奪取の計画は作成完了。『永久凍土庫』の位置特定は継続中。ですが、現状の機器では特定は難しいかと」

「特定はいい。『足跡』さえ見つければ、後はどうにでもなる・・・しばらくは『KNOWING』で我慢するよう、情報部に伝えてくれ。ベルとマリーは?」

「順調です。先刻、イギリス大使を拘束。現在逃走中です」

「そうか・・・もう1つある。半蔵を殺したVIPHは?」

「VIPHナンバー40・・・『BLACK WALTS』です」

「・・・各自、奴等の情報を集め、障害になりそうならば排除しろ・・・もしかしたら、我々に気付き始めているかもしれないからな・・・」



4月26日 AM.8:38  BLACK WALTS事務所


「ん・・・2日連続の夜更かしはきついな・・・」

昨日のリプレイのように、キースはロッキングチェアで揺れながら目を開けた。

(そうか・・・昨日帰った後、すぐに寝て―――)

「おいキース!!もう8時半だ―――」


ザクン!!


・・・やはり昨日と同じように、修羅が起こしにやってきた。

それに対してキースは、銃で天井を撃つ代わりに、傍に置いてあった残毀閃を引き抜き、修羅の横の壁に突き刺した。

―――顔面ギリギリのところに。

「うおおおおおい!!俺を殺す気かこのド呆保!!」

「黙れ。起こしに来るタイミングが悪いんだよ、お前は。空気読め、漁船『阿修羅丸』」

「誰が阿修羅丸だ、誰が!早く起きないお前が悪いんだよ!!この『キス魔』!!」

「てめぇ・・・今度は脳みそ引きずり出すぞ・・・?」

「やれるならやってみろや!!お前の大事なふぐ―――」

「あの~・・・2人とも・・・?」

と、喧嘩が盛り上がり始めたところで、ここでは聞き慣れない声を聞いた。即座に2人は振り向く。

霧原華奈だった。昨日は事後、そのまま事務所に帰ってきたので、パジャマ姿のままだ。先程の一部始終を見ていたせいか、ドアから半身出し、怯えた目でキースたちを見ていた。

「あの・・・何か、あったの?」

「いや、単なる言い争いだ。気にすんな」

キースは修羅の頭を小突くとそう言い、突き刺した刀を抜いて、鞘に戻した。

「それより、大丈夫なのか?・・・心の方は」

刀をデスクの上に置き、再びチェアに座りながら華奈に聞く。

「・・・」

目を俯かせ、黙り込んでしまう。

それもそうだろう。何せ、今まで父親だと思っていた者が、自分と血が繋がっていないことを、今になって知ったのだから。母親でさえも、自分を産んだ者ではなかったのだから。事実上、彼女を保護する人間はいない。実の両親の居場所を掴めない、今では・・・

「・・・はぁ~・・・」

キースはため息をつきながら、再びチェアに座り、デスクに置いてある二丁銃を引き寄せ、マガジンを抜く。そしてそれに、手元に置いてある弾丸を1つ1つ、詰め込み始めた。

「今日は昨日の事件で大騒ぎだろう。外に出ても、野次馬に絡まれるだけだ・・・今日は学校を休んでここにいろ。飯も出してやる」

華奈に目をやらず、キースは淡々とした口調で華奈に言った。華奈は顔を上げ、何かを言おうと、口を開け、だが、すぐに閉じてしまう。

「・・・いいな?」

マガジンを銃に差し込み、変わらぬ無機質な口調でキースは聞く。一瞬の沈黙の後、「はい・・・」という、華奈の弱々しい声が聞こえた・・・



『本日午前3時頃、フォート社新宿支社社長、霧原半蔵氏が何者かによって殺害されました。遺体はビル郊外で発見されています。最上階の社長室に斬られた腕部が発見されたことから、ビルからの落下による死亡と見られています。警視庁は、犯罪組織による犯行とみなし、犯人の迅速な確保に全力を尽くすと述べています。なお、フォート社では次期社長を早急に決定し、2、3日後に事業を再開するとのことです・・・次のニュースです・・・』

「・・・犯罪組織、ねぇ・・・まぁ、間違いはないが・・・」

「人を殺しているんだ。その扱いは適している・・・」

昨日の事件のニュースを聞き、修羅はため息をつきながら不満の声を洩らし、すかさずキースも、ハムサンドに喰らいつきながら合理的にまとめる。

昨日の事件のおかげで、どの局のテレビ番組でもそれで持ちきりだった。フォート社は、殺戮兵器の規制が厳重になった現状の世界において、数少ない貴重な兵器開発企業なのだ。

日本においては、あの新宿社が唯一の国内での兵器生産工場であり、防衛のライフラインとなっている。それを仕切る半蔵が死んだということは、今後の事業に多少の影響が出ることになってしまうのだ。

「結局、昨日はジジイが裏切ったおかげで大儲けできなかったな・・・まぁ、キースがぶちのめしたあの不良共の礼金で、食いぶちぐらいは稼げたがな」

「お前は本当、金にだけは目はいいな・・・せめてそれぐらい空気を読めるようになればいいのにな」

「うるせぇ、どいつが原因だ」

と、少しむくれて修羅はコーヒーをぐいっ、と飲み干すが、入れたばかりであったため、熱湯に浸した舌を出しながらむせてしまった。キースはそれを笑いながら、コップにボトルの水を注ぎ、「水!水!!」と叫ぶ修羅に手渡す。

「自分で入れたのに分からなかったのか?ハハハ」

「んぐっ、んぐっ・・・ハァー・・・ったく、面白くねぇ・・・っと、面白い、っていったら・・・」

と、修羅は思い出したかのようにジーンズのポケットから1枚の写真を取り出し、皿やカップがある丸テーブルの中央に置いた。

「・・・またか。今度のは大丈夫なんだろうな?」

「安心しろって。イギリスの大使館からの光栄な依頼だ」

不審げな目を向けるキースに対し、修羅は陽気にキースをなだめた。キースはやや消極的に、写真を取ってそれを見る。

男が写っていた。顔立ちはしっかりとしていて、年は3、40代といったところだ。金髪の整ったショートヘアに、白人特有の白い肌。

「アウネス・バリー。イギリス大使だ。今回の依頼は、誘拐されたそいつの救出だ」

「誘拐?誰に?」

「相手は分からん。誘拐されたのは今日の午前2時ごろ。大使館が襲撃されて、警備隊の大半を始末して逃走したらしい」

「誰かわからなければ、目的もわからないな・・・」

キースは写真を置き、腕を組んで呻った。

「ああ、言い忘れたが、報酬は500万だ・・・どうする?」

「・・・面倒だが、今の食いぶちじゃ苦しい」

キースは皿の上にある最後の卵サンドを取ってそれを平らげると、食器を重ねて立ちあがる。

「御馳走様・・・支度するぞ」



「華奈?入るぞ」

少しほこりっぽい部屋の中、ベッドに寝転がっていた華奈は、キースの声を聞くなり起き上った。この事務所で唯一使っていない部屋であったが、1人にはちょうど良い広さだ。中にあるのは、夜置いたばかりのベッド、クローゼット、ミニテーブルと椅子だけだ。会社を出るとき急いでいたため、財布や通学エナメルしか私物はない。

「腹減っただろ?朝食はここに置いとくぞ」

そう言いながらキースは、片手に持っているプレートをテーブルの上に置いた。プレートの上には、コップに入ったミルク、ベーグルのサラダとハムサンド、メロンパン、コーンスープがある。

「朝食までありがとう。おまけに泊まらせてくれて・・・」

「気にするな。これは俺たちの中じゃ『決まり』だからな」

「『決まり』・・・?」

「ああ・・・その『決まり』について話がある・・・が、その前に」

キースは椅子を華奈の方に向け、それに座った。一息をつき、口を開く。

「・・・あの時引っ叩いて悪かった。少し、やり過ぎた・・・」

「・・・ううん、気にはしていないよ。むしろ・・・ああしてくれなきゃ、今頃もっとひどくなってたと思う」

華奈は微笑みながら首を横に振り、それを見たキースも、僅かな微笑をこぼし、だが、真顔に戻る。

「・・・本題に入ろう。まず、俺たちVIPHについて、教えなければならないな・・・」



VIPH。正式名称、「VIP HUNTER」。主な仕事は知っての通り、要人の殺害、護衛、捕獲としており、基本、表の社会とは無縁な『裏稼業』だ。そのVIPH全体を統括する、スポンサーが存在する。それが、『CRADLE』だ。

『CRADLE』はVIPHの依頼の仲介役だけでなく、収入サポート、VIPHの情報管理、事後の処理など、VIPHにとって重要な存在となる役割を担っている。そして、『CRADLE』はVIPHに『規則』を付加している・・・



「・・・その規則の下、VIPHは任務中に発生した被害者を保護することを義務としている。本人の同意があれば、な・・・」

「・・・ちょっと意外。てっきり見放すかと思ったよ。」

「人でなしではない、ということだ・・・で、どうすんだ?」

「えっ?なにを?」

ベーグルを齧りながら、華奈は首を傾げる。

「身寄りが無くなった今、お前はどうするんだ?」

「それは・・・」

少し俯き、華奈は戸惑った。確かに、今は実の親すら分からない状況だ。頼れる親戚も無く、このままだと1人になってしまう・・・ここに住み込むのも、少し気が引ける。

「・・・まぁいい。今夜まで考えておけ」

「えっ?今夜?」

質問を切り上げ、キースは立ち上がった。華奈は思わず声を上げたが、意に介さず、キースはドアに向かった。

「これから仕事なんだ。戻るのは夜になる。それまではここにいてもいい・・・答えを、よく考えておくことだ」

ドアを開け、出ていく前に華奈に横顔を向ける。

「それが、これからの『お前』を決めることを忘れるな」

単純で、意味深な言葉。それが残され、彼は去った。

「・・・」

華奈は閉ざされたドアを見つめ続けた。まるで、今の自分の心の中を見るかのように。

ミルクが入ったコップを取り、口に注ぐ。半分ほど飲んだところで、「ぱぁっ」とコップを口から離す。

「・・・これから、か・・・」

そう呟き、再びドアを見つめた。

      そのドアを、開けるか、開けないか

それを考えながら―――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ