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Bloody Chaos  作者: SIN
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第2章 「Everything is changed.」 2―1[空虚]

4月26日 AM1:47 フォート社地下6階


「・・・やっぱり閉まってるか・・・」

エレベーターから降りるやいなや、キースは目の前の閉ざされたシャッターを見てそう呟いた。

部屋の広さはそんなに無く、電灯は天井に1つしかなかないため、辺りは少々薄暗かった。

シャッターに近づき、キースは周辺を見回すと、シャッターの右隣りに何かの機器を見つけた。

「カ―ドキー式か・・・面倒な・・・」

げんなりとした声でそう言うと、キースは鞘から『残毀閃』を素早く抜き、シャッターに向かって上段に構え―――力強く振り下ろした!

硬直せずに、刀を左斜め上にシャッターを切り裂き、その勢いに乗せて回転し、左斜め下に傷を作る。

「うぉらぁ!!」

シャッターに生まれた裂け目に、キースは思い切り蹴っ飛ばした。吹っ飛ぶことはなかったが、シャッターが蹴りの衝撃で折れ曲がり、四角錐状に穴が開いた。

「開店の時間だ。邪魔するぜ・・・」

そう呟きながら、キースはシャッターを退けて奥に入り込む。

先程の部屋とは打って変わって広く、例えて言えば、一般の体育館程だった。左右に大きな物置棚があり、大小様々な箱がびっしりと並んでいる。

特に目を引いたのが、目の前に見える巨大な穴だった。奥の方はとても暗く、何があるのかは見えなかった。が、おそらく長いトンネルのようなものだろう。

「物資とトンネル・・・パイプラインか?でもなんでこんなところに・・・!!」

と、キースは目に写ったものに反応し、それに向かって駆け寄った。円筒状の―――――『S・E』 と刻まれたプレートが埋め込まれているそれに。

カプセルは穴の前に10個置かれており、透明なガラスで出来ているため、中身が見えるようになっているが・・・

「・・・どれもこれも、もぬけの空、か・・・」

どのカプセルをみても、『S・E』どころか塵1つも残っていなかった。

キースがカプセルの奥の方をみると、穴から線路が走り、地下鉄のプラットホームのようになっていた。やはり、パイプラインに間違いないようだ。

「ここからどこに・・・」

辺りの状況を見る限り、ここは物資の保管所と輸出入の場として機能しているらしい。

現代では大戦後、貿易に関する条約、規制が改正されたため、大企業が独自の貿易ネットワークを形成してるのは珍しいことではない。

(パイプラインの建設を、よく政府が許したものだ・・・)

パイプラインは、国と国を結ぶ1つの線。貿易の独立が許されているとはいえ、パイプラインの建設は土地やコストの要求が厳しく、そもそも政府が簡単には許可をくれはしない。

キースは近くにあったパソコンを起動し、パイプラインの使用履歴を出した。履歴を見れば、いつ『S・E』を輸送したのかを知ることができる。

「・・・くっ、やはり消してあるか」

キーボードを叩き、毒づく。履歴は一部どころか、全て消去されていた。

相手も警戒心は強いようだ。

「・・・兵器開発は嘘なのか?」

半蔵は、S・E兵器開発を暴露していた。なのに、どうして今『S・E』がここには無いのか?

肝心のそれが無ければ、最新兵器の開発は不可能なのに。

「・・・これは厄介な犯人探しになりそうだ」

パイプラインの中に広がる闇を見つめながら、キースはため息をついた・・・



フォート社 25階 監視室


全ては、変えられてしまった。

気まぐれな神ではなく、悪戯な運命でもない。

自然と、ゆっくりと、変えられたのだ。

1人の少女の、日常を。

「・・・どうして・・・?」

華奈は呟き、問うた。誰に対してでもない。それでも、口から出てしまう。嫌でも出てしまう。

「・・・どうして―――」

「どうしてだろうな」

と、そこに聞き慣れたばかりの声が割り込む。隣で華奈を慰めていた修羅が立ち上がり、キースに歩み寄る。

「無事だったか」

「ああ、余裕でな・・・」

キースは笑い交じりにそう言い、華奈を見る。華奈は正気を取り戻したらしく、ずっと俯かせていた顔を上げた。多分、今の華奈の顔は、涙で濡れ、頬を赤く染めているに違いない。

「・・・半蔵は死んだ・・・俺が殺した」

「!!」

華奈は目を大きく見開き、だが、すぐにまた下を向いてしまった。

大体予想はしていたが、実際に死んだと思うと、かなりつらい。

だが、華奈は心のどこかで、『歓喜』の感情を僅かに感じていた。


あの男が死んでよかった


そんな気持ちが、華奈の奥底で唸っていた。

「・・・嬉しいか?」

「え・・・!?」

「憎たらしい下種男がくたばって、内心嬉しんじゃないのか?」

どうして、わかったの?

そう思う他に、華奈は思考を回せなかった。

「・・・違う・・・違う・・・けど・・・」

「けど?」

ひたすら拒否する。だが、それを否定する言葉もでてくる。

「なんで・・・なんで・・・人が死んだのに・・・嬉しいなんて思うの・・・!?」

華奈は自分の気持ちを、言葉で出した。正直、苦しかった。こんなことを、言葉で表すのは。

「それが人だ」

目の前の少年は、そう言い放った。冷徹に、だけど、優しく。

「・・・人・・・?」

「例えどんな綺麗ごとを並べても、人のどこかには『汚れ』がある・・・お前だってそうだ」

矛盾の気持ちが渦巻く口調で、華奈に言う。

そして、華奈は改めて思い知った。自分の心の奥底にある、『汚れ』を。

半蔵が持っていた『欲望』と同じものを・・・自分も持っていることに。

「・・・キース、教えて・・・私はどうすればいいの・・・?」

なら、この『汚れ』をどうすればいい?

どうすれば消せる?

どうすれば日常に戻れる!?

華奈はキースに駆け寄り、肩を揺する。そして、問い続ける。

答えを、この人なら出してくれる。

そう信じて・・・

と、突如右頬に何かがぶつかった。いや、『張った』。手が。

頬を抑えながら、目で手を辿っていく。

行き着いたのは、キースの顔だった。だが、その目はいつもとは違った。

「甘ったれんな、雌犬」

狂気と怒りが満ちた眼差しで、暴言を吐きだす。

華奈は戸惑い、恐怖で反射的に後ろずさる。それでもキースは、眼つきを変えない。

「どうして、どうして・・・は?誰が答える?お前の『先』を、誰かが知っているとでも思ってんのか?いい加減に腹決めろ、クズ」

「!!・・・」

さっきとは全く違う、暴力ばかりの言葉。華奈は何も言えず、ただ茫然としてしまった。一体、キースはどうしてしまったのか、分からなくて。

「お前自身、これからどうする気だ?」

「・・・」

答えられない。ただキースの顔と向き合うだけで、思考が停止していた。

その目が、怖くて。

「その面から見るに、どうやら決まってないようだな・・・」

キースはそういうと、華奈に背を向け、出口に歩き出した。

「まぁ、お前みたいな貧弱な奴がすぐに立ち直るとは思わない・・・だが、自分で自分の未来を決められないことほど、馬鹿らしいことはない」

構わず続ける。口調は先程より緩くなったが、厳しいことに変わりはない。華奈は言葉を受けるたびに、顔を俯かせていく。

「今を悩む暇があるなら、自分の未来を決めろ。苦しい現実でも、受け入れろ」

その言葉を機に、華奈は泣き崩れてしまった。声は出さないものの、涙が止め処なく溢れる。


未来を、決める?

どうやって?

壊れた日常で

生きる術が分からない世界で、どうやって決めればいいの?


キースに聞きたい気持ちが、華奈のなかで溢れだしていた。が、悲しみに押しつぶされ、抑圧された自制心は、華奈が質問することを許さなかった。

「・・・今日はウチに来い。自宅にいたら、野次馬共にいろいろ聞かれるに違いない・・・」

優しい口調。それに変わっても、華奈の折れかけた心の痛みは消えることなく、ひどくひしゃげた声で、「はい・・・」と答えた・・・






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