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Bloody Chaos  作者: SIN
18/19

4-2 [予想と不安]

はい、こんにちは~

SINです


今回もあまり待たせずに出せたかな・・・?


4-2です!どうぞ!


 PM.10:00 『FORTUNES』アジト リビング


「……で、修羅は行っちまったのか?」

 椅子の背もたれに身を乗せ、煙草の紫煙を吐きながらグレンはテーブルの向かい側にいるキースに訊いた。リビングには他に、フィオナとラスティーがいた。

「……」

 キースは腕を組みながら椅子に座っているだけで、何も言わなかった。その視線は何もないテーブルに落とされている。

「……何とか言ったらどうだ?」

 溜息をつき、煙草を灰皿に押しつけながらグレンはキースに言った。

 少し間を置き、キースは口を開いた。

「……あいつは俺たちと『立場』が違った。それだけだ」

「またかい……本当にそれだけか?」

 グレンは目を細めてキースを見つめた。

 修羅と別れてからも、キースの様子に後悔などが見られなかった。アジトから出る修羅を引き止めようともしなかったし、その素振りもなかった。

 とても、絆の深いパートナーがやることとは思えなかった。

「そんなことより、今日の報告を纏めるとしよう」

 キースは表情を引き締め、言い聞かせるようにそう言った。他の3人もそれに反応し、キースに視線を向ける。

「今回の件で、相手の形が大体見えてきた。犯人は多数人で構成された組織と考えるべきだろう」

 今日の事件。

 キースは『RURER』本部で、グレンとラスティーは廃工場で犯人グループと思しき人物たちに襲撃された。しかも、キースが最後に見たヘリ『ブラックホーク』はグレンたちも目撃していた。ここから同一グループによるものだと判断したのだ。

「特捜部部長の殺害は、口封じのためだろうな。いつまでもしつこい蠅を追っ払いたかったとこだろう」

「そう考えるのが妥当だと思うわ」

 グレンの付け加えに、フィオナは同意する。

「だがよ、一体なんで今になって暗殺を実行したんだ?『治安維持軍』が捜索していた時点で動いていた筈だ」

 だが、ラスティーは頬杖をつきながら不満そうな声を上げた。

 確かに、『治安維持軍』がこの事件に着手した時点で暗殺を起こさなかったのは疑問だ。

「……兵力の温存といったところか」

「何?」

ふと、キースは小さく呟いた。その言葉にグレンが反応する。

「別のことに兵力を向けていたとしたら、暗殺を遂行することは難しいはずだ」

「兵力って、見たところ5人しかいなかったぞ?」

「いや、それ以上いる。グレン、確か狙撃を受けたと言っていたな?」

「ああ。外側から攻撃を受けて、工場の中に閉じ込められたんだ」

「使われていた狙撃銃は?」

「狙撃銃?」

 と、唐突な質問を受けてグレンは思わず聞き返した。そんなものを知ってどうする気なのだろうか。

「銃声と連射間隔からして、あれはPSG-1の改造銃だな」

 代わりにラスティーが答えた。

「PSG-1……やはりな。フィオナ、前に頼んだ資料は?」

「手元にあるわよ」

 と言うと、フィオナはテーブルに置いてあった封筒から4枚、紙を取り出し、それをテーブルの上に広げた。

「これは……囚人の個人情報?」

 紙の1枚を取り、一通り見たグレンはそう言った。

 写真。名前。性別。生年月日。犯罪履歴……

 囚人の情報が全て、その紙に纏められていた。

 さらに他の紙も取って確認する。収容所の場所は違うが、どれも囚人のデータだ。

「……この囚人がどうしたんだ?」

「前に話した、ベル・シュトゥルク……覚えているか?」

「ああ、前のテロの首謀者……それとこいつらはどんな関係があるんだ?」

「そのテロの共謀者がそいつらだ。もう死んだが」

「!?」

 グレンはキースの言葉に目を見開いた。ラスティーも、微かだが、驚きの表情を見せる。

「どういうことだ……?」

「共謀者は全員、世界各地から集めた囚人ということだ」

「密かに敵が彼らを脱獄させていたの。3月からの出来事――『SU-218』の発生後のことよ。で、問題はその数よ」

 フィオナはそう付け足すと、封筒からさらにもう1枚紙を取り出し、それをグレンに手渡す。

目を通すと、それは各所の脱獄の記録だった。だが、その件数が尋常じゃない。紙一面が囚人の名前で埋め尽くされており、3行でやっと収まっていた。

「こりゃひでぇな……ざっと100は超えているか?」

「その全員が、敵側の兵力になっている可能性が高い……いや、そうであるだろうな」

「ちょっと待て。なんでベルが組織と関わってるんだ?」

「PSG-1だ。俺もあいつと接触した時に、それを持つスナイパーに狙われた。おそらく同一人物だ」

「同じと考えるには、証拠が不十分過ぎるんじゃねぇか?」

 ラスティーがまたしても不満の声を上げる。

 PSG-1を持っていたことがそのスナイパーが同一人物である証拠と考えるには、少々迂闊だ。

「いや、これはあくまで『仮説』だ」

「『仮説』だと?」

「ああ。そして、さらなる『証拠』がもしかしたらもうすぐ現われるかもしれない」

「……どういうことだ?」

 グレンは眉を顰め、キースを見つめた。キースはそれに動じず、腕を組んだままだ。目線もテーブルに落とされたままだ。

「……もうすぐ『決起』が始まる。敵のな」

「『決起』だと……!?」

「もし、ベルが敵と何らかの関わりを持っているとしたなら、次の場所はイギリスだ。彼女が狙っていたのは、イギリスの大使館が所有していた国家機密データだった。目的は分からん。だが、これが本当で、『決起』の為に今まで息を潜めていたとしたら、説明がつく」

 キースは淡々と、これまでの経緯からの推測を話した。

 今になって暗殺という目立った行動をしたとなると、これから大掛かりな事件を起こす予兆なのかもしれない。『RURER』の特捜部の頭を黙らせたのも、その一環だろう。

 だが、グレンはもう1つ疑問に思っていたことがあった。

「……クレイヴの件はどう説明をつける?」

 そう。今日グレンたちを襲ってきた男、クレイヴだった。

「今さっき調べてみたんだけど、クレイヴは2月10日からアパートの部屋を空けているそうよ」

 フィオナは出した資料を封筒に入れながらそう言った。

「2月10日……事件が起こる8日前か」

「最初から加担してたってわけか……クソが」

 ラスティーは、声を潜めたつもりだったのだろうか、小さく吐き捨てた。

「クレイヴがいるってことは、組織の中にVIPHがいるな。あいつを知っている奴といったら、VIPHの奴らしかいない筈だ」

「……」

「キース?」

 と、いきなり黙り込んだキースに疑問を抱き、グレンは声をかけた。

「もし……もしだ。この事件の首謀者が、俺たちと同じVIPHだとしたら……」

「……おいおい。嫌なこと言わないでくれ……」

 グレンは頭を抱えながら椅子の背もたれに背を載せ、天井を見上げた。正直、これ以上の悪報はごめんだった。

「……だが、そうかもな。そいつがVIPHなら、クレイヴを味方につけることはできる。あいつは金さえ渡せばなんでもやるからな……だが、『使命』を忘れているとはとても思えない」

「……『使命』か……」

 グレンの言葉を、ラスティーは低く呟いた。

「『S・E』の悪用を阻止し、世界の平和を自ら罪を被るを以てして守れ。世界のために死ぬことも躊躇うな、か……」

 とある言葉を、キースは抑陽のない口調で言った。

「『使命』を忘れずにして何故『S・E』を狙うのかがわからないとこだがな……」

「……まぁ、やることは1つだろ」

 吹っ切れたようにグレンは体を起こし、皆を見回した。今回の件に、各々困惑の表情を浮かべていた。

「『使命』を全うするためなら、俺たちはどんなことだってする。例え、相手にどんな事情があろうと、立場が同じであろうと、女子供であろうとも……」

「殺すだけ」

 グレンの言葉に、ラスティーは躊躇無く付け加える。グレンは顔をしかめたが、すぐに諦めたように緩めた。間を置き、口を開く。

「……纏めるとだ。相手は少数のVIPHとVIP、多数の囚人で構成。『ブラックホーク』もあったことから、何らかの形で資金を提供している奴もいる筈だ。だが、まずはイギリスでの『決起』とやらを確かめる必要があるな」

グレンは言い切ると、キースを見つめた。相変わらず視線は下だ。

「お前が言い出しっぺだ。お前が動かせ」

「良いのか?」

「お前の方が今回の件はよく知っているようで、一番奥に首を突っ込んでいるみたいだからな」

「……」

 キースは口を開き、だが、小さく溜息をついた。

 そして、顔を上げた。

「……フィオナはここに残って、資金と兵器を提供している奴を探ってくれ。主に大企業の資金割り当てを参照にするんだ。俺とグレン、ラスティーは明日イギリスに向かい、周辺の調査だ」

 キースのてきぱきとした指示に3人は迷いなく頷いた。

「『決起』が起こった場合は?」

 グレンが訊いた。最も、訊く必要は無かったが。

「……皆殺しだ。1人も残さず、な」

 言い切ったキースに、躊躇いは無かった。



「まだ寝ないの?」

 静かになった薄暗いリビング。

 その食卓に座ったままのグレンに、フィオナは声をかけた。両手にはコーヒーが入ったカップが握られている。

「ああ……ありがとな」

 フィオナはカップをグレンに手渡し、グレンの隣に寄り添うように座った。

 先程の話し合いが終わった後も、グレンはここに留まっていた。グレンの表情は相変わらず、何かを考え込んでいるように重い。

「……修羅の事?」

 グレンの顔を覗き込みながら、フィオナは訊いた。

「それもあるんだけどな……どう思うよ?」

「……キースがやったことは、確かにパートナーとしてやっちゃいけないことだったけど、パートナーだからこその行動だったわ」

 フィオナも、キースと修羅の決裂の一部始終をあの場で見ていた。

 パートナーというものは、お互いの信頼を両者が認識することで初めて成り立つ。その信頼の存在は、同時に決して裏切ることはしないという暗黙の了解でもある。

 キースは修羅を巻き込まないように『使命』を秘匿しつづけた。

 修羅はキースを助けるために彼を疑った。

 どっちもどっちで、一方が悪いとも言える。

「パートナー、ね……」

 グレンはそう呟きながら、口にコーヒーをゆっくりと注ぐ。苦々しい独特の味が、口内に広がる。

「ブラックか」

「砂糖入れた方が良かった?」

「いや、大丈夫だ。いつもブラックだしな」

「ふふっ、そうだったわね」

 フィオナは両手でカップを持ちながら、グレンに微笑みかけた。

 リビングは電球1つだけで少し暗かったが、微かな光がフィオナの微笑みを一層際立たせていた。

「……今さっき、あたしはどうなのかって、思ったでしょ?」

「えっ?……まぁな」

 と、虚を突かれたようにグレンは動揺し、諦めたようにそう言った。

 そんな顔でもしていたのだろうか。

「お前の場合、こっちに来なくても良かったはずだ」

「あたしは自分の意思でここにいる。あたしに、『居場所』を失ったあたしに、『居場所』をくれたあんたを助けたいから……」

 フィオナは笑顔を絶やさず、グレンにその言葉とともに向けた。

 それにつられて、グレンも微笑んだ。

「……まだ、お前と一緒に『歩けない』と思う」

「あたしは、今のあなたのままでも受け入れる……でも、あんたはそれじゃ嫌なんでしょ?」

「せめて……もう人殺しをしなくなるまでは、な」

 重い表情を浮かべながら、グレンは残りのコーヒーを飲み干した。

 ふと、肩に何かが載った。  

 フィオナだった。

 グレンの肩に頭を寄せていた。滑らかな髪の感触が、肩を心地よく撫でる。

「それまで、絶対に死なないでね……」

 フィオナは小さく、彼女の切望を呟いた。

 グレンも、笑い混じりにそれに応える。

「安心しろって。お前と肩並べて歩く時まで、俺は死なねぇよ……」

「無茶しちゃ駄目よ……ラスやアーニャもいるんだから」

「ああ……分かってる」

 カップをテーブルに置き、グレンはアーニャの頭を片手で優しく撫でた。


「……キース?入っていい?」

と、華奈はドアをノックしながら尋ねた。

 ここは1階の空き部屋。今はキースの部屋となっている。

 返事が来ない。

「……キース?」

 再度彼の名を呼んだが、ドアの向こう側からは全く返答がない。

 寝てしまったのだろうか、と思ったが、夜更かし好きのキースに限ってそれは無いだろうと思い、華奈はドアを開けた。

「……なんだ、華奈?」

 目を華奈に寄越さずに、ベッドに座って窓から見える夜空を見つめながらキースは言った。

 部屋は華奈の部屋とあまり変わりがなかった。

 変わりがあるとするなら、もう1人いないことだろう。

「……修羅とは、どうなったの……?」

 ドアを静かに閉めながら、華奈はそう訊いた。

 キースたちが帰ってきた時に起きた2人の争い。その後に修羅は怒りを露にしてアジトを出て行ってしまったのだ。

「……ここがあいつに合わなかった。それだけだ」

「本当にそうなの?」

 華奈はすかさず疑問を投げかけた。彼に居場所がなかったとは、到底思えない。

「何が言いたい?」

 夜空に視線を向けたまま、キースは変わらぬ口調で訊いてきた。

「修羅に何かを隠していたんでしょ?2年間もパートナーをしてきたのに」

「……」

 何も答えない。構わず華奈は続けた。

「その隠し事を知りたいって訳じゃない。でも、パートナーを解消するなんて……」

「事情を知らない癖に、いけしゃあしゃあと……」

 低い声とともに、キースは顔を華奈に向けた。その表情は、いつもに増して重苦しいものだった。

「……どうしてなの?」

「お前が知る必要はない」

「あるわ!」

 と、華奈は声高にそう言った。一瞬、キースは驚いたかのように目を僅かに見開いた。だが、すぐに元の表情に戻る。

「私は……立場が違っても、私達は仲間よ。だから、修羅のことにも、私が立ち会う必要があるわ」

「それ程の余裕が、今のお前にはあるのか?」

「っ……それは……」

 華奈は言葉に詰まり、口を噤んだ。

 今の華奈には、両親探しという目的がある。実質、それで精一杯だ。

だからといって修羅のことは放ってはおけない。

 そうは思うものの、現実はそう甘くはなかった。

「……修羅の事は俺で始末をつける。お前はお前のことをしろ」

 淡々とキースはそう言い聞かせた。

「……1つだけ訊いて良い?」

「なんだ?」

「修羅はなんで、あなたと組んだの?」

 せめて、キースと修羅の間柄のきっかけだけでも知ろうと思い、華奈はそう訊いた。

 訊かれたキースはというと、しばらく黙り込んでしまい、そして、溜息と共に口を開いた。

「俺と組む3年前、あいつは日本の緊急保安機関に所属していたんだ」

「緊急保安機関に?」

当時の戦時下であった日本では、警察機関からも兵が徴兵され、市民の治安維持が危ぶまれた。そこで、市民から募集、または直接の志願を受け付け、急場しのぎの治安維持組織を創ったのだ。それが、『緊急保安機関』だった。

「修羅に会ったのは2年前、あいつが請け負っていた事件と俺の依頼が重なってな……事もあろうか、警察官の立場であるあいつは、俺に協力を求めてきた。逮捕ではなく、協力をだ」

 華奈はキースの話を黙って聞きながら、疑問を抱いた。

 警察官の立場なら、修羅はキースを捕縛しているところだろう。それなのに、何故態々殺し屋に等しい者に協力を求めたのだろうか。

「あいつの夢はな、『警察官』になることだったんだ。誰かを事件から救う、ヒーローのような仕事をしたい、ってな……」

 ふと、思い出を辿るかのようにキースは感慨深く言った。

 けど、それは今と矛盾している。警察官になることが夢だったのに、今までVIPHをしてきたのはどういうことなのだろうか。

「緊急保安機関は、少数の警察関係者から結成された組織だけあって、統率力は丸っきり無かった。上層部が捜査権を完全に支配し、下の者はそれに従うだけ。余計なことをすれば、上からどんな仕打ちがくるかもわからない。そんな中修羅は、その夢を叶える為に、事件の解決に奔走していた。上層部はそんな彼を卑しく見て、時たま捜査の邪魔までしてきたという……あいつらしいな」

 自嘲気味にそう言った。

 一息置き、キースは続けた。

「上層部からの重圧は、警察内部の暗部そのものだった。修羅はそこでやっと警察官というものようやく理解したんだ。だが、事件から誰かを救える職業なんて、警察以外の他にはない。そこから抜け出したくても、夢を第一に考えていた修羅にとって、それはやってはいけないことだった……そして、俺に会った。VIPHという職を、見つけてしまったんだ」

 キースの口調の中に、僅かな苦悶が表れていた。

 華奈もようやく理解した。修羅が何故、VIPHに入ったのかを。

 彼は、ただ単に自分の夢を叶えたいだけだったのだ。自分の正義を貫く、ただそれだけの為に。上から与えられる指示を淡々とこなすことを、修羅は許せなかったのだろう。そして、やっと見つけた。VIPHという、居場所を。

「俺と重なった事件を解決した後、修羅は仲間になりたいと言ってきた。そのとき、保安機関の辞令まで持ってきたもんだから、あいつの行動力には驚いたものだったよ」

 微かな笑みを浮かべながら、キースはまた溜息をついた。

 だが、まだ話は終わっていない。

「俺はあいつに何度も聞いた。これでいいのか、って。あいつは何度も俺に、これしかない、と言った。あいつは俺と違って、自分からこの世界に足を踏み入れた。自分の正義を、貫き通すために」

「……それが自然だと思う」

 ふと、華奈は口を開いた。

「何を根拠に?」

「わからない……でも、その夢を追いかけてきたのなら、それが彼にとって、当たり前の事だと思うの」

「……この世界で、叶えようもない夢を追いかけることがか?」

「キースは、何か夢を持っていないの?」

「俺にそんなものはない。それを抱く権利も無い」

 キースはきっぱりとそう言い切った。その眼に、疑いの余地が無かったのが華奈にとって怖かった。

「あいつは、まだ夢を持っていられる。だから俺はVIPHにあいつを入れたくなかった……」

「でも、修羅はキースのことを信頼していたよ?仕事の時も、あんなに積極的に動いていたし……」

「人を殺して夢を叶えるのか?」

 それを言われた華奈は、思わずゾッとした。

 同時に認識もする。そうだ。彼らの場合、人を殺してでも依頼を果たす。例え相手が誰であったとしてもだ。

「……俺はあいつに、そんな形で夢を叶えて欲しくない……」

 小さく、キースはそう呟いた。

 俯いたその表情は、彼の悲しみを醸し出していた。

「……明日、イギリスに向かう。お前はどうする?」

「えっ……私?」

 気を取り直したかのように、突然キースはそう訊いてきた。それに華奈は戸惑いを覚えた。

 イギリス。

 今、ドイツにラザ・マイケルが大学講義で出張している。イギリスからならそう遠くないし、もしかしたら行ける機会があるかもしれない。

「仕事の関係で、しばらくの間イギリスに留まり続けるかもしれない。修羅がいない今だと、お前は1人になってしまう」

 確かに、このまま日本に帰れば華奈は1人だ。1人暮らしは元からだったから大丈夫だが、少し心細くなる。かといって、学校を休むわけにもいかない。

「……今、両親のことを知っている人が、ドイツにいるらしいの。今日、病院で捜した人なんだけど、いなくて……」

「なら、学校休んで一緒に来ればいい。今しかないチャンスを、逃す理由もないだろう?」

と言いつつ、キースは明日の荷造りを始めるべく、デスクの上に置いてあった私物などを片付け始めた。

キースの意見を聞いてみようと思ったが、あっさりと返されてしまったことに華奈は少々呆れてしまった

「明日の午後にここを出る。それまでに考えておけ」

「うん……わかった」

 荷造りの邪魔にならないよう、華奈は部屋から出ようとした。ドアノブを回し、去り際にキースに言った。

「修羅のこと……ちゃんと、考えてね……お休みなさい」

「……お休み」

ドアが閉まる直前に聞いたキースの声は、ひどく淡々としたものだった。

 




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