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Bloody Chaos  作者: SIN
17/19

第4章 [End of overture] 4-1 [追撃]

お待たせしました!


今回はあまり待たせずに出せたかな?ww


第4章、スタートです!

5月17日 PM.4:30 ニューヨーク 


 ニューヨークの西部の沿岸を走る、ウェストサイドハイウェイ。夕方になった今、道路上では帰宅する車が、少数だが、走っていた。真横を流れる巨大なハドソン川が、オレンジ色の夕日に照らされて黄金色に輝いている。

 一見、ゆったりとした光景だ。初めて見る者なら、立ち止まって見たくなるだろう。

 鳴り響いている、爆音が無ければ。

「……っ!!」

 急ブレーキをしてスリップする車を避けながら、キースはバイクでハイウェイを爆走していた。

前方の、すさまじい速度で激走する白いセダン車を追いかけて。

(やばい、燃料が……)

 メーターに目を向けると、燃料切れのマークに針が近づいていた。ウォール街からこのハイウェイに出て、現在はニューヨークの中央に差し掛かっているところだろう。相手が燃料満タンであると考えれば、持久戦は明らかに分が悪い。

「しぶとい奴だ……!」

 もう30分ぐらい経つだろうか。

 相手のしぶとさに痺れを切らし、キースはコートからデザートイーグルを取り出した。街中での民間人への被害を考えて使わなかったが、今や街の外、他の車もセダン車のおかげで大半が車線を開けている。誤射の危険は無い。

ハンドルを左手で握ってバランスを保ち、右腕を伸ばして銃口を車に向ける。

 トリガーに指を掛け、引いた。タイヤを狙っていたが、銃弾は車のフレームにヒットした。通常の銃撃戦とは違う状況下であるため、銃弾の精度などが落ちたりしてしまうのだ。

 それでも構わず、キースは撃ち続けた。相手も銃撃に気付いたらしく、蛇行運転で銃弾を避ける。

(弾を装填できる暇もない……)

 両手を離せば、バランスを崩して転倒するのがオチだ。とても手が空く様な状況じゃない。

「……あと1発か……!」

 いつも頭の中で装弾数を覚えているため、残弾数などもその場でわかる。

 あと1発で、セダン車を止める。

 まともに照準が合わせられないこの状況では、とてもやりにくい。

(……!)

 ふと、キースは周囲に目を走らせた。

 前方約500メートル先で、白いキャリアカーが道路の端で止まっていた。事故があったのか、傍には側面がへこんだ赤いワゴン車が止まっている。車を後部の荷台に載せようと、道板を降ろしているところだった。

キースは車線を隣に移し、アクセル全開でそのキャリアカーに向かった。

徐々に距離が短くなり、道板に乗り上がった。速度を殺さずにそのまま突き進み、傾いた荷台の頂点に達し――

 飛んだ。

「うおおお!!」

 跳躍したバイクは空に放り出され、放物線を描いて落ちていく。その間に、セダン車を空中で追い越した。

 両方の車輪で衝撃を和らげるように着地し、ブレーキをかけてUターンをする。バイクの正面がセダン車の前面と向き合うように、上手く車線に割り込んだ。

「『鬼ごっこ』は終わりだ」

 

ドン!


 デザートイーグルを両手で構え、前輪タイヤに向けて発砲した。

 銃弾は寸分狂わずに飛び、右前輪に命中した。


               バスンッ!!


 空気が抜ける音と金属音が混ざったような音を立てながら、タイヤがへこんで行く。

 車は制御を失い、速度を殺せぬままハイウェイの左端に滑って行き、派手な音とともに激突した。

「全く、手間取らせやがって……」

 マガジンを変えながら、キースは車に近づいて行った。銃口も車に向け、相手が出てくるのを待つ。

「……げほっ、げほっ……!」

 ドアを開け、車から立ち上がる煙に咽ながら、白スーツ姿の男が出てきた。

「……貴様……」

 煙に顔をしかめながら、男はキースを睨んだ。この様子だと、まだ諦めていないようだ。

「……貴様らの狙いはなんだ?大量の『S・E』を、人間の生活を不便にしてまで、何に使おうとしている?」

 トリガーに指を掛け、低い声でキースは訊いた。

 本部で対策本部部長を殺した事実だけで、この男が事件に関わっていると判明した。捕まえてから訊けばいいのだが、キースは早く、この事件の動機を知りたかった。

「……答えろ」

 無言のまま睨む男に、キースは繰り返し言った。トリガーにかかる力も強くなる。

「……答えたところで何になる?」

「何?」

「お前にそれを教えて、お前はどうするのかと訊いている」

 答えるどころか、質問に質問で返してきた。

「……皆殺しだ。それだけのことをしたのだからな」

キースは躊躇い無くそう言った。

「皆殺し、か……果たしてそれが貴様に出来るか?」

「何が言いたい……?」

 キースは男の声に疑問を抱きながら、再度問いかける。

「いずれ分かる……お迎えが来たようだ」

 男は、もう言うことは無いといわんばかりに後ろのハドソン川に振り向いた。キースは警戒をさらに強くし、サイトに男の後頭部を合わせる。


          ――……バタバタバタバタ!!――


 突如、何かのローターが聞こえてきた。この音はヘリだ。

 近づいてきている。何処から?

 キースは耳に神経を集中し、音の元を探った。

 さらに音は大きくなり、どんどん近付いてきた。

 下から、上へと。

「!?」

 男の背景に、黒い影が立ち上がってきた。

 耳障りな程のローター音を撒き散らすプロペラが見え、さらにその下の黒いボディーも見えてきた。

 形から判断すると、UH-60J、通称ブラックホークだ。兵員輸送を目的に作られた輸送ヘリだ。

 胴体部が上空に上がり、ヘリの中が見えた。キースは自身の警戒心を男からヘリへと向けた。

 ヘリの中に、1人の男が立っていた。

 ごつい筋肉質な体系で、筋肉で黒い皮膚が盛り上がっている。服装は、防弾チョッキの上にポケットがたくさんついた濃い緑のチョッキと、少しぶかぶかした同じ色のカーゴパンツ。一見軍人のように見える。頭はスキンヘッドで、硬い表情でこちらを見ている。両手で抱えた、機関銃MINIMIを構えて。

 キースは反射的に動き、その場から離れた。

 直後、上乗せするように重い銃撃音が響いた。放たれた機関銃から次々と銃弾が吐きだされ、キースがいた場所、その周辺に着弾していった。

 キースはバイクを盾にして隠れ、銃撃をやり過ごす。銃撃はバイクにまで及び、ボディーに次々と穴を開けていく。

(後で弁償だな……!)

 苦々しくそう思っていると、白スーツの男はヘリから降ろされたタラップに掴まっていた。

「……私の名はファウストだ、キース・オルゴート!!」

「!?何故俺の名前を!?」

「次に会った時は必ず殺す!!」

 男――ファウストはそう言い残すなり、タラップを上がっていった。

「待て!!……っ!!」

 バイクから顔を出して呼び止めようとするが、銃撃がそれを許さなかった。仕方なしにキースはバイクに身を隠す。

「くそっ……!」

 あの男、ファウストは、最初からキースのことを知っていた。

 一体何故?

 自分の名前が、腕利きのVIPHとして知られているにしても、見知らぬ人間が名前まで知っているとは思えない。

 そうこう考えている内に、銃撃が止んだ。

 キースはバイクから身を出し、旋回しているヘリに向かってデザートイーグルを放った。銃弾がヘリに着弾していくが、流石に拳銃では装甲を突き破れなかった。

 そんなキースをあざ笑うかのように、ヘリは騒がしいローター音とともに川沿いに飛んで行った。



「ナイスタイミングだった、ハンヴィー。感謝する」

 タラップを片付けて、ファウストはコクピットに座っている者に礼を言った。

「別にいいって~、気にしなくても!困った時はお互い様でしょ?」

 この状況では場違いに聞こえる、女の子特有の明るい声でパイロット――ハンヴィーは応えた。

 黒と濃緑の迷彩色のタンクトップにカーゴパンツと、女にしては珍しいミリタリーな服装だ。上はタンクトップ一丁だけで、豊満な胸の谷間が見えるほど、肌色の皮膚が露出している。細い黒フレームの眼鏡を掛けていて、弾けるような笑顔から、快活な性格であることを醸し出している。被っている黒いヘルメットのせいで見えないが、髪型は濃い茶髪のショートヘアーだ。

「まさかお前が追い詰められるとはな。あらかじめ辺りを見ておいて正解だった」

 スライドドアを閉めながら、黒人の男は野太い声でファウストに驚きの言葉をかけた。

「あいつが半蔵を殺したVIPHだ。ベルたちが会ったVIPHもあいつだろう」

「……感づいていたか?」

「少々、な。目的には気付いていない……ところでカーティス。お前はこの作戦に参加していないはずだが?」

 カーティスと呼ばれた男は、MINIMIを立てかけてヘリのシートに座った。

「ある伝言を、ボスから」

「なんと?」

「……『計画』の始動日が、決まったそうだ」

「予定より早いぞ?」

ファウストが動揺の声を上げる。

構わずカーティスは続けた。

「準備が少し早く終わった。エディのB-USB解析も終わり、進行準備は万全だ」

「そうか……実際、解析さえ済めば実行できたのだからな。始動日は」

「明後日……19日、0900だ」



 「……いた!」

 車で静かなハイウェイを駆け、道の端でハドソン川を見つめているキースを修羅は見つけた。

 ウォール街の中でキースを見失ってしまったが、キースにつけた発信機のおかげでハイウェイにいることがわかったのだ。

 だが、どうやら事は治まったらしい。

 傍で止まっている傷ついた白いセダン車が、それを物語っていた。

「キース!」

 修羅はキースの傍に車を止め、車を降りて呼びかけた。

「……修羅?どうして……」

 一方のキースは、少々を驚いていた。自分を追っていたなんて思っていなかったのだろう。

「……事情を説明してくれるか?」

 穴だらけのバイクを見ながら、修羅はキースに歩み寄り、問いかけた。

「……悪い。俺も整理がついていない。ただ、そのセダン車に乗っていた奴が、人殺しをしただけは分かっている」

「人殺し?誰を――」

「そんなことはどうでも良い」

 都合が悪そうに、キースは無理矢理話を切り上げた。

「依頼はこの様だ。失敗さ」

「は……?」

「お前にまで骨を折らせてすまなかった。とりあえず、アジトに戻ろう」

 上辺だけの言葉を並べ、キースは車の方へと向かった。

 失敗?

 嘘だ。

 『依頼』なんて、最初からなかった。

 これは、こいつの個人的な行動だ。

「……おい、待てよ」

 修羅は沸々と上がる怒りを抑えながら、キースを呼び止めた。

「今回の依頼、本当は無かったんじゃないのか?」

「……」

 キースは立ち止まり、だが、何も言わない。

「本当はこんなことしたくはなかったがな……お前のスーツの胸ポケットに発信機を取り付けた。ここまで来たのも、そいつのおかげだ」

 修羅は腹を決めてネタをばらし、振り向いたキースの胸ポケットを指差した。キースは胸ポケットを探り、四角い発信機を取り出した。

「……」

 無表情のまま、発信機を握り潰した。

 手を開き、ぱらぱらと破片を落とす。

「お前はサーバー室に行かず、違う部屋に行った。そこで、『S・E』強奪事件を調べるつもりだったんだろ?」

 修羅はキースを見つめながら訊いた。

 言い逃れは出来ないはずだ。ここまで証拠があれば……

「……修羅」

 ふと、修羅の名前を呼んだ。

「お前は何のためにここにいる?」

「質問に答えろ」

 声を荒げて、修羅は再度問い詰める。

 だが、キースは構わず続けた。

「お前は、自分の正義を貫くためにここに来たんじゃないのか?」

「……昔話でもして開き直る気か?」

「違う。お前は本来なら、俺たちと一緒にいてはいけないんだ。『表』で生きてきたお前はな」

 キースはそう言うと、修羅に歩みよった。

 修羅は動じなかった。殴られようと、構わなかった。

「……これはお前が関わってはいけない。知る必要もない」

「それをお前が決めるのか?」

「……そうだ」

 キースは表情を変えず、そう言いきった。

 納得がいかなかった。

 理解できなかった。

 そこまでして、キースは何をしようとしているのかを。

 全く、理解出来なかった。

「……車に乗れ」

諦めた修羅はそう言うなり、車に向かった。

溜め込んでいた怒りが、限界に近付いていた。



PM.5:14 プロヴィデンス 廃工場


「ハッハッハッハハハ!!オラァ踊れ踊れ!!踊ってずっこけて、さっさと逝っちまいな!!」

歓喜と狂気が混ざった叫びを上げながら、クレイヴは二丁銃を周囲に手当たり次第に撃ちまくっていた。

もちろん、標的はグレンとラスティー。

2人は別々の方向に走っていたが、クレイヴが放つ凶弾で工場内の機械や荷物が粉砕されていき、隠れる場所が次々と無くなっていった。

「クソっ!『盾』が……!!」

 グレンは迫りくる銃弾を避けながら毒づいた。

 このままではいずれ工場内のオブジェクトが無くなり、2人が狙い撃ちにされるのも時間の問題だろう。その前に、何とか攻撃を止めなければ!

「ラス!援護しろ!!」

 グレンはそう叫ぶと同時に、床を蹴って空高く跳躍した。

 クレイヴはそれを見逃さず、グレンに銃口を向ける。

「こっちだ!」

 と、機械の残骸からラスティーが躍り出て、クレイヴにAKMSをフルオートで発砲する。

 クレイヴは体を捻らせて銃撃をかわし、横にバック宙転しながらラスティーに向けて銃をぶっ放す。

 ラスティーが横に飛びこむと、そこに大きな穴が開く。

「ちっ……小賢しいっ!!!」

 クレイヴが咆哮するとともに、後方に銃身を思い切り振るった。

「っ!!?」

 後方には、クレイヴに上から飛びかかって突こうとしていたグレンがいた。迫っていた矛先が銃身に弾かれ、槍に従うようにグレンは横に吹き飛んだ。

 グレンは転がって着地し、片手を地面につけてブレーキをかけ、グレイヴに方向転換をする。

 2つの砲口が、グレンに向けられていた。

「撃たせるか!」

 グレンは『スサノオ』を振りかぶり、クレイヴに向けて投げた。矛先がクレイヴに近づいていく。

 クレイヴは一瞬目を見開いたが、思考を切り換えたのか、目つきが戻る。銃口を僅かに動かし、発砲する。

 

          ――ガギン!!――


 2発とも槍の矛先に当たり、槍がクルクルと宙を舞った。

 槍が飛んで行った先には、跳躍したグレンがいた。槍の柄を握り、矛先を下に向ける。後ろに持ちあげ――

「オラァ!!」

 クレイヴに向け、矛先を突き下ろす。

 クレイヴは二丁銃を掲げ、眼前でクロスさせた。矛先が銃身に激突し、両者の時が一瞬止まる。

 その一瞬で素早く行動したのは、グレンだった。

 槍を梃子に、クレイヴに向けて宙返りをした。一回転の終わりで、足に全身の力を加え――クレイヴの天蓋に踵落としをした。

「ぬぁっ……!」

 頭からの激痛にクレイヴは顔を歪める。

 踵落としの反動を利用し、グレンはクレイヴの頭を『踏み台』にして再度前方に向かって宙返りをした。今度は槍ごと体を回し、矛先がクレイヴの背中を切り裂こうとした。

「……ああっうぜぇ!!!」

 痛み、あるいはグレンに対してなのか、クレイヴは苛立ちとともに咆哮し、頭の痛みを引きずったまま体を回し、銃身でグレンを殴りつけた。銃身はグレンの左肩部を殴打し、回転の勢いに乗るようにグレンは真横に吹き飛び、その先にあった段ボールの山に埋もれた。

「……痛ぇじゃねぇか、グレン」

 後頭部を銃身で軽く叩きながら、クレイヴは低く唸った。

 タンボールの山を除け、グレンは立ち上がって槍を構える。

「こっちもだ、馬鹿野郎……」

 声は笑っているが、目は笑っていない。

「随分と腕を上げたもんだな、クレイヴ」

 ラスティーがグレンに駆け寄り、クレイヴにAKMSを構えながらそう言った。

「お前と『パートナー』辞めた後、ずっと怠けてたわけじゃねぇぜ?『菌』を大勢殺して、たらふく儲けていたさ」

「クレイヴ……教えろ。一体誰の命令だ?」

「だから言ってんだろ。教えられないんだよ」

「……『CRADLE』の意思だとしてもか?」

 グレンはクレイヴを睨み、問い詰めた。

「『CRADLE』?……ハッ、そんなの関係ねぇ」

 クレイヴは呆れたように吐き捨てると、再び二丁銃を2人に向けた。

「自分が何をしているのか、わかっているのか?」

「わかってなきゃ何だってんだ」

「VIPHは、他のチームとの戦闘、または殺害を禁じている。ただ1つの例外を除いてな」

「『裏切り者』、だろ?」

 軽々と言ったクレイヴに、グレンは目を細めた。

「『使命』を見失ったVIPHは、とっとと消えちまえって言いてぇんだろ?」

「面倒事を増やすな、クレイヴ。お前の行動は『使命』に反したものだ」

「『使命』に反した?いつ俺がした、ラス?」

 ラスティーの言葉に対して、クレイヴはにやけながら茶化してきた。

 最も、からかいとは思えなかったが。

「むしろ、お前たちが俺にとって『裏切り者』のように見えるぜ?俺は『使命』を忘れちゃいねぇ」

「貴様……!」

「ラス、気を静めろ」

 クレイヴの言葉に怒りを感じ、前に一歩出たラスティーを、グレンは腕で制した。

「どの道、そっちがくたばってくれなきゃ報酬が――何だ?」

 と、クレイヴは突然言葉を切り、誰かと話し始めた。仲間のスナイパーだろうか。話している間も、こちらに銃を向けたままだ。

「……もう時間か……ああ、わかった」

 話し終わったと同時に、クレイヴは銃を回して背中に付いている大きなホルスターにしまった。

「どうやら時間のようだ……次のボーナスが待ってるんでな。俺はこれで失礼するぜ」

 クレイヴは歪んだ笑みを2人に見せ、出口に向かって走り出した。

 2人は逃がすまいと、クレイヴを追って出口へと向かう。


         ――バタバタバタ!――


突如、後方から何かのプロペラ音が聞こえてきた。ヘリだろうか。だが、やけに音が大きい。こんなに低空でヘリが飛んでいる筈がない。

 音の元は後方から前方へと向かっていった。

「!?」

 工場の出口に、梯子――タラップが落ちてきた。クレイヴはタラップに駆け寄り、それを掴んだ。ヘリもあちら側のものらしい。

「逃がすか!!」

 ラスティーは走りながらAKMSを構え、照準が定まらないままクレイヴに向かって発砲した。

 クレイヴはタラップを掴んだまま上昇していき、やがて、タラップも空へと消えてしまった。銃弾は、工場の床と壁を撃ち抜いただけに終わった。

「……『ブラックホーク』!?」

 外に出た2人が見たのは、海に向かって飛ぶUH-60J――兵員輸送ヘリ『ブラックホーク』だった。

 黒い機械の鳥は、耳障りなローター音を撒き散らしながら海の彼方へと消えていった。

 その直後。


            ――ドカン!!――


2人の後方で大きな爆発が響き、それに続くようにコンクリートが崩れ落ちていくような音がした。

「!?地下が……」

 振り向くと、工場の床のほとんどが煙を上げて抜け落ちていた。この様子だと、地下はコンクリートの破片で埋められてしまっただろう。

「チッ……爆弾か!」

 ラスティーは苦々しい表情で毒づいた。

 やられた。

 クレイヴは地下に入り、2人が逃げた後、手早く地下の天井に多数の爆弾を設置し、逃げると同時に起爆したのだろう。

 これで、事件の『手掛かり』が無くなってしまった。

「クソっ!また振り出しからか……!」

 ラスティーは苛立ちの籠った声で怒鳴り、海の方を見た。ヘリはもうすでに見えなくなっていた。

「いや、収穫はあったさ……認めたくはねぇがな……」

 一方のグレンは、消えたヘリを見やらずに、遠くを見るような目で崩れ落ちた地下室を見つめていた。

 


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