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Bloody Chaos  作者: SIN
11/19

2-5 [後残り]

 PM.6:10 新宿 大井町 BAR前


「……どうだった?」

 店から出てきた修羅に、ドアの傍に寄りかかりながらキースは問いかけた。

 このBARは修羅の知り合いが経営しており、裏で情報屋をしている。もちろん、『裏』の。

「『アタリ』はあったぜ」

 キースの傍に置いてあった『ジャベリン』のケースを担ぎ、2人は歩き出す。

「まずはあの『雷』だ。やはりお前の予想通りのようだ」

 コンテナターミナルで最後に見た、一条の雷。それは修羅の放った対地空ミサイルを破壊し、空中で爆散させた。結果、テロリストは海の彼方に消えてしまい、アウネスの身柄は治安維持軍に任せることになった。実質、キースたちがアウネスを救出したこととなるので、アウネス本人の意思に関わらず、大使館から報酬が贈られることとなっている。 

「『レールガン』、か……」

 『レールガン』――物体を電磁誘導によって、高速で撃ち出す兵器である。修羅が見た『PSG-1』の先端には、その装置らしきものが取り付けられており、そこから雷が発射された。

「実現しているとは聞いていたが……実戦投入されたことはなかった筈だ」

「実現したとはいえ、まだ試作段階だ。小型化、初速の改良、オーバーヒートの問題……様々な問題を残しながら、去年にやっと形になったところだ。それに、まだ『据え置き型』だ。俺が見た『手持ち型』にするにはまだ先の話だ」

去年の6月、ドイツで開発された『据え置き型』のレールガン、『GARM-RG-T』――通称『ヘヴィーボルト』は、現時点において最も改善されたレールガンであるが、修羅の言った問題点を未だに解決していない。

「……あいつらが船で逃げるとき、俺は狙撃をくらった。銃声とあの連射間隔から、『PSG-1』だ」

「『手持ち型』ならぬ、『取り付け型』か……しかも、切り替え可能……奴ら、どんだけ頭良いんだよ?」

「さぁな……『女』の方は?」

 キースは気の無い返事をし、今日見た白衣の女について尋ねた。顔は修羅も見ていたので、情報を探るのに手間取らなかった。ジャケットのポケットから写真を取り出し、キースに手渡す。

「……こいつだ」

「以前テレビで見たことがあるぜ、そいつ」

先程買った缶コーヒーを飲みながら、修羅は説明を始める。

「ベル・シュトゥルク。ドイツ出身で、学歴は稀にみる賜物だったそうだ。15歳の時に飛び級でイギリスのケンブリッジ大学の化学科に入学。18歳の時に博士号を取得。大学を卒業後、大手の化学研究所に就職し、単独で研究をしていた。当時その秀才振りは、世界的話題に取り上げられるほどだった」

「なるほど、大した奴だ。頭の良い奴は誰でも善行をするわけではないことが、これでわかったよ……で、その後は?」

「FBIと追いかけっこだ」

「……」

苦虫でも噛んだかの様に、キースは顔を顰めた。また面倒なものを見つけた、とでも思っているのだろう。

「もう、腹いっぱいだ」

「そう言うな、これからがメインなんだから」

顔をそらすキースをよそに、修羅は続ける。

「彼女の研究していたものが、国際法を違反していたんだ。最初はイギリスの警察が追っていたが、彼女は世界中を回って逃走した。そんなわけで、警察はFBIに協力を要請。捜査権も委託してだ。今んとこ、CIAが情報を嗅ぎ回っている所だろう」

「かなりの問題児だな……一体どんなレポートを書いたらそんな事になるんだ?」

「『S・E』の兵器転換」

修羅の言葉を聞くと、キースは顔色を変えた。

 あの時――フォート社の時と、同じ顔だ。

 それを確認しながら、修羅は構わず続ける。

「当初は、『S・E』の日常生活での有効利用という名目で研究だったが、裏で彼女は『S・E』の兵器転用を目的とした研究を行っていたんだ。それを主任が見つけ、警察――今の治安維持軍に追われる身になったのさ」

 第三次世界大戦終結後に締結された国際法においては、『S・E』の兵器転用を一切禁じている。第四次大戦を未然に防ぐことをコンセプトとして作成された国際法では、この事項は要になりうる。それを違反すれば、終身刑、酷い場合は死刑となる。

「しかも、何の偶然だか知らないが、彼女が開発したものは……」

駅の改札口を通過し、プラットホームで電車を待ちながら、修羅はキースに耳打ちをした。

「『レールガン』だったそうだ」

 そのとき、キースの目つきが変わったのを、修羅は見逃さなかった。



 PM.7:30 『BLACK WALTS』事務所


「あ、おかえりなさい!」

 と、この事務所に不似合いな明るい声が響く。気づけば、事務所内の雰囲気が少し変わっていた。床に落ちていた本や紙、机の上のゴミなどが全てなくなっており、全体的に綺麗になっていた。この事務所に住みついている2人は、両方とも掃除嫌いだ。そのため、事務所の散らかり様は本当に悩まされたものだが……

「夕飯できてるよー」

 この状況の原因というべき者――霧原 華奈が、事務所の一室から出てそう言った。彼女の今の姿は、白のセーター、緑と黒のチェックのロングスカート、そしてその上に無地の青のエプロンを着けている。あの部屋はキッチンだったはずだ。

「華奈?どうしてお前、家事なんかして……」

「同居人だからね。このぐらいしなきゃ悪いでしょ?」

戸惑う修羅の問いに、華奈は笑顔で応える。

「……この匂い、カレーだな?しかも中辛の」

 匂いを嗅ぎながらキースは華奈に訊いた。

「すごーい!よく辛みまでわかったね?」

「キースは大のカレー好きなんだ。犬見てぇに匂いだけでわかっちまう」

「犬は余計だ……さ、飯にしよう。仕事も無事終わったことだし、何よりも腹が減った」

そういうとキースは華奈に近づき、肩に手を置いた。一瞬、華奈が、ドキッ、身を震わせた。

「お前の『答え』、確かに聞いた」

それを聞き、華奈は微笑みかけてくるキースに、ぎこちないが、笑顔で答えた。

「ようこそ、『BLACK WALTS』へ。歓迎するぜ」

 笑顔で修羅が、新しい住人の歓迎の言葉を言った。


「ごちっ!」

「ごちそうさん」

「お粗末でした~」

 夕食を終えた3人は、個々別々に夕食の終わりを告げ、食休みを取り始めた。今日新たに加わった仲間……華奈はティーポットのダージリンの紅茶を淹れ、それをテーブルに持ってきた。夕食中に華奈から聞いたことだが、夕食の材料などは全て、華奈が買ってきたものだという。

「……2人に頼みごとがあるんだけど、ちょっといいかな?」

紅茶を注ぎながら、華奈はそういった。

「なんだ?許容範囲なら受け付けるぜ?」

「情報が欲しいの」

注ぎ終わり、席に着くなり訊いた修羅に、華奈は答えた。それを聞いた2人は、目の色を少し変えた。それに構わず、華奈は続ける。

「私の両親に関することよ。修羅は、情報に詳しいよね?」

「まぁ、そうだが……流石に両親の情報まで受け付けてないぞ?」

「手がかりを掴んだの。それを調べてもらえればいいんだけど……」

 そういうなり、修羅は腕を組んで唸った。通常、VIPHで所有、もしくは取得した情報は、外部に対して秘匿である。入手経路も、全てだ。これは依頼などにおいて、外部に情報が漏れるのを防ぐためにある。

 だが、そのVIPHのリーダーの判断で、情報を教えることができる。

「……やはり、両親を捜すのか?」

 そのリーダーであるキースは、華奈を見つめながら訊いた。

「そうよ。私は両親を捜すわ。その上で、あなたたちに情報を提供してもらいたいの」

きっぱりと言い切る。その目はとても真剣な眼差しで、疑いを感じさせなかった。

「……わかった、情報は提供しよう。だが、場合によっては両親に関することでも教えられない時もある。その点は了承してくれるな?」

「わかった。約束する」

 異議はない、とでも言うように表情を引き締めて答えた。どの道、キースたちが依頼の最中に、華奈の両親に関する情報に接触することはないはずだ。あるとしても、無いに等しい偶然である。

「りょーかい。情報のルーツならたくさんある。暇な時なら、いつでも引き受けるぜ」

「ありがとう。じゃあ、早速で悪いんだけど――」



 PM.10:25 太平洋上空


 雲の塵一つすらない満天の星空で輝く三日月が、夜の太平洋を淡く照らしている。海上には何もなく、微かに立つ波が月光を反射していた。

 その上の空に1機、夜の闇に紛れるかのように、黒の兵員輸送ヘリが飛んでいた。大きさからして、5、6人は乗れる程だ。

「データは入手。B―USBの血液認識は終わっているけど、パスワードは不明よ」

 運転席で無線通信している者――今朝のテロの首謀者、ベル・シュトゥルクは、無線機のマイクに淡々と報告する。

B-USBは、血液認証セキュリティを搭載したUSBだ。基部にある小さな穴に持ち主の血を1滴入れることでセキュリティが解除され、中のデータを閲覧することができる。パスワードと組み合わせることによって二重セキュリティを敷くことが可能だ。まだ一般化されておらず、国の情報の保存用に使用されている。

『……アウネスを殺したのか、ベル』

 無線機からは、ノイズ混じりの少し低い、男性の声が聞こえる。

「いや、お客さんが割り込んできたの。多分、あなたが捜してるVIPHよ」

『何故わかる?』

「動きが尋常じゃなかった。1人で奇襲してきて、あたしが瞼を1回閉じた後には、全員死んでたわ……それに……」

 ベルはそこで止め、そして、にやり、と妖しい笑みを浮かべながら無線機に言った。

「顔があなたに似ていた」

『……』

 その言葉を聞いた男は、黙り込んでしまった――まるで、図星を突かれたかのように。

『……VIPHに関しては現在調査中だ。そいつであるとは限らない……お前たちは一旦こちらに戻れ。パスワードの解析はエディに任せる……それと、1つ注意してもらいたい』

「何よ~?あなたの説教なんて聞かないわよ?」

 むくれた表情でベルは無線機に非難の声を上げた。構わず男は続ける。

『あまり目立った行動はするな。今日東京湾で起きた爆発……言うまでも無くお前たちの仕業だろう?』

「なによ?あのまま吹き飛んでいればよかったとでもいうの?」

『何も『レールガン』を使うまでも無かっただろう?……マリーの腕なら』

「……」

 さらにむくれるが、それ以上ベルは反論しなかった。言い訳し続けるのは、彼女にとって無意味な行動だった。

『今回は命の危険もあったから目を瞑るが……次からは留意してくれ』

「……りょ~か~い」

 気のないベルの返事は、反省する気など毛頭ないことを示すには十分であった。

 『以上だ』という男の声とともに、無線から微かに流れるノイズ音が顕著になり、やがて消えた。

「……周囲に警戒しつつ、本部へ向かって頂戴。国連軍が索敵を行ってるから、索敵領域を迂回して」

 インカムを外しながらパイロットにそう言い残し、助手席から離れる。

 パイロットとベル以外に、ヘリには4人乗っていた。男3人に、女1人。男たちはもう寝ていたが、女はまだ目を開けていた。が、ピクリとも動かない。瞬きすらもしていないように見える。胸元が微かに開いた黒いライダースーツから見せる白い肌はまるで粉雪の様に白く、顔もまた氷のように美しい。だが、その表情は変化に乏しく、人間というより、よくできた人形と言えるだろう。純白の髪が、それをさらに際立たせていた。

「マリー、起きてるの?」

 呼びかけに応じない少女――マリーの隣に、遠慮無しにベルは座った。

「何してたの?」

「……黙祷。今日、死んでしまった人たちの」

 感情が抜けてしまっているかのような声で応じる。

「……あの場にいたのは、過去に罪を犯した囚人たちよ?いずれかは死刑になる運命よ?」

「それでも……せめて、弔いだけでも……彼らにはもう、誰もいないのだから……」

 蚊が鳴く様な声で、だが、一言ずつ、大切にしている物のようにゆっくりと言う。

「……まぁ、どうしようがあなたの自由。あたしが咎めることではないわ」

「…………」

「ところで、『アレ』はどーだった?」

 がしゃっ、と、マリーは隣に立てかけてある、改造されたPSG-1を持ち上げた。

「この銃自体の性能は変わりないわ。精度の改良も良好……でも……」

と、銃身を下げ、先端の装置を展開させる。本来なら、内部は金属で構成され、銃口の先にレールが走っており、銃弾がそこを通るようになっている。

だが、今のその姿は見るに無惨だった。装置の内部の金属は溶けて爛れており、レール部分は、溶けた金属や変形したレールによって所々埋められていた。

「やっぱり1発が限界か……」

「出力は65%。前回は45パーセントで爆発したわ……改良はうまくいっている」

「それでも満足しないのよ、あたしは……」

 先端部の装置の両側面についているロックを外し、ベルはそれを手に取る。

「完璧主義者だからね、あたしは」

 装置を展開したり閉じたりしながら、そう呟いた。



 PM.11:35  『BLACK WALTS』事務所


「そうだ。ベル・シュトゥルクに関する情報を、全て洗い出してほしい。彼女が関連しているソース、全てだ。彼女が今回の件に関わっている可能性が高い……ああ、『S-U-218』のことだ。あの強奪事件と霧原の兵器開発、両方とも彼女に繋がる要素がある」

 小さなランプが1つだけ点いている暗い部屋の中、黒衣の少年――キースは、携帯電話を耳につけ、淡々とそう話していた。

「今回の事件、『KNOWING』はどう判断している?……総動員の可能性は?……わかった。こちらも余裕があれば調べてみる。ああ……なにか分かったら教えてくれ」

 携帯電話のフリップを閉じ、ため息をつく。

 数秒天井を眺めた後、ランプを消し、微かな寝息とともに、静かに目を閉じた――



第2章 「everything is changed」終





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