12 馬車に乗る
12 馬車に乗る
五年経ち、エルクは二十歳になっていた。そして飼っていた老馬オルクは老衰により息を引き取った。今は代わりに買った若い馬、二代目オルクがエルクの愛馬になっている。
エルクは馬商人であるバーナードの下にいた頃、客をユニコーンに触らせる商売を担当していて、そこそこの売り上げを上げていた。しかし先代オルクが死んだと同時にその商売はやめてしまった。惜しまれたが、誰もエルクたちの嘘に気付かなかった。ユニコーン自体よく分かっていない人も多かったからだろう。
独立したエルクは馬車を買い、運び屋をすることにした。元ジョンの農場を買った農家が小麦を運ばせてくれ、運賃を稼げる。それに町へ代理で買い物に行ったり、村人の送り迎えもやった。村はそんなに交流があるわけでもないので、稼ぎは少ないがエルクは充実していた。
今日も村人の買い出しに付き合って、帰るところだ。
「エルク、悪いな。母ちゃんのご機嫌取らないとヤバいんだ」
五年経ってもまだ許してもらえてないらしい。マリアの能力発動イコール不倫なので、この程度で済んでるのは平和なほうだろう。エルクもこのような恩恵あるし。
帰り道を走っていると、道の真ん中に女性が倒れているのが見えた。
エルクは馬車を停めて、馬に触った。角が生え、伸び、女まで届かせる。
そしてつつく。素手で触りにいかないのは、助けたことを触りたいからやったなどと言いがかりをつけられないためだ。村の外の人間はエルクの常識を超えてくる。
「ひゃあ!」
女が飛び起きた。その様子に、彼女がただの行き倒れではないことがわかる。
「誰?」
エルクは伸びた角を起きた女に向けた。
すると彼女は後ろへ飛んで、指笛を吹いた。響き渡るとあちこちから武器を手にした男たちが現れる。
「盗賊だー!」
おじさんが説明するかのように叫んだ。この発言で、彼が一緒に盗賊と戦ってくれないのはわかった。
「金目のもの、置いてけ」
脅された。だが五年バーナードについていたエルクもこんな修羅場は経験済みだ。それにある程度の体術は先輩たちから学んでいる。何とかなるだろう。
エルクはスキルに集中した。
盗賊は、まず馬に触れているエルクを目指してきた。エルクを沈黙させれば。逃げられる心配はなくなるからだ。
エルクは馬車から下りて、馬の隣まで来た。
「枝毛!」
エルクは馬の胴から角を生やし、その角を枝分かれさせる。そしてその先端が盗賊に突き刺さる。ちなみに技の命名をしたのは母親だ。
「枝毛! 枝毛! 枝毛!」
連呼するのはなんかカッコ悪い。やらなくても発動することはできる。だがエルクはやる。そう父親に教わったのだ。
「引けー! 引けー!」
盗賊はあっさり逃げていった。おじさんもオルクも馬車も無事だ。角で刺して倒した盗賊はまだ死んでない。そして最初の女も。
「どうする? あの女」
おじさんは馬車から身を乗り出して聞いた。
「懲りてないんですか? 今度は物じゃ済まないかもですよ」
そう言って、おじさんを黙らせる。エルクがおじさんから女に視線を戻したとき、すでに女はいなかった。
かわりに首に刃物を押し当てられ、側で息遣いも聞こえる。
「形勢逆転ね」
嬉しそうな女の声。
エルクはピンチになっていた。




