11 仕事につく
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翌日、エルクの家に馬商人がやってきた。マリアに操られていた部下の若い男たちも連れてきていた。エルクと目が合うと若い男たちは気まずそうに顔を背けられた。
「はじめまして。馬商人のバーナードです」
エルクの後ろにいる両親に向かって、馬商人バーナードは言った。何だか緊張しているように見えた。
母親は笑顔で出迎える。
「はじめまして。エルクの母です」
今日は名前を名乗らなかった。それに笑顔なのに、普段のほんわかした感じがしない。
エルクが母親に違和感を感じていると、父親が続く。父親は笑顔ではないが、バーナードたちには心を開いている感じであった。
「エルクの父です。立ち話もなんなので、どうぞ」
バーナードだけでなく、部下も招き入れ、ハーブティーでもてなした。ハーブティーは自家製で、母親の趣味で育てている薬草などを使っている。慣れない人は苦いが、みな緊張した面持ちをして、素直に飲んだ。
「エルクを預かってくれるという話でしたが……」
父親が話を切り出した。
「ええ。騙されたとはいえ、村の秩序を乱したもの同士、仲良くできないものかと思いましてね」
それが上辺のことなのは、エルクにも分かった。
「ホントは?」
母親にも分かったみたいだ。バーナードたちにハーブティーを注ぎ、聞いた。
「エルク君のスキルがあれば、ユニコーンに客を乗せる商売ができます。私はジョンとは違うんです」
自信に満ちた言い方をしたが、エルクを利用しようとしているのはジョンと同じだ。
「正直ですわね」
「あなたの前では、嘘など意味がないことです。東の……」
「コホン」
エルクの母親は咳払いと目線でバーナードのセリフの続きを制限した。バーナードは口をつぐみ、ハーブティーを飲んだ。
「エルクがやる気になっているから許しますが、こちらの逆鱗には触れないように」
いつもと違い、ハーブティーを注いでいる母親の声が冷たかった。その声にビビったバーナードのカップを持つ手が震える。
「バーナードさん、エルクのことよろしくお願いします」
対照的に父親はバーナードに頭を下げた。
バーナードは二人の態度の落差に戸惑っているようだ。
「よろしくお願いしますね」
母親が念を押すように言った。
「任せてください。馬の扱いを教えるだけですから」
なぜだかバーナードたちはビビっていた。明らかに父親ではなく母親に。そんなにマザコンと言われるほどベッタリというわけでもないし、母親はボケ(天然)だ。恐れる必要はないのにとエルクは思う。
「よろしくお願いします、バーナードさん」
エルクは元気な声で言った。幾分緊迫した空気が和らいだのか、バーナードはハーブティーを一気飲みして言った。
「まかせなさい」
「はい」
こうしてエルクは、バーナードの元で働くことになった。
しかし若い部下たちと扱いが違い、エルクは怒られることがほぼなかった。それどころか年末に帰省することも許してくれた。他の人より優遇されるのは心苦しいが、バーナードは「あの人に怒られたらまずい」と言うばかりで、立ち位置がお偉いさんの子供みたいであり、エルクは先輩たちによく気を遣った。それは五年間続いた。
五年経って、エルクはバーナードから独立した。




