第9話 アーリヤハンの戦い
アン「ところで、こうした物語形体における重要な概念『伏線、布石』だが」
薔薇「はい」
アン「これはつまりその中にある共通概念を見つけられない事にある。つまり不明瞭性だ」
薔薇「ほう?」
アン「『恥』の時に言った通り共通概念が無いと良くない事になる。なのでどんどん見つけようとしていく傾向にある」
アン「なので不明瞭性を組み込んでおけば気になって読み進めていくわけさ…これを伏線・布石と言う」
アン「若干難しいのが『謎』をドン!と置くわけではない事だ。目の前の計算問題の答えが分からないからといって《《不明瞭性》》があるわけじゃないだろ?」
薔薇「はいぃ?」
アン「だからミステリー作品があったとして、『わあ謎だ!気になる解かなきゃ!』とはならない。ミステリー自体の、謎があってそれが物語内で解かれる、という《《構造》》はもう明瞭だからね」
薔薇「なにそのクソ屁理屈は」
アン「もちろんよっぽど計算問題やミステリーに傾倒していて、全部を把握したい人でなければだが……」
アン「逆に、ナントカ文明とかナントカ現象という様なそれだけじゃ意味が掴めないものだと気になってしまうわけだ。それが周知の事実なら尚更な(有名なものは、有名というだけで少し気になるものだ)」
雑花「ねー虹って何でできるのー?」
ルヴィス「それはね、雨と太陽の光の関係だよ」
ホッパー「実は空に見えないプリズムが仕掛けられててそれで」
トト「空が作る魔法さ」
薔薇「何だこいつら」
アン「つまり、第9話にしてようやく伏線とか布石を大事にしていこうねという話ができたわけさ!」
薔薇「もう第9話いってるんだ…」
────
ルーデ「どうして勇者を辞めなきゃいけない?」
ロムルス「どうして?」
ロムルス「では聞くが、君は『どうして魔王討伐の旅をしたい』?」
ルーデ「……啓示を受けたから」
ロムルス「しかし危険な旅に命を懸けるなんて事を、『啓示を受けた』というだけで全うするのは愚かな事だ」
ルーデ「結局、啓示を受けた力のある者にしか魔王は倒せない」
ロムルス「では、啓示を受けた者は何人いる?僕、オルティガ様、君……これだけ狭い中で三人もいるんだ、もっと数がある筈だ。それは今僕が調査中だけどね」
ロムルス「つまり、君がやらなくともやる人はいる」
ルーデ「……『《《神》》』《《による至上命令だから》》」
ロムルス「はぁ…やれやれ……これだから自然派のルヴィス信者は困るんだ。自分を考える意志の無い動物の一部だと思っている」
ルーデ「…………」
ロムルス「端的に言うと、君達の様に宛も無く旅をしていたのでは確実に死ぬ。あのオルティガ様が死んだのだから」
ロムルス「僕らは魔王の居場所も、正体も分かっていない。敵の戦力も、そもそも我々人間の戦力もね」
ロムルス「だからまずは力と情報を集めなくちゃいけない。僕はこの鷹の様に遠隔で情報収集できるし、力を効率的に溜める事ができる」
ルーデ「力を…?」
ロムルス「そう。秘匿事項だが……僕には機械人形の兵隊がいる」
……
機械人形「ピーガガ」
ドオオオオン!!!
ビギタ「ギャアアアアア!!!なんか爆弾撃ってきたアアアア!!!」ダダダダ
機械人形「ガガガ」ドガァッ!!
ビギタ「いやああああ!!!ただのパンチで壁が抉れたアアアア!!!」
機械ボス「ピッ…盗賊ビギタ、オリハルコン所有。武器にナイフ、煙幕、痺れ毒…」
ビギタ「アアアア!!!一発で色々見破られてるうううう!!!」
機械ボス「オリハルコンを渡しなさい。さもなければ容赦はデキナイ」
……
ロムルス「伝説の武器が無ければ魔王は倒せないと聞く。なら失くさない為にも隠しておく必要があるし、本当に魔王を討てる者が持つ必要がある」
ルーデ「貴方なら魔王を倒せるって言うの?」
ロムルス「その通りだ」
ルーデ「…………」
ロムルス「僕の最終計画を言おうか?魔王の居場所を突き止め……しかし僕はそこへ赴かない」
ルーデ「?」
ロムルス「僕はミサイルを創り、魔王へ向けて爆撃する!伝説の武器の構造も解析して、ミサイルにその効果を組み込む!」
ロムルス「魔王は何も知らずに……僕はここから一歩も動かずに!魔王討伐を果たすのさ……!!」ニヤリ…
ルーデ「…………へぇー」
ルーデ「じゃあ断ったら?勇者は名乗るし、旅も続けるし、伝説の武器はあげない」
ロムルス「僕を信じないのか?」
ルーデ「まだ……信じるには足りないかな」
ロムルス「ならば力量比べさ。ちなみにこう話してる間も僕の機械人形が盗賊のオリハルコンを追っている」
ロムルス「ミサイルなんかはまだ未完成だが……この機械人形は現状僕の最高兵力だ。君では足元にも及ばない。詳細を教えてやろうか?」
ルーデ「へぇ?」
ロムルス「では、『同期を開始する』」ピッ
ルーデ「!?」
ルーデのロムルスが向かい合う空中に、突如モニターが現れる。そこには機械人形から見た景色……盗賊を追う様子が描かれていた。
……
盗賊「いやああああ!!!何かもっと増えてきたあああ!!!」ダダダダ
機械人形~Z「捕獲、捕獲、捕獲…」ガシャガシャ
機械人形~ε「包囲、包囲」ガシャガシャ
……
ロムルス「まず数としてはすでに1000体はいる。収容する場所が無いので今はこれだけだが、俺の力が続く限り無限に増やせる」
ルーデ「虫がウジャウジャ沸いてるみたいで気持ち悪いね」
ビギタ『オラァッ!!投げナイフ!!』ヒュッ
機械人形『効カヌ』カキーン
ロムルス「しかも各々が全身鎧の如く防御力、そして鉄の重りの攻撃力を持つ!」
ルーデ「運搬が大変なのでは?」
ビギタ『スーパー逃走走法!!』ダダダダ
機械人形『ムダダ』ギューーーン
ロムルス「ジェットエンジン搭載で機動力も完璧だ!!長時間自由自在に動き回れる!!」
ルーデ「音がうるせぇや」
ビギタ『秘技!シャドウ隠れ蓑!!』バサッ
機械人形『ピッ…前方、建物の影に発見』
ロムルス「狩りの動物の様な認識能力を持つ!夜や洞窟の中でも止められまい」
ルーデ「興味無いね」
機械人形『レーザーボンバー!』ピューー…ン
ドガーーーーーンッ!!!!!
ビギタ『が………はっ』ドシャッ
イヤァァ ナンダナンダ マタアノマモノダ
ルーデ「明らかに民間に被害が出てるけどいいの?」
ロムルス「構わん。魔物だった事にして後で俺が出て追い払うのだ。名声も得られて一石二鳥だ」
ルーデ「クズが…」
ロムルス「クズ?ならこの愚民共に言ってほしいね!この馬鹿共は魔王に侵略されるばかりで、俺が現れるまで負け続けてきたんだからな!!」
ルーデ「ふん……なら貴方は魔王を倒した後、どうするつもり?」
ロムルス「後?決まっている。この有り余る兵力で他国を蹂躙し、俺が世界を統一する。俺が諸王の王となるのだ!」
ロムルス「それが神に選ばれた者の定めだ。俺の名は永遠に残り、永遠に世界の王として君臨し続ける。全ての人間が俺を崇め、奉るのだ!!!」ハーッハッハッ
ルーデ「じゃああんたは勇者じゃなくて魔王だったんだね。魔王の名も永遠に残り続けるからね」
ロムルス「勝者の元には、お前の様な奴も全て戯れ言に帰す」
ルーデ「はぁ……どうしてホッパーはこんなのを選んでしまったのか?ほんと、分かり易くて下らない人間」テクテク
ロムルス「どこへ?」
ルーデ「オリハルコンは私が回収する。早い者勝ちだっ!」バッ!!
ロムルス「ククク…もう機械人形の手に渡っている。時すでに遅しだ」
機械人形『目標達成、オリハルコンゲット』
ビギタ『か、返し……』ガクッ
……
アーリヤハン・都市
ギャーギャー イヤァァ ニゲロー
ルーデ「うん……騒ぎになってるからこの辺かな」タッタッ
「はぁーっ!渾身斬り!!!」
ザンッ!!!
機械人形「プギー!」グシャッ!!!
ルーデ「!、あれは……」
アルスル「妙な魔物だ…攻撃する意志がさ程感じられない」
ルーデ「アルスル!来てたの?」
アルスル「ああ、町で魔物の襲撃がきたって言うから、勇者としてな!」
「ゆ、勇者様…!?」「ロムルス様は一体どこに!」「他の勇者…?オルティガ様とロムルス様以外にも!?」
アルスル「その通り!我こそはデデルファ村より来る勇者なり。この剣でかの邪智暴虐の魔王を倒さんと欲する」
ルーデ「かいつまんで説明すると、この機械人形は魔物じゃなくてロムルスの手先で、盗賊ビギタのオリハルコンを狙ってる。私達に伝説の武器を渡さないためにね」
アルスル「へぇーまじ?まじよく分かんねぇな」
ルーデ「どいつかが、オリハルコンを持ってるはず!」
アルスル「どいつかって……この中で?」
機械人形~Z~「ピーガガ」ワラワラ ウジャウジャ
ルーデ「うーん……感知魔法!」カッ
ルーデ(…………駄目だ。機械人形自体にロムルスの力が入ってて、それに紛れてしまう……)
「その……赤いヤツっす!」
アルスル「ん?君は!」
ビギタ「はぁ……はぁ……取られた時、咄嗟にマークを付けといたっす……頭に赤い染料が」
ルーデ「機転が利くね。ありがとう」
アルスル「おお!ビギタ!協力してくれるのか!?やっぱり俺達の仲間になってくれるんだな!!」
ビギタ「そうそう!一緒に魔物から取り返しましょう!」
ルーデ「ならないから。こいつはただのコソ泥。勇者の旅に相応しくない……」
ビギタ「…………」
アルスル「そう言うなよ!ほら…あるんだって、何かこう、裏のルートを確保してくれたりする裏のヤツがさ」
ルーデ「……見つけた。左奥の方、赤い頭」
アルスル「はああーーっ!!!行くぞ!!!」
ルーデがアルスルに強化魔法を掛け、アルスルは一直線に飛び出していった。
アルスル「シャイニングディヴァインソーーーード!!!!!」ドガァァァァ
機械人形「ギエーッ!!!」ドカァァァン
機械人形はオリハルコンを落とした!
アルスル「あったぞ!!オリハルコーーーン!!」
「ああっ、ロムルス様!!」
アルスル「ん…?」
ルーデ「!」
ザッ ザッ
ロムルス「皆の者!俺が来たからにはもう大丈夫だ」
将軍「…………」
ロムルス「退けい!!魔物共!!ここは民の住まう安住の地!!お前たち邪悪共の侵す場所では無い!!!」
機械人形「ピーガガ……命令遂行……」ガシャッ
機械人形達が去っていく……
「おお!流石ロムルス様だ!!」「本物の勇者だ!」「見ろあの自称勇者を!1、2体しか倒してないぞ」
ルーデ「勇者辞めて役者になれば?」
アルスル「す、すげぇ……声だけであれら魔物を全て退散させるとは……」
ルーデ「あんたにはもう説明したでしょ!!全部ロムルスの操り人形なんだって!!」
ロムルス「さて……オリハルコンは見事君達の手に渡ってしまったが」
ロムルス「僕の兵器は機械人形だけじゃない……言いたい事は分かるね?」
アルスル「ああそうだな……ところで、ホッパー神の本を読んでもこのオリハルコンをどうすれば武器にできるかが書いてなかったんだが…」
ロムルス「話聞いてる?」
ビギタ「売りましょう!そいつぁ高く買ってくれる人がいるんですって!」
ルーデ「チッ……ならいい。本格的な力比べをしよう。私達は負けないから」
ロムルス「へぇ……?良いのかい?君達を勇者を自称する賊として扱って、容赦しないけど」
ルーデ「お前みたいなクズが支配する国に居場所なんて要らない」
ビギタ「あっ……?あれ??そ、そこの人っす!!オリハルコンを高く買ってくれるって人!」
将軍「…………」スッ
アルスル「え?将軍が?」
ビギタ「そうっす。廃墟神殿の事を教えてくれて……そこにお宝があるって」
ロムルス「……?待て、何の話をしている?廃墟神殿にオリハルコンがあることは誰も知らなかったはずだ」
ロムルス「…………将軍?」
将軍「…………フ」ニヤリ
突如、将軍の目が妖しく光る────魔の気配が辺りに満たされ、人間の正気を侵していく。
ロムルス「うっ……!?こ、これは…」
兵士達「ひぃっ!?!何だ!?」
ルーデ「……!?」
アルスル「え?」
その隙を捉え、将軍は獣の如く駿足を見せ、アルスルの持つオリハルコンを奪っていった。
アルスル「あっ、ちょっとー!?」
ルーデ「……お前は、一体?」
将軍?「ククク…これが伝説の武器を造り出す石。魔王様の喉元に届き得る剣」
ビギタ「魔王、様…!?」
将軍の姿が闇に包まれ、真の正体を表した────
デュラハン「我はデュラハン!このアーリヤハンの地を滅亡すべく来た、魔王様の配下よ!!!」
アルスル「く、首から上が無いぞ……」
ルーデ「……ゾンビ系の魔物か」
ロムルス「馬鹿な!将軍はこの地で生まれ育った生粋のアーリヤハン人だ!魔物の筈が無い!!」
デュラハン「クク……愚かな凡人よ。これがお前らには理解出来ぬ真なる力の所業」
デュラハン「我は確かに人間だった……しかし!魔王様の手により、この不死なる姿を得たのだ!!!」
アルスル「オルティガ様がどうとか言ってたじゃないか!」
デュラハン「フ……ホッパーだの、ルヴィスだの、どちらでもよい!双方、魔王様の足元にも及ばぬ雑魚!神の名を騙る痴れ者よ!!」
ロムルス「……分かった。ならば手加減はしない。撃て!!!!!」
ロムルスの号令と共に、都市の外壁に隠された大砲が一斉に姿を現す!そして、デュラハンに向けて集中砲火を浴びせた!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド
アルスル「やったか!?」
ルーデ「いや、無理だね」
ゴォオォォォ……
デュラハン「クク……言っただろう!我は不死なる存在、決して殺す事は出来ぬ!!」
土埃と火炎の煙の中、デュラハンは無傷で立っていた……
ロムルス「馬鹿な!そんな筈が無い!!そんなモンスターがいるか!不死なんてものがいてたまるか!!!」
アルスル「いや……でも死んでないじゃん」
ロムルス「撃てェーーッ!!!」ドオンドオン
ロムルスは大砲を撃ち続けた。全ての弾が切れるまで……
ルーデ(……これを私達が喰らってたら普通に死んでたな)
デュラハンは依然、無傷だった。
ロムルス「あ、あり得ない……この国全てが塵に化す程の火力を…………」
デュラハン「……傲慢な凡人よ。その様な浅知恵で魔王様に勝てると思い込んだ、僭越な奴隷よ!」
デュラハン「奴隷らしく、地に伏せるがいい!!!」ヒュッ!!!
デュラハンが駿足で駆け、ロムルスを剣で斬りつけた。しかし……
ガキンッ!!!
アルスル「はあっ!!」ザッ!!
デュラハン「ほう……?やるな、アルスル君よ」
ロムルス「あ、ああ…………今、僕は……死んでいた……のか……?」
アルスル「どいてろ!僭越な奴隷!」ドカッ
ロムルス「うぐふぅ」ドシャァ
デュラハン「さて……ロムルスは退屈な勇者だった。アルスル、君はどうやって不死の私を倒す気かね?」
アルスル「ふ……知れた事!」
アルスル「俺の内に秘める勇者パワーが、お前を倒す策を導いてくれる!!!!!」
デュラハン「…何も思いついて無いんじゃないか!」
ルーデ(……まずいな、不死を解除する魔法なんて知らない……一体、どうすれば……)
続く