第7話 大国アーリヤハン
薔薇「詰めが甘いんだよォーッ!!!」
アン「なに?」
──オレンポス山・冬景色
アン「しんしんと降る雪が私の頬を白く染める。同じ様に、周りの大地も塗り替えられ……」
アン「どうも、運命神アンドレギュヌスです」
薔薇「嘘付け、この後付け野郎が!」
アン「ちげーし!ほら、最初からアンって名前だし!」
薔薇「まあ確かに、我々の存在が上手い事世界観にはめられつつはある」
薔薇「でもよぉ~~やっぱり多少強引というか…大味というか…」
薔薇「幼馴染みの魔法が適当過ぎるだろ!何でもアリになってるから!!」
アン「分かった!!うるさい!!分かってるよ!その辺のユルさに甘えてるってのは!!」
アン「でもほら…ガチガチにするとそれはそれで自由さが失われ、見る側もそれこそ逸脱が許されない恥の様な窮屈さが」
薔薇「何でもアリってのは違うから!!!」
アン「うるせぇ!!!でもしかし、それをやり出すと私の頭はパンクし、一生そういう設定を管理するパラメーターに目を通し続ける羽目になるだろう」
薔薇「要するに創る能力が無いんじゃん」
アン「……うるせぇ!!!できらぁ!!!アルスルとルーデとか、もっと創り込んで針の穴通す様な合理性のやつができらぁ!!!」
薔薇「あとシリアスもまだなりきってないから!!!強引だから!!!」
アン「うるせぇ!!!過去回想シーンとか入れりゃあ、より没入できる感じになるんだけどそれもタイミングというか展開の繋がり様なんだよ!!!つまり同じ事で針の穴通しなんだよ!!!」
薔薇「別に、もっと雑に入れても良いだろう。ストーリーあるあるなんだから」
アン「いや!!!!!展開に納得性が無い事には私のプライドが許さない!!!!絶対にできらぁ!!!!!」
薔薇「恥に雁字搦めで見失っちゃってるじゃん」
アン「ハァハァ……ああ、そうだな……キャラももっと、何と言うかより一般的な感じに…」
薔薇「あいつらも変に思考が見通す感じだし、変な言い回しするしで分かりづらいんだよな」
アン「ちなみに分かり易さとは単なる前提に過ぎない。《《分かる事》》には喜びがあるが、《《分かり易い事自体》》には特に感情を覚えない。何なら、分かる喜びを損ねる事にもなり得る」
薔薇「じゃあ前提から出来てないじゃん」
アン「…うるせぇ!!!こういう言い回しで全部言ってくれるやつがいないと物足りねぇんだよ!!!!!!!!」
ルヴィス「落ち着いて下さいよ。我々はまだ生まれたばかりですから、まだまだ幾らでも直しが利きますよ」
ホッパー「俺達の話もまだ出たばかり、俺達自身もまだ名前があるばかりさ」
トト神は、頷いて同意した。
アン「地上の奴からも何かバッドp送られてくるしさぁ……好き勝手言い過ぎだろ!!!こっちは一人でやってんだよ!?!?」
薔薇「さぁ…見せてもらおうか。新しく創られる物語世界とやらを」
────
新規データ:
シリアスの主観的な展開の妙技は、主観の方向性による。つまりその人の性格、傾向性である。性格が上手い具合にマッチする展開を描く。
・アルスル
デデルファ村出身の少年。これまで数多の神話、伝承を読み込み、そのおかげで自分を物語の主人公だと思い込んでいる。村での騒動後、大地神ルヴィスの啓示を受けたと勘違いし、魔王討伐の旅に出る。
・ルーデ
大地神ルヴィスの啓示を受けた者。《《啓示を受けた者は神託により超常の力を得られる》》。身体能力や魔力等の基礎脳もUPする。デデルファ村での騒動の時、アルスルの「勇者になりたい」という夢を叶えてあげるため、アルスルに強化魔法を掛けて魔物を倒させる。幼少の頃から選ばれた者のため、周囲の人々と共感を得る事が出来ない(知能もUPしている)が、唯一アルスルだけは心を開いている。現状でも魔王討伐の使命を実際に負う(アルスルと違って)が、内心はどうでもいいと思っている。
・(盗賊)ビギタ
幼少の頃より親に捨てられ、盗賊として生きる。表社会では神の使者である「勇者」が世を守り、人々の平和と信仰を導く中、何の庇護も信心も無い、掃き捨てられたごみ溜めの中で暮らしてきた。「勇者」や世界の命運、人々の平和を毛嫌いしており、なので伝説武器の素材であるオリハルコンを手にしても売って金にする事しか考えていない。
~前回のあらすじ~
アルスルとルーデは、占い師マリアンから鍛冶神ホッパー伝説の武器の手掛かりを得て、廃墟の神殿へ向かうも、その守護者であった神獣との戦いになった。窮地に陥ったものの、盗賊との協力やマリアンの占いを逆手にとる事で、何とか難を逃れた。しかし肝心のオリハルコンを盗賊ビギタが盗っていってしまった……
…………
────隣国への道中
アルスル「さあ、神殿を乗り越えた事だし、ついに俺達の手に伝説の武器がやって来る時が来たぞ!!!」ドン
ルーデ「だからビギタに盗られたんだってば」ポリポリ
アルスル「いやいや、よく考えてごらん。あのマリアンが俺を占って『アルスルは伝説の武器を手に入れる』と言ったんだ。ならオリハルコン盗られても適当にぶらぶらしてりゃ返ってくる筈だ!」
ルーデ「(そこまで言ったっけ?)でもアイツの占いも外れてたじゃん」ポリポリ
アルスル「そうか?でもなんか俺に都合が良い感じになってたから全部俺の思う通りになる筈だ!」
ルーデ「ほんと?じゃあビギタ追いかけ無くてもよくて楽だね」ポリポリ
アルスル「うん?その通りだ。しかし何故だろう、楽でいいねと言われると叱咤された様な気分になるのは……やはりビギタを追いかけよう」
ルーデ「それで良いんだよ」ポリポリ
アルスル「ところでさっきから何を食ってるの?」
ルーデ「MP回復用に、魔豆」ポリポリ
アルスル「ママメか…」
……
まだ道中
アルスル「歩きながら前回の反省会をするとだね」テクテク
ルーデ「うん?」
アルスル「やはり、間一髪で助かったけれどルーデはすんでの所で神獣に殺されていたし…俺も占いどうこうがなけりゃ神殿が崩れるとかして死んでいただろう」
ルーデ「……」
アルスル「つまり、俺たち……準備が足らな過ぎるよ!!隣国に行ったら装備を整えるとか情報をよくよく集めるとかしようぜ」
ルーデ「うん。かなり大きい国と聞く」
アルスル「そうそう、前のチカーバの町ではなんか馬鹿にされてしまったけど今度こそ仲間とかも集めてみようぜ」
ルーデ「仲間か……」
ルーデ(…正直、二人旅が最も良いのだけれど)
ルーデ(…二人だけでの危うさは勿論あるし、アルスルがそうしたいって言うのなら……仕方がないかな……)シュン
ルーデ「あ、でも」ピタッ
アルスル「ん?」
ルーデ「…私達、一応ルヴィス様に選ばれた使者だから」
ルーデ「……国に入った時点で、相応の扱いをされるんじゃないかな」
アルスル「え?もう名が知れ渡ってるってわけ?」
ルーデ「いや、それは無いけど……」
ルーデ「マリアンと会った時、『使者』だと分かる様な気配を感じた。だったら、私を見ても同じ事が言えると思う」
アルスル「……それはつまり?」
ルーデ「国に『使者』がいる場合…私達が選ばれし者だって事はすぐに分かる。なら放ってはおかないと思う」
アルスル「ていうかマリアンって使者だったんだ」
ルーデ「うん……運命神、アン……何とかっていう聞いた事の無い神だったけど」
アルスル「あれ?俺は何も感じ無かったけどな」
ルーデ「!」ドキッ
アルスル「…そういえば、俺のギガティックアルテマソードも俺が消耗したって感じが無くてだな……」
ルーデ「!!!」ドキドキ
アルスル「…そうか!ルーデと二人で啓示を受けたから二身一体って感じなんだ!成る程なぁ~」
ルーデ「そ、そうだね。成る程なぁ~」
……
────
隣国・アーリヤハン
ワイワイ ガヤガヤ
アルスル「おお!何て巨大な都市!建物!奥には城が見える!山かと見紛う威圧感に空が覆われている!もはや距離感も掴めぬ。俺は今、人間というアリの巣の中へ来た一匹のアリだ!!!!!」
ルーデ「どういう表現?」
門番「怪しいお二方、どちらから来たかね?」
ルーデ「デデルファ村です」
アルスル「怪しい!?どこがだ!」
門番「そりゃ入るなり空に向かって叫んでたら怪しいでしょ」
アルスル「一理ある。しかし怪しく無いので通してもらおう」スタスタ
門番「ちょーっと待った!」ガッ
アルスル「何だよ!」
門番「…デデルファという村は聞いた事が無い。やはり怪しいぞお前ら」
アルスル「え?」
ルーデ「それは嘘。チカーバの町の方向にすぐあるから」
門番「そんな所は森しか無い」
ルーデ「……?」
アルスル「いや…でもほんと、壮絶な戦いを経たばかりなんでヘトヘトなんです。勘弁して下さい…お願いします…」ゼェハァ
門番「いや駄目だ。お前らこっちで話を……」
「待て、門番」
アルスル「ん…?」
ルーデ「誰?」
門番「…!?ロムルス様!?!?」
ガチャッ ガチャッ
その男は、兵を率いながらこちらへやって来た。町の人々は道を開け、男から目を離せない。それは、その男が立派な身体に美しい鎧と剣と装飾を着けて、精悍な顔立ちをして威風堂々とした貫禄ある立ち居振る舞いをしていたからでは無い。
ロムルス「俺は二人に用がある。だからすまないが門番…一旦見逃してくれるかな?」
門番「へ?は、はい!!」ビシッ
アルスル「この偉そうな男は誰なんだ」
門番「大馬鹿者!!このお方は……かの鍛冶神、ホッパーに選ばれしアーリヤハンの『勇者』だ!!!」
そう、人々が彼を敬うのは、彼が「勇者」であるからだ。
アルスル「勇者ぁ!?!俺以外の!?」
ルーデ「……確かに、そうらしい」
ルーデは既にロムルスの神の気配を感じ取っていた。ロムルスも、同様にである。しかし、口には出さない。
ロムルス「君達、名前はなんていうのかな?」
アルスル「アルスルだ」
ルーデ「ルーデ」
門番(ちょっとは恭しくしろよ!!)
ロムルス「ではルーデ君、君はこの門番と俺、どちらと話をしたいのかな?」
門番「へっ?あ、えっ?」ビクッ
ルーデ「…どっちも嫌だと言ったら?」
ロムルス「俺が門番を強制に伏せさせ、君を強制に連れていく」
ルーデ「…逃げられそうもない。行こう、アルスル」
アルスル「いやいや、その~他勇者さんは何の用なんだよ」
門番(他勇者さん!?!?)
ロムルス「勿論、君たちが特別な人である事……それと」
ロムルス「……廃墟神殿での事だよ」
アルスル「え?…」
ルーデ(……バレてる?伝説の武器の話が…)
(町人達)「ロムルス様!本物だ!」「何の御用でここに!?」「お出かけですか!?」「話をしてるのは誰なんだ!」
ロムルス「こんな人聞きの多い所じゃ良くないだろ?さぁ行こう」サッ
アルスル「どこに?」
ロムルス「城だよ。あぁそれと、例の盗賊はこちらも独自で追ってるので」
ロムルス「気にしなくていい……君達はお城で王が何でも願いを聞き届けてくれるからね」ニコッ
ルーデ(こいつ……伝説の武器を狙って、私達の手に渡らせないために…)
アルスル「お城!?!?入っていいの!?キタコレ!!王様イベントなんだけど!いやぁそうだよな~王様の頼みを聞いて国の英雄になったり綺麗な姫様と何かあっちゃったりして」
ロムルス「アルスル君は置いてってもいいよ」
ルーデ「そういうわけにはいかない」
二人は、ロムルスに連れられ城へ向かった。
続く