第5話 神殿廃墟
アン「ところで『シリアス』の良さとはこうした主観的な物思いに耽られる事にあると思われる」
薔薇「どうした急に」
アン「前回のラスト、シリアスについて語ったがそこでシリアスとは主観的な苦しみや喜びであるとした」
アン「つまりシリアスの印象で単純に殺し合いとか死とかを描いてもしょうがない。只の絶望でしか無いし主観的にお笑い的な空気を出してればそれもギャグになり得る」
薔薇「確かに対戦ゲームで死んだからといってシリアスな空気にはならない」
アン「そして『恥』についての話での通り、人は成長につれ客観的感性を強めていく……そうして、主観的になり難くなる」
アン「そこでよ!シリアスな空気を出して主観的に思い詰めれば、それだけでもうカタルシスがドバドバなわけよ!苦しみでも悲しみでも客観的にせず、主観的にすれば!」
薔薇「ではなぜ今までそうしてこなかったのですか」
アン「うるさい!!こっちだって神じゃねぇんだ。段階を踏んで徐々にやってんだよ!」
薔薇「じゃあ長々と語ったけどこれが上手くいくとはまた限らないわけだ」
アン「なに?それで私が失敗して恥かけば満足なわけ?」
薔薇「もちろん成功を祈ってますよ……つまらないものを見せられるのは苦痛ですからね」
アン「手折るぞ」
…………
────
アルスルとルーデは占い師マリアンの導きに従い、伝説の武器の手掛かりがあるという廃墟に来ていた。
廃墟・大神殿
ゴォォォォォ…
アルスル「ここがその廃墟かぁー。でかくね?」
ルーデ「これは……どうやら何かの神殿だったようだね。それも巨大な……何で廃墟に?」
アルスル「そりゃあ、魔物の侵攻だろう」
ルーデ「いや、こんな大神殿なら流石に国を上げて守るとか……」
アルスル「とりあえず入ろうぞ!」ザッザッ
ルーデ(……単純に考えるなら、魔物よりも厄介な何かがあるって事だけど……)
……
神殿内部
アルスル「おじゃましまうすー」ギィィィィ
ルーデ「埃が舞うのでマスク魔法をつけとこう」ポワワ
アルスル「うん、よければ完全防備魔法とかある?」
ルーデ「……無い」
アルスル「…今のは『あるけど消費が激しいから使いたくないので無いって言っておこう』の間だな」
ルーデ「地図魔法!」カッ
アルスル「おい!それは一番面白くないやつだろ!!未知のダンジョンを探検するから良いんだ!」
ルーデ「最近はダンジョンも地図付きなんだよ」
アルスル「そりゃ子供向けの話だろう!」
ルーデ「えー…広間の右の扉を抜け……隠し階段で地下に降り……」
アルスル「隠し階段見つかっちゃってるやん」
……
ガサガサ
アルスル「埃が舞うわ、クモの巣が張るわ、物が散らばってるわで大変だ」
ルーデ「先頭は任せた」
アルスル「はいはい……こんな掃除屋みたいな……何だか地味な作業を……」ガサガサ
アルスル「…そうだルーデよ、知っているか?こういう神殿には守りの加護があるんだと」
ルーデ「?」
アルスル「昔から、神殿を守る為にその祀られてる神様が加護を授けて下さるんだ。魔物を退けたり災厄から逃れたりな」
ルーデ「へえ」
アルスル「しかし、時には人間がその加護を悪用する事がある。すると神は罰として加護を《《反転》》させるんだ」
ルーデ「反転?」
アルスル「そう……例えば人間を守る神獣を置いたなら、その神獣が人を襲うようになるとか……」
ルーデ「……つまり、フラグを立てたいって事?」
アルスル「何を言う!ただぁ~~このまま進むのもドラマが無いというかぁ~~」
アルスル「というか、こんな大神殿がこうも廃墟になるにはそれくらいの事態しかないだろう」
ルーデ「成る程……“索敵魔法”!」カッ
アルスル「ルーデさんの便利魔法が続々と出てきますね」
ルーデ「……いるね、一体。近くに」
アルスル「なんと……ビンゴか。ここからはスニーキングで行こうぜ」
ルーデ「でも……」
アルスル「ん?」
ルーデ「…………真上に、いるね」
アルスル「…………」ピチャッ
真上から、アルスルの肩に落ちた雫は、暗くてよく見えないが明らかに異様なオーラを纏っていた。
神獣「…………」ドロドロ
その神獣は、巨大な狼の様な姿をしていたが、身体がドロドロに崩れかけていた。三つの瞳がアルスルとルーデを捉えていた。
アルスル「…………えー…」
ルーデ「…………」
神獣「……」ジロリ
アルスル(いや!まだ何もしてきてない!許されてる!ほら、腐っても神獣だから!)
ルーデ(そ、そうだね)
アルスル(彼の善性に訴えかけよう……俺達は勇者、ルヴィスの啓示を受けた者だ!決して彼が排除すべき悪人ではない)
アルスル「おっ、地下への階段発見」ガタガタ
アルスル「さぁーて!ここに伝説の武器の手掛かりがあるってわけだ!」
神獣「………グ」ギロッ
アルスル「いやいや!盗賊とかじゃ無いですから!ただ、魔王を倒す為にそれが欲しいなあと…………」
ルーデ「…………」
神獣「…………」ジロジロ
ルーデ「……アルスル、もう一匹…」
アルスル「ん?」
ルーデ「敵が、近づいてきてる」
「おおっ!光だ!光がある!」ドタドタ
地下の階段から駆け上がってきたそれは、普通の人間に見えた。しかしその風貌は明らかに一般人ではなく、盗賊である。
盗賊「おお!!恩に着ます!!あっしは盗賊!この神殿に隠された財宝を盗みに来たところ、変な獣に襲われて命の危機だったんス!!!」ガシッ
アルスル「お、おお」
ルーデ「そいつを早く焼き殺した方が良い」
アルスル「は?な、何言ってんの??」
盗賊「お二方!!一緒に出ましょう!ここは危険です!!」
アルスル「いや、今それ所じゃなくてな、真上にその………」
盗賊「え?」チラッ
神獣「……ギギギギ」
神獣は盗賊を見て、明らかに今にも襲い掛かる準備をしていた。
盗賊「…………おい獣!こいつらはあっしの仲間だ!!!あっしらはここの財宝を盗みに来た大悪党でなぁ!!早く焼き殺した方が良いぞ!!!」
神獣「ガァァッ!!!!!」ヒュッ!!!
ドガァァァァン!!!!
アルスル「おぉぉぉぉい!!!!何て事してくれるあいつ!!!」
盗賊「…」ダダダダ
アルスル「あっ!!地下行きやがった!!!俺達を囮にして武器の情報盗っちまうぞ!!!」
ルーデ「えー、神獣の戦闘力は150かな」ピコピコ
アルスル「何その概念…初耳なんだけど。俺達はいくつよ?」
ルーデ「アルスルが30とかで、私は80くらいかな」
アルスル「なるほど、勝てないって事ね」
神獣「ガァァ!!!」ドォン!!!
ルーデ「防壁魔法!!!ただし、後数回殴れば壊れる」カッ
ルーデ「どうする?武器は諦めるか」
アルスル「いや!駄目だ!ここで諦めたら俺は勇者に(ry」
ルーデ「じゃあ行こっか」タッタッ
アルスル「あぁーー!待ってぇぇー!!」タッタッ
そして、神獣に追われつつダンジョンを攻略するというハードなミッションが始まった。
神獣「ガァッ!!!」ボオッ
ゴォォオオオオオオ!!!!!
アルスル「うげっ、ひ、火の息吐いてきやがった!!」
ルーデ「この柱の陰で逃れて!!」サッ
アルスル「くっ……ここは俺の必殺、ウルトラシャイニングバフ盛り盛りソードでやるしか」
ルーデ「一発で倒せるかな……」
アルスル「え?効果は『相手は死ぬ』って感じだけど」
ルーデ「そんなわけ無いでしょう」
神獣「ガァ!!!」ドガッ!!
アルスル「柱壊されたぁ!!」ダダダ
ルーデ「……幸い、迷路の様になってるから追い込まれる事はないけど……」ダダダ
アルスル「め、迷路?それって…」
ガタン!!
\うわっ!落とし穴だっ!/
アルスル「こういうのがあるよねぇぇーー!!!」ヒューーーー
ルーデ「アルスル!!!」
ルーデ「くっ……“位置入れ替え魔法”!!」カッ
アルスル「え?床に立ってる」パッ
ルーデ「…………」パッ ヒューーーー
アルスル「え?おい!?ルーデ!?!」
『大丈夫、トランポリン魔法で衝撃を無くして飛翔魔法で上に戻るから。あ、これはテレパシー魔法ね』
アルスル「お前チートが極まってないか?」
『アルスルは神獣に気を付けて!!』
アルスル「え?あ」
神獣「ガァ!!!」ダッ!
アルスル「うぐぅ!!!」ガキンッ
アルスルは吹っ飛ばされ、壁に打ち付けられた。
ドガッ! ガラガラ…
アルスル「うっ、ごほっ…まともにくらったら死ぬぞ……」ガクッ
神獣「ガァァ!!!」ダダッ
アルスル「…やばい、神獣がこっちに……」
『……判断を誤ったか…アルスル!!何とか耐えて』
神獣「…………」ピタッ
アルスル「…………来ない?」
『……?』
「おやおや、お忘れですか?アルスルさん。貴方の運命は占いによって規定されたのです」
マリアン「…こんな所で死ぬ筈が無いでしょう?ほら」スゥ
神獣「……」
マリアン「神獣も貴方を前にして止まっている。運命に支配されているのです」
アルスル「……は?何を意味の分からない事を……アンタ、何でここに」
マリアン「そりゃ伝説の武器の情報を私も入手したんだから来るでしょう」
アルスル「……」
アルスル「そうだ!ルーデが落とし穴に…」スッ
神獣「ガァ!!」クワッ
アルスル「うわぁ!?」ドテッ
マリアン「駄目ですよ。早く進んで下さい。貴方は武器の情報を手に入れるんですから。ちなみに一歩でも戻るとか振り向くとかしたら神獣が動き出して殺されます」
アルスル「はぁ!?じゃあルーデはどうなるんだ」
マリアン「ん?あの方ですか?私は占って無いので、知る由も無いですね」
アルスル「…………」
『アルスル?そちらを何も感じ取れないのだけどブツッ』ツーツー
マリアン「まあ、魔法に長けている様なので死にはしないんじゃないですか?あ、邪魔なので通話切らせて頂きました」
アルスル「……おい、マリアンさんあんた、何か凄い力を持ってるそうだから……ルーデを守ってやってくれよ」
マリアン「それは占って欲しいという事で?私は別に凄くありませんよ。《《結果がどう規定されるかは》》………運命のみぞ知る、というもので」
アルスル「……じゃあ占ってくれよ」
マリアン「私は良いですが、本人が否定するのではね」
アルスル「……チッ!!分かった。俺は行く。振り返らないし戻らない」タッ
マリアン「それでよろしい」
アルスル「……あと、アンタ…………全然良いヤツじゃないね」
マリアン「…………」ニコッ
タッタッタ……
……
続く