第3話 山場の戦闘シーン
チカーバの町・深夜
アン「さて、我々はついに現場に降り立つに相成ったわけだが」
薔薇「はい」
アン「ちなみに前回、恥を許されるのが快の肯定であるとした。これはつまりだが…」
アン「全ての『恥』が許される人間を、人は『天才』と呼んだり認識したりするものだ。特別な人間としてな」
薔薇「はあ?」
アン「物凄い役に立つ発明とかをできる天才的な人が道の真ん中で全裸になってても何だか許せる気がするだろ?『まぁ、あの人ならいいか…』と(また、全ての発言を有難いものとして聞きたいと思うだろう)」
薔薇「いや、普通に許されないだろ」
アン「その後の流れじゃなくて感性の話をしてるんだよ!そして逆に、全く卑小で役に立たない人間がいたとしよう」
アン「道徳的に善くない限り、人はその人間を軽蔑し何の行為も許せず腹が立つ事になるだろう。或いは、その者自身で自らを卑下し何の行為も許さず存在を消していく傾向になる」
薔薇「はあ」
アン「誰もが許される側になりたがるが、それはごく限られた特別な人間だけだと感じる……が、この思考自体が無意識的で非理性的な理性の働きだとは前回言った通りだ」
アン「つまり!……上手いこと制御していこうって事だ!さあ行くぞ!」ザッ!
薔薇「押忍!!」
……
宿屋・室内
アルスル「さあ行こう!ルーデ!」
ルーデ「うん……?どこに?」ムニャ
アルスル「もちろん、セキゾウ様の所さ!昼間に聞いただろう?願いを叶えてもらうんだ!」
ルーデ「叶えてもらってどうするの」
アルスル「もちろん、仲間が出来るんだろ!」
ルーデ「はいはい、行きましょう」スタッ
……
怪しい司祭「へっへっへ、おそようごぜぇます。約束通り、来てくれやしたね」
(胸元に薔薇)「キャラ違ってるじゃねぇか…」
司祭アン「ところが、認識ごとねじ曲げる支配能力で特に違和感を無くせるのだ」
アルスル「セキゾウ様が願い叶えて下さいますよね!?」
ルーデ「何か昼間とキャラが違うけど」
薔薇「見破られてるけど」
司祭アン「ちょっと頭良いキャラにし過ぎたか…ま、こちらにいらっしゃい!」
セキゾウ様「……」
アルスル「夜に見るとちょっと怖いな」
ルーデ「でけぇ」
司祭アン「ククク……願いを叶えさせて頂きますよ。それは……」
司祭アン「お前らがセキゾウ様の供物になる事でなぁッ!!!」クワッ
セキゾウ「……」ゴゴゴ
アルスル「動いたぁ!?」
ルーデ「魔物だね」
セキゾウ「……フン」ドゴオッ!!!
司祭アン「ふはは!!!セキゾウ様のパンチは地面や家をも砕くぞ!!そしてどんな攻撃も通じないのだ!!!」
アン(さて薔薇様、今更気づいたんだが、勢いで敵キャラに乗り移ってしまった。このままだと私達がぶっ殺される事になる)
薔薇(何やってんの!?)
アン(しかも展開もよく分からない事になりつつある。手を違えたな。一度退散しよう)
司祭「あ……」シュウウウ(元に戻る)
アン「さて、素直にアルスルとルーデの力を見せてもらう事にしよう」スタコラサッサ
セキゾウ「フン」ドガッ!!ドガッ!!
アルスル「ひえええ!!どうすればいい!?こいつと戦ったら剣が折れるぞ!!」
ルーデ「魔法で戦えばいい」
アルスル「残念ながら、俺には使えないんだなこれが」
ルーデ「やれやれだね」
アルスル「……ルーデさん?」
ルーデ「じゃあ逃げるしかないねーアルスルでも歯が立たないならねーもう誰も勝てないねー」
アルスル「貴女、魔法使えますよね?」
ルーデ「そうだっけー?でもMP消費しちゃうしなー深夜だから疲れも残るしなぁ」
アルスル「…………」
ルーデ「……」
セキゾウ「フンフンフン」ドガドガドガ!!!
アルスル「…お願いします!!!ルーデ様!!!魔法を使って下さい!!!後生ですから!!!一生のお願い!!!」ドゲザァ
ルーデ「しゃあないな」
フワッ……
ルーデ「黄泉の川よ、異界の門よ、死出の旅よ~」ブツブツ
アルスル「おおっ、それっぽい詠唱が」
ルーデ「ライデイ・イデイラ・デイライン!!!」カッ
セキゾウ「!?」
セキゾウに向かって、ルーデの手から稲妻が迸る────
バリバリビッシャァァァ
セキゾウ「……!!」ガタガタ
アルスル「やったか!?」
司祭「おっと、言い忘れていたが……」
セキゾウ「…」ケロッ
司祭「魔法耐性も完備だ!誰にも倒す事はできん!!」
アルスル「…………え?」
ルーデ「……えー」
ルーデ「逃げましょう」
セキゾウ「グオオオオオオオ!!!!!」ドガァァァ!!!
アルスル「うわぁぁぁ!!!どうすんのこれぇぇ!!」ダダダダ
ルーデ「さ、流石にチートだから、何らかの対策がどこかに……」ダダダダ
──
アン「さて、戦闘が始まったわけだが」
薔薇「詰んでない?」
アン「戦闘なんかは、カタルシスの塊だ。ここでアクションして暴れまわって、もうむちゃくちゃにすればいい!技名なんかも叫んじゃったりして!!」
薔薇「いや、詰んでない?」
アン「……まあ、戦闘は一つの山場になり得る程のものだから、何かしらそれまでの伏線とかも回収して、より気持ちいい倒し方を提示したいわけだが……」
アン「如何せん、創り込んでないのでその方法が無い」
薔薇「おい!!」
アン「落ち着け!こういう時の為の我々という舞台装置だ。いくらでも時空をねじ曲げれ
る」
アン「時空魔法、“デウス・エクス・マキナ”!!!」カッ
薔薇「うっ!?眩しいっ」
──
ある過去
ルーデ「……ここは」
「ルーデ…貴女は私の巫女として選ばれました」
ルーデ「……ルヴィス様?」
ルヴィス「よく分かりましたね。そうです、私はルヴィス。デデルファの地にいる女神です」
ルーデ「そしてこの真っ白な何もない空間……どうやら精神と時の部屋的な何かが起こってるらしい」
ルヴィス「簡潔に言うと貴女は特別な力を持っており、魔物に狙われて気絶しています。それで精神がここに」
ルーデ「特別な力とは?」
ルヴィス「それは…より高次な者から与えられた、としか」
ルーデ「……」
ルヴィス「貴女に私の力を授けましょう。これで魔物も撃退できる筈です」フワァ…
ルーデ「タダでくれるの?」
ルヴィス「ええ、強いて言えば、力を持つ事は選択を問われる事に相成ります。運命が訪れた時、貴女がその力をどう振るうかどうか……」
ルーデ「…成る程ね」
ルヴィス「ええ、そして現世で」
ルーデ「魔王を倒す為の尖兵になれって事だ。私に」
ルヴィス「…………」
ルーデ「結局の所、自分の心情的にも周りの期待的にも、人間を裏切る事は出来ない。なら、その道筋を辿るしかない」
ルーデ「……その途中で苦痛を味わおうが、死のうが」
ルヴィス「…………」
ルーデ「…別に良いけどね。でもアルスルには力をくれないの?彼は勇者になりたがっている」
ルヴィス「あの者は只の凡人です。力を与える事は出来ません」
ルーデ「……ちょっとでも?」
ルヴィス「その者に過ぎた力は必ず過ちを招きます。彼はこの村で生涯を経て、死ぬのが相応でしょう」
ルーデ「…………」
ルーデ「…分かった、魔物倒してくるから力ちょーだい」ン
ルヴィス「はい。では……」フワァ…
──こうして、私は力を授かった。
──
バキーンッ!!!
魔物「ぐははは!!!そんなナマクラじゃ勝てるものも勝てないねぇ!!」
アルスル「くっそぉ!!こうなりゃ檜の棒で!」
ルーデ「……お」パチクリ
ルーデ(さて、力を授かったのがよく分かる。メキメキと魔力が湧いてくる。このまま力任せで魔物をぶち倒してもいいが……)
ルーデ(…………)
ルーデ「…」スゥゥ
アルスル「はっ!?何だ!?折れた剣に光の刃が!!!」ピカッ!!!
魔物「そ、そんな馬鹿なぁぁぁ!?」
アルスル「うおおおお!!!雷光一閃垂直斬り!!!!!」ズバァァァァ!!!!!
魔物「ぐぁぁぁぁぁ!!!!!」
……
「おお凄い!!アルスル、お前は勇者だ!!」
「きっとルヴィス様に選ばれたんだわ!!」
「魔王を倒してこの世界を救ってくれるに違いない!!」
アルスル「はっはっは!!!使命を授かったなら仕方がない!村を出て使命全うするしかないよなぁ!?」
ルーデ「そうだね」
アルスル「よぉしルーデ、ついてこい!俺はいずれ魔王を倒すぞ!!」
────
現在
ルーデ(さて、そういう経緯で今に至るわけだが、どうするかな)
アルスル「見ろ!ルーデ!今世紀最大の危機だ!!これを乗り越えなければ俺達は死ぬ。まさに一節に記すに相応しい章節だ!!!」ダダダダ
ルーデ「アルスル!何か手立ては?」ダダダダ
アルスル「無い!!だが、奴は重そうだから落とし穴でも掘ればいけるんじゃないか?」
ルーデ「成る程?」
アルスル「まあ、そんなものは無いし掘る時間も無いんだけどね」
セキゾウ「ウオオオオオ!!!!!!」ドガァァ!!!
アルスル「ひぃぃぃ!!!」
「何だ何だ!?」「何の騒ぎだ!?」「セキゾウ様が動いてる!!!」
ルーデ(オーディエンスは十分か。まあ雑にやってもいけるだろう)
ルーデ(魔法耐性軟化!物理耐性低下!動き封じ!)パァッ
セキゾウ「!?」ガクーン
ルーデ「そうだアルスル、ルヴィス様から授かったあの技を使おう」
アルスル「え?あの技?そうだ!」
アルスル「……天の神々よ、不死なる意志よ、数多ある生命よ~」ブツブツ
ルーデ「前回そんな事言ってないでしょ!」
アルスルの刃に光が灯る!!
アルスル「はああああ!!!!ルヴィス恩恵光彩抜刀剣!!!!!」ズバァァァァァァァァァ!!!!!
セキゾウ「……!!」グシャァァァッッッ!!!
セキゾウは真っ二つに裂けた後、爆散した!!
「うわあ!何だ!?」「セキゾウ様が町を荒らしまわってたんだが…」「ぶっ壊れたぞ!?」
アルスル「ふぅ………何とかなったな」
ルーデ「そうだね。お疲れ様」
……
町長「おお!セキゾウ様が悪の司祭の使いだったとは……何たる事!ありがとうございます」
アルスル「いえいえ」
ルーデ「お礼が無いなんてとんでもない」
酒場のマスター「凄い……本当に勇者だったんじゃ…?」
「見直したぜ…」「やるじゃねえか!あんちゃん!」「キャー!カッコイイ!」
アルスル「はっはっは、勇者は辛いぜ。歓声を絶えず浴び続けなければならないのだからな!」
ルーデ「勇者業も様になってきたかな」
町長「……しかしこの町はしばらく、セキゾウ様の恩恵でやってきたのは事実ですから」
アルスル「うんうん……うん?」
ルーデ「あ?」
町長「それを蔑ろにされるのも良くないわけですよ……分かりますね?」
アルスル「うん?」
町長「咎めるわけではありませんよ。しかし……大々的に良かった等や供物等を広められると困りますので」
町長「……全て無かった事に。分かりますね?」
アルスル「???」
ルーデ「はいはい、いいから行こーねー」ガシッ ズルズル
……
アルスル「最後のは何の話だったんだろう」
ルーデ「ま……或いは、こういう事もある」
俺達は旅を続けた。…………
──
薔薇「なに?この煮え切らない終わり方」
アン「うん…………」
薔薇「?」
アン「…………」
アン「…やり方を間違えたね」
続く