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旅立ち

私はアン。主神である一輪の薔薇様と共に、この世界に新たな物語を紡がんとする一介の物書きだ。


アン「徒然なるままに日暮…硯に向かいて心に移り行くよしなし事を…」


薔薇「何やってんですか?」


アン「やっと忍苦の冬も去り、このとおり天日も我らの身方、辺り一面、夏の気に溢れている、我らの上に低く垂れこめていた暗雲も、今は海の底深く追いやられ…」


薔薇「聞こえてますかー?」


アン「おや薔薇様!居た事に気づかず、悪いね」


薔薇「あんたは机に向かって俺は目の前に生けられてるんですけどね」


アン「そんな事はさて置き、われわれはまず上記の通りついにこの物語世界を描き出す。さあ薔薇様、何か案はあるかい?」


薔薇「えー、ではテーマ何かをお決めになさってのはどうかな?」


アン「はいブー、嫌です」


薔薇様「何でよ」


アン「この世はテーマ等という一言の概念で収められるものではなく複雑なのだ。というかそんな事はさて置き、テーマは後に置き…」


アン「薔薇様、テーマとは言うが何を主題におけばいいか分かるかね?」


薔薇「え?適当に好きなやつにすれば。流行ってるやつとか」


アン「おお、大正解!!…という話じゃないんだな!この馬鹿花が」


薔薇「馬鹿花て」


アン「いいか薔薇様、人間が何を“良い”と思うかは実のところ一般的に共通している」


薔薇様「はあ?」


アン「例えば、カレーは美味い、花は美しい……といったように、これらを否定する人は中々いない」


薔薇「そ、そうだね」


アン「なればこそ、その一般的共通感性を使わないわけにはいかない!それをテーマに置くわけだよ、薔薇様!」


薔薇「…じゃあ好きなやつとか流行ってるやつで良いって事じゃん!?」


アン「甘いわ!好きなやつが自身の偏見過ぎる、流行ってるものが“良いもの”とは限らない、だろう?ちゃんと詰めていこうぜ」


薔薇「う、ううん…」


アン「こういった自らの頭の中を探るような話は非常に曖昧で根拠も薄い。だからこそ手探りで進むのは危ういというもの。つまり根拠を言うとだな…」


アン「人間は社交的な生物だ。だからこういった一般的感性が共通でなく、バラバラだと社会が形成できないだろ?」


薔薇「一理ある」


アン「そうだ。そして一理無いと言う奴は対して、孤独な者だ。何故なら彼は社交的になる必要がなく、“共通感性”が失われていくからな」


薔薇「ほう?」


アン「無人島で独り暮らす人が着飾るなどはしないだろう。過去の暮らしを取り戻したいとでも思わない限り」


薔薇「そうだな」


アン「では薔薇様……立ち返って、テーマは何にお決めなさるかな?」


薔薇「…………“カレーの美味しさとは何か”!」


アン「何を言ってんだお前は。しかもカレーの良さなんか実際に食うことにしか無いだろ。文字の物語としてそれを語って何が楽しいんだよ」


薔薇「じゃああなたが決めて下さいますぅ?」


アン「いいだろう。脳無し(事実)の薔薇様に代わり、私が公明正大、意気揚々…臥薪嘗胆…勇気凛々………のテーマを決めてやろう!」カッ!



────はるか昔、この世界に闇を従えし魔王が降り立った……

しかし、人間の中から勇気ある者が立ち向かい、遂にはその魔王を討ち倒して平和を手に入れたのだ。


そして幾千年……時は流れ、全ては過去の歴史になっていく……

そして、再び闇がこの世界を襲った時、もはや古の勇者の伝説は廃れ、その血筋は絶たれていた。もはや人間に抵抗の術は無いかと思われた……


しかし!この時代にも、魔王に立ち向かわんとする勇敢なる者達がいたのだ!そして、その者達こそ────



────「光の勇者」達である!!

          ド  ン



薔薇「……何これ?」


アン「正に、共通一般的に燃える展開!!古よりの勇者と魔王の戦いだぁぁ!!!」ボォォ


薔薇「いやー、飽きましたわ。何個目だよこういうの。」


アン「はぁ!?あー出た出た、孤独乙ね。お前みたいなのが孤独だからずっと物を見ちゃう拠り所にして飽きるんだよ。誰かと共有したりせずにね」


薔薇「はぁ~?カレーだって何回も食ったら飽きるわな」


アン「飽きる程何回も一度に食う奴が一般的なわけないだろ。とにかくこれで良いんだよ!」


薔薇「まあ、確かに私達はこういった物書きだからモノを理解しようと見つめ過ぎて飽きる節はある」


アン「なに私の言いそうな台詞を取ってんの…もういいから!早く!」



──ここは何の変哲もない村。ここにはある少年、アルスルが住んでいた。


アルスル「はあっ!てやーっ!」ズバッ!


魔物「ピギィィ!!」ドサッ


幼馴染み「あー!もーまた一人で森の奥に行って!」タッタッ


アルスル「幼馴染み!君も修行するかい?」


幼馴染み「何言ってんの!これからルヴィス祭でしょ!村に帰って早く準備しないと!」プンスコ


アルスル「はは、悪い悪い。どうも修行をしないと落ち着かなくて…」


幼馴染み「また、『勇者』の話?」


アルスル「そうだ!父さんの古い本にあったんだ……この世界の闇を切り拓いた、『勇者』が過去にいたんだって」


アルスル「だったら俺がそれにならなくちゃな!なんせ…最強の剣士である父さんの息子なんだから!」ブンッブンッ


幼馴染み「……はぁー、本当バカだね」


アルスル「はぁ!?な、何が!」


幼馴染み「そんな伝説的な人物だったら、こんな何も無い村から物語が始まるわけないでしょ?アルスルは只のモブで、主人公じゃないんだよ」


アルスル「うっ……そ、そんなわけ」


幼馴染み「まっ、そんな戯れ言はさておいて…私達モブのとっておきの楽しみ!ルヴィス祭の準備に早く行こーう!」グイグイ


アルスル「わ、分かったよ…うぅ…」ズルズル


……


薔薇「……これは一体?」


アン「主人公の少年とその幼馴染み少女。これがベストで最も美しい形式だというのは誰も否定し得ないところだ」


薔薇「ほんとかよ」


アン「マジマジ。その辺の歩いてる人にインタビューすればいい。『友好的な異性の幼馴染みが欲しかったですか?或いは、既に居て良かったと思いますか?』」


薔薇「意味分からな質問過ぎるだろ」


アン「本当はもっと深掘りしていくべきだが、ここでは試験的な意図もあるのでガンガン進んでいくぞ!」



────


ルヴィス祭では、村の子供が一人選ばれ、神ルヴィスの依り代とされる。その儀式の中で人々は自らの懺悔を行い、罪を贖うのだ。


幼馴染み「そして、選ばれたのが私なのでした」ババーン


アルスル「ええっ、そりゃあ大変だなあ」


幼馴染み「そーなんだよねー、要は大人達の愚痴とかおふざけをルヴィス様として聴く役なんだけど、全くだよねー」


アルスル「緊張しないか?」


幼馴染み「ルヴィス様役をやるのは初めてだね……ちゃんとできるかな?不安だなー」チラッチラッ


アルスル「健闘を祈る」


幼馴染み「そうじゃないでしょ!パーティーの時に……」


アルスル「…分かったよ!奢れば良いんだろ?はぁ…」


幼馴染み「へへー♪」ルンルン


そう、罪を償った後は……神に許された村人達が、おもくそ羽目を外したパーティーが開かれるのだ!


……


村人A「ウィ~ヒック!」


村人B「わははー、踊れ踊れ!」


村人C「上手いぞー!」ギャハハ


アルスル「やれやれ…今魔物達が襲ってきたらどうなるか。幼馴染みは?」


村人D「まだ村人全員が儀式終えて無いからよ」


アルスル「本当に大変だなあ」


──


祭祀場


村人E「ううっ、すまねぇ…こっそりおっかあのプリンを食べちまって」グスッ


幼馴染み(ちぇ、下らない……しかし)


幼馴染み(不思議な感覚……こうして依り代になると、本当にルヴィス様が降りてきたみたい。何だか……)


幼馴染み「……?」ピクッ



「…………」スゥ…



幼馴染み「……誰っ!?」



──



ドオン!!!



「敵襲だー!魔物、魔物が村に!!」


アルスル「何だって!?」


村長「馬鹿な!この神聖な日に…!?」


村人F「戦える奴らも皆酔っぱらってらぁ!!もう駄目だ!!」


アルスル「くっ……!」ハッ!


アルスル「……幼馴染み!幼馴染みーー!!!」ダッ!


村人F「アルスル!?どこに──」


ドカァン!!


……



──

アルスル「──幼馴染み…!?」タッ…


────そこには、崩れた祭祀場と、人々の動かなくなった身体、そして──



魔物「…………」


幼馴染み「……がはっ」ガクッ



魔物の下で、血にまみれた幼馴染みがいた。



アルスル「────!!!!」


幼馴染み「あ、アル…ス…ル……」ズルズル


アルスル「そんな……!!この、魔物がッ」


魔物「…用は果たした。ここにてルヴィスは死んだのだ」


アルスル「幼馴染み!しっかりしろ!!」


幼馴染み「アルスル……ごめん……本当は……一緒に、大人になって、旅に出て」



幼馴染み「……一緒に、“勇者”になろうと、思ってた……」



アルスル「…………!!!」


幼馴染み「……のに………ごめん……アルスル……生きて…………」


幼馴染み「…」ガクッ…


アルスル「あ……ああ……」



アルスル「あああああ────!!!!!!!!!」





薔薇「はいストップ」ピター


アン「おい何してんだよ!?!?!?」


薔薇「これは何?幼馴染みは死んだの?もう登場ないの?」


アン「この描写で死んでなかったらおかしいだろう」


薔薇「駄目です。許しません。絶対に!!!」クワッ


アン「えぇっ、でもぉ」


薔薇「ふざけるな!!何が少年少女が美しいだ!!こんな悲劇にして何が良いってんだ!!!」


アン「いやいや、こういう悲劇もですね、一般的に良いとされ……」


薔薇「は?言ってみろ。何が良い?」


アン「…えー…こうして少年少女の仲が不可避に裂かれ、一方は未だ成就せぬ最もウブな瞬間に死に、もう一方はその時の美しいままの姿を一生、自分の中に……」


薔薇「フン!!!」トゲグサァ!!!


アン「ぐああああ!!!!薔薇がトゲ刺してきたァ!!!!!」チクチク


薔薇「この捻くれ野郎が。そんなものが一般に良い筈がないだろう。お前はただ見る者に強烈な印象を与えたいだけの浅ましい物書きだ」


アン「う、ううっ!!!」トゲヨリグサァ!


アン「分かった!分かった!どうせまだ試運段階の世界だ。確かに意地が悪かった。もっと簡単な話にしようぜ」


薔薇「それで良い」フッ



──


(リセットー!好きな所からやり直せるぜ!)カシャカシャチーン



アルスルが祭祀場に駆けつけると、幼馴染みが一匹の魔物に襲われていた。


魔物「死ねい!ルヴィスの依り代よ!」


幼馴染み「た、助けて……!!」


アルスル「オラァ!!!」ガキィンッ!!!


魔物「むっ!」ザザッ


幼馴染み「アルスル…!来てくれたの!?」


アルスル「当たり前だ!君を見捨てて逃げる筈がない」


幼馴染み「…………」


魔物「クッ…かなりやるようだな」


アルスル「こちとら、お前ら魔物と戦う為に修行してきたんでね……!」チャキッ


……ゴォォ…


魔物「……」


アルスル(…こうしてる間にも、村は魔物の群に襲われてる。早く決着をつけないと……)


魔物「ガァッ!!!」バッ!!


アルスル「うっ!」ガッ!


アルスル(速い!カエルの見た目で……跳躍力か!?)


魔物の爪と牙、アルスルの剣とで、何合もの斬り結びをした。


魔物「ククク…成る程お前は強い、だが!」


バキーンッ!!!


アルスル「剣が!!」パラパラ


魔物「そんなナマクラじゃあ、勝てる戦いも勝てないねぇ!!」バッ!


アルスル「くっ……!!」



(アルスル……聞こえますか、アルスル…)



アルスル(えっ…?この声は!?)


幼馴染み「…………」ブツブツ


アルスル(……幼馴染みから!?)


(私はこの地を治める神、ルヴィスです。アルスル、貴方にこの魔物を倒す力を与えましょう)


アルスル(ルヴィス……まさか、本当に?)


(さあ、その剣を天に掲げて……集中するのです)


アルスル(剣を…?しかし、既に折れて…)スッ…


アルスルが剣を掲げた瞬間、天から光が放たれた。


カッ!!!


魔物「な、何だ!?」


アルスル「……!!」



そして、折れた剣に光が落ち、刀身を纏った────


これこそ、天から授かった「稲妻の剣」である。



アルスル「──はあああっ!!!ルヴィス垂直一閃斬り!!!!!!!!!!」ブォンッ!!!!!


魔物「そ、そんな…馬鹿な──!!!」



ズドオオオオオオオオオオ オオオオオ  オオオオ  オン!!!!!!!!!



……


「魔物が引いていくぞ!」


「やったー!ルヴィス様のご加護だ!」



アルスル「…今のは、一体……」


幼馴染み「……っ」ドサッ


アルスル「幼馴染み!?幼馴染み!!」ダッ


幼馴染み「う……ん?どうして…私、急に目の前が分からなくなって…」


アルスル「ああ、良かった……無事で…」


こうして、村の危機は救われた──



……


アルスルがルヴィスの啓示を受けた事で、村人達は世界を救う勇者の到来を感じざるを得なかった。


そして、遂にアルスルが世界を救う旅に出る時が来たのだ!


村人「元気でなぁー!」

村長「ルヴィス様のご加護を!」

母「ううっ、こんなに立派になって…」


アルスル「ああ、皆、行ってくるよ!」



薔薇「ああー、何て良い話なんだ……」


アン「そりゃ自分の思い通りにしたらさぞ気分が良いだろうなぁ」


薔薇「というかようやく旅立ちかー」


アン「ああ、何とかサブタイトル通りにできたな……というわけで、こういう事だよ。薔薇様」


薔薇「なるほど?こうして世界を創っていくわけだ」


アン「そうだ!勿論、今回はお試しといった所……流石にこんな淡白な話を続けていくわけがない。どんどん肉付けしていくんだ」


アン「そしていずれは……私の最終目的を……」フフフ…


アルスル「やあアンさん!貴女もお達者で!」ザッ



その人は──いつもの庭先で、いつもの机と椅子に座り、いつも薔薇を愛でながら、いつも本を描いている人だった。


この人は物書きで、いつか俺の旅路も物語にしてくれるという。完成するのが楽しみだなぁ



アン「ああ、アルスル君。君こそお達者で。ほら、旅は長いからね……どうか健脚で」


薔薇「…」(ただの花のフリ)


アルスル「はい!では行ってきます!」ザッザッ



アン「……ああ、楽しみだよ、アルスル」


アン「君の旅こそが──この世界を創造するのだから」



──


アルスル「さて、準備はいいかい?」


「…うんっ!」


アルスル「さぁ行こう!──幼馴染み!」


幼馴染み「ええ!…アルスル!私達二人で…」



アルスル「──僕達二人で、勇者になろう!」




続く

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