第九話
「もう一回やってみたらどうだ?」
「ロミ君、もう一回。」
投げやりに言うエタン。強い視線で頷すカミーユ。切望するような声に、冷や汗が滲み、ロミの目が泳ぐ。彼女は身じろぎをした。カミーユ先輩は、悪気がなさそうなのがなおタチが悪い!彼女は頰が熱くなった。両手を握り締めると、叫び混じりに大きな声で言った。
「もうやりません!」
三人は様々なことを考えた。
誰かの魔法?魔法薬?魔導具?ドラゴンの解明されていない力?はたまた、誰かの呪いか?様々な意見が出たが、これだ!と言うめぼしい意見はなかった。
ドラゴンの解明されていない力か?と言う意見が出た時に、カミーユの青の瞳が少年のように輝いていたことは言うまでもない。ロミは苦笑した。カミーユは目に炎を浮かべながらまさかエタン達のドラゴンも……?と息巻くが、エタンは呆れが滲む眼差しでそんなわけがあるか、と首を横に振った。それは、流石にないと思うけど。
そのままエタンは疲労の籠った緑の瞳をロミに向ける。ドバリーを落ち着かせてくれ、と言わんばかりの目に、彼女は首を縦に振る。そのままカミーユに穏やかな声をかけた。
カミーユ先輩、落ち着いて下さい……。
暫くして、カミーユを宥めることに成功した。
「良くやった!」
大きな声で褒め、片手で握り拳を作り、緑の目を輝かせてこちらを見るエタン。ロミはあははは、苦笑する。
カミーユは青の目を瞬かせ、不可解な面持ちで首を傾けていた。何故エタンが喜んでいるのか分からない、と言わんばかりの様子であった。
暫く話し合っても結論が出ず、三人は唸った。
数拍置いてから、エタンは空気を変えるように手をパン、と叩く。ロミははっと我に返り、顔を上げて彼を見る。目を瞬かせた。同じように顔を向けるカミーユ。
そんな二人に、エタンは真剣な顔付きで鋭い視線を向ける。そして、大きな声で言った。
「とりあえず、ロミを研究所に連れて行こう。」
「そうだな、何か分かるかもしれない。」
微笑を浮かべ、首を縦に振るカミーユ。目には優しい光が宿っている。ロミは研究者の皆を思い出してるのかな?と思った。ロミも同じように頷く。そうよね。皆でなら何か分かるかもしれないし。
ロミは先輩や同僚達の顔を思い出す。気分が晴れ、ロミは笑みが溢れた。
「分かりました!」
後で魔術師達が来るようである。自分が呼んだので、もうすぐ来るだろう。彼等を待ってから行くとエタンは語った。確かに、その方が良いかもね。ロミとカミーユは頷いて了承した。
ふと、エタンが表情を和らげ、ため息を吐いた。彼は穏やかな目をロミに向けた。
「それにしても、良かったな。」
「はい!カミーユ先輩やエタンさんが来てくれて安心しました!人間に戻れましたし!」
ロミは片手で握り拳を作り、前のめりになって言った。
「いや、それもあるが……。ロミがドラゴンに戻って良かったな。大きさ的に。」
「確かに、そうだな。」
エタンの言葉に、納得したように頷くカミーユ。ロミは二人に交互に視線を送り、目を瞬いた。
「どう言うことですか?」
エタンは、何故か上に視線を向けてから、口を開く。
「ロミがドラゴンのままだったら、天井を壊して連れてくしか無かったからな。」
ロミは思ってもいなかった言葉に目を見開く。ハンマーで殴られたような衝撃を受けた。大声をあげる。
「え!?」
「ライト・ドラゴンだと、仕方がないだろうな。」
カミーユは腕を組みながら、軽く数回頷く。ロミは、上を見た。天井を、壊す!?
ロミの頭の中は、家の屋根に巨大な穴が空いていた。その穴を、下から呆然と口を開けて見上げるドラゴン姿の自分。近くを囲むカミーユ、エタン、魔術師達。ロミは思わず眩暈がした。
そ、そんな……!魔法で直せるかもしれないけど!でも……。
ロミは、渋い顔になった。そんなことになったら、ドラゴン姿で暴れてしまうかも……。そんなことになったら、カミーユ先輩達を怪我させちゃう!
ロミは頭で思考を振り払う。胸の前で手を組み、ため息を吐いた。
何にせよ、そうならなくて良かった……。
「ロミ君が、人間に戻って良かった。」
「そうだな。」
しみじみと頷くカミーユとエタン。そんな彼等に、ロミは振り子のように勢い良く首を縦に振る。次にドラゴン時のように大きな深いため息を吐いた。人間に戻れて良かった、本当に!
ロミは机の上にあるあるブレスレットに目を向ける。後で付けないと。
そこで、ロミは目を瞬かせた。あれ?
ロミは銀色のブレスレットに手を伸ばし、目を凝らして良く見る。そんな彼女に、頭上から声がかかる。
「ロミ、どうした?何かあったか?」
「ロミ君?」
カミーユ達から声をかけられても、ロミは顔を上げない。彼女は目を見開いた。
やっぱり……、おかしいよ!
ロミは叫んだ。
「な、何でブレスレットの柄が変わってるの!?」
「は?」
「ん?」
ロミの声に、上から二人の視線を感じたが、彼女は気にならなかった。な、何で変わってるの……!?
ロミのブレスレットは昨日の夜までは銀色で花柄が付いていた。
しかし、今は周りにお花、中央にドラゴンがいる模様になっていた。更に、良く見たらドラゴンの頭に花が飾ってある。
わあ、ファンシー……。じゃなくて!
ロミは嘆いた。
「私のブレスレットが、カミーユ先輩のみたいにドラゴン柄にー!」
「何?」
「何だって?」
気が付いたらカミーユがロミの隣に立ってブレスレットを覗き込んでいた。ロミは肩が大きく揺れた。心臓が飛び跳ねる。びっくりした!遅れてガタ、と言う椅子が揺れた音が鳴った。
気付かぬ内にすぐ横にいるとは、流石カミーユである。
足音が聞こえ、エタンが一瞬顔を顰めた後に、同じようにロミを手元を覗き込んで来た。
ブレスレットを見た瞬間、片方は顔が輝き、片方は眉を顰め、同情の視線を向けた。
「ドラゴン柄になるとは……、素晴らしい!」
「うわあ……。こいつとお揃いとか、お気の毒に。……いや、ロミにとってご褒美なのか?……俺はとてもごめんだ。捨てたくなる。」
カミーユはエタンの言葉に目を丸くさせた。一拍置いてから、カミーユはエタンに詰め寄る。ロミは目を瞬せた。どうしたのかな?
「何てことを言うんだ!?エタン。捨てるなら私にくれ!」
そんなカミーユに、エタンは早口で言った。
「俺は持ってないし死んでもお前にはやらない。」
相変わらずのドラゴン愛である。自分とお揃いなのが嫌だ、の部分じゃなくて、そこなの?とロミはツッコミたくなった。
ロミはカミーユにとってのエタンがどんな存在なのか気になった。親しい友人だと思っているとしても、激しく一方通行な矢印である。
ロミはブレスレットを観察した。何で急に変わったんだろう……。昨日の夜までは花柄だったのに。可愛いらしい花柄と凛々しいドラゴンが酷くアンバランスである。いくら見ても、花柄に戻ることはない。
ロミはエタンの言葉を思い出す。同じお店で買ったけど。カミーユ先輩とお揃いか……。ロミの口元が緩む。雲にでも乗ったような心地になった。
そんなロミに、頭上からかけられる声。
「ロミ、ちょっと見せてくれないか?」
向けられる緑の瞳。ロミは目を瞬かせると、エタンにブレスレットを渡した。
「はい。」
エタンは頷くと、ブレスレットを左手に持った。
「本当に変わってるな……。」
エタンは眉を顰めた。彼は杖を取り出し、右手で振る。ブレスレットが淡い黄色の光を放つ。エタンは暫く目を閉じていたが、目を開くと杖を振った。ふっと光が消える。彼はロミとカミーユと目を合わせ、首を横に振った。
「検査魔法を使ったが、分からなかった。ロミ以外の魔力の痕跡もない。……分からないな。」
「そうか。」
「そうですか……。」
エタンは眉を寄せた。カミーユはため息混じりに呟いた。そっか、エタンさんでも分からないのか……。ロミは肩を落とす。後で資料を調べる、と言うエタンにロミを頭を下げた。
よろしくお願いします!




