第五話
修正した結果、長くなったので、前半と後半に分けました!
後半は投稿します。
◇◇◇
あれからしばらくして。不意に、チュンチュン、という鳴き声がロミの耳に入って来た。ロミが窓に目を向けると同時に、窓枠に赤い鳥が止まった。あ、鳥がいる。チュン、と鳴いていた鳥は、彼女と目が合うと同時に固まる。そして赤の羽毛を大きく広げ、威嚇するような態度を見せた。え!?何!?ジュ!ジジジ!鳥は鋭い目で彼女を睨み付けると、羽をバタつかせながら威嚇の鳴き声を出す。そして、後ろを振り返ると、羽を広げて飛び立つ。赤が小さくなって行く。口を開けて呆然と見ていたロミは、自身の状況を思い返し、肩を落とす。そりゃそうだよね……。ドラゴンだもの。
同じようなことが何回か続いた。窓に止まった鳥は、ロミと目が合うと、ことごとく逃げてしまう。
更に、ある時、窓越しに近くの家の屋根に野良猫を見かけた。丸まっていた野良猫は、ロミと目が合うと、毛を逆立てミャ!と潰れたような声で鳴く。そして、威嚇する様子もなく転がるように走って逃げて行った。
仕方がないけど、私、そんなに怖い?ロミは伏せ直す。心の中では雨が降っていた。
ロミの内心とは裏腹に、窓から変わらず差し込んでいる明るい日差し。彼女は一瞬窓の外を見て、顔を背けた。
ロミの心の中の雨は止んだが、雲をが一面を覆っている。カミーユ先輩にエタンさん、来てくれるかな?緊張から彼女の心臓が嫌に速く鼓動を打った。もし来ても、ドラゴンの姿だし、気付いてくれるか分からないよね。邪険にされることはないだろうけど……。ロミはカミーユ達に来て欲しいのか来て欲しくないのか分からなくなっていた。
窓から街の活気のある声が聞こえて来る。キャー!と言う高い子供の声に、少し顔を上げたが、再び顔を伏せる。彼女の口元が若干緩んだ。楽しそう。ドラゴンになったからか、聴覚が鋭くなり、遠くからの音がロミの耳に入って来るようになっていた。きっと来てくれるよね。期待から、ロミは気分が少し晴れた。
そこで、ある懸念が浮かぶ。もし、カミーユ先輩が来たら、どう反応するかな?数秒後、ロミは自身が怪訝な顔をしているのを感じた。反応が想像出来る……。彼女は苦笑した。
変わらず伏せていたロミは、聞き覚えのある男性の声に、目を開けた。あの声は!カミーユ先輩の声!ロミは素早く顔を上げ、玄関の扉に視線を向ける。ロミの喉からキュルルル、と言う音が鳴った。思わず駆け付けたくなるが、じっと耐える。
素早い足音が聞こえる。ロミの心臓が激しく鼓動を打つ。そして、バタン、と言う音を立て、勢い良く扉が開いた。
「ロミ君、大丈夫か!?」
カミーユ先輩!見えたカミーユの姿に、ロミの胸を歓喜が包み、口が開いた。彼女は身体を少し浮かせかけたが、すぐに体勢を戻した。危ない、危ない……。本当は安堵からカミーユの元へ駆け寄りたかったのだが、自身の状況を思い出し、止めたのである。彼女は自身を落ち着かせるために小さくため息を付く。自身の尻尾が揺れているのを感じた。
ロミには、カミーユの背後から光が差しているように見えた。
私だけの、王子様……!
ロミの心が踊る。喉からキュルルル、と言う高い音が鳴った。
乱れた銀髪。やや息を切らしている。カミーユの服は研究所での白衣ではなく、ベストやシャツ、ズボン等の私服である。メガネ越しの鋭い青い瞳は、辺りに視線を巡らす。部屋の奥にいる視線が合ったところで、カミーユは固まった。視線が柔らかくなり、口元に笑みが浮かぶ。その笑顔に、ロミは胸が高鳴り、目が釘付けになる。かっこいい……!カミーユは再び部屋全体に視線を巡らしたが、自身をじっと見つめるロミに視線を固定した。
「小さいな……!しかし、美しい。何故、ライト・ドラゴンが、ロミ君の家に?」
ロミの心臓が跳ね上がった。美しい!カミーユ先輩、美しいって言ったよね!ドラゴンの姿とは言え、彼女の胸の奥から喜びの感情が湧いて来る。喉からキュルルル、と言う音が鳴った。
カミーユは敵意がないことを示すように、両手を上げた。左腕の手首には、今も付けている銀色の光を放つドラゴン柄のブレスレットが覗いている。それを見て、ロミは幸福感が胸に広がった。カミーユ先輩、今も大切にしてくれてるんだよね。
「大丈夫だ。私は何もしない。」
カミーユはロミに青い目を合わせ、真剣な声で言った。初対面のドラゴンであるからであろう。そんなことしなくても、私はカミーユ先輩を攻撃するはずがないのに。不満から、鼻から息が漏れた。カミーユはロミが何もしないことを確認すると、安堵からか小さくため息を付いていた。
そして、カミーユは懐に右手を突っ込む。目線で手を追うロミに、カミーユはもう一度大丈夫だ、と安心させるように言った。
そして、カミーユは杖を取り出した。何だろう?困惑してギュルルル、と喉を鳴らしつつカミーユの顔を見るロミ。カミーユはそんな彼女にやや口元を緩める。そして、杖を見やすいように掲げると、口を開いた。今から魔法をかけるが、私と君の安全のためだ、と。じっとしていてくれ、と言った。
もしかして、宥めるために鎮静魔法を使うのかな?合点が行ったロミは、大丈夫だと示すためにカミーユの青の瞳をじっと見返した。
カミーユは頷くと、小さく呟いた。
「魔術師ではない私が使ってもあまり効果がないかもしれないが……。」
カミーユはそう呟くと、杖をロミに向ける。彼は行くぞ、と声をかけ、右手で杖を振った。次の瞬間、杖先に白い光が灯る。そして、金色の粒子混じりの爽やかな風が彼女の方にサラサラと吹く。彼女は、心地良い気分になった。気持ち良いし、綺麗……!鎮静魔法を使われると、こんな感じなんだ……!ロミは、うっとりと目を細めた。
暫くロミの様子を観察していたカミーユ。暫くして、彼はふ、と微笑み、本当に大人しいな、と呟いた。
鎮静魔法を使わなくても、元々私はカミーユ先輩のことが好きだから、効果がないけどね!ロミは胸を張った。
やがてカミーユはドラゴンであるロミの身体に視線を巡らす。
「メスか。家にいるくらいだ、本当に小さいな……。顔も愛嬌がある。……目は、ロミ君と同じ茶色だな。何処からか来たんだ?まるでライト・ドラゴンが突然現れたようだ。子供の同種よりも小型だな。壁が破壊されているのは、身体を収めるためか?……月白色の身体が美しい。目は、ロミ君と同じ色か。……それにしても、大人しいな。普通はもっと警戒するはずだが……。」
カミーユはしげしげと見つつ、小さい声で呟く。彼の青の瞳とロミと目が合う。彼は目で弧を描くと、可愛いな、と言った。
ロミは胸が掴まれた気分になった。
可愛いって……!
そこで、カミーユは目を見開くと、家の中に視線を向けた。青い瞳が細められ、真剣な目付きになる。
「信号が送られたくらいだ。さっき声をかけたが、返事もない。……ロミ君は、何処だ?」
カミーユ先輩!ここにいます!
ロミは答えようとするが、口から出るのは高い鳴き声。
──キュルルル
人間の言葉が出ないんだった!ロミは改めてショックを受ける。彼女の頭が項垂れた。ジジ!
数秒後、ロミは顔を上げ、身体を動かす。
カミーユ先輩も来たし、もう一回やってみよう!
ロミは、首を横に向ける。爪で壁を引っ掻き、意思疎通のために文字を綴ろうとした。私は、此処に、います。しかし、爪が大きく難しい。最終的に、解読不可能な、歪んだ文字になってしまった。ロミの心の中に暗雲が立ち籠る。喉からギュルルル、と言う音が鳴った。やっぱり、ダメか。再び彼女の頭が項垂れた。
実はカミーユが来る前に意思疎通出来ない試したのである。爪で壁を引っ掻いても、大き過ぎる為に解読不可能な文字になり。杖で壁に傷を付けるのは、杖に傷が付く為に、断念。ペンを取る為に動こうとしたが、足を動かした瞬間、体重でミシミシ……、と言う音が床から鳴る。再び身体を伏せ直すこととなった。駄目だ……。ロミは気落ちして肩を落とした。喉からはギュルルル、と言う小さな音が鳴る。チルルル。
カミーユはそんなロミに首を傾げた。
「どうしたんだ?」
文字を書こうとしたんです!
──キュアアア!
ロミは答えたが、鳴き声にしかならず。カミーユは首を傾け、眉を下げる。そして、申し訳なさそうに首を横に振った。
「すまない、分からない。」




