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三話

◇◇◇


 カミーユに告白する女性はいたが、彼は恋愛には興味がない、と言うことで断っていた。ロミはその光景を見かけることがあった。ああはならないようにしよう。彼女はそう思っていたのだが……。



 ロミが働き出し、何年かが経った。現在。


 過ごし易く、温暖な気候の季節。現代の日本ではないので桜は見えないが、花が甘い香りを運び、虫や鳥と言った生き物を呼び寄せている。


 部屋の窓から外に視線を向けると、周囲は暗く、空の大部分を灰色の雲が覆っている。合間からは、黄色い月が時折顔を覗かせる。


 目の前には茶色い木製の四角テーブルが幾つも配置されている。その前には同じ木製の黄色い椅子。そのうちの一つに、二十代になった変わらず平均より背が低い女性、ロミ・アフネルは、座っていた。着ているのは体型に合った白衣。赤のミディアムボブの髪から覗く、黒い瞳。左手の手首にお気に入りの花型の銀色の光を放つブレスレット。


 ロミが横に視線を向けると、木製の棚があり、ガラス越しに瓶やケースなどに牙や鱗と言ったモンスターの素材や薬草などが整然と置かれているのが見える。近くの本棚には、主にモンスターの一種である様々なドラゴンについての資料が並んでいた。


 奥の四隅の一角には、温度湿度調整用の魔導具が置かれている。ロミの前世で言うところのエアコンや加湿器のようなものである。


 ロミが所属する、王都管轄研究所のいつもの研究室での光景。


 ロミが向かいの椅子を見ると、座っていても背の高いと察せられる同年代の銀髪の男性がいた。彼女と同じように、白衣を身に纏っている。男性でありながらも目を引く顔立ち。光が当たっているせいか、彼女の彼への想いのせいか。彼女には彼自身が発光しているかのように輝いて見えた。


 ロミは男性の元へ足を進めた。そして、彼の座っている椅子の右で足を止める。そこで、男性は顔を上げる。銀色の眼鏡越しの青色の瞳はやや細められ、彼女を見据えている。


 研究者でありリーダーである男性、カミーユ・ドバリーは、片眉を上げながら口を開いた。


「どうした?ロミ君。」


 低い聴き心地の良い声が女性の耳に入って来る。彼の後輩研究者であるロミは自分の頰が熱を帯びて行くのを感じた。


 今日こそ!


 ロミは両手の拳を握り締めると、カミーユから目を逸らさずに、大きな声で叫ぶように声を出した。


「カミーユ先輩、好きです!私と付き合って下さい!」


 ロミは強く目を瞑り、彼の言葉を待った。彼女の頰は炎のように熱い。彼女には一秒が永遠のように感じられた。


 暫くの沈黙の後、ふう、と言う息を吐く音が彼女に耳に入って来た。ロミが目を開けると、細められた青の瞳が彼女を見ていた。彼女の気のせいでなければ、呆れが混じっているように見える。そして、カミーユは、口を開いた。


「何度も言っているが……。ロミ君。無理だ。」


 首を横に振りながら言うカミーユ。そんな、また……!彼の言葉に、彼女は、自分の眉が下がるのが感じた。口を閉じ、目が潤むのを耐えようとする。しかし、口から悲痛な声が漏れるのを抑えることが出来なかった。


「そんな……!どうしてですか!?私じゃ駄目なんですか!?」


 衝動からカミーユの元に駆け寄り、彼の白衣に縋り付くロミ。そんな彼女に、彼は視線を向けながら言った。


「前も言ったが……。私にはドラゴンに興味はあるが、恋愛には興味がないんだ。諦めてくれ。」


 ロミは、カミーユの言葉に自分の眉が吊り上がるのを感じた。そして彼の白衣から手を放し、勢い良く立ち上がる。そして鋭い視線を彼に向けると、力強い声で言った。


「カミーユ先輩がドラゴンが好きなのは知っていますけれど、それとこれとは別です!私は、諦めませんからね!」


 ロミの言葉に、カミーユは疲れたようにため息をつきながら呟いた。


「その熱意を、他のことに向けてくれ……。」


 ロミはカミーユの言葉を無視した。カミーユ先輩が何て言おうと、私は諦めないわ!彼女の心中では髪のような赤い炎が勢い良く燃えていた。



 ロミが自分の机に戻ると、含み笑いや満面の笑みを浮かべた先輩や同僚、後輩達が立って待ち構えていた。彼女は自分の眉間に皺が寄るのが分かった。彼女は口を真一文字を結ぶ。勢い良く椅子に腰掛けようとしたところで、彼等に肩を掴まれ、捕まった。


「ロミ、またやったのか?結果はどうだ?」


「お前も飽きないな。」


「いや凄いです。俺尊敬しますよ、アフネル先輩。」


 口々に言う男性陣。ロミは彼等を睨み付けたが、彼等の表情が少しも変わらない。皆、意地が悪いよ。


「結果は知っているでしょうに。わざわざ尋ねるなんて、意地が悪いんじゃないですか?」


 顔を逸らすと、やっぱりか、悪い悪い、と頭に手が載せられた。そのまま、赤い髪を鳥の巣のようにされる。


「ロミは、可愛いし、大丈夫よ。」


 ゆったりとした口調の声にロミはそちらに視線を向ける。少し離れたところで一人の女性の友人である同僚が温和な笑みを浮かべて彼女を見ていた。彼女は仕事終わりなのもあり、普段の穏やかな話し方である。左手には握り拳を作っている。


 ロミはその言葉に目が潤みそうになった。ありがとう……!やや涙目で言うと、彼女はいいえ、と笑顔で首を振った。


 ロミは先程まで彼女を馬鹿にしていた男性陣のうちの数人が同僚に熱い眼差しを向けていることに気づいたが、無視した。貴方達も苦労すると良いわ!



 ロミとカミーユは同じやり取りを何回も繰り返している。毎回似たような理由でカミーユに断られる流れである。



 ロミは前に生きていた世界では、恋人がいたことがなかった。周りの女子の恋を応援する方だった。好きな人がいても、アプローチすら出来なかったのだが……。


 この研究所で働き出してから、カミーユに心惹かれた。端正な顔立ち、研究に対する真面目な姿勢。彼のドラゴンへの愛も、ロミにとっては彼の魅力だった。もしその眼差しを自分に向けてくれたら……、と思ったことが何度もある。


 カミーユと共に働き始めてから何年か経つ。ロミは彼以外の男性が目に入ることない。告白しては何度も玉砕している。周りにも、本人にも何度も諦めるように言われた。彼女は諦めることが出来なかった。一部の友人には呆れながらも応援してくれる者もいた。


 一人の友人は、彼女にこう言った。


「凄いと思うわ。……私なら、絶対に無理ね。」


 ロミが初めて告白した時は、カミーユは怪訝そうに眉間に皺を寄せ私にか?と言った。


 ロミとカミーユは、先輩と後輩の関係であるが、友人でもある。休日に何人かで会うことがある。彼女が好意を示すようになってからは二人で出かけたことはなくなった。残念だけど、仕方ないか。ロミは内心ため息をつきながら肩を落とした。


 カミーユはロミに靡く様子はなかったが、彼女を邪険にすることはなかった。あくまで後輩としてだが、声をかけたり、彼女を可愛がってくれているのが分かる。


 何度断っても言い寄って来ることがカミーユの悩みの種であることもロミは承知していた。それでもカミーユは所長に訴えず、クビにすることはない。


 以前同僚に何故か聞かれたところ、カミーユがロミは研究所に必要な人間であり、所長に訴える程ではない、と言った。カミーユ先輩、優しい!彼女の心の中にある炎はより燃え上がった。

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