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第十話

 ロミは思考を巡らせる。ふと、あることを思い出した。そう言えば、朝、起きる時、何かが光った気がするような……。それに、さっき、変身した時、光ったの、私の身体だけ?もしかして……。


 ロミはブレスレットに視線を向けた。ブレスレットの龍の目と目が合う。もしかして、ブレスレットが光ってた、とか?朝にドラゴンに変身したロミ。突然柄が変わったブレスット。ロミには無関係ではないように思えた。それに。


 ロミは思考に沈む。ドラゴンに変身するなど聞いたこともない、と言うエタン。突然柄が変わったブレスレット。私が転生者と言うこともあるのかな。


 でも。ロミは口を尖らせた。目を閉じ、前世で読んだ本を記憶を思い出す。転生した直後ならまだしも、今更?私、カミーユ先輩に振り向いて欲しいと思ったことはあるけれど。ドラゴンになりたいなんて思ったことないわ!彼女は鼻から息を吐き、心を沈めようとした。


 星に──あるいは神に願いを、ならぬドラゴンに願いを。笑えないわ、とロミは思った。



 ロミはブレスレットを検査しているエタンに声をかける。


「エタンさん。」


 エタンは、ん?とこちらに目を向ける。


 ロミは自分が考えていることをカミーユとエタンに話した。


「……確かに、ロミ君が言う通りかもしれない。」


「俺には、分からん。ドラゴンにしか目が行かなったからな。」


 カミーユは、重々しい顔で頷く。エタンは、眉を顰めて首を横に振った。ロミは合点がいった。そうか。確かにエタンさんの声がしたのは、私が変身し始めてからよね。


 カミーユはブレスレットに目を向けた。目が生き生きとしている。


「ブレスレットがトリガーかもしれないな。……と言うことは、私もドラゴンに……!?」


「それはないな。……あってたまるか。」


 エタンは即座に首を横に振り、唸るように言った。ロミは眉を下げ、苦笑する。……それは、ないと思うけど。


 カミーユは自分のブレスレットを取り出し、穴が開くのではないかと言う程見つめた。カミーユ先輩、ドラゴンになりたいのかな?それとも、ドラゴンを見たいだけかな?カミーユ先輩がドラゴンになっても、良く見えないんじゃ……。


 ロミはドラゴンになったカミーユの姿を想像する。銀の身体、優しさの滲む青の瞳。一瞬激しく心が揺れたが、考えを頭から掻き消した。


 徐にカミーユは左腕を下ろした。急な出来事に、ロミは目を瞬かせる。彼女と目が合うと、カミーユはため息を吐き、肩を竦める。


「私がドラゴンになってもしょうがないな。」


 カミーユはロミと同じ点に思い至ったようである。


 エタンは顔を歪めた。


「当たり前だ。……ロミだけでも大変なのに、お前もなんて、冗談じゃない。」


 思い直してくれて、良かった。ロミは胸を撫で下ろし、ため息を吐く。カミーユに微笑みかけた。



 それから一分も経たない内に、ドタドタ、と言う足音が聞こえて来た。ロミ達はすぐさま出入り口に目を向けた。もしかして、来た?エタンは声を上げた。


「来たか!」


 足音が止まる。困惑したような声が聞こえた。


「花?」


 花?ロミは疑問が頭をよぎった。さっきも聞こえたよね?


 数秒置いてから、バタン!と扉が開く。


 魔術師達が雪崩れ込むように入って来た。同時に、何かが滑るように中に入って来た。


「エタンさん!ドラゴンはどこですか!」


 魔術師達が大声で尋ねるのと同時に、目の前で黄色い小さな鳥が羽根をばたつかせた。嘴には一輪の赤い花。


 ……鳥?

 

──チルルル!……チ?


 黄色い鳥は、ロミは目が合うと、嘴をパカ、と開けた。ポト、と花が落ちるのを目で追う。あ、落ちた……。


 周りの視線は全て鳥に集中していた。


「何だ?あれ。」


「鳥か……?」


 鳥は慌てたようにバササ、と羽根をばたつかせると、跳ねながら視線を辺りに巡らせた。


──チルルル?チル?


 ロミは目を瞬く。どうしたのかな?そう言えば、とロミは鎖骨を巡らせる。さっきも、チルル……、と言う鳴き声が聞こえたような……。


 鳥は、四方八方に視線を向けていたが、その内落ち着いた。チル……、と力なく項垂れる。 


──チルー!


 悲しげに鳴くと、花を回収することもなく、扉から羽根を広げて飛んで行った。行っちゃった……。


 ロミがカミーユを向き、尋ねる。


「何だったんでしょう……?」


「分からない。しかし、あるいは……。」


 カミーユは顎に手を当てて考え込む。眉が寄っていた。


 そんなロミ達に、横から笑い混じりの声が聞こえる。


「あの鳥、何だったんだろうな?花を咥えてたってことは、入り口の前にある花の山は、あの鳥の仕業か?」


 確かに。エタンの声に、ロミは視線を向け、目を瞬かせた。花の山があるよね。全部、あの鳥が持って来たのかな?


 カミーユ先輩の時はどうだったのかな?


 エタンとロミに視線を向けられ、カミーユは首を横に振った。


「私が来た時には、まだなかった。」


 そうか……。


 魔術師達は、入り口の到着すると、花の山があり、思わず立ち止まった、と語った。


 考え込むロミ達に、声がかけられる。


「これは私の推測に過ぎないが……。」


 声の方を見ると、カミーユが腕を組んでいた。眉を寄せ、花の山に視線を向けながら、彼は続ける。


「花は……求愛じゃないか?あの鳥から、ロミ君……、ライト・ドラゴンに対しての。」


 その言葉に、ロミは目を見開く。え!?求愛!?彼女は目が回った。あの鳥が、私に!?他の動物には怖がられてたのに!?嘘でしょ!?


 一拍置いてから、あはははは、言う大笑いが聞こえた。ロミは大きな口を開けてそちらを見る。エタンは、下を向きながら、身体を震わせていた。


「ドラゴン?ロミ……?」


 魔術師達は、顔を見合わせている。何が何だか分からない、と言った様子である。


「あの鳥が?ドラゴンのロミに?嘘だろ……!」


 エタンの笑い混じりの声。カミーユは、低い声で言った。


「しかし、それならば、鳴いていた理由にも、辺りを見回し去った理由にも、説明が付く。」


 カミーユは、青の瞳を揺らしながら、ロミに視線を向けた。彼は、視線を逸らし、声を落として付け加える。


「ドラゴンが恋愛対象の鳥も、いるかもしれない……。」


「そりゃ、最高だ!ドラゴンと鳥!一つあいつにとって残念なのは、ロミが元に戻ったことだな。ショックだろうなあ。」


 エタンは、目を弓形にして、緑色の目をこちらに向けた。


「ロミ、ドラゴンの方がモテるんじゃないか?」


 エタンは、隣に立つ男を指差して言った。


「こいつにも、鳥にも。」


 カミーユと目が合うと、彼は何故か挙動不審であった。冷や汗を流し、身じろぎをしている。ロミは、彼の姿を見て、叩かれたような衝撃を受けた。口を大きく開けたまま固まる。


 そんな……!まさか!?人間時よりも、ドラゴンの姿の時がモテるってこと!?……こんなのってないよ!


「逆が良いです!」


「そりゃそうだ。」


 エタンは、笑いながら首を縦に振った。


「他の動物には怖がられたんですよ?何であの鳥だけ……。カミーユ先輩も見てましたよね?」


 ロミは、ジジ、ブシャー!と言う声を思い出した。毛を逆立てる猫、羽根をばたつかせる鳥達。更に、カミーユが声をかけてくれたことを思いだす。大丈夫だ、と言う宥める声を思い出し、彼女は気持ちが宙に浮いた。胸が早く打つ。


 ロミは、花の山に視線を向けた。しかも、あんなにたくさん……。彼女は耳を澄ませたが、チルルル、と言う鳴き声はもう聞こえなかった。


「じゃあ、あの鳥は余程肝が据わっていんだろうな。」


 笑顔で言うエタン。そんな中、カミーユがボソリと呟く。


「……見る目があるな。」


 ロミはエタンと共に信じられないものを見るような眼差しを彼に向けた。カミーユ先輩、何言ってるの?


「ドバリー、何を言っているんだ?」


「カミーユ先輩、本気で言ってますか?」

 

 ロミとエタンはカミーユに詰め寄ろうとしたが、魔術師達に腕を上げて静止された。


「エタンさん達、落ち着いて下さい。我々にも説明して下さい。」


「……ああ。」


「……分かりました。」


「分かった。」


 渋々言葉を飲み込む二人とは対照的に、カミーユは平然とした口調で返した。


 説明を終えると、一瞬の沈黙の後。


 騒ぎになった。

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