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第五話、友達とお話をします!

 エリスが食事を終えた後、あたしは食器の片付けをしていた。

 エリスはあたしと話したそうにしていたが、まずは食器を片付けさせて欲しいとお願いをした。エリスは不服そうな顔をしていたが、時間はまだたっぷりあると伝えると、あっさりと引き下がってくれた。

(これでよし、と)

 食器を全部片づけた後、エリスの部屋へと戻る。今の時間はわからないが、話しを終えたら外の草刈でもしよう。

 あたしは、次の予定を頭の中で組み立てた。パンのために酵母も作りたいし、教会の構造も知りたい。それでも、一つずつしか仕事は出来ないのだ。まずは、教会の外観から綺麗にしたかった。なにせ、ずっと教会に中に籠っているわけにはいかない。教会の外を散歩するのなら、歩きやすいように整備するべきだろう。

(魔王様も、なんでこんなところに教会を建てたのか……)

 もっと、いい場所もあったはずだ。それなのに、木が生い茂った山の中に教会が建っている。まるで、何かからあたし達を隠しているような……

 魔王様が聖女様を攫ってきたのは、求婚のためだと思っていた。だけど、もしかしたら他に理由があるのかもしれない。

あたしが聞けるのは、その人の一番強い気持ちだけ。だから、隠したい物は他の心の声で隠すことは出来る。心を読む力も万能ではない。

(……気にしすぎよね)

 そうであってほしい、とあたしは願った。


「エリス、入るね」

「はい、どうぞ」──うーん、最初は魔王がどうして私を攫ったのかを聞くべきかしら。それとも、友達として雑談から始めるべきかしら……迷うわ……

 扉をノックして、エリスの部屋に入る。エリスは椅子に座ったまま、色々と考えごとをしていた。

「で、話って?」

 あたしの言葉に、エリスは少しだけ躊躇いの表情を見せた。心の中ではあーでもないこーでもないとパニックになっていた。

 ──決めた。まずは一番気になることから。「マナ、魔王がどうして私を攫ったのか知ってる?」

「それは、あたしにもわかりません……」

 嘘である。本当は理由を知っている。だけど、それはあたしの口から伝えるべきではない。ちゃんと、魔王様の口から言うべきことだ。

「そう……マナも知らないのね」──私の見た感じだと、マナにだけは打ち明けていると思ったわ。そうすると、魔王は私を人質にするつもりなのかしら? それとも、やっぱり手籠めに……ああっ、それはダメ! 私は神に仕える身! ふしだらな真似など!

(え、なに、こわっ……)

 勝手にエリスのスイッチが入った。この子は急にエッチな妄想をし始める。そして、そういう時ほど顔に綺麗な笑みを浮かべるのだ。

「エリス、他に聞きたいことはない?」

「あっ、えっと……」──はっ、いけない。マナとの会話の途中でした。

 言葉を掛けて妄想を止めさせる。

あたしにはこの後にしなければならない仕事がある。エリスと話をしたい気持ちはあるが、まずは仕事をすべて終わらせてからだ。エリスの妄想には付き合っていられない。

──それじゃあ、「マナはどうして魔界にいるの?」──普通の子よね? もしかすると、人間界に居られなくなるような何かをしたとか? でも、そんな風には見えないけど……

「んー、多分、想像の通りだと思う。あたし人間が嫌いでさ。各地を転々としてたの。それで、食料が尽きて倒れた時にさ、魔王様に拾われたんだ」

 これは少しだけ嘘が混ざっている。

人間嫌いなのと、食料が尽きて倒れた時に魔王様に拾われたのは本当だ。でも、各地を転々としていたのではなく、あたしの居場所がどこにもなく、放浪をしていただけだ。

 心が読めるというのは、悪いことが多い。

人は建前を表に出すことでコミュニケーションをする。あたしは、建前の裏側を知ってしまう。人の醜悪な部分を直接見てしまう。

 人の多いところで生活するのは無理だ。一時期お金を稼ぐのに居た時期はあるが、気持ち悪くなって、頭がおかしくなりそうだった。特に酒場で働いている時は最悪で、変態おやじたちが心の中であたしのことを値踏みしてきた。

あまりに気持ち悪すぎて、おやじの一人を思いっきり殴ってしまったことがある。店主と交渉をして、あたしを買おうとしているのがわかってしまったからだ。

そいつは街で権力があったらしく、あたしは街を追い出されるように逃げだした。そして、放浪者となった。

魔界の方へ向かったのは、気まぐれだった。もしかすると、魔界にはあたしのような能力を持つ人がいるかもしれないと思ったからだ。そういう人達がいる場所なら、あたしの居場所はあるかもしれない。そう思って旅を続けた。

そして、魔界の入り口であたしが倒れた時、魔王様に出会ったのだ。


「………………」──大変な思いをされたのですね……

 エリスはあたしの境遇を聞き、黙っていた。心の声はあたしのことを同情している風だった。エリスにそんな顔をしてもらいたいわけじゃない。

「なんでそんな顔をするのさ、エリスが悪いわけじゃないのに。それにさ、エリスはちょっと誤解してるけど、魔王様は意外といい人だよ。だから、あたしはここに居られて幸せなの」

「魔王が……いい人?」──マナ……魔王に騙されているのですね……

「そうだよ、魔王様はいい人。エリスもそのうちわかるよ」

 ──でも、それなら……どうして人間族と争いをするのでしょう?

 あたしの言葉にエリスは疑問を覚えたみたいだった。それについて、あたしは気にしたことがない。エリスの心の声を聞いて、確かに……と思ったくらいだ。

「エリス、もうお話はいいかな? ちょっとやることがあるからさ」

「は、はい。マナ、ありがとう。不束者の私ですが、これからよろしくお願いします」


──いつか、ハルト様が助けに来てくださる日まで。


(……ハルト?)

 聞いたことのない名前だった。エリスは、その人がここまで助けに来ると思っているようだった。こんな魔界に誰が助けに来るのだろうか?

「それじゃあエリス、また後で。昼ご飯の時間にまた会いましょう」

「ええ、次の食事も期待していますね」

 エリスの笑顔に見送られ、あたしはエリスの部屋を後にした。



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