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第一話、あたしは聖女様のお世話係になります。

 ──ククク……今日はなんという爽快な朝なことか! 光を嫌いな我がこれほど心躍る朝を迎えることになるとは! 今ならば、勇者の一匹や二匹を倒すことなど容易! いや、光を克服した今の我ならば憎き神すらも凌駕するだろう! ククク……ハァッハッハッハ‼


「──ん、んん。うるさいなぁ……」


 ちちち、と窓の外にある木に止まる鳥の鳴き声と共に、魔王様の騒がしい自画自賛の心の声が聞こえてくる。それがあまりにもうるさくて、目を覚ましてしまった。


 ゆっくりとまぶたを開けると、真っ白な染み一 つもない天井が視界に入ってくる。寝起きだからか、少しだけ視界がぼやけていた。


 ふあぁ、と小さくあくびをしながら、体を起こし、目を擦る。


 あまりの眠たさに、もう一度布団に横になりたかったが、まだ耳に入ってくる声がうるさすぎて眠れそうになかった。


──おっと、己の力に驕るのはいかんな。フフフ、だが我は魔王。多少の油断はアクセサリーというものよ!


「……今日も魔王様は絶好調ですなぁ」


 あまりにも、寝起きに厳しいテンションで騒いでいるので耳を塞ぎたくなったが、心の声は耳を塞いでいても聴こえてくるのでどうしようもない。


「……起きるかぁ」


 二度寝が出来そうにないので、仕方なく仕事のために服を着替えることにした。


 あたしは、壁に掛けてあるメイド服を手に取る。これは、昨日の晩に魔王様から支給されたものだ。


 今日から、あたしは世話係に配属になる。しかし、世話係と言っても魔王様のではない。


(まさか⋯⋯聖女様に仕える日が来るなんて⋯⋯)


 そう、なぜか昨日の夜、魔王様は聖女様を人間界からさらってきた。そして、ある場所に隠しているらしい。


(まぁ⋯⋯ここで暇を持て余すよりはいいけどさ⋯⋯)


 この魔王城で人間の働ける場所なんてない。

 魔族は皆、人間を敵だと思っている。そんな中であたしが働いたら事故に見せかけて殺されるかもしれない。だから、あたしはこの魔王城の片隅にある塔にかくまわれている。


 事実、この魔王城の住人には、あたしをどうやって殺すかを画策してる者もいる。それは、あたしの力でわかっている。


 一応、形だけでも役職をということで、魔王様は『作戦参謀』という役割を与えてくれているが、あたしは考えるのが苦手なので、その役職は不釣り合いだった。


 なにせ、考えごとをするより、体を動かしている方がよっぽど楽だ。


(メイド服かぁ、これを着るのは久々だなぁ……)


 人間界にいた頃に、一度だけメイドとして働いたことがある。だけど、それは長く続かなかった。その家の主人があたしに会うたびに気持ち悪い妄想をするので三日で辞めた。


 去り際に、主人があたしにちょっかいをかけようとしたので、殴って制裁しておいた。そのせいで、その地域であたしはお尋ね者になってしまった。


 だから、メイド服にはほんのちょっぴり苦い思い出がある。


 ──余裕を持つことが強者の矜持。ククク、我が命を落とすことなどありはしない! 強すぎて人間共に謝罪をせねばならんな! フハハハハ!


(なに言ってんだ、この人⋯⋯)


 魔王様の心の声を聞き、ちょっとだけ沈んでいた心が軽くなった気がした。


 ──まぁ、命を落とすことはないが⋯⋯既に落ちている物はあったな。聖女に心が落とされてしまった! だが、それは仕方あるまい、綺麗なモノを愛でたくなるのは、誰だってそうだろうさ!


(なんか言い訳を始めたぞ⋯⋯) 


 ──聖女よ、罪づくりなやつだ⋯⋯この世で一番の大罪人である我の心を落としたのだからな。


「うぇっ、気持ち悪ぅ……」


 魔王様のポエムを聞いて鳥肌が立った。

 そのポエムは全然ちっともうまくもなんともない。ただ自分に酔いしれているだけだ。


(それにしても、なんで聖女様を好きになったんだろ……)


 あたしは魔王様の想い人を想像して、「はぁ……」と大きなため息を吐く。


(聖女様の気持ちが魔王様に向くことなんてないのに⋯⋯)


 魔王様は聖女様に好きになってもらいたいようだ。だけど現実的に考えて、それは無理だろう。


 だって、聖女様は敵国の姫なのだから。


 ──聖女よ! 今は意地を張っているがいい! すぐにこの我がそなたの心を堕としてくれようぞ! ククク! ハッハッハッハッハ!


(その自信はどこからわいてくるのやら⋯⋯)


 あたしは心の中でツッコミを入れた。


 ──なにせ、こちらには心を読めるやつがいるのだからな! クハハハハ!


(あたしだよりかい!)


 あたしにすべてがかかっているらしい。なんてこったい。


 あたしは人間嫌いだし、この力を使うことに嫌な思い出しかない。だから、この仕事はあたしにとって難しい仕事だ。


(でもまぁ、やるしかないかぁ。ただ飯を食べ続けるわけにもいかないしね)


 魔王様曰く、「心の声が聞こえるのなら、相手を意のままに操ることが出来るのではないか?」ということだ。


(出来るかい!)


 思わず、思い出しツッコミをしてしまった。

 あの人はあたしの力をなんだと思っているのだろうか。この力はそこまで便利ではない。相手の心の声が聞こえるだけだ。相手の心を動かす力はない。


「はぁ……気が重い⋯⋯」


 あたしは寝間着を脱ぎながら、溜め息をついた。


 ──それにしても、マナはまだ起きてこないのか! 朝に聖女の元に行くと言ったはずだが! まったく……初日から寝坊するとはな!


(いやいやいや! あんたが早すぎるだけだよ! 今何時だと思ってんの⁉)


 外から差し込む太陽の明かりを見るに、まだ早朝にもなっていない。普段なら寝ている時間だ。


 そりゃ、魔王様は寝なくても平気だから時間は関係ないかもしれないが、あたしは人間だ。しっかりと睡眠をとらなくてはならない。


 ──仕方ない、起こしに行くか! ククク、仕方のないやつだ!


「え、いや……ちょっと待って!」


 あたしはまだ着替え中だ。寝間着を脱ぎ、新しい肌着を着けたところである。


 ──ソニック・ストライド! 魔王様は加速の魔法を唱えた。


 あたしは、扉の方を見る。あと三秒であの扉は開く。


 扉の鍵など、魔王様の力の前にはあって無いようなものだ。あたしは扉に向って壁の端に置いてあった愛用の手斧を手に取り、扉に向って投げた。

 その瞬間、何事もなかったかのようにがちゃりと音を立てて扉が開いた。


「遅いぞ、マナ! まだか寝ているのか──ごぶぅぅぅぅ⁉」


 ドガン! と斧が魔王様の顔に突き刺さり、その衝撃で魔王様は吹き飛んだ。

「勝手に扉を開けるなって、いつも言ってるでしょうが! 魔王様のバカ!」

 そう言い切り、あたしは扉を思いっきり締めた。

 あたしの下着姿が魔王様に見られていたかもしれないと思うと顔が熱くなる。


 ──くそっ、マナめ。本気でやりおって……不敬だぞ、不敬! だが許そう。なにせ、余は寛大な魔王だからな! フハハハハ!


 廊下から魔王様の反省していない心の声が聞こえてくる。

 あたしは「はぁ……」と大きくため息を吐き、扉から顔を出し廊下で倒れている魔王様を睨む。


「これ、聖女様にやったら一発で嫌われますよ。女の子に対するマナーをもっと学んでください……いいですね!」


「なんだ、これくらい」──聖女も、我に見られたら喜ぶのではないか?


「い・い・で・す・ね?」


「う、うむ」──なぜだ、なぜ我が気圧される⁉ これが、マナの持つ真の力なのか⁉ しかし、ここまでマナが言うのなら本当なのだろうな……気を付けるとしよう。出来るかはわからんがな、フハハハハハ!


 とりあえず、反省の色を見せているようなのでよしとした。聖女様の名前を出すと、意外と効果があることがわかった。


 それに、言いたいことが言えて少しばかり胸の内もスッとした。


(ああ、そうか。こういう風に相手をコントロールするんだな)


 あたしは、一つ学びを得た。力の使い方に対するコツを、ほんのちょっとだけ掴んだかもしれない。


(⋯⋯早く着替えよう。魔王様を待たせるわけにはいかないし)


 廊下に魔王様を待たせておくことは体裁が悪い。特に、あたしの立場は魔王様の所有物なのだから。


(それにしても⋯⋯ようやく魔王様に恩返しのチャンスがきたんだ⋯⋯)


 あたしは新品のメイド服に袖を通しながら、ふと昔を思い出す。


 魔界の入り口で野垂れ死にしそうになっていたあたしを、魔王様は救ってくれた。だから、いつかは恩返しをしたいと思っていた。


 ようやく魔王様に恩返しができる日がきて、少しだけほっとする。


 それが、魔王様と聖女様をくっつけるだなんて無理難題でなければもっとよかったのだけど。



(まぁ、やれるだけやるかぁ……)


 メイド服を着終え、あたしはちょっとだけ気合を入れるのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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