F.N.嬢の王宮観察
「俺の護衛騎士がこんなにかわいいのが悪い」シリーズの番外編です。伯爵令嬢F.N.は王宮で王太子殿下と護衛騎士のただならぬ雰囲気を察知して観察し妄想を爆発させる。薄い本を執筆し、滾った情熱を注ぐF.N.嬢。きわどいシーンが含まれているが、なぜかしっかりを目を通すレオンハルト。完璧なはずの王太子殿下の理性が揺らぐ瞬間である。大丈夫か、王太子殿下!
ごきげんよう。
わたくし、しがない伯爵令嬢ですわ、名乗るほどの者でもありません。
最近王宮にて侍女として花嫁修業に来ておりますの。
そこでとっっっっても、胸が躍る光景が見れまして、ひとり占めするのは忍びないと思い執筆活動をしておりますわ。
王宮にはレオンハルト王太子殿下というそれはそれは眉目秀麗な太陽がいらっしゃるのですが、最近その太陽の専属護衛となったリューカ・ヴァルトという殿方もまたまあ麗しいことこの上ないのです。そんな太陽と月のような二人の関係が、なんだかただならぬ雰囲気を醸し出していて…妄想が止まらないのですわ~~~~~!!!!
先日もほら!王太子殿下が…
◇◇◇
「リューカ。髪が乱れているぞ。」
「…えっ、あ、すみません、今整え――」
「おいで」
優しいまなざしと声でリューカを引き寄せて手櫛で直す。
「今日はこれから人前に出るからね。自慢の騎士として綺麗にしておかないと。」
「じ、自分でできますから…っ、ち、近いです」
顔を赤らめて照れるリューカ
◇◇◇
なんて場面がありましたの!!!!わたくし、滾ってしまって、ペンが進みますわ~~~~!!!
そうしてF.N.のペンネームで出版いたしましたお二人の蜜月を想像した
「獅子と仔猫」―――熱き忠義と禁断の思い
大変に好評いただきまして…想定以上の需要でしたわ…
あれは売れましたわね…
滾った思いは見た情景からさらに先を妄想してかかせていただきました。そうそれはもうきわどいシーンまで!ここで閨教育の知識が役に立つなんて、花嫁修業も馬鹿にできないですわね!
さらにさらに、こんなこともあろうかと、リューカさんの素敵な身体的特徴を抑えておりましてよ~~!!みなさんご存知ですか?彼は、わき腹にセクスィ~な黒子がございましてよ~~~!!
◇◇◇
王太子レオンハルトが最近読み込んでいるのは、例のF.N.嬢による薄い書籍である。
―――内容は、ベッドシーン。
とはいえ耽美で繊細、リューカの肌は「白く透けるようで、触れたら熱を帯びた」と描写されている。
「…触れたことがないのに、良く書けるな。確かに白く透けるような肌をしているが…触れたら熱を帯びるのだろうか…」
レオンハルトは表情にはおくびにも出さずに脳内で妄想を広げた。
そんな折、私服で訓練場に現れたリューカが窓の外にみえたので視線を移す。
袖をまくり、ズボンもゆるめの動きやすいスタイル。
小柄な身体ながら、鋭い剣筋で相手を制するその姿は、いつもどおりにカッコいい。
──しかし。
一閃の動きで身体をひねった瞬間、
ふわりと裾が浮き、
一瞬だけ見えた、腹筋の上のほくろ。
「………は?」
その小さくて美しい黒点は、光の加減で一瞬だけきらめいてすぐに布の下へ隠れた。
「あれは……反則だろ。なに? あんなところにホクロがあるの、知らなかった……。
いやでも、待って……どこまであるんだ、他にもあるのか? そもそもホクロがあるってことは、俺が見てもいいってことか……?」
(冷静になれ、自分。と自分に言い聞かせるも)
視線は、リューカの腰元に吸い寄せられてしまう。
そしてその日は、公務予定だったにもかかわらず――
「本日、殿下は**『書類整理のため私室にて静養』**とのことで」
側近に伝えられた理由だが、実際は――
「……お願いだから、あのホクロのこと、しばらくは忘れさせて……」
(※薄い本の該当ページをぱたんと閉じる)
「本当にあったなんて……あの位置に、あんなの……ずるいだろ……ッ」
「殿下、俺のお腹になにかありますか……?視線を感じるのですが…」
(視線そらしながら)「ああ……あるかないかで言えばある。あるんだが…気のせいだよ、リューカ。君は何も悪くない。」
(心の声)
「俺が悪い。全部俺の理性が弱いせいだ……あのホクロ、反則級すぎる……」