『薬仁、吉田斎宮の臨終に参り会ひ朗読を始むるふりをすること』速記談3102
薬仁上人が吉田斎宮の御臨終に参会し、斎宮に釈迦牟尼仏、名毘盧遮那、とお唱えなさった。斎宮は、一切処々、其仏住処、名常寂光とお続けになって、ほほ笑んで目を閉じられた。おそばに使えていた女房たちが、長年の本懐を遂げられたことでしょう、私たちも安心しました、と申し上げ、斎宮が速記が得意であったことなど、昔語りを始めると、薬仁上人は念仏をやめ、はい読みます、と朗読を始めるようなことをおっしゃった。すると、斎宮が蘇生なさり、何と悔しいことでしょう、本当に朗読してくださるなら、一緒にお連れしようと思いましたのに、とおっしゃって、また少し念仏をお唱えになり、眠るがごとくお亡くなりになった。薬仁上人は、これが本当の御最期ですとおっしゃった。
教訓:速記の用意を整えて、朗読を待つばかりとなったとき、朗読が始まらないと私語が始まったりしてだらけるものであるが、はい読みます、の声がかかると、一瞬で座が静まる。