第六章:闇に潜む真実
茶子が涙ながらにいじめの詳細を語り、きいと和兎が彼女を慰める中、保健室の窓から差し込む夕日の光が静かに二人の背後を染めていた。しかし、和兎はどこか引っかかるものを感じていた。
「茶子、噂が広まったのはいつ頃からだ?」
和兎は冷静に問いかける。
「……数週間前くらいかな。それまでは何もなかったのに、突然……」
茶子は俯いたまま答えた。和兎はその言葉を注意深く聞き取った。
「君に何か特別な出来事があったわけではない? 例えば、誰かに接触されたり、怪しい人物が近づいてきたりとか?」
「……特に思い当たることはないけど……」
茶子の声はかすかに震えているようにも見えた。
きいはそれを聞きながら、なおも彼女を気遣っていたが、和兎の瞳はどこか冷静で鋭い光を放っていた。何か、まだ隠されていることがある——和兎の勘がそう告げていたのだ。
「ひとまず今日はここで休んでいって。君が少しでも安心できるように、僕ときいができることは何でもするから」
和兎はそう言って、茶子に優しく微笑んだ。だが、その微笑の裏で、彼は冷静に思考を巡らせていた。何かが、全体のピースと合わない。それは茶子が意図的に隠しているものだと、和兎は直感していた。
保健室を出た後、和兎ときいは廊下で立ち止まり、二人だけの話を始めた。
「ワトソン先生、茶子のこと……本当に大丈夫だよね? あんなに辛そうだったし、きっともう限界だったんだよ」
きいは心配そうに和兎を見上げた。いつもの無邪気な表情とは違い、今日は重々しい空気が漂っている。
和兎は少し黙ってから、口を開いた。
「きい、僕たちは茶子のために動いているのは間違いない。でも……少し違和感を感じているんだ。茶子が全部を話していない気がする」
「えっ、どういうこと? 彼女は被害者でしょ?」
きいは驚いた顔をしたが、和兎はさらに冷静に続けた。
「彼女が語っていることは確かに真実かもしれない。でも、それが全部ではない。特に噂が突然広がったという点が気になる。誰かが意図的に仕組んでいるか、あるいは茶子自身がその渦中にいる可能性がある」
「まさか、茶子がそんなことを……?」
きいは眉をひそめながら疑問を口にしたが、和兎はさらに言葉を続けた。
「確信はまだないけど、彼女が単なる被害者だとは言い切れない。今はまだ、見守るしかないが、少しずつ彼女の周りの人間関係や動向を探る必要がある」
「でも、茶子を疑うなんて……そんなの嫌だよ」
きいは不安そうに訴えるが、和兎は彼女の肩に手を置き、優しい声で言った。
「僕たちは真実を探し出すために動いている。感情だけで判断してはいけない。きい、君もこれからは冷静に考えるんだ。誰がどんな意図で動いているのかを見極めることが大切だ」
きいは和兎の言葉に頷き、少しずつ落ち着きを取り戻した。
「わかった……私はワトソン先生についていくよ。これ以上、茶子を苦しめたくないし、真実を突き止めたい」
その時、保健室のドアが微かに開く音が聞こえた。振り返ると、茶子がドアの隙間から二人の会話をこっそり聞いているようだった。彼女は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐにドアを閉め、ベッドに戻った。
「……今、茶子が聞いてた?」
きいが小声で和兎に囁く。
「どうやら僕たちの会話に気付いたみたいだな」
和兎は静かに言い、考え込んだ。
**茶子は何かを隠している。**
和兎の胸にその確信が深まっていく一方で、きいもまた、その複雑な感情を抱えながら、次に何をすべきかを考え始めた。彼女たちが目指す「真実」は、思った以上に深く、暗い闇の中に潜んでいるのかもしれない——。
そして、その闇の中心には、予想だにしなかった「黒幕」がいるのかもしれない。