第四章:突如起きた騒動
和兎ときいは、倉庫の資料を持ち帰り、関係者を探る作業を進めていた。木箱の中にあった個人情報を調べていくうちに、ついに手がかりを掴みかけていた。
「ここにサインが残ってる。見覚えがあるな……」
和兎は学校の職員の誰かが関与している可能性に気付き、きいに資料を見せた。そこには、学校で働く人物の名前が隅に書かれていた。どうやら、この木箱を倉庫に運び込んだのはその人物かもしれない。
「やっぱり学校内部の人間が関わってるってことだね……この人に話を聞きに行かない?」
きいは興奮しながら提案したが、和兎は慎重に対応を考えていた。
「直接聞くのはリスクが高い。相手に気づかれると証拠が隠されるかもしれない。まずは様子を探ろう」
「ワトソン先生、慎重すぎ!でも仕方ないね……」
その瞬間、学校中が突然騒がしくなった。廊下からは生徒たちのざわめきが聞こえ、教師たちが慌ただしく走っている。
「何が起きた?」
和兎は保健室の外に出て、様子を確認した。外では、生徒たちが校舎の上階に向かって走っているのが見えた。
「なんか嫌な予感がする……行こう!」
きいが駆け出し、和兎もその後を追う。騒ぎの中心は校舎の屋上にあるようだ。階段を駆け上がる途中、生徒の一人が興奮した様子で和兎に説明した。
「屋上にいるんです!森亜 茶子が……飛び降りようとしてるんです!」
その名前を聞いた瞬間、和兎ときいは顔を見合わせた。**森亜 茶子**は、きいの同級生で普段はおとなしく目立たない存在だった。しかし、今は屋上で飛び降りようとしているという。
「茶子が……どうしてそんなことを?」
きいは混乱しながらも、すぐに屋上へと駆け上がった。和兎も後を追い、屋上に到着すると、すでに教師や生徒たちが集まり、誰もが息を飲んでその光景を見守っていた。
茶子はフェンスを乗り越え、まさに今にも身を投げ出そうとしているところだった。彼女の顔は青ざめ、手は震えていた。
「茶子!待って!」
きいが叫ぶも、茶子は反応せず、ただ遠くを見つめていた。
「まずいな……」
和兎は素早く状況を把握し、茶子に話しかけるべきだと判断した。教師たちが下手に動けずにいる中、和兎は一歩前に出て、落ち着いた声で話しかけた。
「茶子、少し話をしないか?」
茶子は一瞬だけ反応したが、すぐに震えた声で言った。
「もう……何もかも無理なんだ……」
その声には深い悲しみと絶望が込められていた。和兎は一歩ずつ、静かに彼女に近づきながら続けた。
「君が感じている苦しみや辛さ、全部話してくれればいい。解決できないことなんてないんだ」
和兎の言葉に、茶子は微かに反応し、少しずつ体をフェンスの内側に引き戻そうとした。その瞬間、和兎はさらに一歩踏み出し、彼女に手を差し伸べた。
「話してくれれば、必ず助けになる。君は一人じゃない」
「……ほんとうに?」
茶子は涙を浮かべながら、和兎を見上げた。彼女の手はまだ震えていたが、フェンスを越えてこちら側に戻る決心が固まりつつあった。
その時――
突然、茶子の足が滑りかけた。周囲が一斉に息を飲む。
「茶子!」
きいが叫び、和兎は瞬時に反応して彼女の腕を掴んだ。茶子はフェンスの上から体を投げ出しそうになったが、和兎の冷静な対応によって、辛うじて引き戻された。
「……もう大丈夫だ」
和兎は深く息を吐き、彼女を抱えながら静かに囁いた。
茶子は震えながらも泣き崩れ、和兎の腕の中でようやく落ち着きを取り戻した。しかし、きいと和兎は、この出来事が単なる個人の問題ではないと感じていた。茶子がここまで追い詰められた背景には、何かもっと大きな理由があるに違いない――。
その真相が、さらに深い謎を二人に投げかけ始めたのだった。