エピソード1 高牧紀子《たかまきのりこ》
昔、私がされた事を入れています。
洗い物が増えていくのは、辛かった。指先も痛くなってきますから……。
「すみません。こちら、もう少し丁寧に置いていただけませんでしょうか?」
「あんた田舎もんだって私達の事を馬鹿にしてるんでしょ」
「東京から来たからって偉そうにして」
「そんな事はしていません。すみませんが、ご注文のお蕎麦を2つお願いいたします」
「はい、うどん2つ」
「うどんではなく、お蕎麦です」
「いいよ、いいよ。お蕎麦嫌いじゃないから」
「すみません」
かけうどん、そばで有名な【いちらく】の沖縄店にやってきたのは、半年前の事。
正社員になりたての私は、結婚していない事と24歳だからという理由だけでここに送られてきた。
私が赴任したのが気にくわなかったのは、ここで一番長いパートの島袋好子さんだ。
島袋さんは、私のやり方が気に入らないようで……。
その嫌がらせの為に、わざと注文を間違えて渡してきたり、聞こえないふりをする。
「今回は大丈夫でしたが、お客様がアレルギーなどがある場合もありますので気をつけてください」
「高牧さんの声が小さくて聞こえなかったから仕方ないじゃないですか……」
「それなら、もう一度聞き直してください」
「はい、はい。都会から来た人は、こっちの訛りも聞きにくいだろうから。気をつけますよ」
店長の新垣康子さんに怒られた島袋さんは、ペコペコと頭を下げて持ち場に戻った。
「高牧さん、何かあったらいつでも言ってね。高牧さんは、正社員なんだから遠慮しないで」
「はい」
「覚える事、大変だけど。楽しいからね」
「はい」
仕事は嫌いじゃなかった。
東京にいる時からそうだ。
お客様が「美味しかった」と笑顔で言ってくれるだけで幸せ。
持ち場に戻ると、お皿洗いを始めた。
島袋さんは、嫌がらせのようにお皿を渡してくる。
「これは、洗えています」
「ええ!そうね。汚いから、まだだと思ったわ」
「洗ったものしか、そちらに置かないので、次から気をつけてもらえますか?」
「はい、はい」
島袋さんは、私を睨むと隣にいる大城保孝さんに声をかけた。
「本当に。これだから都会の女はよくないのよね。全く、可愛げがない」
「わかるわかる。高飛車で傲慢だからな」
「すみません、教えてください。わからない時はどうしたらいいですか?とか聞いてくればこっちも優しくしてあげようと思うわけよ」
「わかる、わかる。チームプレーなのにわかっていないから困るんだよな」
その場で働いているみんなに聞こえるほどの大きな声で叫ぶ。
島袋さんが一番古いからだろう。
島袋さんの言葉に、誰も反論する人はいない。
賛同しているのは、大城さんだけだ。
「洗い残しがある」
「洗えています」
「汚いでしょ!見てわからないの」
洗ったお皿を何度も何度も戻してくる。
何度洗ってもやり直しをさせられる。
いったい何なのだ!
いつになったら、終わるの。
「高牧さん、少しいい?」
「はい」
「私が代わります」
「よろしくお願いします」
比嘉真さんがやって来て皿洗いを代わってくれる。
私は、すぐに店長さんの元に行く。
「高牧さん、暫くこっちの作業を覚えてくれる?」
「えっと……」
「正社員だから、発注とかも覚えてもらわなきゃいけないでしょ」
店長は、優しくしてくれる。
この人の為にも、頑張りたい。
頑張って、仕事を覚えよう。
「島袋さんに嫌がらせ受けてるでしょ?」
「いえ……」
「隠さなくても、さっき話を聞いたからわかってる。言いたくないかも知れないけど。私でよければ話してくれない?出来る限り協力するから」
「すみません。ありがとうございます」
店長のお陰で暫くは事務所で仕事をする事になった。
そのお陰で、島袋さんに会う事はなかった。
しかし……。