黒猫の秘密
【開かずの魔から現れた魔獣が大嫌いな隣人を飲み込んだ件】を最初に読んでいただくと話の内容がわかります。
過去に私が出会った人達をモチーフにして物語を書いています。
もしも、飼い猫が死猫だったら救われたかも知れません。
皆さんには、死猫に捧げたい人がいますか?
妻が仕事に行ってから、20万匹の黒猫達にご飯をあげる日々。
この猫の1匹である虎太丸には、大きな貸しがある。
それで、俺はこの黒猫達を住ませる事になった。
あれから、8年の月日が流れた。
1匹、1匹は可愛いけれど、20万匹集まると気持ち悪い。
何か、怖い。
『おい!言い過ぎな』
「はい、はい。すみませんでしたね」
虎太丸と話す事にも慣れてきた。
3年前に1度50万匹まで増えた黒猫達は、何故か20万匹まで減ってしまった。
『新しい子供達がもうすぐ1万匹のお腹から産まれる』
「ようやく増えるのか!1度増えていただろ?」
『50万匹までいったはずだ。しかし、この家に戻ってくるまでに殺されたり辿りつけなかったりひかれたりして亡くなった』
「待て待て、猫だって言っても。虎太丸達は、死猫だろ?何で亡くなるんだよ」
『人間に接触する時、俺達は人間が触れる事が出来る物体に変化する。その時間に、危害を加えらたりひかれてしまうと命はなくなる』
「じゃあ、俺を助けた時……」
『あの時は、俺も死んだ。しかし、俺の場合は命は落とさない。それは、1000年間、勇者様に必要な部品を届けたからだ。1000年、1日もかかす事なく勇者様の剣の材料を届けたものは魔法道士から永遠の命を与えられる。俺達が繁栄する為には、永遠の命を持った死猫が必要なのだ』
「だったら、虎太丸の両親は?」
『残念ながら、後1日のところで亡くなったよ。お腹がすいていて食べたご飯に毒が仕込まれていたらしい。永遠の命を持った死猫は、俺をいれても僅か10匹だ』
がっついてご飯を食べる黒猫達を見る。
この黒猫達は、人間を助ける為に働き、人間に殺される事もあるのだ。
「よく人間が嫌いにならないね」
『本来の人間達は、頭がよく利口な生き物だ。相手に思いやりや優しさを持って寄り添える。しかし、最近の人間は様々な機械と暮らすようになって変わってしまった。自分さえよければ、自分の愛するものだけよければ、身勝手な感情に支配されて他者を傷つけ苦しめている事さえわからなくなっている。だから、俺達が本来の人間ではない人間達を始末するのだ。本来の人間達は、声をあげられずに苦しんでいる。優しい人間が苦しめ傷つけられる世の中は間違っていると思っている』
「ありがとう、人間を嫌いにならないでくれて」
『別に、お前の為ではない』
虎太丸は、照れたのか耳を掻いている。
もしも、あの日。
虎太丸が現れなかったら、俺も身勝手な人間の1人になっていたのかも知れない。
母さんを助けたかった。
母さんには、生きて欲しかった。
『お前の母親は、お前や隣人の事を考えて、俺に何もしないで欲しいと頼んできた』
「えっ?」
『お前の母親に会ったのは、お葬式の日だ!俺は、ここに住む住人を守っていた。お前の祖父母は、俺の両親を必死で介抱してくれた人達だ。俺は、勇者様から渡された金貨をここに運び。あの人達は、俺にキャットフードを与えてくれる。お陰で、俺達一族は、飢える事がなくなった。お前の祖父のお葬式にやってきた俺は、この家を引き継いだお前の母親に会った』
虎太丸は、懐かしそうな表情を浮かべる。
『何かあればいつでも力になると言った。それで、声をかけたのだけど。お前の母親は、いつか変わってくれるから。悪い人なんていないのよと俺に言った。お前の母親は、優しくて暖かい人間だ』
虎太丸は、小さな声で『申し訳ない』と呟いた。
母さんは、隣人がいつか変わってくれると信じていたんだ。
隣人にも、良心があると信じたかったんだ。
『優しい人間が救われない世の中は、間違っている。お前は、俺達を正義だと思ってくれるか?』
「思うよ!現に、俺は救われたんだから」
『それじゃあ、話しは早いな。とりあえず、これを……』
虎太丸は、俺に黒い布を渡してくる。
何だ、これ?