001
「やった、か」
勇者が迂闊な台詞を吐くも、もはや勝敗は決している。この世界を侵略すべく〝門〟を開いて暴虐を開始した魔王は、その存在を消滅しようとしている。場面は既に不可逆だ。
――長かった。突然の終末が襲来した、これが地獄ですよ、といわんばかりの世界の危機に、最後の希望として呼び出された俺と五人の仲間。中世と近世を捏ねて焼き上げた、魔法とスキルとステータスウィンドウのある世界。そしてそれぞれに初めから与えられた、この世界には存在していなかった〝固有スキル〟を確認した瞬間は絶頂だった。
「どうやら、これで終わりのようだな」
折れた杖を、それでもまだ親友のように抱いている賢者が状況の確認を終えて、告げる。こいつは俺が最も信頼する、知性と怜悧を備えた友だ。彼がそう判断したのなら、間違いはない。
「ボクの拳、何か見たこともない形になってるんだけど、これって治るよね?」
聖気を纏った拳で一切を破壊する、我らがパーティーのダメージディーラーである聖闘士が格好悪く笑う。俺は知っている、彼女の〝強い気持ち〟こそが俺達をここまで導いたのだと。
「私の回復が、必ず元にしてみますよ。いまは魔力切れで身動ぎも出来ませんが」
メイスから魔王の血を滴らせ、震える膝に気合で立てと命じている聖女が約束する。光の魔法を攻撃に特化しやがったお陰で、いらん苦労を強いてくれたパーティーの地雷ではあるのだが、確かに幾度も助けられた。
「この盾はもう、修復も効かんな。素材集め、手伝って貰うぞ」
異世界から召喚された唯一の地球人ではない、壮年のドワーフがやれやれ顔で立ち上がる。どうやって生き残ったのかもよく判らない致命傷を幾重にも受けて、文字通りの盾となった人類の傑作だ。
「これが世界の選択だった。そういう事だ。俺たちはこの行いを誇っていい」
そしてこれが俺だ。影使い。斥候と暗殺を生業とするあらゆる厨二病患者の羨望する、異世界にしかその存在を許されない特殊ジョブと、数々の権能を有した悲しき兵器である。
「みんな、まだ生きてるかい?」
最高に死にそうにしか見えない勇者が、砕かれた顔面の笑顔で問う。俺はこの男が一番判らない。地球の日本から呼ばれたって、他の奴らに合わせた嘘だろ。少なくともホモサピじゃない。全能力が人類を超越し、最前線で致命傷を受けてからが本番の聖騎士にして勇者。俺はこの男がいた事が、魔王討伐の決定打になると、それしかないからこのパーティーに参加したのだ。放っておけば神殺しにまで届きかねない、異常者であり人類の守護者だ。
それだけの面子がここに至って、成し遂げたのだ。誰を誇ってもいい、俺はこれに参加した決断を誇っていい。
――その時、魔王の完全な死が遂げられたその瞬間、声がそれを言った。
『お疲れさまでした。これにて魔王討伐イベントを終了します。参加者の皆様には個別に報奨を差し上げます。そして貸与した個別能力の回収を行います。重ねて、お疲れさまでした。協力に感謝します――』
――そして世界が、俺の世界が暗転した。この悲劇が俺だけのそれであれば、と願ったのだけは、かすかに覚えている。




