緑色のレインコートの女の子
子供好きのあんたなら、聞いたことあるかな? 「緑色のレインコートの女の子」って話を。
緑色といっても濃い緑じゃなく、むしろ黄緑って感じの色。ちょうど昔の山手線の色だ。
いや山手線を引き合いに出したのも理由があって、その女の子が現れるのが、ちょうど山手線の駅の一つなんだ。
年齢は五つか六つくらい。雨なんて降っていないのにレインコートを着て、しかもきっちり頭までフードを被った格好で、ビラ配りしているという。
俺の耳に入ってきたのはそんな噂話で、それだけならば都市伝説の類いだろうと聞き流せたんだが……。
つい先日、その「緑色のレインコートの女の子」に、俺自身が遭遇しちまったのさ。
あそこの駅は地下鉄が乗り入れていて、もちろん地下鉄は地下だけど、山手線が走っているのは高架の上だ。高架下の奥が駅舎だから、駅を出てもまだ頭上が覆われている構造で、雨の日もそこなら濡れる心配はない。
そんな場所で晴れた日に、小さな女の子がレインコート姿で「お願いしまーす!」とビラを配っているもんだから、道ゆく人々の目にも留まりやすい。
俺もふと足を止めて、彼女の小さな手からビラを一枚受け取った。すぐにまた歩き出すつもりだったが……。
もらった紙に書かれていたのは「探しています」の赤い文字。尋ね人のビラだった。
赤字の下には、それよりは小さな文字で、さらに事情が付記されている。この近くで幼い子供が行方不明になったこと、灰色のワゴン車に乗り込む姿が見られていること、その女の子の名前や当時の服装などだ。
彼女の写真も当然、掲載されていた。ぷっくりした頬っぺたと、くりっとした瞳が可愛らしい。無邪気な笑顔を浮かべて、緑色のレインコートに身を包み……。
いやはや、びっくりした。心臓が止まるかと思うほどだった。
写真の幼女には見覚えがあったからだ。
驚いて目の前の子供のフードを覗き込めば、写真と全く同じ顔じゃないか!
何年も前だし何人もいたから、それぞれの外見なんてすっかり忘れていたのさ。
でもビラを見たおかげで、完全に思い出した。
この子は昔俺がさらった子供たちの一人だ、ってね。
街で可愛い子供を見かけて連れ帰り、だけどあんまり泣き喚くもんだから対処に困って……。
そこまではよくある話だよな? あんただって経験あるだろ?
だからあんたも気をつけろよ。どうやら遺体の始末だけじゃ足りなくて、きちんと供養もしてやらないと、いつまでも成仏できないらしい。
(「緑色のレインコートの女の子」完)