表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【短編】ホラー短編シリーズ

緑色のレインコートの女の子

作者: 烏川 ハル

   

 子供好きのあんたなら、聞いたことあるかな? 「緑色のレインコートの女の子」って話を。


 緑色といっても濃い緑じゃなく、むしろ黄緑って感じの色。ちょうど昔の山手線の色だ。

 いや山手線を引き合いに出したのも理由があって、その女の子が現れるのが、ちょうど山手線の駅の一つなんだ。

 年齢は五つか六つくらい。雨なんて降っていないのにレインコートを着て、しかもきっちり頭までフードを被った格好で、ビラ配りしているという。

 俺の耳に入ってきたのはそんな噂話で、それだけならば都市伝説の(たぐ)いだろうと聞き流せたんだが……。

 つい先日、その「緑色のレインコートの女の子」に、俺自身が遭遇しちまったのさ。



 あそこの駅は地下鉄が乗り入れていて、もちろん地下鉄は地下だけど、山手線が走っているのは高架の上だ。高架下の奥が駅舎だから、駅を出てもまだ頭上が覆われている構造で、雨の日もそこなら濡れる心配はない。

 そんな場所で晴れた日に、小さな女の子がレインコート姿で「お願いしまーす!」とビラを配っているもんだから、道ゆく人々の目にも()まりやすい。

 俺もふと足を止めて、彼女の小さな手からビラを一枚受け取った。すぐにまた歩き出すつもりだったが……。


 もらった紙に書かれていたのは「探しています」の赤い文字。尋ね人のビラだった。

 赤字の下には、それよりは小さな文字で、さらに事情が付記されている。この近くで幼い子供が行方不明になったこと、灰色のワゴン車に乗り込む姿が見られていること、その女の子の名前や当時の服装などだ。

 彼女の写真も当然、掲載されていた。ぷっくりした()っぺたと、くりっとした瞳が可愛らしい。無邪気な笑顔を浮かべて、緑色のレインコートに身を包み……。


 いやはや、びっくりした。心臓が止まるかと思うほどだった。

 写真の幼女には見覚えがあったからだ。

 驚いて目の前の子供のフードを覗き込めば、写真と全く同じ顔じゃないか!



 何年も前だし何人もいたから、それぞれの外見なんてすっかり忘れていたのさ。

 でもビラを見たおかげで、完全に思い出した。

 この子は昔俺がさらった子供たちの一人だ、ってね。


 街で可愛い子供を見かけて連れ帰り、だけどあんまり泣き喚くもんだから対処に困って……。

 そこまではよくある話だよな? あんただって経験あるだろ?

 だからあんたも気をつけろよ。どうやら遺体の始末だけじゃ足りなくて、きちんと供養もしてやらないと、いつまでも成仏できないらしい。




(「緑色のレインコートの女の子」完)

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ