5.真相
「名前は、鷹見秀人。年齢は二十二歳、この春、大手のIT企業に就職する予定。
美鈴の高校のクラスメートで、当時、彼女の誕生日に何かプレゼントをしたのかな?多分、告白の意味もあったんだろう。
だけど、美鈴は鼻から相手にしなかった。
そして今、これだ…」
綺道は、美鈴に送りつけられた写真を取り上げた。
鷲見は顔を真赤にした。
「なんですか!勝手に人の家に上がり込んで!」
鷲見のアパートは、名簿に記載された電話番号の契約者情報からたどった。
内定先は机上とゴミ箱の紙類を漁れば簡単に割れる。朝から張り付いて尾行するまでもない。
「姪っ子に迷惑かけたのは君の方じゃん?だから君に会いに来た。そしたら、なぜか偶然カギが開いてたんだ」
綺道は、鷲見を立たせたまま、彼が普段パソコンの操作に使っている快適なオフィスチェアに座って足を組み、事もなげに言った。
実際は、入るときに綺道の他に二人いた。
一人は元空き巣でピッキングの名人。
もう一人はホワイトハッカー。
いずれも大衆協力者。いわゆるマルハンだ。
三人は引越し業者の扮装で鷲見のアパートに侵入し、綺道は私服に着替え、ひとり残った。
「高校を卒業して二年後にチャンスが来た。成人式の同窓会だ」
綺道は話を続けた。
「君はビンゴゲームの担当に名乗りを上げる。そして、美鈴が受け取ったビンゴカードと、パソコンの抽選ソフトをリンクさせた」
「何を根拠に…」
「美鈴の部屋にあった掃除ロボット。
あの子には、あれが貰い物だという感覚がなかった。自分の運で、自分が手に入れたものと錯覚したんだろうね。
だが、あれはビンゴゲームの賞品じゃない。君のプレゼント、君が当選を仕組んで送り込んだスパイだ」
掃除ロボットには、部屋のマッピングや障害物検知のためのカメラが内蔵されている。
そのレンズを広角に改造し、解像度を上げ、Wi-Fiを通じてデータを送信する。知識と技術があれば難しいことではない。
「掃除ロボットを分解して、証拠を固めるのは後回しにした。君を警戒させたくなかった。
でも、さっき君のパソコンの中身を覗かせてもらった。なぜか偶然、電源が立ち上がってたんでねー。予想どおりの画角の画像が大量にあったよ。
あれを画像生成AIに食わせたんだろ?」
鷲見は、床にへたり込んだ。涙目になっている。
「僕は逮捕されるんですか?」
「警察に突き出すなら、話し合いに来ないさ」
綺道はアゴに手を当てた。「君には見どころがある」
「変態の糞ストーカーだが、発想が面白い。
生成画像を見せてもらったが、あの子を美しいままに愛でたいという気持ちが伝わったよ」
綺道がじわじわと追い詰めると、
「申し訳ありませんでした。傷つけたいんじゃない。誰にも触らせたくない!僕が見守りたいんです」と鷲見は泣きじゃくった。
綺道は立ち上がり、鷲見の肩に両手を載せた。
「分かった。あの子と話し合って決めるが、悪いようにはしないつもりだ」
アパートを出る際、綺道は言い残した。
「あの子のデータは全部消したよ。君がまた変な気を起こしたらマズいだろ?
代わりにあの子の実家の犬の写真を入れといた」
キンタという名の柴犬。
三六〇度四方から、妹が喜んで撮影した画像をAIに学習させた。
「美鈴が子どもの頃から可愛がってる犬だ。大事にしてやってくれ」
ガチャリとドアを閉じた。