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2.聴取


 綺道は姪っ子の気分を落ち着かせるように、ゆっくり聞き取りを始めた。


 温かい飲み物を頼み、甘いケーキを食べさせた。彼も同じものを注文した。


「俺に相談したのは、誰がやったのか、それを知りたいから。…だよね?」


「うん。なぜ、どうやって。それも知りたい」


「そう。そのために、これから色々と質問するけど、一つ頼みがある」


 彼は顔に力を込めた。


「嫌な質問があっても、本当のことを言ってほしい。答えたくないときは、黙っているだけでいい。無理して答えなくていい」


「分かった」


「よし。じゃあ、始めよう」




「まず、誰かの前でブラを外した場面を思い出してくれ。高校以降でいい。

 具体的に、その場面か、その相手を教えてほしい。ゆっくりでいい」


 美鈴は一瞬、言葉に詰まったが、すぐに立ち直った。


 水泳の着替え、様々な旅行先の浴場、プールの更衣室、医者に対して…

 美鈴は挙げていった。


 だが、男の存在が見えない。


「人のいない空間、試着室とかは?」


「それはあるけど…ちゃんとしたお店でしか下着とか水着を買わないし、いくら試着でもパンツまで脱がないし」


 美鈴は写真の股間のあたりを指先でつついた。


「付き合った相手には?」


 美鈴は頬をふくらませ、「キス以上はしないよ」と言い切った。


 リベンジポルノではないということか。


 普通に考えて、盗撮する可能性が高いのは、交際相手。だが、友人や家族、美鈴の父親である貴臣の可能性も排除できない。


 貴臣は、二十歳近くなるまで美鈴と同居していたし、人工知能を含むITの専門家でもある。


 綺道は冷静に様々な可能性を考えたが、一々口には出さなかった。


「女の人、って可能性ある?」と美鈴が質問した。


「心当たりが?」


「ううん。少なくとも私が知ってる人はこんなことしない」


「もちろん共犯含めて、女性が関わっている可能性はある。だが、確率は低い」


「なんで?」


「こいつはスズちゃんを性的に見ている。狡猾でテクノロジーに頼るところも男の傾向だ」


 この写真自体は盗撮の証拠にはならない。“似ているのは偶然だ”としらを切ることもできる。


 現に美鈴は警察に被害届けを出すのをためらっている。


 陰湿な男の悪知恵が透けて見えた。


「うえっ」と美鈴は顔をしかめた。




 次に居室について聞く。


 美鈴は最初、横浜市内の実家から通学していたが、大学二年目で都内の賃貸アパートに引っ越した。


 綺道はGoogleマップで位置関係を頭に入れた。


「後で部屋を見せてくれ。外から望遠レンズで、あるいは内部に隠しカメラ、その両方の可能性を調べたい。

 駅近の住宅街だから、ドローンを飛ばして外から撮った可能性は低いかな…」


「部屋の中はママと全部調べたけど…」


 美鈴は浮かない顔をした。




 最後に綺道は、友人関係の顔写真や名簿を求めた。


「高校の卒業アルバム、名簿、修学旅行とかの集合写真、大学のサークルとかクラスとか、その名簿とか。スズちゃんの周りの人間を知りたい。

 できれば、スマホの写真も見せてほしい」


 綺道は、後輩を使った裏ルートで前科照会をかけるつもりだった。万引き、交通違反、何でも手がかりになる。

 公安で学んだ。

 “人の本性は表に見えない”

 そして、“その本性も変わる”と。


「分かった。アルバムとかは後で部屋に行ったとき見せる。スマホだとこんなのあるよ」と美鈴はスクリーンを見せた。


 美鈴は華やかにパーティードレスを着こなしている。その前の写真では和服姿だったので、成人式のようだ。


「高校の同窓会をしたの」


「なるほど…」綺道は目を凝らした。「なかなか盛り上がってるね」


「お酒飲めるようになったしね」


「この中に、スズちゃんが付き合ってた、とかスズちゃんのこと好きだったヤツはいる?」


「うーん」と美鈴は苦笑いした。


「このサッカー部の隆史君は、ちょっと付き合ったかな?ビンゴゲームの司会してるこの人は、名前忘れちゃったけど、誕生日にプレゼントをもらったことある。それから…


 綺道は男たちの顔を次々とインプットしていった。


 現役当時は、極左暴力集団の活動家の“面割り”を数百人、軽くこなしたものだ。




 写真を送りつけた封筒も回収した。


 差出人は美鈴が通う“K大学学生課”を名乗っている。


 すべて特徴のないゴシック体で印刷されていた。同封された手紙などはなかった。




「念のためだが…」


 別れ際に綺道は付け加えた。


「スマホのカメラを塞いでおいてくれ。シールを貼るとかで」


「なんで?」


「調べてみないと分からんが、乗っ取られてる可能性もある」


「まさか」


 綺道は、スマートフォンを遠隔操作するスパイウェア“Pegasus”の事例を説明した。


 “Pegasus”は、データを盗み出すだけでなく、密かにカメラやマイクをオンにし、盗撮や盗聴することができた。


「その可能性は、サイバーの専門家に渡りをつけてから確認する。協力してくれそうな心当たりが何人かいる」




「じゃあ、後で」と声を掛けると、綺道は念のため、先にファミリーレストランから外に出ることにした。


「伯父さんに相談してよかった」


 綺道が席を立つと、美鈴は笑顔で小さく手を振った。



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