つないで紡いだ絆。
「それ、えっぐが貰えばいいんじゃない?」
うふが、えっぐの手の中にある物を示して声をあげる。
「これ、リタとアメリアのだよ!」
「だって、それ、想いがえっぐに向いているよ?」
うふも妖精さんなので、物のきもちが見える。
えっぐはぱちくりとまばたきをして、手の中にあるものを見ると、物のこころがえっぐに向いていることに気づいた。
片方の手に持っていた布の包みを、うふに預けて、リタから預かった絵を開けてみると、2枚の絵があった。
ひとつは小さい頃のアメリアとリタの絵が描いてあり、2人の間にえっぐがいる絵。
もうひとつは、おばあちゃんになったアメリアとリタの絵。そしてやはりそこにも、えっぐが描かれていた。
「アメリアは、ふしめで自分の肖像画をリタに送っていたなぁ、そういえば。それをもらったリタも、自分の似顔絵を描いて送っていたなぁ」
文字のやり取りは、結局最後までやっておらず、長い伝言をえっぐに頼むこともなかった2人。
絵と、刺繍や押し花のやり取りが、長年続いていた。
「やっぱり、これえっぐにあげるやつだったんだね」
うふは2枚の絵を持って、今度は包みを渡す。
えっぐはシュルシュルと布袋のリボンを取って中身を見ると、出てきたのは刺繍がほどこされたハンカチ。
風景画のような雰囲気の刺繍と、色えんぴつの刺繍。それを持っているえっぐの姿が糸で描かれている
「わぁ、こっちにもえっぐ!」
「ねぇ、えっぐって、こんなにまるいの??」
「うん、まるまるしてる」
えっぐが気になったのは、そこであった。
隣にいるうふはヒョロンとしているのだが、自分はこんなに丸かったのか、とビックリしてしまう。
人間の世界にいるとき、妖精さんはかがみに映らないのだ。
そして、容姿を気にすることもなく生きてきたのもあり、自分の姿をしっかり教えてもらったような気分である。
「えっぐは、人間さんからのありがとうを、たくさんもらってきてくれたんだね」
「そうなの?」
うふが空いている手で、もこもこした花を摘んでぱくりと口に入れた。もごもごしながらも、また花を摘んでえっぐの口へ持っていくと、えっぐもぱくっと口に含む。
「ふあっ……おいしい」
島にある植物はお菓子のような美味しさで、ありがとうの気持ちをもらってきた妖精がいると、とてもあまく美味しいものになる。
「なんか、お手伝いでなんやかんやあると、とーっても美味しくなるんだって、前にオーヴォが言ってたー」
「かんじんな部分がわかんない……」
いつもと違うお花の味に戸惑いながらも、美味しく頂く。
「あとでオーヴォに教えてもらおー」
「オーヴォはお手伝いに行っちゃってるよー」
教えてもらおうとおもったが、こたえがわからない。
けれど、うふが言ったように、たくさんのありがとうをもらったのだろう。
えっぐはそう思うことにした。
「むふふ、とぅるぅるが教えてあげるであります!」
そう言って、えっぐとうふが座っていた近くの木から、えっぐとは違うまるみを持ったうさぎ型の妖精が降ってきた。
着地の衝撃でぽよんと跳ねつつ、えっぐとうふの前にバウンド後、着地する。
「まずは、えっぐ! おかえりであります!」
「ただいまー」
「うふ、お花をひとつ食べさせて欲しいであります!」
「はーい」
だいふくのような、少しつぶれたまるみを持つ妖精さんの、とぅるぅる。
おかえりといって、体の一部がぷるっと揺れた。おそらくおじぎである。
そしてだいふくボディの口元に、うふがお花を持っていくと、とぅるぅるはむしゃむしゃ食べる。
「うん、うん。これは絆の味であります!!」
しっかり味わって食べた。その答えが絆。
「「きずな??」」
うふとえっぐは、くにゃっと体を倒す。おそらく首を傾げている。
「ありがとうの気持ちを繋ぎ合い、人と人だけではなく、ワタシたち妖精とも絆を結んだ時、その想いはとても甘く優しく素敵なものとなって、受け止められて、島のお花や木の実たちは、とってもとってもおいしくなるのであります!」
アメリアとリタの絆を結んだだけではなく、えっぐも絆を結んでいた事を知った。
教えてくれたとぅるぅるは、もう寝るのであります、とおうちに帰って行った。
「……きずな……。もう、アメリアもリタもいないのに……。やっと気づいても……遅いよね……」
ただのお手伝いなポジションではなく、友達のように思っていてくれた事を知ったえっぐは、リタとアメリアがもういない事を、ようやくしっかり実感してしまった。
ぽろぽろと、大粒のなみだが、こぼれてしまう。
「おともだちがお空に還っても、おともだち」
うふはそう言って、大輪の花をえっぐの口に突っ込んだ。
「ふごっ……そーだね」
ごくん。
おともだちのくれた想いの味は、とても甘くて優しくて美味しい、けれどちょっとだけさみしくて、塩気のある味がした。
えっぐは絵と刺繍のハンカチを、ぎゅっと抱きしめる。
「リタ、アメリア。えっぐはずっと、ともだち」
うふは、そんなえっぐをひょろんとした腕でつつみこみ、頬ずりした。
「うふも、えっぐのともだち」
「うん」
ひさしぶりに自分の家に帰ってきたえっぐ。うふも一緒に入る。
島に生えているきのこが、妖精さんのお家だ。
お家を持たず、外で寝るコもいる。
家に入ると、ふっと安心したのか、えっぐは大きなあくびをしてしまう。
眠気を必死にがまんして、うふに手伝ってもらい、絵をかざる。
そして、ハンカチをぎゅっと抱きしめて、えっぐは眠りに落ちた。
えっぐが、すやすや寝息を立てると、えっぐの周りからピキピキとかたいものが湧き出てきて、まるい形を作り、すっぽり包んでしまった。
「おやすみ、えっぐ」
うふはたまごをなでて、やさしい笑顔を向ける。
妖精さんはお手伝いをして帰ってくると、たまごの中で少しの間、眠りにつくのだ。
うふはえっぐの家から出て、道に咲いているお花を摘んで、ぱくっと口に入れる。
「おいしー」
そして、島の真ん中の湖にやってきた。
「よーし、うふもお手伝いに行こーう!」
えっぐが起きた時、ありがとうの想いで、美味しいお花がたくさん島に満たされているよう、そして今回えっぐが結んだような素敵な絆に出会えるよう、希望をいだいて、ぽちゃんと湖に入っていった。