表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

つないで紡いだ絆。


「それ、えっぐが貰えばいいんじゃない?」


 うふが、えっぐの手の中にある物を示して声をあげる。


「これ、リタとアメリアのだよ!」

「だって、それ、想いがえっぐに向いているよ?」


 うふも妖精さんなので、物のきもちが見える。

 えっぐはぱちくりとまばたきをして、手の中にあるものを見ると、物のこころがえっぐに向いていることに気づいた。

 片方の手に持っていた布の包みを、うふに預けて、リタから預かった絵を開けてみると、2枚の絵があった。

 ひとつは小さい頃のアメリアとリタの絵が描いてあり、2人の間にえっぐがいる絵。

 もうひとつは、おばあちゃんになったアメリアとリタの絵。そしてやはりそこにも、えっぐが描かれていた。


「アメリアは、ふしめで自分の肖像画をリタに送っていたなぁ、そういえば。それをもらったリタも、自分の似顔絵を描いて送っていたなぁ」


 文字のやり取りは、結局最後までやっておらず、長い伝言をえっぐに頼むこともなかった2人。

 絵と、刺繍や押し花のやり取りが、長年続いていた。


「やっぱり、これえっぐにあげるやつだったんだね」


 うふは2枚の絵を持って、今度は包みを渡す。

 えっぐはシュルシュルと布袋のリボンを取って中身を見ると、出てきたのは刺繍がほどこされたハンカチ。

 風景画のような雰囲気の刺繍と、色えんぴつの刺繍。それを持っているえっぐの姿が糸で描かれている


「わぁ、こっちにもえっぐ!」

「ねぇ、えっぐって、こんなにまるいの??」

「うん、まるまるしてる」


 えっぐが気になったのは、そこであった。

 隣にいるうふはヒョロンとしているのだが、自分はこんなに丸かったのか、とビックリしてしまう。

 人間の世界にいるとき、妖精さんはかがみに映らないのだ。

 そして、容姿を気にすることもなく生きてきたのもあり、自分の姿をしっかり教えてもらったような気分である。


「えっぐは、人間さんからのありがとうを、たくさんもらってきてくれたんだね」

「そうなの?」


 うふが空いている手で、もこもこした花を摘んでぱくりと口に入れた。もごもごしながらも、また花を摘んでえっぐの口へ持っていくと、えっぐもぱくっと口に含む。


「ふあっ……おいしい」


 島にある植物はお菓子のような美味しさで、ありがとうの気持ちをもらってきた妖精がいると、とてもあまく美味しいものになる。


「なんか、お手伝いでなんやかんやあると、とーっても美味しくなるんだって、前にオーヴォが言ってたー」

「かんじんな部分がわかんない……」


 いつもと違うお花の味に戸惑いながらも、美味しく頂く。


「あとでオーヴォに教えてもらおー」

「オーヴォはお手伝いに行っちゃってるよー」


 教えてもらおうとおもったが、こたえがわからない。

けれど、うふが言ったように、たくさんのありがとうをもらったのだろう。

 えっぐはそう思うことにした。


「むふふ、とぅるぅるが教えてあげるであります!」


 そう言って、えっぐとうふが座っていた近くの木から、えっぐとは違うまるみを持ったうさぎ型の妖精が降ってきた。

 着地の衝撃でぽよんと跳ねつつ、えっぐとうふの前にバウンド後、着地する。


「まずは、えっぐ! おかえりであります!」

「ただいまー」

「うふ、お花をひとつ食べさせて欲しいであります!」

「はーい」


 だいふくのような、少しつぶれたまるみを持つ妖精さんの、とぅるぅる。

 おかえりといって、体の一部がぷるっと揺れた。おそらくおじぎである。

 そしてだいふくボディの口元に、うふがお花を持っていくと、とぅるぅるはむしゃむしゃ食べる。


「うん、うん。これは絆の味であります!!」


 しっかり味わって食べた。その答えが絆。


「「きずな??」」


 うふとえっぐは、くにゃっと体を倒す。おそらく首を傾げている。


「ありがとうの気持ちを繋ぎ合い、人と人だけではなく、ワタシたち妖精とも絆を結んだ時、その想いはとても甘く優しく素敵なものとなって、受け止められて、島のお花や木の実たちは、とってもとってもおいしくなるのであります!」


 アメリアとリタの絆を結んだだけではなく、えっぐも絆を結んでいた事を知った。

 教えてくれたとぅるぅるは、もう寝るのであります、とおうちに帰って行った。



「……きずな……。もう、アメリアもリタもいないのに……。やっと気づいても……遅いよね……」


 ただのお手伝いなポジションではなく、友達のように思っていてくれた事を知ったえっぐは、リタとアメリアがもういない事を、ようやくしっかり実感してしまった。

 ぽろぽろと、大粒のなみだが、こぼれてしまう。


「おともだちがお空に還っても、おともだち」


 うふはそう言って、大輪の花をえっぐの口に突っ込んだ。


「ふごっ……()()(ふぇ)


 ごくん。

 おともだちのくれた想いの味は、とても甘くて優しくて美味しい、けれどちょっとだけさみしくて、塩気のある味がした。


 えっぐは絵と刺繍のハンカチを、ぎゅっと抱きしめる。


「リタ、アメリア。えっぐはずっと、ともだち」


 うふは、そんなえっぐをひょろんとした腕でつつみこみ、頬ずりした。


「うふも、えっぐのともだち」

「うん」


挿絵(By みてみん)



 ひさしぶりに自分の家に帰ってきたえっぐ。うふも一緒に入る。

 島に生えているきのこが、妖精さんのお家だ。

 お家を持たず、外で寝るコもいる。


 家に入ると、ふっと安心したのか、えっぐは大きなあくびをしてしまう。

 眠気を必死にがまんして、うふに手伝ってもらい、絵をかざる。


 そして、ハンカチをぎゅっと抱きしめて、えっぐは眠りに落ちた。

 えっぐが、すやすや寝息を立てると、えっぐの周りからピキピキとかたいものが湧き出てきて、まるい形を作り、すっぽり包んでしまった。


「おやすみ、えっぐ」


 うふはたまごをなでて、やさしい笑顔を向ける。


 妖精さんはお手伝いをして帰ってくると、たまごの中で少しの間、眠りにつくのだ。


 うふはえっぐの家から出て、道に咲いているお花を摘んで、ぱくっと口に入れる。


「おいしー」


 そして、島の真ん中の湖にやってきた。


「よーし、うふもお手伝いに行こーう!」


 えっぐが起きた時、ありがとうの想いで、美味しいお花がたくさん島に満たされているよう、そして今回えっぐが結んだような素敵な絆に出会えるよう、希望をいだいて、ぽちゃんと湖に入っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
お空に還ってもお友達。 いいセリフを言うなあ、こんちきしょう(T^T) そう言えばリタやアメリアの子どもや孫とは交流がなかったのかな?
[良い点] 泣いちゃった。 [一言] 優しい物語をありがとうございました
[良い点] マズいウルッときた……というところで、挿絵。 ……あ、だめだ(号泣) [一言] (鼻をかみつつ続き) 挿絵が可愛かったです。羽がポンと出るの、いいですね♪ 少し切なくて、優しい話をありがと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ