不思議な島のえっぐ。
ここは、とある島。
お空は、パステルなピンクやむらさき、水色や黄色と、まるで染め布のように不思議な色で彩られている。
こんぺいとうが付いた綿菓子雲が、ふわふわ浮かんで、もこもこふくらんで、おいしそうだ。
そんな島は、お空の真ん中にある。
その島はいろんなところに、たまごがたくさん落ちていた。
卵から出てきたのは、うさぎのような……ちょっと違うようなコたち。
ひょうたんのようなまるが2つある形をしたコ、ひょろんと胴も手足も長いコ、まんまるな体にちょこんと小さな手足が生えているコ……実にさまざまながら、みんなうさぎの耳が生えている。
「えっぐー、何してるのー?」
ひょろりとのびた手足や胴を持つウサギみたいなコが、とてとてと近寄ってきて、まんまるな体のコに話しかける。
「あ、うふ。おはよう。これのこと?」
「お手紙と布の包み、だね。 どうしたの、それ?」
えっぐと呼ばれたまんまるうさぎなコの手には、リボンが結ばれ筒状に丸められた紙と、布の袋で出来た包みがあった。
「これはね、えっぐがお手伝いをしていた時の、最後のお届け物になっちゃったやつ」
この、うさぎみたいなコたちは、さまざまな呼び名がある。
うさぎの妖精さん、と呼ばれる事が多い。
この島のコたちは、ときどき色んな人間のせかいに行って、お手伝いなど善い行ないをする。
お手伝いをすると、人間から出る喜びや嬉しさなどの温かいの気持ちを受け取って、そのチカラがこの島に食べ物を生む。
島に住んでいるうさぎの妖精さんたちは、その食べ物を食べて、幸せ気分にひたる。
島の維持のために人間界に行っているようなものだが、うさぎの妖精さんたちは、島の維持だとは知らず、困っている人を助けたくて、お手伝いする。
このコたちは、ある日ふっと思い立ち、困っている人を探して、助けに向かっていくのだ。
「お手伝いで、配達してたんだー?」
うふ、と呼ばれたコが興味深そうに訊ねると、えっぐは少し淋しそうな顔をして頷いた。
「うん」
えっぐが行っていた人間の町は、移動手段が発達していない場所だった。
陸路も馬車や馬の通る場所が、ほんの少しだけ整っている程度。
大きな町は、石畳があったりするが、町から町への道は、かろうじて道と呼べる程度。
山を越えるのは、馬では無理で山の向こうの町との交流は無かった地域だと言う。
「なら、お空を飛べるえっぐは、お山もこえられるから、とってもお手伝い出来たんだね!」
「えへへ」
うふにあたまをヨシヨシと撫でられるえっぐ。
ほめられて嬉しいのか、へにゃりと顔をゆるませ、えっぐの頬は赤くそまる。
そして、うふの質問に答えるのに、言葉を出していった。
「ちょっと前に行ってきたお手伝いでね……」
――ちょっと前。
えっぐもある日、お手伝いに行こうと、島の真ん中に生えている大きな木のほとりにある、ももいろの湖に飛び込んだのだ。
湖に飛び込んでも、おぼれることはない。
すぽん、と落ちたら、困っている人の近くに出る。
出たのは小高い草原の丘。季節は夏なのか、あたりは爽やかな風が吹いていて、草も花も気持ちよさそうである。
「できたー!」
不意に声が響いて、えっぐはビクッと跳ね上がった。
ふよふよ浮きながら、声の主に横から近づいた。
「みーせーてー」
えっぐは、つい声を上げてしまう。
女の子はできたーと声をあげると、紙をかかげて満面の笑みなので、何が出来たのか気になってしまった。
「わっ、びっくりした!! ……えっ?」
栗毛のちょっとボサッとした髪の女の子。
女の子が声の方向を見ると、ふよふよ浮いている丸いうさぎの耳が生えた何かがいる。
浮いていたけれど、ゆるやかに地面へ着地した。
「こんにちはー! 何ができたのー?」
えっぐはまんまるボディの上側を、くにゃっと倒して訊ねる。おそらく首を傾げているような動作だ。
「こ、こんにちは。えっとね、村の景色を描いていたのよ!」
戸惑うものの、普通にさらりと挨拶をしたえっぐに、女の子は挨拶を返す。そしてえっぐに見せるあたり、自信作なのだろう。
草や花を布に擦り付けて描いたようだ。
「わっ、すごーい!」
女の子がその辺の植物で描いた絵は、少ない色ながらもしっかりと濃淡をだし、景色に奥行きのあるものだった。
「画家さんのように、絵の具買うとかできないから、草や花がわたしの画材なんだ!」
「画家さんになりたいのー?」
「うーん、わかんない」
女の子はいつの間にか、目の前にいるうさぎの耳が生えたまるまるとした生き物と、おしゃべりを楽しんでいる。
子供は楽しければ、細かい事を気にしない面を持つ。
そういった面からも、妖精さんたちは子供のところに現れやすい。
「この絵、どうするのー?」
「え?」
えっぐの質問に女の子は戸惑う。
いつも描いたら、家の棚にしまって、いつの間にかお母さんに捨てられてしまうのだ。
「えっ……と、多分お母さんがいつか捨てると思う」
「えーーーっ!!?」
女の子にとってはそれが当たり前で、絵を褒めてくれるのは描いて見せた時だけ。
家に飾るわけでもなく、自分が手の届かない棚に突っ込まれて、いつの間にか無くなっている。
「これ、そっくりでじょうずなのに!!」
素敵な絵を捨てるということに、えっぐはぷんぷん怒るが、まんまるボディがぷるぷる動くだけだ。
「でも、こんなの誰もいらないって、前にお母さんに言われたよ……」
「えっぐが欲しい人に届けてくるっ!!」
「いないよ、そんな人……」
「絶対にいるー!!」
ちっちゃい足で地団駄を踏むものの、草むらには音が響かないし、やはりぷるぷるしている動作にしかならないものの、えっぐはやる気を出した。
「ちなみに、えっぐは、お家に帰れないから、絵をもらえないの。だから、絵が欲しい人探してくるね!」
「えっ?!」
「人間さんのお手伝いして、満足してもらったら帰れるようになるのー!」
えっぐは自分がお手伝い妖精だという事を伝える。
なのでお手伝いをさせて欲しい事を告げると、女の子はお願いする。
「えっぐ……は、どうやって欲しい人を見つけるの?」
「ん〜〜。何となく!」
「なにそれっ、あははは。でも、欲しい人に届けてくれるならいっか!」
「うん、行ってくるねー」
えっぐは絵を持つと、ポンっと羽を出してぱたぱた飛んでいった。