八十九話 迦蘭声/カランコエ
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「さっきから聞いてたらなんなんですか!色々と無茶苦茶なんですよ、少しは聞いたり巻き込まれたりする方の気持ちも考えてくださいよ!2人とも熱くなり過ぎなんですよ。特にアンタ!」
葵を指さすヤヨイ。
「お前も邪魔するのか?」
「邪魔云々決めつける前にもうちょっと頭使ったらどうなんですか?」
「……」
「アンタは自分で魔法を創造出来るんでしょ?そんなチート能力持ってるんだからもっと有効に使いなさいよ!!このバカ!」
「バカ……」
「ヤヨイ、お前、凄いなぁ。ウチが知る限り葵にバカって言ったのを遥以外で初めてみたわ」
「それはどうも。そんなんだから気づかないんですよ。魔法が創造できるなら遥さんを蘇生せる魔法でも作ればいいじゃないですか!?」
「あ、」
エプロンはそれを聞いてマヌケな程口を開けた後大きく頷く。
「それやそれ!!ホンマにそれやで!!…なんでそんな簡単な事思いつかんかったんやろか〜、不思議やわ」
「余りにも普通過ぎて思いつかなかったんじゃないんですか」
「そうやな。でもヤヨイが言う通りその方法なら全て丸く収まるかも知れへんで。今の葵を止められるのはどう考えたって遥だけや。遥が生き返れば確実に流れは変わる!よしっ、そうと決まったら早速行動や!葵!!」
「……勝手に話進めんな。このバカ野郎どもが」
「意地はんなって。気づかんかったんやからバカなのはお前も一緒やろ」
「だから一緒にするな、バカなのはお前らだけだ!!」
「照れなくたってええやないか。もうええやろ」
「よくない」
「だからなんでや?葵だって遥が生き返った方ええやろ?」
「だからバカだと言ってるんだ。……出来るならとっくにやってる」
「あぁ?」
「そんな事が出来るならとっくに遥は生き返ってるって言ってんだよ!!そんな事にも気づかずよく人のことをバカバカ言えたもんだなぁ、このバカが!!」
「どういうことや……」
「さっきわざわざ説明してやっただろ。俺が魔法を創造する為にはそれに見合った魔力を消費しなきゃならないって。その魔法が強力になればなるほど魔力の消費量は多くなる。人を生き返らすなんて大それた魔法が簡単に使えるわけがないだろ。……今の俺は遥達をこの世界に呼び出す為に多くの魔力を使った。俺には遥と本気で戦い合うために残していた僅かな魔力しか残ってねぇ。神を殺し、神すらも恐れる俺の力でも無理なんだよ。こんな事わざわざ説明させるな……」
「そんな……」
「マジかいな…これじゃ流れは変えられへん」
やっと見つけた希望の光。呆気にとられたその光は幻で終わった。
再び沙莉の表情に焦りが見える。
「(ヤバい。超恥ずかしい……でも今はそんなのどうでもいい。なんとかして葵を止めへんと!これ以上友達を失いたくない!)」
「諦めろ沙莉。黙って遥を俺に渡せ。俺だって興味はないが特別沙莉を殺したいわけじゃない」
「…………」
「沙莉!!」
「……」
自らの頭をフル回転させ最善の方法を考える沙莉。
そして一つの可能性を見つけ出した。
「あ、」
「沙莉さん?」
「ヤヨイ。確認したい事がある」
「な、なんですか?」
「お前の知り合いにチート能力を持って尚且つ魔法に詳しい人物。心当たりないか?」
「え、それって……」
「どうなんや」
「まぁ、あるっちゃありますけど…って沙莉さん分かって言ってますよね?」
「当たり前や。アイツらには随分迷惑かけられたからな。だからその時の借りを返してもらってこい」
「え?」
「いるんやろ?お前と同じチート能力を持った年齢詐称の天才魔法使いが!!」
「……あ、なるほど。その手がありましたか!」
「任せてええか?」
「言いたい事は分かりました。でも上手くいく保証はありませんよ。正直、力を貸してくれるとは思えませんし」
「なんとかするしかない。ウチはお前を信じてる。だからかつてお前が信じてた仲間達をウチも信じる。ヤヨイはそれを信じたウチを信じろ。ええな?」
「……本当腐れ縁って切れないものですよね。わっかりましたよ!こうなったら意地でも納得させて協力させてみせますよ!!」
「信じるわ!」
「ハイ!」
「無駄だ…」
「あぁ?何が?」
「無駄だって言ってるんだ!!」
「何も分かってないやろ?」
「分かってる!彼女の元仲間で<絶対支援>のチート能力を持った仲間を頼ろうとしてるんだろ!そんなのは分かってんだよ!」
「だったら話が早いやないか。ここはお前の目的のためにもウチらを見逃せや。上手くいけば遥が生き返るかもしれへん。それならお前にもメリットがあるやろ」
「だから無駄だ!ソイツのチート能力を持っても死んだ人間を生き返らせる事は出来ないんだよ!」
「なんで他人の和葉が分かる?そんなのやってみなきゃわからんやろが!!」
「分かるさ!俺はこの世界でずっと生きてきた。知らない事はない……。<絶対支援>の能力は人並み外れた魔力量とこの世に存在する魔法なら全てを使うことが出来る。それが強みだ。だけどな、ソイツの能力は俺のように魔法を何でもかんでも創造出来るわけじゃない。この世界に望みの魔法が存在してなきゃ意味がないんだよ!長きに渡るこの世界の歴史上人を生き返らせるに値する魔法は一度も成功した事がない。だから無駄なんだよ……」
「いーや、それでもウチはソイツに賭ける」
「なんでだ!?結果は見えてる!やったって無駄なんだよ!これっぽっちも希望なんかないんだぞ!」
「だとしてもや!言うだけタダや。ならやった方がいい。それでやらずに後悔する奴の方がよっぽど無駄でバカや!」
「バカはお前だ、沙莉!!いい加減現実見ろよ!遥は死んだんだ。何もかも終わっちゃったんだ……最後くらい好きにさせてくれ」
「終わってへんよ、まだな」
「…………」
「現実なんか見たってろくなことなんか1つもあやしない。だから人はそれから目を背ける。でもいつのまにかそうは行かなくなって嫌でも向き合う事になる。ウチらがそうやった。周りからは腫れ物扱い。碌な事なんて言われやしない。結果を出したって簡単には認められない。だからウチらはそれに反抗してヤンキーになった。でも遥はそうじゃなかった。結果が出なくても周りから認められなくてもそんな声に耳を傾けることもしなかった。いい意味で自己中心的。負け試合だと言われれば必ず勝つ。あべこべで無茶苦茶。大人の事情なんかガン無視で現実なんか見ずに見たいもんだけ見てきた遥がたった一回死んだくらいで死にきれるわけないやろが!!」
「……長い。相変わらず沙莉は話が長いんだよ!」
「それがウチやからな。最後くらい好きに喋らせろや」
「沙莉の言いたい事は分かった。確かに遥は沙莉の言う通り簡単に死ぬ奴じゃないし、死んで生き返っても不思議と奇跡とは思わない。そういう奴だ。でもな……この世界は現実なんだ。奇跡なんか起きやしない。漫画やアニメじゃないんだ!あり得るわけがない!」
「それでもここはウチらにとっては現実離れした異世界や!漫画やアニメみたいに都合よく奇跡が起きる。ウチはそう信じとる」
「信じれば叶うって…そういう事?」
「そういうことや」
「無茶苦茶だ!あり得ない!」
「神様殺したお前に言われたくないわ。それに異世界で無茶苦茶は当たり前やろ!それだから面白い」
「………もういい。沙莉そこを退け!遥を渡して消えろ!」
「何度も言わせんな」
沙莉は遥のそばから離れようとはしない。
「なら力づくだ。遠慮なんかしない」
「されても困るわ」
「お前が俺に勝てるとでも思ってるのか?一度でも俺に勝ったことが」
「思ってるわけないやろ。天地がひっくり返ろうがウチはきっとお前には勝てへん。今までみたいにな」
「なら、」
「だからって諦めるほどウチは利口やない。それに、口ではああ言ったけど内心、ちょっとはイケるんじゃないかって思ってる」
「本気かよ」
「本気だよ。ウチみたいな奴は痛い目合わんと納得せえへんから気が済まん。そういう性格や」
「…………」
葵の顔は強張り、今にでも沙莉に襲いかかりそうだ。
「そういう事やからヤヨイ。遥の事はお前に任せたわ」
「エプロンさん」
「…そんな顔すんなや。せっかくここぞって時見つけて格好つけてんやから最後まで格好つけさせろや」
「………でも、」
「あ、遥にウチの代わりに伝えといてくれや。ウチが先に格好つけたから今度はお前の番やってな」
「…………」
「ええな、ヤヨイ」
「ハイ……」
「そうと決まったらさっさと行け。時間稼ぎはウチに任せろ。でも出来るだけ、いや、ホンマに急げや。きっと想像程期待には答えられへんと思うから…」
沙莉の表情から相応の覚悟が見受けられる。
それを見たヤヨイは、
「ハイ!!」
「ええ返事やな。なら任せたで」
「でも私は期待しますよ。だから、コレを」
「ん?」
ヤヨイが渡したのは黒い宝石が埋め込まれた光り輝く指輪だった。
「前、エプロンさんには渡せなかったので」
「おっ、今日はたまたま持ってたんやな」
「ええ。たまたま」
「フッ…。ありがとな。使わせて貰うわ。どんな魔道具か知らんけど」
「エプロンさんなら使えばすぐに分かりますよ。きっと喜んで頂ける筈です。なにせお2人の話を元に使ったお2人の為の専用魔道具ですから」
「ウチらの?」
「ええ。遠慮なく全力で戦えるように」
「それは楽しみやな!使い方は?」
「簡単です。指輪に想いを込めて高く掲げてください。想いの強さが魔道具を起動する為のスイッチになります」
「なるほどな。よし、わかっ」
「あ、後」
「なんや」
「高く掲げる時になんでもいいんで思いっきり決めゼリフ的なものも一緒に叫んでください」
「な、なんでや!?」
「そうじゃないと発動しないんですよ」
「ええ……ホンマにか。恥ずかしいやんけ……」
急に頬を赤く染めるエプロン。
「でも、今となったらそんな事恥ずかしくもないか。どうせここは異世界や。誰も見てへんしな。それに恥かくのは慣れとる。こうなったら当たって砕けたる!!」
急に吹っ切れたエプロン。
「よーーし!覚悟は決めた。思いっきり格好つけたるわ!!ヤヨイ!」
「エプロンさん!」
「行ってこい!後は頼んだで」
「…ハイ!!」
「グワァーーーッ!!」
ヤヨイの返事に賛同するように背後から獣の叫び声が聞こえる。
「え!?」
2人の元へ元気よく駆けつけたのは恐竜の様な姿をしたモンスターだった。
「この子は……」
「お前、まさかディーノか!」
「グワァ!」
ディーノは頷く。
「エプロンさん、このモンスターって」
「ああ。コイツもウチらの仲間で遥の相棒や!もしかしてお前、遥のピンチを察してやってきたんか?」
「グワァー!!」
「流石は遥の相棒やな。タイミングバッチリや!ヤヨイ、ディーノに乗って早よ急げ!」
「あ、はい!」
ヤヨイはディーノに話しかける。
「いきなりだけどアナタ、いや、ディーノの力が必要なの。私とは初対面だけどきっと気持ちは同じだと思う。だから遥さんの為に力を貸してくれる?」
「グァッ!」
ディーノは任せろと言わんばかりに自信満々な様子で答え、背を差し出す。
「うん!」
ヤヨイは遥をディーノの背に乗せた後自らも乗っかる。
「ディーノお願い。まずは森を抜けて!」
「グワァァ!!!」
ヤヨイの声を合図に合図にディーノは全速力で駆け出す。
ヤヨイはディーノの背中で揺らされながらエプロンの方を一度だけ振り返る。
すると、ヤヨイの瞳にはとあるエプロンの姿が見える。
ヤヨイはその未来に目を瞑り涙を堪えた。
「ッ!」
ヤヨイは自らの頬を叩き、目を開きエプロンの姿を目に焼き付ける。
今を生きるエプロンの姿はどんどんと小さくなっていく。
そしてヤヨイは再び前を向くと二度と振り返る事はなかった。
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