八十七話 緋蔴猧瓈/ヒマワリ
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「麻戈莉沙と桐生遥がタッグを組む。夢のような展開だ。少し前ならめちゃくちゃ盛り上がった事でしょうね。でも今は誰もアナタ達の事を求めてない。異世界という別世界で誰にも知られることもないまま2人して仲良く死に晒せ。無様にな」
「いきなり口悪っ!」
「やっと素が出たわね」
「実は私と紫鶴那は極悪タッグで売ってるんですよ。この方が自分達にも合ってますから。なんせ元ヤンなんで」
「沙莉ぃぃ……許さねぇぇ!」
気が狂ったように激昂する紫鶴那。
「紫鶴那、身勝手に暴れてきな。サポートはしてあげる」
「言われなくても好きにやらせてもらうわぁぁ!!」
紫鶴那が思いっきり声を上げると沙莉に飛びかかってくる。
それを見事に受け止める沙莉。
喰らって分かった。先程より明らかに身体能力が上がっている。
「やっぱり強くなったな紫鶴那。それとも能力のお陰か?」
「どっちもよ!!」
更にその場から勢いのつけたタックルで沙莉を追い込んでいく。その時の紫鶴那の体はまるで鋼鉄のようだった。
続けて沙莉に紫鶴那はヘッドバッドで追い打ちをかけ沙莉を怯ませる。
「うおおぉぉぉぉ!!」
雄叫びを上げると紫鶴那の体は力で溢れる。沙莉を持ち上げるため掴み掛かった瞬間。
「エプロン!」
沙莉は紫鶴那の手からなんとか逃れると声のした方に紫鶴那を押す。
押されて近くへ来た紫鶴那を遥が顔面にハイキックを叩き込む。
それによって紫鶴那の体は大きく揺らぐが倒れるまでにはいかない。
「アンタさえいなければ……アンタさえ!!」
紫鶴那の強烈なラリアットが遥を襲う。
そのまま追い打ちをかけようと遥に近づく紫鶴那だったが。
「ウチの事も忘れんな!」
今度は紫鶴那の後方にいた沙莉が後ろから掴み抱えるとそのまま更に後方へと投げつけるバックドロップで応戦。
叩きつけられた紫鶴那だったが直ぐに立ち上がるとお返しのラリアットで沙莉を地面に沈める。
そのまま沙莉の首元を締めながら持ち上げる紫鶴那。
華奢な体からはとても想像も出来ないようなパワーだ。
「麻戈莉沙……アンタは1番最後だ。私達じゃなくてあの女を選んだ事お望み通り後悔させてやるわ。ここで黙って見てろ!」
首元を掴んだまま再び地面へと叩き落とす。
「ッ……」
「ハアァ!!」
息をつく間もないまま今度は立ち上がった遥が走り込み飛び上がると体を捻らせながら回し蹴るフライニングニールキックを放つが、当たる瞬間紫鶴那がその場から姿を消しこの攻撃は不発に終わる。
「…」
「!!」
直ぐに紫鶴那が遥の背後に現れるがそこを直感的に見抜いた遥がカウンターの裏拳で拳を打つけるが紫鶴那は止まらない。
紫鶴那は強引に遥を持ち上げると相手の背中を弓なりに反らせた形で肩まで持ち上げるアルゼンチンバックブリーカーを仕掛ける。
強烈に遥の背中が反り上がった事で遥の背骨は悲鳴をあげる。
「…これ見て黙っていられるわけないやろが!!」
慌てて駆けつけた沙莉が紫鶴那にボディーブロー叩き込む。
ダメージこそないものの紫鶴那の体がぐらついた事で遥は逃れることに成功した。
「せっかく紫鶴那がやる気を出してるんです。元先輩として邪魔せず黙っていてくださいよ!!」
カットに入った沙莉を今度は和葉がカットに入り勢いのまま沙莉を担ぎ上げ放り投げる。
地面に崩れた遥を狙う紫鶴那。
「桐生遥……」
「…さっきから見たり喰らったりして思った事があるんだけどいいかしら?人の能力や技を安易にパクるのは流石に掟破りなんじゃなくって?」
「これが私の能力だ!…パクリじゃない。これはオマージュで私のオリジナルだ!!」
更にテンションを上げた紫鶴那が再び沙莉を持ち上げコウモリ吊りの要領で吊るすとそのまま地面へ叩き落とす。
これはまるでエプロンが得意としていた技、シュガー⭐︎ドーナッツにそっくり、いやそのものだった。
「……同じ技を使うなとは別に言わないけどさ、もうちょっとオリジナリティ出したらどうなわけ?これじゃお客さんも満足しないって」
「これが私のやり方だ。死に損ないが黙ってろ。勝てばいいんだよ、勝てば!私はそうやって勝ってきたんだ!!」
「……まぁ、完璧に真似するのも楽じゃない。それも才能の内。否定はしないわ。だけどね、モノマネだけで倒せるほど私達は鈍ってない。本気で殺したいって思ってるならもっと自分を曝け出さなきゃ。それこそ思いっきり叫んでね。そうよね、エプロン?」
ゆっくりと立ち上がる遥につられるように沙莉も立ち上がる。
「そうやな……こんな程度じゃ先輩の壁は越えられへんで、紫鶴那」
「黙れ……」
「先輩のアドバイスは鼻につく。だけど聞いといた方がきっと得するわよ」
「黙れぇぇぇ!!」
「そうそう、そんな感じ。だけどまだまだね」
挑発に乗って襲ってくる紫鶴那を遥は出鼻を挫くように紫鶴那の腰を抱えて軽く宙に持ち上げると、自身の体を180度捻って前のめりに倒れ込むことで相手の背中をスパインバスターで叩きつける。
「この位はやって貰わなきゃ困るわ」
「……うがぁぁぉぁぁ!!」
「声を出せとは言ったけど叫べばいいってもんじゃないのよ。エプロン、連携やるわよ」
「アドリブでやるもんやるちゃうやろ!?」
「でも出来るでしょ?」
「まぁ、出来るけどな」
「やるわよ」
「あいよ!」
沙莉が紫鶴那を高く抱え持ち上げるとそれを急降下的に飛び込んできた遥が地面へと叩き落とす。
これには流石の紫鶴那もダメージを負う。
さらに遥達の連携はまだ終わらない。紫鶴那を無理矢理起こすと、2人は助走をつけて紫鶴那目掛けて走り込む。
「紫鶴那」
「分かってるわ…」
遥と沙莉のサンドイッチ式ラリアットが紫鶴那に直撃する瞬間、紫鶴那はそこから姿を消し紫鶴那がいたその場所には和葉が姿を現した。
結局2人の強烈なダメージを負った和葉は何も出来ないまま地面に倒れる。
「また誰かの真似事?…」
「紫鶴那、お前、仲間盾にする奴ちゃうかったやろ」
「ハハッ……だから変わったんですよ私は。勝つ為なら手段は選ばず常に最善を取る。それが和達のやり方ぁ!!」
「私達?……」
何かに引っ掛かる遥。
「どうした遥?」
「何か嫌な予感がする」
「それ当たるやつちゃうよなぁ?」
「だから嫌な予感なんでしょ…」
「じゃあどうする。どう考えても今流れがきてるのはウチらの方やで」
「分かってる。だから流れがきている間に紫鶴那を倒す。この流れは絶対途切らせちゃいけない。そんな気がする」
「同感や。今の紫鶴那はなんかヤバいからな……」
「急ぐわよ」
「よっしゃ!」
倒れて動けない和葉は後回しにして先に様々能力を操る紫鶴那を片付けることに決めた遥達。
紫鶴那目掛けて2人同時に放つハイキック。だがこれもまた瞬間移動の能力使った紫鶴那によって和葉が身代わりになる事に。
「チッ……」
ならばとタイミングをずらし攻撃を仕掛ける遥達だったがこれもまた和葉を瞬時に瞬間移動させ続け盾にすることで危機を免れる紫鶴那。
「お前そんなやり方誰に教わった!!少なくてもウチはこんな身勝手なやり方をお前に教えたつもりはないで!」
「オリジナルってのは誰かに教わって出来るようになるものじゃないでしょ…」
キレる沙莉は紫鶴那に掴みかかる。
「お前なっ!!」
「アナタには分かりませんよ!残された私達の気持ちなんて」
「……っ」
「業界にとってアナタ達という天才が抜けた穴は大きかった。代わりになんてなれやしない。そんな事はみんな分かってる。だけど周りの連中は全員アナタ達のレベルを求めてくる。そんな奴らを認めさせるためには非情に変わるしかなかった。引いて引かせて忘れられないくらいの恐怖とインパクトを残す為に。私達に残酷な道を選ばせたのはアンタ達だ。だから今の私達のやり方は決して間違ってない。当然、異世界だろうがリングの上じゃなかろうがやる事は変わらない。これが私達なりの連携なんだよ!!」
紫鶴那は再び瞬間移動で沙莉の手から逃れる。
「その通り。それでいい……」
和葉の声が聞こえる。
遥達は声のする方に振り返るが和葉どころか紫鶴那すら見当たらない。
「10割、いや、それ以上か。やっぱり本気は違いますねー」
「チッ…アイツらどこ行った?」
「……!!」
異変にいち早く気づいた遥は突如姿を現した紫鶴那の攻撃を庇い沙莉の背中を押す。
「遥!?」
「アンタならそうとすると思ってたよ」
だが紫鶴那は遥を攻撃する事なく直ぐに沙莉を捕え、身動きを封じる。
「っ、何のつもりや?」
「黙って見てろ」
「!!」
遥は自らの背後に気配を感じ直ぐに後ろを向く。
そこにいたのは体中傷だらけ、血まみれ姿の和葉が目の前にいた。
直感的に危機を感じた遥は和葉目掛けて得意のハイキックを叩き込むが、紙一重でかわされる。
隙をつくように和葉は遥の胸元辺りにそっと手を添える。
「アナタには感謝してます。アナタのお陰で私達は強くなれた…。ですからその恩は仇でお返しします。やられたらやり返すってやつですね」
言い終えた瞬間、手を拳に握り返し力を入れる。
バツンッ!!
何かがはち切れるような、甲高く鈍い音が辺りに鳴り響いた。
遥は突如として力が抜け落ち地面へと倒れた。
「……遥!!」
何か傷を負ったわけじゃない、血が出てるわけでもない。なのに……
「おい、遥!?……くそっ、離せや!!」
「用はすみました。言われなくても離しますよ」
紫鶴那は沙莉を自由にする。
沙莉は急いで遥の元へ駆けつける。
「遥!遥!!、おい、起きろや!お前、あんな1発てやられる奴ちゃうやろが!さっさっと起きんかい!?」
「紫鶴那、浴びせてあげて」
「ええ」
紫鶴那が両手を上に向け一回手を鳴らす。
すると、
ポツン。
ポツン。
ポツンと屋内なのに何故か雨が降り始める。
「…………」
この異変に気づく沙莉だがそんな事に構ってるヒマは今の彼女には無かった。
「おい遥。遥!!」
声をかけ続ける沙莉。
そんな沙莉を見かねて和葉が一言。
「人のこと心配する前に自分の事よ気にしたらどうですか?」
「あぁ?」
睨みつける沙莉だが、言われた通り自らの体にも目を向けることに。
黒い特攻服は雨粒で滲んでいる。
その部分を触って見てみると、指は赤くなっていた。
雨の勢いは次第に強くなっていき沙莉の体は赤い水滴でびしょ濡れになっていった。
「なんやこれ……」
「まだ気づきません?」
「桐生遥は死んだって事だよ」
「なっ……嘘やろ」
「嘘じゃありません。この雨が何よりの証拠。これはあの人が流す筈だった血だ」
「おいおい……」
「私は自身が受けたダメージを蓄積させそれを倍以上の威力で衝撃波を放つことができる。そんな異世界らしい能力を持ってるんです」
「だから敢えて盾になってたって事か…」
「その通りです。紫鶴那が言ってたでしょう?あれは私達なりの連携だってね」
「和葉さんの攻撃によって桐生遥は内部から衝撃を喰らった。内臓は弾け飛び心臓は破れちったでしょうね。それでも外側が残ってるのは和葉さんの腕がいいから。側が残ってるだけよかったじゃないですか。そうやって目の前で触って後悔ができる。ふふっ……アハハハっ!!」
「お前ら…………」
「全てが弾け飛んで仕舞えば首の一つも残らない。それだと殺した証拠になりませんからね。あ、ちなみにこの血の雨は紫鶴那がマネした瞬間移動の力の応用です。さて、聞きたい事は解決できましたか?今ので疑問が解決したら何よりですが」
「テメェら……無事日本に帰れると思うなよ」
「帰りますよ。五体満足健康体でね」
「後は麻戈莉沙。アンタだけだ……アンタの死体にも同じ血の雨は降らせてやる」
「それはこっちのセリフや……」
数秒間静かに目を閉じた後立ち上がる沙莉。
「目にもの見せたるわ」
「……お前らの時代はもう終わったんだよ」
「老害はそろそろお引き取り願いましょうか」
3人が睨み合い今にも掴み掛かろうとしようとしている瞬間、遥の亡骸も含め3人はその場のまま屋外へと転移してしまう。
「どういうことや……」
「紫鶴那、今は必要なかったんじゃないの?」
「いや、私じゃない」
「え」
「私は何もしてない……私の力じゃこれだけの大人数を一瞬に移動させられるだけの力はないもの」
「じゃあ誰の仕業?」
各々の目線で周囲を見渡す。
3人が転移された場所はハレルヤ女学園から直ぐ側のゲンマノモリの中心部だった。
そしてそこにはヤヨイの姿もあった。
「エプロンさん」
「ヤヨイ、無事やったか。良かったわ」
「私はなんとか。でも他の方達は、」
「言わんでええ。分かってる……」
「……遥さんと仲直りしたんですね」
「まぁな。でもちょっと遅かったわ」
「え、」
ヤヨイは亡骸となった遥の姿を目撃する。
「これは。そんな……」
膝をつき落ちこむヤヨイ。
「チッ……ッ……ッ……ッ、ッ、ッ」
すると突如4人の背後から何度も舌打ちをする音が聞こえる。
彼女達は一斉に振り返る。
間も無く森の中の闇から現れたのは……。
「!!この状況でか……」
「あれって、確か…」
「なるほど…」
「これで日本に帰れる…私達の勝ちだ!!」
その人物は例のゴブリンの仮面を被った人物だった。
「やってくれたなぁ、お前ら……」
次回、いよいよメインイベントが始まる。
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