八十六話 龍弾星/ローダンセ
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「遥」
「沙莉。こうやってまじまじと話すとやっぱり照れるわね……」
「つべこべ言わんとけ。覚悟が鈍る…ええな?」
「……ええよ。時間がないわ、思いっきり行きましょう」
「行くで」
「行くわよ」
飛び出した2人は同時に拳をぶつけ合う。
そこから先に攻勢へ出たのは遙。次々と拳を叩き込み沙莉を壁際の後方へと押し込む。
遥が手を引き寄せ場所を入れ替えると、壁を蹴って飛び上がり体を反転させたクロスボディでぶつけ地面に倒す。
だが沙莉も直ぐに体を起こすと、壁へ向かって走り込み蹴って飛び上がってからのクロスボディ。全く同じ動き同じ技でそれを返していく。
倒れた遥を沙莉が無理矢理起こし次の技へと繋げようとするが遥はそれを抵抗。
振り払った遥は鞭のように撓った強烈なミドルキックを蹴り入れる。
衝撃で体が揺らぐ沙莉だが、遥のそれに応えるように胸を目掛けて水平に振り抜く逆水平チョップで応戦。
「遥!……」
「沙莉!……」
遥が蹴れば沙莉が叩く。蹴ったら叩く。蹴られたら叩き返す。叩かれたら蹴り返す。繰り返せば繰り返すほど当然のようにダメージは蓄積し、どんどんと一撃は重くなっていく。
これ以上の言葉はいらない。この痛みだけが2人の意志を通わせる。心なしか2人は笑顔なのだから。
服によって目視はできないが互いの体は真っ赤に腫れ上がっている事がその証拠なのかもしれない。
「……遥ぁぁ!!」
この長き攻防に打ち勝ったのは沙莉だった。一瞬の隙をつき連続で逆水平を叩き込み遥を圧倒していく。
今度は沙莉が遥を壁際へと押し込んでいくが、壁際まで寸前の所でそれをかわす。
姿勢が僅かに崩れた所を沙莉の頭部を的確に狙ったカウンターのトラースキックで反撃する。
まともに喰らったこの一撃は沙莉の体を地面へつける。
この勢いのまま次々と攻撃を仕掛けていきたい遥であったが、失速。遥も膝をつけ動きが止まる。
互いに先程の打撃合戦のダメージが今になって重くのしかかる。
「立て、遥……。まだやれるやろ」
「言われなくたって立つわよ。まだ終わるには早過ぎるもの……」
互いにゆっくりと体を起こし立ち上がる。
「……遥。一つええか?」
「何?」
「死んでった奴ら、後悔してると思うか?」
「……沙莉はどう思うの?」
「質問で返すな。これはウチの質問や。先に答えろ」
「してない。…って思いたい。それが正直な気持ち」
「……」
「だけど少なくても私だったら後悔なんかしない。これが自分よがりで自己中心的な発言なのは分かってる。でも私自身が自分の事を信じてなかったら、私を信じてくれた皆を裏切る事になる。だから後悔なんかしてない。そう言い切らせて」
「……安心したわ。それでええ。それでこそ遥や。聞きたいもんは聞けた。もう十分や、これで終わらせるで」
「本当にこれで終わればいいけど」
「さあな?やってみればその内分かるやろ!!」
「そうね!!」
再びぶつかり合う遥と沙莉。
互いの想い、そして痛み、全てを受け入れる為2人は互いに体を差し出すのみ。
だが、その想いに水を刺すように遥の後方から2人の魔の手が伸びる。
それを先に察知した沙莉は体を翻してその手を1人で受け止める。
「どういうつもりやお前ら……」
「残念ですがここまでです。時間はとっくに過ぎている。楽しい時間はあっという間に過ぎるものですよ。ここからは予定通り3人でやりますよ」
「邪魔すんな!!」
「沙莉さんの方こそ私達の邪魔をしないでください。あくまでも私達の目的はあの女を殺し日本に帰る事だ。それを忘れないでいただきたい。もしそれを忘れたならアナタ再び私達の敵だ。私としてもアナタを敵に回すのは都合がいい事じゃない。どうか正しい判断をしていただきたい」
「……分かった」
和葉の言葉にゆっくりと頷きポケットに手を入れる沙莉。
「じゃあ決めましょうか!和葉さん!」
「ああ」
「……」
紫鶴那の掛け声を合図に2人は遥の顔面を同時に蹴り上げる。
まともにそれを貰ってしまった遥は崩れ落ちる。
「最後は沙莉さんが決めてください」
「…………」
「蹴るでも殴るでもお好きな方法でトドメを刺して。アナタが勝ってこの女を殺すんです!さぁ、早く!」
「…………」
だが沙莉は顔を下に向いたまま動こうとしない。
「何してるんですか沙莉さん!チャンスですよ!今ならあの女を殺せる!一緒に日本へ帰れるんですよ!!早く」
それでも沙莉は動かない。
「……紫鶴那、やれ。急げ」
何かを察した和葉は紫鶴那に指示を出す。
「分かりました。沙莉さんが出来ないなら私がやります」
一歩ずつ遥に近づく紫鶴那。
遥は立ち上がろうとするが先程受けた足へのダメージがその動きを鈍くする。
「アナタも元プロなら逃げずに受け切ってくださいよ」
紫鶴那は遥を掴み抱える。
だが紫鶴那が見えない所で遥は軽く微笑んだ。
「……受けれるもんなら受けてあげたいけど、そうはさせてくれないみたい。私達2人ともちょっと毛が生えたくらいの素人だから」
「?」
すると沙莉が紫鶴那に静かに近づくと、顔面目掛けて口から液体を噴射する毒霧を放つ。
「!!……」
思わず紫鶴那は手を離し遥は地面へと着地する。
「どういう、つもりですか!!……」
顔面は真っ黒に染まりながらも必死に沙莉に問いかける。
「ウチの得意技や。紫鶴那もよう知っとるやろ」
「そういう意味じゃない!!」
「分かっとる、冗談や。…でも悪いな紫鶴那。やっぱりウチはもうプロやない。ただの友達思いのヤンキーみたいや。これくらいが今のウチには丁度ええ」
「また裏切るのか私を!沙莉ぃ……」
「ええよ、呼び捨てで。素人相手に敬称はいらん。ウチらはヤンキー、お前はプロ。敬称つけなきゃいけないのは寧ろこっちの方や。紫鶴那さん」
「…………」
「沙莉さん、いいんですね。私達の邪魔をして。後悔しても知りませんよ」
「何度も言わせんな。ウチらヤンキーは後悔せえへん。こんな事で後悔するウチならプロやめた時点でとっくに後悔しとるわ!」
「日本に帰れなくてもいいんですね?」
「気づいたんや。人間いつかは死ぬ。大切なダチ殺して日本の墓に入るくらいならよく分からんこの世界で骨を埋めた方がよっぽどマシだってな」
「よーく分かりました……なら、私達が初めてアナタを後悔させてみせますよ。その時にはもう何をしても手遅れでしょうが」
「上等や。やれるもんならやってみ!」
沙莉は舌を出し2人を挑発する。
「懐かしいですね、ソレ。昔よくやってましたよね。今のアナタは全盛期のアナタにとてもそっくりだ」
「ウチもこれ久々にやったわ」
一通り終えると沙莉は遥に手を伸ばす。
「そういう事や」
「どういう事よ」
「裏切り者が裏切ってやって来たっちゅうこっちゃ!」
「だからそれを言ってんのよ。2度ある事は3度あるなんてよく言うけど、アナタはどうでしょうね?」
「ゴタゴタ言ってへんでさっさっと掴めや」
「……あーあ、別に私は3対1でも良かったんだけどなーー」
「嘘つけ!強がんな!結構ヤバかったやないか」
「そんな事ないわよ」
「1人で格好つけんのは無しや。ウチは知ってんねんで。ハンディキャップマッチに慣れてるとか言って余裕見せてたけど私が知る限り一回しかやった事ないやないか!どの口が言ってんねん!」
「ば、バレてた……」
「当たり前や。ウチがどんだけお前のこと見てたと思ってんねん。元憧れの相手の事忘れるわけないやろうが」
「元って…今は違うの?」
「今はもう憧れやない。憧れるのはもうやめた。仲間やからな」
「どっかで聞いたことがあるようなないような……」
「細かい事はええねん。……遥とこうやってなんだかんだ色々とやってきたけど、昔も今も一度も組んだ事は無かったよな」
「そう言えばそうね」
「やろうや。パートナーとしてのタッグマッチ。あっちはどうやらタッグチャンピオンらしい。ウチらの初戦には丁度ええ相手やろ」
「そうね。シングルのベルトは今の私達には勿体なさ過ぎる。確かにその位が丁度いいかもね」
「…どうせ格好つけんなら2人でや。独り占めはさせへんし、もう1人では背負わせへん。先に去った皆の想いを1人で背負うのは重すぎるからな」
「フン……重かったからって後悔しないでよ」
「だから、何度も言っとるやろ。ウチらヤンキーは、」
「後悔なんかせえへん。でしょ。分かってるわよ」
遥は沙莉の手を掴み立ち上がる。
「分かってるやないか」
「じゃあこれ返すわ」
遥は沙莉が着ていた黒い特攻服を手渡す。
「そんな物今の今までどうやって閉まっとたんや」
「さあね、異世界で細かいこと気にしたら負けよ」
「それもそうやな!」
沙莉は黒い特攻服に再び手を通した。
威薔薇ノ棘VS獸虹死賭
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