八十四話 布袋葵/ホテイアオイ
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ついに対峙する遥と沙莉達。
「遥は私がやる。お前ら2人は手出すな。ええな?」
「勿論です。と言いたいところですが生憎それは出来ません」
「なんでや?」
「お2人の関係は私達も知っています。お二人ならではのやり取りもきっとある事でしょう。だけどそんな余裕はありません。あの人の強さは沙莉さんも知ってるでしょう?私達は確実に勝たなければならない。ムードを壊して卑怯な真似をしてでもね。いいから3人でやりますよ。そうじゃなきゃ意味がない」
「チッ……」
「我慢してください沙莉さん。日本に帰るためですから」
「分かっとる」
渋々頷く沙莉。
「それと不恰好な関西弁はやめてください。似合いませんよ」
「癖でついな…」
「だったら直してください。沙莉さんはもうあの女を裏切った身なんですから」
「…………」
「そういう事ですから遥さん。私達3人まとめて相手してくださいますよね?」
「ハンディキャップマッチには慣れてる。好きにして」
「では遠慮なく。やりますよ、紫鶴那、沙莉さん」
「ハイ!」
「分かった…」
「どこからでもどうぞ。準備はできてる」
最初に勢いよく仕掛けてきたのは和葉。
挨拶替わりのハイキックを叩き込むが再び遥もハイキックでそれを相殺する。
「まるでデジャブね」
「ここまでは。だけどさっきと今とじゃ意味も数も違いますよ」
遥の後方へと回り込んだ沙莉、紫鶴那が同時に後頭部にドロップキックを叩き込む。
衝撃で前へと倒れ込み姿勢を崩した遥を和葉は受け止める。
そのまま遥の右腿を左手で内側から抱え込み、左肩の上に右腕を引っ掛けるとブリッジする勢いで後方へと思いっきり反り投げて地面へと叩きつけるキャプチュードを放つ。
「っ……」
「まだですよ」
「分かってるっつーの」
遥は直ぐに体を回転させ立ち上がり和葉の顔面を蹴り上げる。
遥は勢いのまま和葉を持ち上げ、ブレーンバスターを狙うが和葉が抵抗した事で失敗に終わる。
その勢いのまま和葉がバックに回り遥の背中を押すと、待ってましたと言わんばかりに走り込んできた紫鶴那が蹴り脚とは逆の脚を振り上げると、素早く同時に蹴り足で地面を蹴り、飛び上がって顔面にキックを叩き込むバイシクルキックで追い打ちをかけていく。
倒れた遥を沙莉がうつ伏せ状態に寝かすと遥の下半身フックさ固定する監獄固めでガッチリと固める。
「悪いな遥。好きにはさせへん。もう終わりや。いや、終わりだ」
「……流石にこれじゃ終われないでしょ。私いい所なしだし」
「させたくないからこれで終わらせるんや、終わらせるんだ」
「……無理して言い直さなくても私はいいと思うけど」
「黙っとけ…」
遥は抜け出そうと抵抗するが上手くいかない。しかも蹴りを得意とする遥にとって下半身を中心に痛めつけるこの技は遥にとって弱点と言える技であろう。
「そのままですよ、沙莉さん。私が終わらせます」
もがく遥を目の前に見下ろす紫鶴那。
「さて、アナタはどんな死に方がお望み?」
「……」
ペッ!
遥は紫鶴那に唾を吐く。
「どんな方法でもアナタはお断り」
「へぇ……」
もがく遥の顔を思いっきり張る。それも何度も。
「舐めんなよ。かつてはアンタの方が上だったかもしれないが今は私の方が上なんだよ。アンタは格上の私に殺されるんだ。格下かイキがんな!勘違いすんな!!」
「…………そう。気に障ったなら謝るわ。ごめんなさい。でもアナタじゃ私は殺せない」
「殺せるわよ」
「無理よ」
「無理じゃない!!私はアンタより強いんだからな!!」
「………そんなに強いなら見せてちょうだい。今から来るアレよりも強いってね」
「何の事?」
「紫鶴那後ろや!」
沙莉の声を受け振り返る紫鶴那。
すると目に映ったのはこちらへ真っ直ぐと勢いよく突っ込んでくる完全にミノタウロスとなった陽子の姿だった。
「あれは!」
「っ……」
異変に気づいた紫鶴那、和葉はその場からいち早く逃げる。
「!!」
沙莉もすぐに技を解きその場から離脱する。
「誰だか知らないけど助かったわ!」
遥もそれに乗じて脱出すると間一髪陽子の突進を避けようとする。
だが直後躓き転んでしまう。
真っ直ぐ突っ込んでいった陽子は遥めがけて突っ込んでくる。打つかる直前急ブレーキをかけるとその場で止まる。
「ブモォォォーー!!!」
腹を立て雄叫びを上げる陽子。
「なんなん、あれ!?」
突然の出来事にさっきから例の癖が出ていることにも気づかない沙莉。
「和葉さん。あれって…」
「ああ。能力を使った陽子で間違いない」
「やっぱり」
「だけどあれはもう陽子じゃない。能力に完全に呑まれて自我を失ってる。人間ですらないモンスターに成り下がったただの存在よ」
「てことは…」
「そうね。このままコイツにやらせてもいいけど、私達もただじゃ済まなそう。だから先に排除する」
「了解です」
「ブンモォォォォ!!」
再び雄叫びを上げる陽子。
何故か近くにいる遥と沙莉には手を出そうとはしない。
「もしかしてアナタは私の味方?」
「どういう事や、遥」
陽子は頷く事もないが遥達をじっと見ている。
「忘れたの?私達は全てのモンスターに好意を抱かれ人間には敵意を抱かれやすい。そういう能力が常時かかってるでしょ。だからこんな事になってる。現に彼女はこんな近くにいる私達を襲おうとはしないもの。まぁ、つまりは彼女、完全に人を辞めたってことになるんだろうけど…」
「……」
そこに和葉達がやって来る。
「その通り。化け物なら殺すのには躊躇はいりません」
「化け物って…コイツも一応仲間やろ!まさかお前ら、」
沙莉の言葉にも顔色ひとつ変える様子を見せない。
「沙莉さん。コイツは私の仲間じゃない。私達の仲間に化け物もモンスターもいませんよ」
「和葉、お前!」
「でも、紫鶴那ちょっと本気出すぞ」
「え」
「苦しませずにコイツを葬る」
「……了解」
紫鶴那が髪をかきあげる。
すると周りに紫鶴那の分身が複数現れる。
「アレは……」
「どういうこっちゃ。アレと全く同じもんをさっき他の奴が使ってる所を見たばかりやで…」
そう。確かにこれは同じ獸虹死賭のメンバー川山宙愛が使っていた分身能力も非常に酷似している。
しかもそれだけではなかった。
多数に分身した紫鶴那は素早く陽子の周りを囲むと、一斉に陽子を指さす。
この仕草は叫埼神奈が得意としていた動きにそっくりだった。
するとやはり陽子の体は激しく燃えあがる。
「ブモォォォォ!!!」
獲物を紫鶴那達に切り替えた陽子はそれでも暴れ回る。
「和葉さん!」
「…………かかってこい」
陽子に指を立てて挑発する和葉。
人間としての本能かそれとも動物としての本能なのか、その挑発に乗った陽子は和葉めがけて突っ込んでくる。
陽子は自らの燃えあがった巨大な腕で和葉を振り払おうと振り回す。
だが和葉はそれを片手で衝撃ごと受け止めてみせる。
「2割ってところか…」
和葉の体は陽子から移されるように燃えあがる。
「これで3割。これだけ貯まれば十分か」
「グモォォォォォ!!」
力で押し切ろうとする陽子。だが和葉軽々と陽子をそのまま片手で持ち上げると放り投げる。
陽子の巨大な巨体は地面に打ち付けられる。重さで地面が割れないのが不思議なくらいだ。
「紫鶴那。動かせ」
和葉そう呟くと利き手を前に出して目を瞑る。
「了解!」
すると倒れていた筈の陽子が和葉の目の前に瞬間的に現れる。
「ブモッ!?」
まさかの出来事に陽子も奇声をあげ戸惑う。
「……(ニッ)」
口角を少し斜めに上げて笑うと和葉は目を開ける。
そして和葉は利き手の目の前にあった陽子の額にデコピンをした。
そんな攻撃で陽子が傷つくことはなく直ぐに目の前の敵に手を出そうとした瞬間。
バシンッ!!
何かが弾け飛ぶような音が陽子からする。
陽子は突如として力が抜けたように膝をつけるとそのまま絶命した。
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