八十二話 音使獣夢/オンシジューム
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「しつこいな〜〜ついてこないでよ!!」
「そちらが逃げるからですわ!イヤなら足を止めて私と正々堂々戦ったらいかが?」
「もうーーー!!真っ当な事を言う人が私は1番嫌いなのー!」
とにかく逃げ回る女。その人物は結果的にカモメを刺し殺した。女の名は獸虹死賭、角又 萌七。
そしてそれを執拗に追いかけ回るのは、バルキュリア王国騎士団の一つ、ホムラノ騎士団団長で遥の友、レッカ。
遂には部室内を抜け出して外にまでやってきてしまった。
「……あーー、ここら辺でいっか」
「やっと勝負する気になりました?」
「まぁね、ここなら無邪気に暴れても平気そうだから!」
「そうですか。やる気になったならなんでもいいですわ。このまま走り回ってるだけじゃ遥さん達に示しがつきません。丁度よかったですわ。それでは始めましょうか!!」
レッカは得意の槍を取り出し構える。
「あっ、ちょっと待って!!」
「は?」
「準備するから」
「準備?……仕方ありませんね」
レッカは仕方なく律儀に槍を置いて待つ。
萌七は身につけていたウエストポーチを漁り始める。
「あれー……どこにしまったけ?ここら辺に入れたと思ったんだけどな〜、これじゃないし、ここにもないし……えーー、どこにもないよーー。おっかしいなぁ、これじゃ戦えないじゃん…」
萌七は深く落ち込みポケットに手を入れる。
「あ、あったーー!!そうか、ポーチじゃなくてポケットに入れたんだった!!だけど良かったーー、これで戦える!」
萌七はポケットからゴツいケースに入ったスマホを取り出した。
「準備できました?……」
「あとちょっと!!」
ようやく探し出したスマホを手にいじり出す。
「今日はーー、これかな?いや、ちょっと待てよ。やっぱりこっちの気分かな!!」
するとスマホから大音量でアイドルの曲が流れ始める。
「なんですか!?この音楽は……」
「よーーしっ!準備完了!!いっくぞーー!」
すると突然萌七は曲に合わせてリズムを刻みながら踊り始めた。
「これが戦うための準備……信じられませんわね」
そして曲の伴奏が終わり歌詞が流れ始めるとリズムを刻み踊りながらレッカの元へ近づいていく。
「これは、今の曲が戦いの合図って事なんでしょうか。まぁそういうことにしておきましょう!きっとそうですわ!」
レッカは再び槍を構え、萌七に突きつける。
だがそれでも恐れることなく踊りを止める事もなかった。
「見た目と動き以上に肝は据わっているようですね。それならばこちらも遠慮は致しませんわよ!!」
レッカはそのまま槍を萌七に突き刺そうとする。
だが、踊りの振りに合わせてそれを避けていく。
「ほぉ……ならばこれならどうでしょう!」
槍の動きはどんどんと早くなっていく。だがその全ての攻撃をこれまた踊りながらかわしていく。
曲がサビに突入した頃レッカとの間合いか詰まってくると、
「ヘイッ!!」
リズムに乗りながらレッカの頬をビンタする。
「…………」
「ヘイヘイヘイッ!!」
ヘイの数だけリズムを刻みながら頬を叩いていく。それに比例するようにビンタの威力も強くなっていく。
「面白い戦い方をしますわね……お返しですわ!」
少し頭にきたレッカもビンタを試みる。
だがそれはしゃがんでかわされる。そのまま下から突き上げるようなアッパー喰らってしまい思わずレッカはのけぞってしまう。
それと同時に曲は2番に突入。
すると何故か萌七はレッカから距離を取り踊り続ける。
「これは……なんだかイラつきますわね。舐められてるのかただ単にふざけてるだけなのか、私にはさっぱり分かりませんが、見た目以上に只者ではなさそうですわ」
「ハイハイハイハイ!!」
萌七は曲にノリ続けどんどんとテンションを上げていく。
「彼女の強さはきっとこの曲にある筈。ならばこの曲を流しているさっきの装置を破壊すれば彼女の動きは弱まるはず。そうと決まったら反撃と行きましょうか!!いい加減この耳障りな曲にも飽きてきましたからね!」
レッカは魔法で槍に炎を纏わせると、それを振るいながら猛スピードで萌七に襲いかかる。
だが萌七はそれを笑顔でノリながら避ける。
そればかりか旋回しながら放つカウンターのローリング・エルボーでレッカにダメージを与えていく。
レッカは負けじと槍を振り回し狙っていくが素早くしなやかな動きでまるでレッカの動きが振りの一部かと思わせるような華麗な動きで戦いの流れを掴んでいく。
「これは本当に想像以上に面倒くさい能力だこと!」
中々流れが掴めずにいるレッカにもう1発ローリング・エルボーを叩き込み完全に戦いの流れを自分のものにする萌七。
そして遂に曲は再びサビに入る。
「よーーしっ!!ここで決めるよーー!!」
萌七はさっきより高いテンションと速い動きでレッカをどんどんと攻め立てていく。
レッカも当然抵抗するが防ぐのがやっと。自らの攻撃まで続いていかない。
「(これはマズイですわね……。明らかに私の動きが彼女についていっていない。これでは反撃のしようがありませんわ。だからといって防ぐだけじゃ何も変わらない。このままじゃジリ貧ですわ。何かきっかけを掴まないと!)」
「オイ!オイ!オイ!」
尋常ではないテンションを保ちながらレッカを攻めたて次第にフィニッシュへと近づけていく。
「あまり存じ上げない曲ですが、そのテンションの上げ方とフリは曲にあっていないんじゃなくて!無茶苦茶ですわよ、」
レッカも攻撃をかわしていくが遂に萌七に捕まってしまう。
萌七はレッカをフルネルソンの体勢、羽交い締めで捕えると水平状態を保ちながら得意のフルネルソンバスターで地面へ叩きつける。
それと同時に曲は間奏に入り終わりへと近づいていく。
萌七は自らの勝ちを確信した顔で勝利の舞を躍る。
「……喜ぶのはまだ先ですわ。曲もまだ終わっていないではありませんか。アナタもまだ踊り足りないのでしょう?」
レッカはなんとか立ち上がる。
「いいね!ノリがいい人は私大好き!それなら、曲の終わりと同時にアナタも終わらせてあげるよ!!」
萌七は懐からカモメを刺した血塗れのナイフを取り出す。
「(このままだと私もあの方の二の舞になってしまう。それは困りますわ。私にはまだ愛するこの国のためにやるべき事が沢山残ってるんです。こんな所で死んでられない!!)ならば私も覚悟を決め恥を捨てましょうか…」
レッカはその場て目を閉じ、音楽に耳を澄ます。
「(彼女がリズムにのって強くなるというのなら私も真似してみましょう。曲調は既に覚えました。あとは自らにビートを刻むだけ)それでは華麗に舞うと参りましょうか!!」
遂に曲は最後のサビへ。
レッカは曲に合わせながら優雅に体を動かし待っていく。
どこか一方的で情熱が感じられた萌七の踊りとは真逆で目にした人々を虜にするような華麗な舞と妖艶さが際立ちとても美しい。
「私のパクリ?ムカつく!そんな事で私みたいに強くなれるわけないじゃん!!そもそもこの曲はそういうフリをする曲じゃないのよ!」
ヒートアップする萌七の攻撃。だがそれをレッカは華麗に踊って回避する。しかも回避するだけではなく手を差し出し萌七を余裕の笑みで挑発する。
「なんなのもう!!」
挑発に乗った萌七の攻撃は先程より大胆で大振りへと変わっていく。
そのせいかノリノリだった筈のリズムに乱れが生じ始めた。
「私のリズムについてこれます?」
「当たり前でしょ!!」
ムキになればなるほど自身のリズムは乱れ萌七の動きは鈍く弱くなっていく。
その隙にレッカは自らが持つ槍に再び炎を纏わせ、力を溜めていく。
「ちょこまか動くな!!粋がるな!このおばさんがぁ!!」
「レディにそれは失礼ですわよ!」
レッカは見事に萌七の足を引っ掛け転ばせると、そのまま槍を突きつける。
そしてそれと同時に流れていた曲も終わりを迎えた。
「……分かった。私の負け。降参!!」
「それで済むとでも?」
「だってアンタ達は私を殺さないし殺せない。そうでしょ?だからこれで終わり。勘弁してよ!」
「何か勘違いをなさっているようですね」
「は?何が違うのよ。くだらない約束云々でアンタは結局私を殺しはしない!そんなの私は分かってんのよ」
「言いたい事は分からなくもありません。命乞いならする相手が間違っていますわよ。確かにアナタが言うように遥さん達ならアナタを殺すような選択肢を進んで選ぶ事はないでしょうね。だけど私は別だ」
「え……」
レッカの顔は強張り、萌七の顔は怯え青くなる。
「私はアナタ達と違って生まれも育ちもこの世界の人間だ。私の周りには常に死が身近にあった。今のアナタのように死に怯えていた頃が思出せないほど私は慣れてしまった。命を狙われるのも奪うのも。アナタは私の友の敵だ。つまり私の敵でもある。友がこの選択肢を選べないのなら私が代わりにその選択を選ぼう」
力が溜まった槍は炎で勢いよく燃えあがり炎の先が萌七に向く。
「待って!待って!私を殺したってしょうがないでしょ!?アンタの方が私より強い。これで勝負はついたじゃん!なのになんで私までついで感覚で殺されなきゃいけないのよ!?」
「ついで感覚で人を殺したのはアナタも同じでしょう。それなのにアナタはまだ違うとでも」
「それは……だけど私は悪くない!アンタだってさっき言ったじゃない!この世界はそういう世界だって」
「ええ。だから私もアナタを殺すんです。ここはそういう世界だから」
「ふざけないで!言ってることが無茶苦茶!」
「無茶苦茶ではありません。殺しが当たり前にあるこの世界でも命の価値が軽いわけじゃない。命を奪ったのなら奪われる事も覚悟しなければならない。これもこの世界の当たり前です。知らなかったじゃ済まされない。アナタは既にこの世界で人を殺した。つまりアナタも命を奪ったから奪われる覚悟があったということですよね?」
「なわけないでしょ!?冗談言わないで!」
「冗談ね。笑えませんわ……冗談言ってるのはアナタでしょうが!!」
「!!……」
「人を殺した人間がそう易々と生きれるわけがないでしょ!アナタにどんな理由があろうと命を奪った事実は変わらない。後悔するなら命を持って償いなさい」
「イヤだ、イヤだ、ヤダヤダヤダ!!私は死にたくない!だって私は悪くないもん!ってかなんで私だけなんだよ!!私以外にも他に殺した奴らはいっぱいるだろうが!!なんで私だけこんな目に合わなきゃいけないんだよっ!!」
「……最後の最後のまで責任転嫁とは美しい行為とは言えませんわよ。最後くらいアナタが殺したあの方のように美しく覚悟を決めたらいかが?」
「そんなもの出来るわけねぇだろうが!!私は死にたくねぇんだよ!!」
「…………」
「お願いだから許してくれ!許してください!なんでもしますから!ね、お願い!」
「最後に言い残すこと、それでよろしいですか?」
「ふざけんな……ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな!!!!……絶対許さねえぞ!!私はお前を許さない。許さないからな!!呪ってやる、絶対に呪ってやる!」
「そういうのは慣れてますわ。それで気が済むならお好きなだけどうぞ」
レッカは炎を纏いし槍を大きく振りかぶる。
「イヤだぁぁぁぁーーーー!!!!」
萌七の絶叫が響き渡ると槍は萌七の目の前、僅か数ミリで止まる。
恐怖のあまり萌七の目はひっくり返り泡を吹きながら地面に倒れる。
炎によって萌七の衣服だけは燃え上がるがレッカが指を鳴らすとその炎は何も無かったかのように鎮火する。
「私の気持ちは言ったとおりです。だけどそれをきっと私の友は喜ばない。今の私は遥の仲間として戦っていますから。……久しぶりですね、こうやって命を繋げたのは。きっとこれが人間として正しい行いなんでしょう。不思議と気分も悪くない、たまにはこういうのも悪くありませんわね。……それと、聞こえているのでしょう?そういうことですわ、今の私は気分がいい。だからアナタを殺さない。姿を現してはいかが?」
「…………」
すると背後から現れたのはゴブリンの仮面を被ったあの人物だった。
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