七十八話 魔璃威黄金/マリーゴールド
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サシミを囲んだ複数の宙愛達が一斉にサシミにトドメを刺しに来る。
「!!……(このままじゃサシミさんは……それに奴らの思い通りになるなんて絶対イヤだ!だけど私に出来ることなんかあるわけ……)」
悲観的に考え落ち込むヤヨイ。彼女はただただ視線の先の乙音や宙愛達を黙って見ていることしかできなかった。
そうしていた時だった。
未来を受け入れろ、そして、未来に抗ってみせろ。
主は既にそれに値する力を持っている。
そんな声がどこからかヤヨイには聞こえた気がした。
その後すぐにヤヨイの目に映ったのは、複数の宙愛達がサシミをボコボコに痛めつけ亡骸となり地面に這いつくばる姿が。
余りにも悲惨な景色にヤヨイは思わず目を瞑る。
そして自分の置かれた状況を受け入れ覚悟を決め再び目を開けると、そこにはまだサシミは生きていてたった今からトドメの攻撃を受けようとする瞬間だった。
「今のは……いや、考えてる暇なんてない!とにかく……サシミさん!!避けて!!!」
「ああっ!!」
サシミはヤヨイの声を受け入れるように瞬時に体を回転させそれを避けると逆に宙愛達の攻撃を自身に誤爆させる。
「なっ!」
「かわした……あの状況で。あり得ない…」
まさかの出来事に動揺する乙音達。
サシミはその隙にヤヨイの元へ駆けつける。
「……逃げろって言ったでしょ」
「すみません……でも私!」
「……だけど助けられた。アナタの出来ることで。アナタはちゃんと役割を果たしだけ。攻める気はないわ」
「はい。ありがとうございます」
「……でもこうなったらヤヨイにも覚悟を決めてもらわなきゃ。最後まで私と付き合ってもらう。いいよね?」
「そのつもりですよ」
「……だったら勝つよ」
「それもそのつもりです!!」
「アナタ達って結構ついてるのね。あんな状況で奇跡を起こすなんて。調子に乗ってた訳じゃないけどあの状況なら確実的に私達が勝ってた。どういうわけ?」
「教えるとでも」
「でしょうね。まぁいいわ。アナタ達の敗北がちょっと長引いだけで私達の勝利が遠のいたわけじゃない。こんなタイミングで奇跡を引き起こす程の貴重な運を使っちゃったこと後悔させてあげる」
「乙音さん。私本気出します。だから乙音さんも本気出してください」
「あら、宙愛の方からそんな事を言うなんて珍しい。どういう風の吹き回しかしら」
「勝ちたいんですよ。この世に奇跡なんかないってことを私は証明したいんです。その為には私達が勝たなきゃ!」
「そうね。いいわよ。なら大人気ないくらい本気出してさっさっと勝ちましょうか。それで完膚なきまで叩き潰して現実って物を見せてあげましょう。……私がアナタを勝利に導かせる。ついてきなさい!!」
「喜んで!」
「……来る。どうするヤヨイ?このままじゃ結果は何も変わらない。何か方法を見つけないと」
「分かってます。だからこそ、何も聞かずに私の指示に従ってくれませんか?」
「それで勝てるの?」
「正直それはギャンブルみたいなもんです……確証なんか何もない。自信もありません。上手くいかない方の方が確率だってきっと高い。だけど!サシミさんが私の事を信じてくれるなら、掛けてください。勝たせてみせます」
「……指示して」
「はい!」
「話は終わりました?」
乙音の力によって一瞬でサシミ達を取り囲む宙愛達。
「奇跡を起こして生き延びた事、辛い現実を目の当たりにさせて後悔させてあげますよ!!」
威勢よく1人の宙愛が誰よりも先に前へ出てくる。
「ヤヨイ!」
サシミはその攻撃をいなすように受け入れる。
「七時の方向!」
それに続くように後方からサシミの不意を突くように瞬間移動してきた宙愛が襲いかかってくる。
だがヤヨイの指示によって一足早くそれに気付き対応する。
「まさか!!」
「っ!またか……」
「まだ来ます。3時、4時の方向。同時です!!」
瞬時にサシミは飛び上がると、指示通り現れた宙愛達の攻撃を再び誤爆させる。
「続いて10時の方向。決めてください!!」
「……任せて!」
やはり指示通り現れた宙愛を今度はこちら側が不意を突くように高い位置からの突き刺すような串刺しドロップキックで倒す。
これにより複数の宙愛達の様子が動揺に変わり始める。
「おかしい……あり得ない……ただ足の速い奴が瞬間移動に勝てるわけがない!!なのになんで!!」
「そんなのはどうでもいい!!乙音!もっと早く私を動かして!!」
「呼び捨てすんなっ!!そんなの言われなくたって分かってるわよ!」
乙音は今までより速いリズムで手を叩き宙愛達を更に高速で移動させていく。
「勝つのは私達だぁ!!」
「再び3時の方向から一体。少し遅れて12時、6時の方向から順に来ます!」
「……了解」
先程まで明らかに瞬間移動と宙愛達の動きに対応出来ていなかった筈のサシミだったがヤヨイの指示のお陰で今度はこちらが上だと示すように簡単に宙愛達を対処していく。
「まただ。また読まれた……だったら今度は!」
「今度は5時の方向です」
サシミはヤヨイの指示通り5時の方向に現れる宙愛を迎え打つ体制を整える。
「いや…サシミさん!変わって逆の方向です。急いで!!」
「……大丈夫。間に合う!」
サシミの注意の向こう側からに移動された宙愛だったが足の速いサシミは11時の方向から現れた宙愛も落ち着きながら急いでそれを対処する。
「また!!奴らの動きを見越して急遽移動先を変えたっていうのに、それでも読まれるっていうの!?……」
これにより更に宙愛達の連携が崩れ乱れが生じる。
「……今!」
チャンスをモノにするためサシミは駆け出し、倒れていた宙愛を踏み台にして背中を向けた状態で大きく飛び上がる。
「おしまい!!」
空中でバック転をしながら動揺し1つに纏っていた残りの宙愛達めがけてボディ・プレスを喰らわせる。
かなりの高度から仕掛けられたこの攻撃はサシミならではの常識を超えた猛スピードで繰り出され、その勢いに耐えられず宙愛達は全員地面に転がった。
「嘘でしょ……」
全ての宙愛達を倒され、乙音の作戦は完全に崩れた。乙音の顔は一瞬で真っ青になり自らの敗北を悟る。
「……イヤだ。……私は負けてない。私は宙愛とかとは違う!!私は負けないのよ!!」
乙音は自ら自身を瞬間移動させその場からの撤退を図る。
「無駄よ。全部見えてる。サシミさん、出口に急いで!」
ヤヨイからの指示を受けたサシミは猛スピードで出口へ向かう。
すると瞬間移動してきたばっかりの乙音を捉えるサシミ。
「なんで!なんでアナタの方が速いのよ!?」
「……ヤヨイのおかげかな」
「ヤヨイ……あの女が私に何かしたのね。そうじゃなきゃ私が追い付かれる筈がないもの!」
「私は何もしていない。ただ見ただけ。アナタ能力じゃそう遠くには逃げられない。それは分かってた。それが出来てたらいくらサシミさんでも追いつけてないもの。それにね、瞬間移動が予知に勝てるわけがないんだから」
「予知……まさか、未来を見たって言うの?そんなバカな!あり得ない!!」
「……あり得ない事が当たり前に起きるのが異世界だよ」
「サシミさん、やっちゃってください!!」
「……だってさ。だからアナタもこれで終わり!」
必死に抵抗する乙音だがそれを無視するように相手を素早く豪快に引っくり返すように投げ、その後そのままブリッジをして形を作るブリザード・スープレックスホールドで乙音の戦意を完全に奪った。
○緋海 葉月・ヤヨイVS ●鈴原 乙音・川山 宙愛
フィニッシュ ブリザードスープレックスホールド(産地直送)
威薔薇ノ棘VS獸虹死賭
残り7人 残り7人
「サシミさん!やりましたねー!」
「……うん。でもヤヨイが助けてくれたお陰。私だけじゃ勝てなかった。ありがとう」
「いえ、私は私がやれる事をやっただけですから」
なんとか2人を倒したサシミ達。だがサシミの体は既に限界寸前でゆっくり歩くのがやっとだった。
そんな会話をしながら、サシミの元に肩を貸すため急ぐヤヨイ。
だがその途中。
「幾ら足が速くても、幾ら未来が見えようとも姿が見えなきゃ私の勝ちは揺るがない」
どこからか女の声が聞こえる。その声に耳を傾けた瞬間、サシミの首元から大量の血が吹き出る。
その様子を私は見ていることしか出来なかった……。
「ハッ!……はぁ、はぁ、はぁ……」
ヤヨイの顔をは真っ青に染まる。
突如起きたヤヨイの異変にに少し離れたサシミは気づいた。
「……ヤヨイ?」
「っサシミさん!!逃げて!!」
「、!!」
ヤヨイの言葉に少し疑問は思ったが、まずはヤヨイの指示に従いその場から離れることに。
だが疲れ果てたサシミには今までのような猛スピードを出せる力は残っていなかった。
「遅いよ」
さっき聞いた女の声が聞こえる。
聞こえたと思った瞬間、サシミの首元から大量の血が吹き出しその場に倒れた。
「……」
ヤヨイの目に映るのは予知できた未来を防げなかった現実だけだった。
「幾ら足が速くても、幾ら未来が見えようとも姿が見えなきゃ私の勝ちは揺るがない」
サシミの倒れた場所の側にはサシミの血によって浮き上がった人のシルエットようなものが見える。
「あーあ。だけど汚れちゃった。また着替えなきゃか、面倒くさい。今日で2回目だよ。ほんとツイてないなーー」
能力を解きヤヨイに姿を見せる女。
「お前……」
「あの女には1番最初に目的を邪魔されて貸しがあるんだ。こうやって私の手で返す事が出来てよかったよ」
獸虹死賭 水瓶座 桃花 美燐
「お前ぇぇ!!」
怒りに身を任せ無謀にも美燐に勝負を挑むヤヨイ。
「やめときな」
冷静な美燐の一言がヤヨイの歩みを止める。
「君じゃ私には勝てない。君には色々と私達じゃ見えないようものまで見えるんだろ?だったら分かるよね?君じゃ万が一にも私に勝てる事はないって事くらい」
「分かってる。だけど!!それじゃ、絶対に後悔する!」
「逃げればいいじゃない」
「え、」
「私は君には興味がない。それに目的でも無い。だから逃げなよ。無駄に命を落とす必要なんかない。私もそういうのは嫌なんだ。死んでしまったら後悔のしようもない。それに君達の仲間ならその選択を選んでも責めることはないでしょ。助けを呼びに行くなり何処かに身を潜めるなり好きにすればいい。それが今、君の出来る最善だと思うけど?」
「…………」
「安心しなよ。騙し討ちなんかしないから。あくまでも私が興味を持っているのは、日本に帰るために必要な桐生遥の首と、私を遠慮なく地面に叩きつけ目的の邪魔をしたあそこの女だけ」
美燐はアシュラの方を指さす。
「だから早く逃げる事をオススメするわ。私の気が変わらないとは言えないから」
「サシミさん……すみませんっ……」
ヤヨイは不甲斐ない自分を怨みながら、美燐の言う通りその場から逃げ出した。
「よし、さーてと、私も行きますか。私が行くまでにあの女が死んでない事を祈るわ。そうじゃなきゃ貸しを返せないもの。多分無理だけど……」
美燐は血によって赤く染まった上着脱ぎ捨て、血を拭うと再びその姿を消した。
威薔薇ノ棘VS獸虹死賭
残り6人 残り7人
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