七十四話 死堕麗桜/シダレサクラ
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部室内全体に爆発音が響き、周囲に爆風を感じさせる。
爆発自体はあり得ないほど小規模な物であった為に遠くにいたオジョウや遥達に影響は無かった。
だが、周囲にいたドヤガオ達を殺すには十分な威力であった。
「ドヤガオさん!マケガオさん!そんな……」
「アナタ自分で言ってなかったけ?ここが異世界なら何が起こってもおかしくないって。だから私は言ったわよ。甘いことばっか言ってると痛い目に遭うって」
「アナタって人は……仲間が死んだんですよ!アナタ達のために!それなのに何も思わないのですか!」
「別に。もちろん感謝はしてるわよ。あの子のお陰で邪魔者が2人も減ったんだから。それにああなったムラサキに痛覚なんてものはないわ。痛みも感じずに死ねてよかったじゃない」
「……よーく分かりましたわ。アナタ達の覚悟は嫌なほどに伝わりました」
「そっ。だったらアナタも相応の覚悟が出来たってことよね?」
「ええ。確かにアナタが言ったように私は甘かったのかもしれない。私があの時2人を止めてなんかいなければ今頃こうはなっていなかったかもしれない。……もう、かもしれないには懲り懲りですわ。私はやると決めました!」
「ハッ。なら私が相手になってやるからその覚悟を見せてみなさいよ。勿論死ぬ気でね!」
「後悔しても知りませんわよ。本気で覚悟した女の強さ見せて差し上げますわ!!」
オジョウはドレスの裾部分を豪快に引き裂き動きやすいようにする。
「はぁ!!」
オジョウは慣れない手つきで麗央奈の顔を張る。
「おいおい……冗談よね?」
続けざまにオジョウは遥の蹴りをイメージしながら勢いよく顔面を蹴り飛ばそうと足を伸ばすが寸前で止まってしまう。
「んっ……」
「どうして止めるのよ?」
「……はぁ!!」
もう一度足を伸ばすが、やはり直前で足が止まってしまう。
「ねぇ、もしかてだけどアナタ人を殴ったことがないなんて言わないわよね?」
「…………」
「嘘でしょ。そんなんでよくあんな威勢のいいことがペラペラと言えたわね。殴って殴られる痛みすら知らない奴が私に勝てるとでも思ってるわけ?いいわ、私が見本を見せてあげる。攻撃ってのはね、こうやるのよ!!」
麗央奈のすらっと伸びた足が思いっきりオジョウの顔面に当たる。
「あぐっ!!…………」
オジョウは思わぬ痛みに耐えられずひざまづく。
「痛い?痛いわよね?」
「……痛いに決まってますわ。っ……」
「でしょうね。だけど先に死んだお仲間さんの方がもっと痛かったんじゃないかしら?」
「……そんなの言われなくても分かってますわ!!」
「だったら立ってみなさいよ!」
麗央奈は更に跪いたままのオジョウを蹴り上げる。
「どうしたのよ?さっさっと立ちなさい。もしかしてもう限界なわけ?」
「…………」
「呆れた……覚悟を決めたって言う割には全然じゃない!!ちょっと期待した私がバカだったわ……今のアナタは邪魔者じゃない。だから殺す価値すら無い。好きにそのまま這いつくばってればいいわ!!」
麗央奈は去り際にもう一発蹴りを入れる。
「……覚悟なら、もう、決めましたわ」
オジョウはその一発を見事に受け止めた。
「あぁ?人もろくに殴れないアンタが何の覚悟をしたって言うのよ!!」
「アナタが言った通り私には人を殴った経験はありませんわ。知識はあっても見よう見まねじゃ上手くはいかない。だから柄でも無い事はやらないって決めました。私はアナタをもう殴らない!」
「は?何甘ったれたこと言ってんのよ!!さっきのアナタのセリフそのまま返してあげる。仲間が死んだのに何も思わないわけ?」
「思いますわよ。思うに決まってますわ!だからこそです」
「だったら仇を取ろうとか、仲間の分まで戦うとか。もっとやるべきことがあるでしょ!!」
「私にはそんなたいそうな事ができる程の力はない。それが現実だ。彼女達は彼女達のやり方で最後まで生き抜いた。だから私も私を最後まで貫いてみせる。私のやり方でアナタを倒してみせる。……だから!私は覚悟を決めたんです」
「さっきから覚悟覚悟覚悟言う割には口だけじゃない。言動が矛盾してんのよ!言ってる事はご立派でもこれじゃあ何の意味もない。そんなお前が一体なんの覚悟を決めれるって言うのよ?」
「……アナタ、絶叫系はお好きですか?」
「は?とうとう気でもおかしくなった?」
「因みに私は大好きですわ!」
オジョウはジリジリと麗央奈との距離を詰めていく。
「それがどうしたのよ?…」
「有名な絶叫マシーンは乗り尽くしました。どれも特徴的で甲乙は付け難い。どれも素晴らしいアトラクションでした!」
更に麗央奈との距離は近くなり顔同士が当たる殆ど近づていく。
「ちょっ、離れなさいよ!」
麗央奈はオジョウを退かそうとするが、オジョウの手は麗央奈の体をしっかりと掴んだまま離れる気配はない。
「なんなのよ……」
「実は私、昔から死ぬまでに体験してみたかった絶妙アトラクションがあるんです。気になりません?」
「うっさいわ!」
突然のオジョウの言動に気味悪がる麗央奈は痺れをきらしオジョウの顔面を渾身の力で殴る。
「!……」
オジョウは鼻血を流しながらもそのまま話を続ける。
「アナタはやったことあります?」
オジョウは更にジリジリと前へと進み続け、遂に麗央奈を壁越しまで追いやる。
「……ねぇ、本当にどうしちゃったわけ?分かった。自分は殴らず殴られ続ける事がアナタの覚悟。それで満足すれば私が諦めるとでも思ってるの?だったら残念でした。それはない…」
麗央奈が言い切る前にオジョウが口を挟む。
「紐なしバンジー、私一度やってみたかったんですわ!」
オジョウは今日一の笑顔で訴えかける。
「勝手にやってなさいよ…バカみたいにさ!」
「ここから飛んでみたら気持ちいと思いません?ほら、ちょうど飛ぶにはいい高さですし」
「あぁ?」
オジョウ達が追いやった壁のすぐ隣は、先程和葉達が部室に乗り込んだ際割れて吹き抜け状態になった窓がある。
「まさか!アナタ本気なの?」
「流石に私も1人で飛ぶ勇気まではありません。だから一緒に付き合ってくださいよ」
オジョウは強引に麗央奈を窓の近くまでおいやる。
「そういうこと。最初からこれが目的だったわけね!」
「ええ。そうですわ。人を殴る痛みする知らない私がアナタになんの代償も無しに勝てるわけがない。だから!私の命を賭けてアナタを殺して約束を破る。それが私の覚悟ですわぁぁ!!」
オジョウは麗央奈を落とすため自らの体を前に出す。
「さっきまでとは本当に大違いね。口と行動がみあった立派な覚悟だこと。だけどそれに付き合う気はさらさら無いのよ!」
麗央奈は当然のようにそれを抵抗する。
だがオジョウはそれにも動じず精一杯の力で麗央奈を落としにかかる。
「あーーほんとムカつくわね!!」
麗央奈は器用に体を翻すと今度は麗央奈がオジョウを窓側に追いやる。
「そんなに死にたいなら勝手に1人で死になさいの。体は私が押してあげるからさ!」
「そんなつれないことを言わないでください。ここまでこうしてやって来たんですからどうせなら一緒に!」
「だから嫌だって言ってるでしょ!」
麗央奈はオジョウを豪快に持ち上げると一気に窓から落とそうとする。
オジョウの体は外に放り投げられるがオジョウの両手は麗央奈から離れようとしない。
「……ぐぅ!!」
「諦めが悪い女は美しくないわよ。さっさっとその手を離して落ちろ!」
「諦めが悪い。それだから美しいんでしょ!!」
麗央奈はなんとかしてオジョウだけを落とそうと試みるがオジョウの手は決して離れない。
「なんなのよもう!!……和葉!」
自分1人ではオジョウを落とせないと悟った麗央奈は和葉に協力を頼む。
「アンタの出番はまだ先でしょ。だったら先にこっちを手伝ってくれない?」
「…………フッ」
「あ?」
麗央奈と一瞬目があった和葉だったが直ぐに目を逸らす。
「おい聞いてんの!?ねぇ!!」
再びの問いかけにも和葉は答えない。
「ったく……じゃあ側にいる紫鶴那でもいいわ!アンタでいいから手伝ってよ!」
だが紫鶴那は顔を向けることもない。
「ちょっとアンタまで無視するの!?私、一応アンタの先輩よ!助けなさいよ!」
すると紫鶴那がようやく振り向く。
「ねぇ、2人してどういうつもりよ。私達一応仲間でしょ?早く助けてよ!」
だが紫鶴那は一言も発さないまま麗央奈に笑顔で手を振る。
「(バイバイ)」
「はぁ!?どういう意味よ!」
そうこうしている間にも麗央奈はオジョウによって引っ張られていく。
「……どうやらアナタも目的の為に見捨てられたようですね。さっきのアナタがしたみたいに」
「なわけないでしょ!死に損ないのくせに変なこと言わないで!どうして私が死ななきゃいけないのよ!どう考えても私じゃない!私は生きなきゃいけないんだから!!」
「一緒にサヨナラしましょう」
「ふざけないで!私はぁぁぁ!!」
オジョウは最後の力を振り絞って麗央奈を共に外へ振り落とした。
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