七十三話 蟲獲撫子/ムシトリナデシコ
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ドヤガオ達の異変にようやく気付いた麗央奈とオジョウ。
「アイツら、面白い事を考えたわね」
「ドヤガオさん、マケガオさん……。ならそっちは任せましたわよ」
「アンタは行かなくていいのかい?仲間がバカみたいな作戦で死のうとしてるっていうのに」
「バカみたいな作戦なのは私も同意しますけど、私には彼女達が死のうとしてるようには見えませんわ。それに、後輩がせっかく自らの力で手柄を上げようとしているんです。それなのに邪魔なんかできませんわ!」
「随分とあの子達の事を信頼してるみたいね。友達だから?それとも仲間だからかしら?」
「別にそんなたいそうなものではありません。ただ同じ覚悟を決めた同志ってだけですわ」
「美しいわね。まるでマンガみたい。もしそうなら、このままアナタ達にやられて私達は負けるのかしらね。……あーー、ホントくだらない。仲間とか覚悟とかそんなくだらない理由で強くなれたらね、苦労なんかしないのよ!」
目つきが変わる麗央奈。
「でしょうね。だけどここは異世界。マンガや物語でよく舞台になる場所ですわ。何が起こっても不思議じゃない」
「……っ。ムカつくわ。ホントムカつく。そんな場違いみたいなフリフリしたドレスみたいな服を真面目な顔して着ちゃってさ!!マジで目障りなのよ。仲間と共に希望を胸に戦ってます!っていう顔がマジでムカつく!!だから私がその綺麗なドレスと一緒にお前の顔もギタギタにしてやるわ!!」
「……やれるもんならやってみなさいな!!レディとして相手になって差し上げますわ」
手を差し出し威勢を張るオジョウ。
だがそんなオジョウのドレスに隠れた足元は小刻みに震えていた。
「真っ直ぐ!そのまま真っ直ぐ!あ、行き過ぎだって。ちょっと下がって!そのまま斜め先の左側に右向きのマネキンがある。チャンスだよ!!」
「斜め……左…、で右側のってどっちなのよ!ぐちゃぐちゃしてよく分からないわよ!もっと分かりやすく言ってよ!」
目隠しをしながらマケガオの指示のもとムラサキ目掛けて進んでいくドヤガオ。
だが思ったより目的との距離が離れた場所から始めてしまったのが大きなミスだった。
「大丈夫だよ。なんだかんだ言ってもそのままで近づいてるから!」
「やっぱりちょっと始める位置が遠すぎたわね……もうちょっと近くから始めるべきだったわ」
「今更言ってもしょうがないじゃん!それにもう大分距離も近づいてるからやり直しもできないよ。ふとした時に目が合っちゃうかしれないから」
「え、もうそんなに近いの?」
ゴツっ…
ドヤガオの足元に何かが当たる。
「え!?なに!今の?」
「蹴ってるよ!」
「え?ウソ?もしかしてコレ?」
ドヤガオは足元付近にある物体を蹴りながら確認する。
「そうそれ!!」
「あっ、そうなんだ……じゃあ、もっと思い切って蹴った方がいい感じ?」
「うん、いいよ!だって人形だもん!」
「だよね。だったら遠慮なく!!」
ドヤガオは一歩下がって助走をつけると思いっきり足元に転がるムラサキを蹴りつける。
蹴られたマネキンは転がりうつ伏せのような体制で地面に転がった。
「よしっ!ナイス!ドヤガオ!ドヤ顔してもいいよ!」
「え、マジで?じゃあ遠慮なく…」
アイマスクをつけたまま得意のキメ顔でドヤるドヤガオ。
だが肝心な表情はアイマスクで隠れていて、客観的見ると実に滑稽だ。
「ドヤガオ!それともうアイマスクとってもいいよ。あっちの顔隠れて見えないから」
「あ、そうなの」
ドヤガオはアイマスクを取って捨てる。
「さぁ、トドメといきましょうか。覚悟してよ!」
「やっちゃえ、ドヤガオ!!」
ドヤガオはマネキンを壊すべく、ひたすらマネキンを地面に打ち続ける。
暫くそれを続けているとマネキンの体にヒビができる。
「よし、これで終わりよ!!」
最後に渾身の力を込めて地面に叩きつけようとした瞬間。
「そこまでですわ!」
オジョウの声が聞こえて手が止まる。
「え!?」
「先輩?どうして止めるんですか?せっかくのチャンスなのに」
「仲間の言う通りじゃない?どうしてわざわざ止めさせたのよ?」
ニヤニヤ笑いながらオジョウに問いかける麗央奈。
「これ以上は部長との約束を破ることになりますわ」
「約束って…」
「皆さんも聞いていた筈でしょう。私達は誰も殺さない。これ以上やってはいけませんわ!」
「でもこれマネキンですよ!?殺すとかそういうのじゃ……」
「忘れたのですか!あのマネキンはただの人形じゃない。元は人間なんです。いくら姿が変わろうがその事実は変わりありませんわ」
「あ、そういえばそんな事言ってたけ……」
ドヤガオの動きに躊躇が見られ始める。
「あのマネキンにアイマスクでもしてどこかに縛っておけばひとまずはいいですわ!とにかく急いで!」
「あ、ハイ!」
ドヤガオはマネキンにアイマスクを被せ起き上がらせる。
「縛るたって、そんなちょうどいいものあるわけ……」
「あったよ!」
「え?」
マケガオが麻縄を持って走ってくる。
「どうしてそんな物持ってんのよ……」
「偶々、あそこに落ちてたから」
「落ちてたってそんなバカな……」
「細かい事はいいじゃん!あったんだから。とにかく縛っちゃおうよ!急に動き出したりでもしたら大変だもん」
「そ、そうね」
偶然拾った麻縄に疑問を抱きながらもまずは協力してムラサキを拘束するため縛り上げはじめる。
「どうして壊させなかったのよ。あのまま放っておけば1人敵を殺せたっていうのに」
「聞いてたでしょう。約束だからですわ」
「甘いわね。そんなこと言ってると近いうちに痛い目に遭うわよ。痛みなんか感じる暇はないかもしれないけど…そうと分かっても約束が大事なの?」
「ええ」
「そう。約束ね……じゃあ約束さえ守れば結果的にどうなってもいいってことよね?約束は守ったんだから」
「……何が言いたいんです?」
「アンタ達にも守るべき約束があるように私達にも似たようなもんがあるって事よ。何があっても絶対に果たすべき使命がね……ムラサキ!!」
麗央奈は少し遠くで縛りあげられているムラサキに大声で呼びかける。
「ここに来る前。アナタも聞いてたわよね?私達の目的は1人でも多く日本に帰ること。全員じゃない。オールフォーワン。その意味分かってるわよね?」
ムラサキがそれに対し返事をする事はなかった。だが、微かに頭が上から下に落ちた。
「ムラサキ……。達者でね」
麗央奈が静かに呟く。
「……まさか!イヤな予感がしますわ。お2人とも早くそこから離れて!!」
何かを察したオジョウはドヤガオ達に必死に呼びかける。
「え?あ、もう直ぐこっちも終わりますから大丈夫ですよ」
「そうです。そしたら直ぐそっち手伝いに行きますからね。3人でソイツもやっつけちゃいましょう!」
「いいから早く!!そこから離れろぉ!!」
「先輩?」
「分かってますって、早く行きますからそんな急かさないでくださいよ〜」
遂にドヤガオ達がムラサキをがんじがらめに縛り終え、そこを後にしようとする。
その瞬間、ムラサキの体が赤く光りはじめた。
「ねぇ!ドヤガオ、これ光ってるよ!!」
「え、ウソでしょ?」
ドヤガオ達は振り返り異変に気づく。
だが既に遅かった。
ドヤガオ達が異変に気づいた瞬間、ムラサキの体がとても眩く光り爆発したのだ。
「!!」
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