七十二話 蘭奼萎/ランタナ
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「いいぞ、ムラサキ。これで私とお前でコイツらを挟み撃ちにできる」
獸虹死賭 獅子座 山神 麗央奈
背後には先ほどのスタイルのいい女の姿が。
「マネキンを使って挟み撃ちとはアナタも随分考えましたわね。ですが、数としてはこちらの方が上。これじゃ作戦は失敗したのでは」
「客観的に見ればそうかもね。だけどアンタ達も気付いてるでしょ?あのマネキンがただの人形じゃないって事くらいは」
「分かっていますわよ。似たようなものをこの世界に来て散々見てきましたから。おおよそ、アレもアナタの能力か何かなんでしょう?例えば、意思のないものを自由に動かせるとか」
「……実に平凡な考えね。ありきたりすぎてつまらない。だから教えてあげるわよ。平凡じゃない私がね。アレは私の能力で動いてるわけじゃない。あのマネキン、ムラサキ自身が持っている能力なのよ」
「マネキンが能力を?」
「だからアレはマネキンじゃない。ムラサキっていうちゃんとした名前があるんだよ」
「マネキンに名前をつけているとは素敵なご趣味ですね」
「あのね、何度も言ってるけどアレはマネキンじゃない」
「はいはい、分かっていますわ」
「れっきとした私達と同じ人間だ。これは何かの例え話とかそういうわけじゃない。ムラサキがこの世界に来る前はちゃんとした人間だったんだから」
「……その様子、冗談じゃないのですね」
「ウソ、アレが人間?」
「なんかめんどくさくなってきた……」
マネキンの正体に驚き不安が募るオジョウ達。
「だから最初から言ってるでしょう。アレはただの人形じゃないって。確かに今はムラサキ自信の能力で人間を辞めて人形そのものになっている。意思疎通は出来ないし目的もなしに好きに動くこともできない。だけど何もできないわけじゃない。こういう風にね」
オジョウ達がムラサキの方へ視線を向けると真っ先にマケガオと目があった。
それを見た麗央奈は人並み外れた身体能力でムラサキ側へ素早く移動すると、マケガオ目掛けてムラサキを投げつける。
するとその勢いのまま目があったマケガオに飛びついてくる。
「おわっ!!」
すると何故かマケガオは自らの手でマネキンであるムラサキの手を自らの首元へ持っていく。
そしてムラサキの手はマケガオの頸動脈を締めていく。
「ちょっと!マケガオ自分で何やってんのよ!!」
「わかん、ないよ……勝手に手が、動いたんだもん……」
「はぁ!?、とにかくなんとかしないと」
「ドヤガオさん一緒にやりますわよ」
「え?」
「一緒にあのマネキンの手を引っ張るんですよ!!早く時間がありませんわ!」
「わ、分かりました!」
「うぅ……」
次第にムラサキの締めは強くなっていきマケガオにも限界が近づいていく。
「じゃあ、せーので行きますわよ!」
「あ、はい!」
「せーの!!」
オジョウの合図で同時にムラサキの手を引っ張りマケガオの拘束を解こうと試みる。
「なんなのこれ!力強すぎ!!」
ムラサキの力は想像以上に強く簡単にはその拘束が解けそうにない。
「う……もぅ……!!」
遂に限界がきたマケガオはムラサキにタッチしてギブアップを宣言する。
だがムラサキの拘束は解けない。
「無駄だよ。ここはリングの上じゃないし、レフェリーだっていないのよ。そもそも日本ですらない。そんな場所でギブアップだなんて甘い命乞いが通用するとでも思ってるの?これは殺し合いよ」
「マジかよ……(コイツら、本気でこのままマケガオを殺すつもりなわけ!?)」
危機を察知したドヤガオは必死に拘束を解こうと試みるが上手くいかない。
「ヤバいヤバい!…くっそ!マケガオ!」
意識を失う寸前のマケガオは地面に倒れ込む。
その時マケガオは仰向けのような体制で倒れたためにムラサキが地面に打ち付けられる。
すると一瞬だけムラサキの手が緩む。
「今ですわ!!」
その隙を見逃さなかったオジョウはこのタイミングで一気に仕掛ける。
「せーの!!」
2人して最大限の力で手を引っ張り上げ、遂にムラサキを引き剥がすことに成功する。
「ゴホッゴホッ!……」
「マケガオ!大丈夫?」
「……うん。ありがと、ドヤガオ、先輩も」
「いいえ、お気になさらず。それよりも!!」
オジョウは引き剥がしたムラサキを道具のように麗央奈へ投げつける。
「おっと!」
麗央奈はムラサキをしっかりと受け止める。
「格好のわりにはアナタも人を投げるなんてはしたないマネをするのね。人は見た目じゃ分からないってことかしら」
「あら、それなら失礼しましたわ。それにお互い様でしょう。意味のわからないまま人を襲うアナタ方にだけは言われたくありませんし」
「だったらその意味が分かるように私が分かりやすく説明してあげるわよ。ムラサキには好きに動けない分、目があった相手を自分の意思のままに動かすことが出来るのよ。凄いでしょ?」
「それで、あんなことに…」
「だけど意思のままに動かせるって言ってもなんでもってわけじゃない。自分と体が密着してなきゃいけないとか、行動には制限があるとか、色々あるみたいよ」
「まぁ、仲間の弱点まで素直に教えてくださるなんて、見た目や性格と違って大分優しい方なんですわね。意外ですわ」
「言ったでしょ。平凡なアナタ達に平凡じゃない私が教えてあげるって。教えたところで平凡なアナタ達は私達には勝てないのよ」
「今時、そういう差別は流行らなくってよ」
「差別だと思うならそれは事実だからよ。観念なさい」
「ドヤガオ今の聞いた?」
「ええ」
「じゃあどうする?」
「当たり前なこと聞かないで。とにかく突っ込むしかないでしょ」
「だよね……無茶でもやるしかない!」
「やるけどマケガオはそこにいて。私がやるわ」
「え、なんで。私もやるよ!」
「アンタはまださっきのダメージが残ってるでしょ?」
「大丈夫だよ、このくらい!もう平気!」
「平気じゃないでしょ。私を騙したいならその辛そうな顔くらいは隠しなさい。バレバレなんだから」
「……だけど1人じゃいくらなんでも無理だよ。それに作戦だって何もないんだからさ」
「あのね、いつ誰が1人で全部やるって言ったのよ?」
「え、だってさっき…」
「私がやるとは言ったけど、私だけでやるとは一言も言ってないわよ。マケガオにもちゃんと協力してもらう。じゃなきゃ私達は弱いままだから。それならいいわよね?」
「うん!もうそれなら素直に言ってくれたっていいのに」
「いいじゃない、別に…。それにさっきのを聞いて1つ思いついた事があるの」
「何それ?」
「上手くいけばあのマネキンの能力を気にせず戦えるかもしれない」
「ウソ!凄いじゃん!いいよ、それ試してみようよ!」
「うん。そのつもり」
「でもどうするの?」
「さっきアイツがペラペラと仲間の弱点を話してくれたお陰で分かった事がある。要するにあのマネキンは目があった人間を思いのままに操ることができるって事でしょ?」
「うん。そうだねー。私が言うんだから間違いないよ」
「でしょ。だったらあのマネキンと目を合わせずにいればいい。もっと言えば目を瞑って戦う事が出来れば、恐れる事は何もないってことよね。そしたらただの人形なんだから」
「まぁ…確かに。だけど目を合わせずに戦うなんて器用なマネがドヤガオにできるの?」
「私だけじゃ無理よ」
「だけ?って事は…」
「うん。私にはアナタがいる。マケガオが私の目になって指示を出してちょうだい」
「それってスイカ割りの応用?」
「みたいなもんよ」
「理屈は分かったけどそんなに上手くいくかな?」
「大丈夫よ。今ここにいる中じゃ私達程いつも一緒にいるコンビはいないもの。私達だからこそ出来る作戦なのよ」
「私達だから…」
「そうよ。私達の絶妙なコンビネーションを相手に思い知らせてやりましょう!!」
「うん!!やろう!」
互いに頷き次に取るべき行動を決めたドヤガオ達。
「そうと決まったら…」
ドヤガオはたまたま足元に落ちていた、普段遥が昼寝に使っているアイマスクを手に取り装着する。
「よしっ…マケガオ後は頼むわよ!」
「うん、任せて!」
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