七十話 銀蝶/イチョウ
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「な、なんで……なんでカモメが目の前にいんのよ!……」
そこには何故か遥を庇うように萌七に刺されたカモメの姿があった。
さっきまでカモメは遥と同じ室内にはいなかった。なのに今は遥の目の前に血だらけで倒れている。
「……あれ?間違えちゃった…………あのさ〜、何私のいい所邪魔してくれてんのよーー!!!」
遥を殺せなかった萌七は逆ギレする。
「ったく、萌七のヤツ。余計な手間増やしやがって」
「乙音。咄嗟に始めたアンタの作戦失敗しちゃったわよ」
「しょうがないでしょ。流石にコレは私も予想外。まさか、いきなり入って来た奴が自ら死に飛び込んでくるなんて思いつくわけないわ。こんな意味の分からないバカみたいな真似をするなんてさ」
神奈、紬、乙音、が冷静に今の状況を整理する。
遥は倒れているカモメの側に近寄る。
奇跡的に急所は外れているが、見た目以上に深そうな傷跡と大量の出血がそのダメージを物語っている。
「アンタ……何勝手に迷惑な事してくれてんのよ……」
「部長!?…」
それを見ていたアシュラ達も遥の余りにも辛辣な一言に驚きを隠せない。
「ねぇ、聞いてるわよね?」
カモメはゆっくりと話しだす。
「はい……聞こえてますよ」
「なら、質問に答えてちょうだい。私に無断で余計な事をした理由を」
「…………」
「立たなくていい。そのままでいいわ」
遥はカモメを介抱する。
「……やっぱり迷惑でした?……」
「……当たり前でしょ」
「…………」
「私の事を庇って死ぬなんてね、こっちからしたら迷惑なだけなのよ!!…このバカっ!!」
「…………ふふっ。……部長ならそう言うと思ってました。だからこれ以上言われる前に……先に、謝っときます。スミマセン……」
「謝らないで。こっちが余計に惨めになるだけだわ」
「……すみません…………」
「どうしても許して欲しいなら、生きなさい。それこそ勝手に死ぬのは私が許さない」
「…………」
「返事は?」
「…………ごめんなさい」
「………………っ。……どうしてアンタはここにいるのよ?」
「……私、これでも一応、自称新聞部ですよ。部員なんか他にいませんけど…。私の情報網舐めないでください……」
「バカ言わないで…」
「ですね…見栄張りました…。窓の割れる音が聞こえて慌てて駆けつけたんです。だけどよかった…間に合って…」
「ありがと……」
「……勝ってくださいよ。私の分まで……」
「勝手に死ぬくせに残った私達にプレッシャーまでかけるわけ?……」
「ハハッ……いいじゃないですか、少しくらい…」
「いいわよ。負ける気はないから好きなだけ期待してなさい」
「…………」
カモメは一言も発さず首を縦にだけ振ると意識を失う。
「おやすみ……」
「和葉!ウチは聞いてへんぞ!!」
カモメの死を見た沙莉は和葉に掴みかかる。
「なんの話です?」
「ウチらの目的はあくまでも遥だけやろうが!だったら他の奴らにまで手を出す必要はないやろ!」
「私達だってそのつもりですよ」
「それなら!」
「ですが、邪魔をするなら話は別です。それで死のうが私達には関係ない。死にたくないのなら首を突っ込まなければいいだけの話でしょ?」
「だからってな……人殺しには変わらへんねんで!?」
「沙莉さんこそ何甘ったれた事を言ってるんですか?ここは異世界で日本じゃない。殺しが当たり前にあるこの世界で願いを叶えるためにはそれを受け入れるしかないんですよ!異世界ってそういう世界でしょ」
「っ…………」
「日本に帰りたいなら沙莉さんも覚悟を決めてください。殺しを肯定する世界でそれを否定してたら希望なんかありません」
「お前……何があった?」
「…何もありませんよ。ただ私達は生き残るために必死なだけですよ」
「部長……」
目の前で再び仲間を失った遥を心配するアシュラ達。
「お前らぁぁ!!」
心配するアシュラ達の声を掻き消すように遥が叫ぶ。
「……やれるわよね?」
「当然ですよ」
「仲間が死んで黙ってられる程私達は優しくないもん!」
「……弔い合戦」
「ハハッ!……やっちゃうよ」
遥の問いかけに答えるように、アシュラ、エンジェル、サシミ、アイツの順に宙愛の拘束を振り解く。
「でしたら皆さん、コレを!」
サシミは彼女達に特攻服を投げ渡す。
アシュラ達はそれを受け取ると、素早くそれを羽織り覚悟を決める。
「皆様、悔いのなきよう存分にお暴れを!」
彼女達の覚悟を後押しするようにレッカが前へ出ると、炎を纏わせた槍を振り回し、前方に出来ていた炎の境界線を炎で相殺する。
さらにレッカが指を鳴らすと、部室内が体育館程の大きさに拡張される。
「これは……」
「このままではやりにくいでしょうからね。なーに、ちょっとした次元拡張魔法の応用ですわ」
「こんな高度な魔法を簡単に使っといてよく言いますよ……」
「私の十八番が炎魔法だけだと思ったら大間違いですわ」
「だったら全部もっと早くやってくださいよ」
「…………」
自信満々な態度にヤヨイのツッコミも相手にならない。
前へと進めるようになったアシュラ達は遥のもとへ行くと、アシュラが遥に特攻服を渡す。
それを受け取った遥は裾をたなびかせながら勢いよく羽織る。
「……じゃっ、こっちの番と行くわよ!!」
遥の合図を受けると同時に全員が前へと飛び出した。
前座は終わりようやく始まる遥達の戦い。
前座というには彼女達にとって失ったものは大きかった。
だがそれは、これから始まる戦いのほんの少しの出来事でしかない事を彼女達はまだ知らない……。
威薔薇ノ棘VS獸虹死賭
残り10人 残り13人
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