六十六話 翠蓮/スイレン
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パリンっ!!
そんな2人の関係を嘲笑うようにいきなり部室内の窓が突然割れる。
するとそこから数人の女達が部室内に飛び込んでくる。
「もうっ!!今日はなんやねんな!!って、お前らここ三階やで!!異世界は常識が通じんのか!?」
「フフッ…」
1人のリーダー格のような女が頬を緩ますと、挨拶がてら遥に一発蹴り込んでくる。
「……ほんと常識外れな人達よね。初めの挨拶が暴力ってのは随分乱暴なんじゃない?」
遥はそれを片手で受け止める。
お返しとばかりに遥も渾身の蹴りを一発蹴り込む。
「悪いね……こっちはこういうやり方しか知らないんだ。許してくださいよ」
女も軽々と遥の蹴りを片手で受け止める。
「マジかいな……遥の蹴りを受け止めやがった。アイツ、まさかな……」
「エプロンさん!!」
エプロンの側へ駆け寄るヤヨイ。
「ヤヨイ。丁度いいところにた。アンタの出番やで」
「分かってます。私の目で見ればいいんですよね?」
「そういうこっちゃ!」
ヤヨイは<絶対鑑定>の力であの女を見ようと集中した瞬間、別の女が飛び込んでくる。
「ふぇっ!……」
「ヤヨイ!!」
ヤヨイを庇うようにエプロンが前へ出ると、飛び込んでくる女をラリアットの動きで弾き返そうとする。
が、当たる瞬間、急ブレーキをかけるように寸前の所で女は足を止めた。
「ん!?」
ラリアットは急には止まれない。
その勢いのままエプロンは女にぶつかる。
だが女の体はびくともせず何事もなかったかのように立ち尽くしていた。
「!!冗談やないで……」
入った筈のカウンターが全く効いてない事実に驚きながらもエプロンは諦めない。
「お久しぶりですね」
「!?」
追撃を仕掛けようとした瞬間、女の想定外の一言がエプロンの動きを止める。
「ずっと探してたんですよ……沙莉さん」
「誰や!?」
「エプロンさん。その女と知り合いなんですか?」
「知るわけないやろ。異世界に友達も知り合いもおるわけないんやから……」
「知らないなんて酷いじゃないですか……私にとってアナタはかけがえのない先輩で師匠みたいなものなんです。後輩としても弟子としても忘れられちゃ困ります……」
「師匠?……」
「それにさっきから私と一度も目すら合わせてくれないなんて酷いですよ……」
「顔が見えへんように深くフードを被ってる奴がよく言うわ」
「あっ……つい夢中で忘れてました…」
そう言って女はフードを脱ぐ。
「じゃあ、これなら思い出せますよね?」
「!!紫鶴那……ほんまに紫鶴那なんか?」
「そうですよ。私以外にこの顔をしてるわけないじゃないですか」
「でも……なんで?」
「理由なんか今はどうだっていいじゃないですか。異世界だからこうやってまた会うことが出来たんです。それだけで私は嬉しいんですよ」
笑顔を見せる紫鶴那。
その様子に戸惑いながらもエプロンは攻撃の姿勢を解く。
「エプロンさんやっぱりお知り合いなんですか?」
ヤヨイの問いかけにゆっくりと答え始めるエプロン。
「コイツはウチの後輩や」
「後輩って事は皆さんと同じハレ女の生徒って事ですか?でもなんでこんなタイミングで…」
「ちゃう」
「え?」
「コイツはウチがレスラーだった頃の団体直属の後輩や。ハレ女は関係あらへん」
「え!?じゃあ彼女も遥さん達と同じ元プロレスラーだったって事ですよね」
「コイツの場合は元やない。この世界に来るまでは普通に現役でやってた筈や。しかもウチらとは違って元ヤンや。今じゃプロレス一筋。そうやろ?」
「はい。おかげさまでこの間デビュー1周年を迎えました!」
「そうか、お前がデビューしてもう1年経つんか……。ウチがまだ現役だった頃はまだ練習生だったていうのに時は流れるもんやな。一周年おめでとう」
「ありがとうございます。でもそれで褒められるのはちょっと悲しいです……」
「なんでや?」
「私、和葉さんと組んでタッグのベルトも取ったんです!因みに今も防衛中です。」
「ホンマか!?」
「はい」
「凄いやないか!とうとうウチを超えたな」
「……そうですね。だからこんな所にいるわけにはいかないんです」
褒められたというのに紫鶴那の顔はパッとしない。
「じゃあ、あそこで遥とやってる奴はやっぱり和葉か?」
「はい。それに来ているのは私や和葉さんだけじゃありませんよ」
「まさか、獸虹死賭のメンバー全員がこの世界に来てるんか?」
「はい」
「エプロンさん、その獸虹死賭ってなんですか?」
ヤヨイは問いかける。
「獸虹死賭っちゅうのはな、あそこで遥とやり合ってる高柳和葉をリーダーとして結成されてるプロレスユニットや。所属メンバー全員の誕生月がバラバラでな、それにちなんで星空の星座からとったんやで。だからメンバーには各々星座の名前がついた技を持ってんねん。カッコいいやろ?」
「なんかすごいですね…設定もちゃんとしてますし……」
「ウチとあそこにいる和葉が考えたんや。そりゃ、センスがいいに決まっとる」
「そういえばプロレスユニットってなんなんです?」
「分かりやすく言うとチームみたいなもんや。でも獸虹死賭はその中でも特別で、団体とかの縛りがないからさまざまな団体のレスラーが集まって出来てる。それこそプロから、これからプロを目指す練習生まで色々な奴らがおる。わちゃわちゃしてて結構アレはアレで面白いで。そんな色んな奴がおる獸虹死賭のメンバーにもちょっと変わった共通点があってな、所属する奴らはコイツ含めて全員元ヤンなんや。オモロイやろ」
「…面白いかどうかはさておいてそんな偶然あるんですか?」
「偶然なんかじゃありませんよ。運命です。皆、私含め和葉さんや沙莉さんに誘われてレスラーになったんです。元々沙莉さんも獸虹死賭のメンバーだったんですから」
「へぇ〜。じゃあもしかして遥さんも?」
「いや、遥はちゃうよ。こうなる前までは遥はヤンキーのウチらのことめちゃくちゃ嫌いやったから」
「あーー、なるほど……」
「別にいいですよ、あの人に嫌われても。ただ和葉さんだけはあの人に対して色々と思う事があるみたいですけどね……」
遥に対して睨みを効かせる紫鶴那。
「紫鶴那?…」
「あの、沙莉さん。そんな事よりずっと気になってたんです。なんなんですか?」
「なんなん?って何が?」
「その気持ちの悪い関西弁ですよ!!」
「別に気持ち悪くはないやろ……」
「気持ち悪いですよ!関西人でもないのになんでそんな喋り方をしてるんですか。私と一緒だった時はそんな事なかったじゃないですか」
「ここでのウチはこう言う喋り方なんや。我慢してや」
「嫌ですよ。私の憧れだった沙莉さんはこんな人じゃなかった。全部あの女のせいなんですか?」
怖い顔をして再び遥を指さす紫鶴那。
「遥は関係あらへん。……どうした?紫鶴那の方こそ変わったんちゃうんか?こんなに感情を表に出す奴ちゃうかったやろ」
「私は変わりましたよ。変わったに決まってるじゃないですか!沙莉さん達が突然いなくなった分の尻拭いは全部私達がしたんですから!私達も色々あったんです。変わってない方が不思議なくらいですよ!」
「……悪かった」
「謝らないでください。別にそんなつもりで言ったわけじゃありません。それにもう終わった事です」
「……あの、お2人とも色々と話したい事があるならまずはこの騒動を落ち着けたらにしませんか?遥さんとも知り合いならこんな戦いは必要ない筈です」
ヤヨイが間に入ると冷静な判断で2人に問いかける。
「それもそうやな……。紫鶴那。ヤヨイが言う通り遥やウチに言いたいことがあるなら後でちゃんと聞く。だからまずは……」
「悪いですが話し合いなんかする気はさらさらありません。こっちがやる事はもう決まってるんで」
「はぁ?どういうこっちゃ…」
「沙莉さん、さっき私に聞きましたよね?どうしてこの世界にいるんだって」
「ああ」
「詳しい理由は私にもよく分かりません。でも私達はこの国によって召喚されてやってきたみたいなんです」
「召喚?」
「あのっ!!その話、私にもお聞かせいただけませんか?」
息を整えたレッカが間に飛び込んでくる。
「この国によって召喚されたというのはいつ頃の話でしょうか?」
「その前にアナタは?」
「私、この国を護る六騎士団の1つ。ホムラノ騎士団団長、レッカと申します。と言っても騎士団なんて今はあってないようなものですがね……」
「騎士団……ああ、一緒に倒れてた2人のお仲間さんですか」
「まさか、王の間で死んでいたミラルダとヤークの事でしょうか!?」
「名前までは知りません。私達がこの世界に来たのは数日前。その時、目の前に倒れていた人の事を覚えていただけです」
「それだけで何故2人の事を騎士団だと思われたのですか?」
「聞いたんです」
「聞いた?誰にです?」
「……ゴブリンの仮面を被った人物です」
「紫鶴那!ホンマかそれ!?」
エプロンは紫鶴那に詰め寄る。
「はい。間違いありません」
「エプロンさん、ゴブリンの仮面の人物って確か……」
ヤヨイの一言がエプロンに再び疑問抱かせる。
「多分な。だけど、理由が分からへん。なんでそこにアイツはおったんや?」
「…………」
「紫鶴那。他には何か言ってへんかったか?」
「私達を召喚したのは自分だと」
「!!」
「まさか、アナタ方を召喚するために王達は生贄にされた……その後、遥さん達がたまたまその場に辿り着き、罪を被った。これが本当だと言うのなら、遥さん達の手配を取り消せるかもしれませんわ!」
今日のレッカは随分調子がいいらしい。
「ホンマか!?でもアイツが紫鶴那達をこの世界に呼んだ理由はなんなんや……」
「とにかく真犯人がいたとなれば世間の遥さん達に対しての考えも変えることができる。後はアナタが皆さんの罪を潔白する証人にさえなっていただければ…」
「紫鶴那。いきなりやけどウチらが頼める義理やない事分かっとる。だけどみんなの為に頼む!!」
「いいですよ。沙莉さんがどうしてもっていうなら、いくらでも」
「ありがとう、ホンマにありがとう。これでウチらもこの世界で暮らしやすくなるわ」
エプロンは感謝の意思を込めて手を握る。
「……だけどそれは桐生遥を殺してからです」
「は?」
「沙莉さんはいいんですか?このままで」
「何が言いたい?」
「私は日本に帰りたい。こんな世界にいつまでもいるわけにはいかないんです!」
「気持ちは分かるけど、方法が見つからない以上仕方ないやろ。それになんで遥を殺さなきゃあかんねん」
「仮面の人物が約束してくれたんです。桐生遥を殺せば私達を日本に帰してくれるって」
「嘘やろ。ホンマにアイツがそんな事を言ったんか?何かの間違いやなくて(あり得ない……それにどうして葵が遥を殺させようとするんや?ますます意味がわからへん)」
「間違えるわけありません。だから今こうしてここにこうやって来たんですよ…」
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