六十五話 愛衣/アイ
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後ろから動かない筈のマネキンがまるで意思を持った人間のように動き出し、エンジェルの背後から襲い込み、スリーパーホールドで首を締め付ける。
「!!……」
「エンジェル!!」
突然の出来事に部室内は騒然とする。
「なんや!!何が起きた!?」
「……マネキンが動いてる。すごい」
「サシミは冷静過ぎんねん!!真面目に驚いてる場合か!!」
「……ごめんなさい」
「いや、謝らなくてもええけどさ……って、こんな事してる場合ちゃう!」
エンジェルも体を動かし必死に抵抗しようとするがどんどんとマネキンの締めはキツくなっていく。
突然の騒動に一同騒然としている中、いち早く動いたのは、ホムラノ騎士団 団長 レッカであった。
「皆様!!私にお任せを!」
レッカは得意の槍を構えると一気に飛び出す。
槍が一発マネキンに突き刺さる瞬間、見えない何かがそれを邪魔する。
「なっ!?」
すると今度は誰もいない筈の場所から、殴られたような強い痛みがレッカを襲う。
思わずレッカは仰け反り、倒れ込む。
「レッカ!」
遥は慌ててレッカの元へ駆け寄る。
「大丈夫?」
「ご心配なく。不意打ちを喰らっただけですわ……」
「ならいいけど……」
「ですがこのままでは彼女を助けに行けません。まずはもう一つを何とかしないと!」
遥は部室内全体を見回すが怪しい人物は見つからない。
「わっ!!……」
今度は見えない敵にアシュラが襲われる。
何者かが遥達を順番に襲っているようだ。
「おいおい……どうなってんねん!!」
再び遥は部室内を念入りに見渡す。すると何かを閃く。
遥はエプロンに近づくと耳元で囁く。
「エプロン!悪いけどちょっと頼まれてくれる?」
「こんな時になんや?!……わざわざ小声で話す内容なんやろうな?」
察したエプロンも2人にしか聞こえない声の大きさで話し出す。
「脱いで!!」
「はぁ?…それ本気で言ってんのか!?」
「いいから脱いで!!」
「なんでウチが脱がなきゃいかんのや!!どうしてもって言うなら説明が先やろ」
「……いいから早く!!」
「そんな言うなら遥が脱げばええんちゃうか?」
「……私には他にやる事がある。お願い!!」
遥は頭を下げてエプロンに頼み込む。
「しゃあないな……。特別やで。貸しだってこと忘れんなや?」
「分かってるわよ」
「はぁ……」
渋々エプロンは着ていた上着を脱ぎ出す。
その間に遥はサシミを呼び出す。
「サシミ。アンタに取ってきて貰いたい物がある。出来るだけなる早でお願い」
「……なるべくじゃなくて、めちゃくちゃ早く持ってきます」
「心強いわね」
「……で、何を持ってくればいいんですか?」
遥は耳打ちで用件を手短に伝える。
「……そんなの、どうするんですか?」
「その内分かるわ。とにかくお願い」
「……わかりました」
「あ、出来るだけ沢山持ってきてちょうだい。教室中かき集めればなんとかると思うから」
「……了解です」
サシミは凄いスピードで部室内を後にする。
「遥。言われた通り脱いだで。これでええか?」
「上着だけじゃない。全部よ」
「全部!?」
「そう全部!!勿論下もよ。とにかく無防備な状態になりなさい!」
「はぁ?お前は何が目的なんや?!」
「いいから急いで!!」
その間にも今度はアイツが襲われ始める。
「ハハハッ!!見えないところから攻撃が飛んでくる!!あははっ!!面白い!!」
何故だかアイツは痛みを感じたことで喜んでる。
「アイツが痛い目ににあってる内がチャンスよ!急いで!」
「……遥。覚えときよ……」
周りに流されて、仕方なくエプロンは次々と服を脱いでいく。
恥じらいながらも下着以外全てを脱ぎきる。
「なんでウチがこんな目にあわないかんねん……って、遥。なんやその目は!まさか下着まで脱げって言うんちゃうやろな!!」
「まぁ、いっか。これだけでも十分間抜けに見えるから」
「はぁ!?」
「細かい事はいいからその場で待機してて」
「お前なぁ……」
「みんなはエプロンから離れて」
遥の指示を受けてエプロンの周りに人はいなくなる。
するとそのタイミングでサシミが用を足して戻ってくる。
「……部長。お待たせしました。これ、例の物です」
サシミは遥に白い粉がパンパンに詰まった袋を渡す。
「サンキュー。これで試せるわ」
見えない何かから攻撃を受け続けていたアイツが遂に倒れる。
「ハハハッ。面白いけど……流石に疲れたかな…」
「アイツまでやられたんかいな!?。おい、遥!ウチにこんな格好させてる場合ちゃうやろ!!」
「エプロン!!そのままポーズをとって!!」
「ポーズ?」
「そうよ。相手を挑発するような、一瞬で相手をイチコロに出来る悩殺ポーズを見えない何かにお見舞いしてやりなさい!」
「意味わからん」
「いいから!とにかく注目させなさい!今の無防備な姿なら誰だって飛び込んでくる筈!!」
「……あーー!!遥!!貸しやからな!!絶対に忘れんなや!!」
「だから分かってるわよ!」
嫌々覚悟を決めたエプロンは部室の真ん中で思いつく最大限のセクシーポーズを周囲に披露する。
だが周囲のリアクションは愚か何も起こらない。
「…………遥。どういうことや?」
「……」
「黙ってないでなんとか言ったらどうなんや!」
下着姿のまま遥に詰め寄ろうとした瞬間、何者かの拳がエプロンを襲う。
「!!」
気配に気づいたエプロンは咄嗟にその拳を捕まえるが……その姿は見えない。
「??なんや、触ってる感覚はあるのに目の前には誰もおらへん…」
エプロンの手に握られた拳はそこから逃げようと抵抗するが、エプロンがそれを許さない。
「エプロン!!そのままソイツを捕まえておきなさい!!」
「あいよ!て、その袋持って何するつもりや?」
「こうするのよ!!あと、エプロンごめん!」
「は?」
遥はエプロンに向かって、サシミから受け取ったチョークの粉が入っている袋をぶち撒ける。
部室内が粉で充満する。
遥は慌てて部室の扉を開けると、だんだんと視界が元に戻ってくる。
目の前にはチョークの粉まみれになったエプロンの姿が。
「…………遥。」
そして何もいない筈の隣には何故か、チョークの粉でできた人の姿があった。
「って、誰やお前!!」
「ようやく姿が見えたわね。透明人間さん」
今の情事でエプロンの手から離れた透明人間は慌てて逃げようと走り出す。
「させるわけないでしょ。サシミ!、アシュラ!出番よ!」
「……了解!」
「はい!」
猛スピードでサシミは出口を塞ぎ、透明人間の逃げ場を塞ぐと奴の目の前に立つ。
白い粉塗れ越しでも動揺している様子が伺える。
そこを後ろからアシュラが抱き抱えると、そのままぶっこ抜くように後方へ叩きつける。
その後もアシュラの手は透明人間の体からは離れない。
「アシュラ!悪いけど暫くそのままでいてちょうだい。絶対その手を離すんじゃないわよ?」
「分かってますよ!」
「アイツ!さっさと起きなさい!」
「え?」
倒れていたアイツは渋々起き上がる。
「やられっぱなしでいいわけ?」
「よくないよ!今度は私の番なんだから!」
「でしょ?だったらまずはエンジェルを助けるわよ!!その後はアンタの好きにしていい!」
「本当に?!」
「本当よ!だったら私に合わせて!」
「はーーい!」
遥とアイツは息を合わせてエンジェルを捉えるマネキンへ攻撃を仕掛けると一気にマネキンを引き剥がす。
アイツによってマネキンは地面に叩きつけられる。
「生きてるわよね?」
「ゴホッ、ガハッ……なんとか。もうちょっと遅かったからヤバかったかもです…」
「生きてるんだからいいじゃない」
遥に介抱されてエンジェルは息を整える。
「部長!私の番ってもう終わり!?」
やりたりなさそうなアイツは暇つぶしがてらに動かなくなったマネキンを殴り続けている。
「仕方ないでしょ。全員伸びちゃったんだから。今ので我慢しなさい」
「ちぇ〜〜」
「遥。ほんなら、そろそろ教えて貰おうか?ウチにここまで体を張らせた理由をな。いいやろ?」
粉まみれになったエプロンがやってくる。
「……怒らないでよ。謝るからさ」
「だったらちゃんと説明せえ!」
「ちょっかい出してきた透明人間を捕まえるためよ。見えないなら見えるようにすればいい。だけどそのためには透明人間がどこにいるかの目星をつけなきゃならない。で、そこをエプロンに協力してもらったってわけよ」
「……言いたい事は分かった。だけどそれがウチである必要あるんか?どうせだったらアイツが痛い目にあってる間でも居場所の目星はついたんちゃうんか?!」
「それはそうだけど……」
「それにや!わざわざウチがこんな姿になる必要は全くなかったんちゃうんか!!」
「それは…………。そうね。でもさ、こんな状況でバカみたいに無防備な格好してる奴の方が相手も狙いやすいし、油断すると思わない。実際そのおかげでエプロンは見えない奴の攻撃に気づけたわけだしさ、いいじゃない。結果上手くいったんだし、ね?」
「良くないわ!!」
「やっぱり起こってるじゃん。ごめんってば……」
「謝って許されたら警察はいらんねん!!」
「そもそもこの世界に警察いないし……」
遥が静かに呟く。
「理屈言うなや!!」
遥の行動に激しく怒るエプロン。怒りのボルテージは上がっていくばかり。上がれば上がるほど2人の溝も次第に深くなっていくようで……。
パリンっ!!
そんな2人の関係を嘲笑うようにいきなり部室内の窓が突然割れる。
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