六十三話 黄色乃薔薇/イエローローズ
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ハレルヤ女学園 園芸部 部室
数日後。
エプロンと遥が各々の好きな事をしながら雑談している。
「ホンマ昨日はめちゃくちゃで大変やったよな〜」
「どうしたのよ?急に振替りらしい説明なんてしちゃってさ。そんな事みんな知ってるわよ」
「やけど、その方が色々と分かりやすいやろ?」
「何がよ」
「だってたった1日にして私達の立場を大きく変わったんやで?整理するのも大切やろ」
「だからなんのために?」
「これからのためにや。だっていつのまにか、ウチらは王様を殺したこの国の侵略者って事になってしまっとる。ご丁寧に今やウチらの手配書まで街に出回った。日本でも嫌われる事はあったけど賞金首になったのは初めてやで」
「分かりやすくていいじゃない。私達と国は完全に対立したのよ。今度は国民全体が私達に喧嘩を売ってくる。案外それも面白いかもよ?」
「冗談言ってる場合か!?」
先程までとの空気と一線変わったものとなる。
「冗談だって分かってるなら別にいいじゃない」
「……もう、今まで通りの場に流されるような生き方はできないって事なんやで。この意味が分かっとるんか?。街に行けば命を狙われ、行かなければ情報も物も手に入らない。だからと言って今さら日本に帰る方法も見つからない……このままじゃジリ貧のまま死んでいくだけや…それでええんか?」
「エプロンにしては随分弱気なんじゃない?大丈夫よ。買い物云々はヤヨイに任せればいいわ。指名手配になったのはあくまでも転移者の私達だけなんだから。今もそうして頼まれてくれてるんだからさ」
「でもいつまでもそういうわけにもいかないやろ……」
「それに指名手配に関してはレッカがなんとかしてくれるでしょ?有難いことに色々と私達の為に動いてくれてるみたいだから期待して待ってましょう。まぁ、騎士団も今回の件でほぼ壊滅状態らしいから上手く機能するかどうかは別問題だけどね。だけどレッカならどうとでもなるわよ」
「確かにウチらが出来る事は限られるとる。レッカに頼る部分も大きいとは思う。だけど何もせずにじっとしてるわけにも行かんやろ。これからのためにも」
「気持ちは分かるけど現実だけ見てても仕方ないでしょ?今はどうしようもないんだから」
「今現実見ないでどうすんねん!!」
案外楽観的な考えを持つ遥と堅実的に未来を考えるエプロンの考えがぶつかり合ってしまう。
そんな最悪の空気の中、タイミングがいいのか、悪いのか、ヤヨイが大量の荷物を抱えてやってくる。
「只今戻りました〜……お取り込み中すみません……」
「ええよ。逆に丁度よかったわ。このまま遥と話しても埒が明かんかったから……」
「……どうだった?街の感じは?」
今までとは違う2人の空気感。
この破天荒な状況がどうやら2人の間に僅かな溝を作り出してしまったらしい。
「あー、日に日に悪くなってる感じですね……。王の死がきっかけでグッと治安も悪くなっちゃって、街を守るホムラノ騎士団もなかなか手が回ってないみたいですね。これ以上のトラブルを防ぐために表向きには伏せられてますけど、レッカさん率いるホムラノ騎士団は愚か騎士団自体が実質壊滅状態にあるみたいです」
「そうなの?」
「ええ。団長2人を失ったヒカリノ騎士団とカゲノ騎士団は後継者不在で解散。エプロンさんやアシュラさん、エンジェルさんが戦ったという他の三騎士団の団長は全員揃ってこの国を去ったそうです。恐らく騎士団としての全ての責任をレッカさんに押し付けて免れるためでしょうね。そのせいでそこにいた騎士達の統制がとれず暴動も起き始めています。もうこの国は今までのようにはいかない。それだけこの国にとって王の存在が大きかったって事でしょう……」
「分かりやすい説明ありがとう。…ふーん、レッカも結構大変なのね」
「他人事みたいに言ってる場合か…ホンマに色々と考えんとヤバいってことや」
「エプロンさんの仰る通りだと思います。噂だと職を失った元騎士達が結託してこの森に乗り込もうって話も出てるみたいです。こちらも色々と準備は必要かと……」
「ほら見ろ、言わんこっちゃない。どうすんねん!?」
「何言ってんの?簡単よ。何も必要ないわ。私達がやる事はいつも1つ。何も変わらない。売られた喧嘩は買う。それだけよ。大丈夫、私達ならなんとかなるわよ」
「遥……」
楽観的な遥に珍しく呆れた表情を見せるエプロン。
今だに埋まらない2人の溝。放っておけば放っておくほどその溝は深くなりそうだ。
なんとなくそれを察したのか。なんとかしようと、取り敢えず会話を続けるために話題を変える。
「あ、あの!そういえば先日の事で、ずっと話さなきゃいけないと思ってた事があるんです」
「?」
ヤヨイは城内部で出会ったゴブリンの仮面を被った人物との一部始終を話した。
「なんやソイツ……えらく気味悪いなぁ。遥はヤヨイがそんな目にあったのに気づかんかったんかい?」
「全然。初耳」
「…………」
「いくら遥さんでもあの時は仕方なかったと思います。相手はこの世界の常識じゃ通じない程の強力な力を持った人物でした。恐らく奴は遥さんが気づかないように私に接触したんです。それじゃ無理もありませんよ」
急遽遥のフォローに回るヤヨイ。
「それはただの結果論や。下手したらまた仲間を失ってたかもしれへん……」
「……」
必死のフォローも残念な結果に終わった。
「だけど仮面の人物に殺意の様なものまでは感じられませんでした。とても気味は悪かったですが……」
「なんでそう思うんや?<絶対鑑定>の力のお陰か?」
「いいえ。奴に〈絶対鑑定〉の力は通用しませんでした。だから仮面の人物は私に伝言を託したんです。殺す気だったらそんな事をする前に私の事を殺している筈でしょ?」
「伝言って誰にや?」
「遥さんにです」
「私?」
「はい」
「遥、そんな気味の悪い知り合いがおったなら先に教えとけや」
「バカ言わないで。そんな知り合い私にいるわけないでしょ。嫌になっちゃうわ」
「分かっとるって。冗談や、冗談」
「…………」
2人の空気は更に悪くなっていく。
「で、ソイツは私に何を伝えたかったわけ?」
「私も詳しい事は……ただ一言だけ。約束はまだ果たされてない、あの日の続きをしよう。と」
「約束……」
「他には何か言ってなかったんか?」
「あー、そういえば、次の試練を終えた時その時がゴングの鳴る合図だ。なんてことも言ってましたね。意味はよく分かりませんが」
「ゴングって事は試合の合図……それに約束。!!いや、まさかな。あり得へんわ…」
エプロンは1人の人物が頭に浮かぶ。
「だけどここは異世界。可能性はゼロじゃない」
どうやら遥も同じ人物を頭に浮かべているようだ。
「お2人ともその人物に心当たりでもおありなんですか?」
「葵や」
「葵よ」
「え?」
2人して同じ人物の名前を言ったことでハモる。
2人は一瞬だけど目が合うとすぐに逸らして更に空気が悪くなる。
「葵さんって、この前お2人が話してくれた方ですよね?」
「そうや。ウチのタッグパートナーでもあり、遥とは因縁の相手やった女や」
「だけど葵は数年前に死んだ。だから絶対にあり得ない。でも異世界なら話は別でしょ。ヤヨイみたいに転生している可能性もゼロじゃない」
「なるほど確かに。だけどどうしてこれだけの情報で葵さんだと思ったんですか?」
「最近、妙に夢の中に出てくるのよ」
「異世界に来てから、遥は毎回それでうなされとる」
「毎回!?」
「そうや。偶然にしては都合が良すぎる。もしかしたら何かの能力の影響なんじゃないかとウチは考えとるんや」
「人の思考や夢に影響を与える能力……この世界でもあまり聞いたことがありませんが、常軌を逸した転生者なら可能性はあるかと」
「やろ?」
「ですがあの仮面の人物が葵さんである可能性は低いかと」
「なんでそう思うの?ヤヨイは葵に会ったことなんてないでしょ?」
「もちろんありません。だけど分かりますよ。だって葵さんは私達と同じ女性なんですよね?」
「当たり前や」
「ですよね。だったら違いますよ。だって奴は自分の事を俺と呼んでいたんです。女性なら自分の事を俺と呼ぶのはおかしいでしょ。ですからきっとあの仮面の人物は男ですよ。間違いありません……エプロンさん?」
エプロンの口が開いたまま塞がらない。
暫くしてエプロンがヤヨイを問い詰める。
「ヤヨイ!今言ってた事間違いないな!本当にソイツは自分の事を俺って呼んでたんやな!?」
「え、あ、はい」
「マジかいな……。嘘やろ……。遥」
「やっぱり異世界は案外都合よく出来てるらしいわね…」
「あの…2人は何納得してらっしゃるんですか?」
「…葵って女は私達から見ても、世間から見ても、天才的に変わってる奴やった。特に自分の事を俺って呼ぶ所とかはな」
「え、」
「葵は昔から一人称が私とかじゃなくて俺なのよ。小さい頃から本当に変わってない。異世界に来てもね」
「そんな奇跡みたいな事……」
「起きるんじゃない?だってここはなんでもありの異世界なんだから」
「なんでもそれで解決し過ぎですよ」
「そんな事ないわよ。異世界ってそういうもんでしょ?」
「そうなんですかね……なんか遥さん達と会ってからこの世界の事がよく分からなくなってきました…」
「……で、これからどうするんや?遥」
「何もしないわよ。もうすぐだって言うなら待ってましょう。その内嫌でも葵と会う事になるんだから。……きっとその時が約束を果たすゴングがなる時よ」
そうだよ!!
その通りだよ、遥!!!
やっぱり遥は俺のことを分かってる。
今までこうして待ってた甲斐があるよね。
でもここに来るまで少し時間をかけ過ぎてしまったかもしれない。
やっぱり正直、焦らしすぎだよね……ちょっと自分でも反省してる。
だけどそれも、もう終わり。
今まではよくあるチュートリアルみたいなものでこれからが本番。
だからあれは前座みたいなものなんだ。
だってお楽しみは最後まで取っておくのが1番最高だ。
だからもう少し。
もう少しだけ、それはお預けだ。
後ちょっとの我慢だ。
でもきっと、それが終わった時、遥はもっと強くなってるし、邪魔する者も誰もいなくなるだろう。
その方が盛り上がる。
私はそれを独り占めにするんだ!!
あと少し、それまで楽しみに待ってるよ!
遥……。
彼女が見たかった物語はこうして始まりを迎え、いよいよ終わりが近づいていく。
そして、ハレ女に迫る謎の12人の女の陰。
彼女達は一体何者で何を意味するのか……
その真相は闘いの中にある。
これが遥達の最初で最後のファイナルマッチ。
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