六十話 華美月/ハナミヅキ
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そして場面は戻る。
エンジェルは跪き、キセツの足元へ顔を近づけていく。
その距離はどんどんと狭くなっていく。
そして口元がつくギリギリの距離まで近づくと、エンジェルの動きが止まる。
「どうしたの?…もしかして今更プライドが邪魔でもしてるわけ?」
「…………」
「図星かしら。さっきまでとは大違いね。それとも、もう忘れちゃったの?……なら私が思い出させてあげる」
するとキセツは足を上げ、エンジェルの頭をこれみよがしに踏みつける。
「どう?これで思い出した?」
「…………」
「まだ足りないみたいね?なら思い出すまでちゃんと付き合ってあげる!!」
キセツの足は何度もエンジェルの頭を踏みつけ、力も次第に強くなっていく。
「…………」
「アンタはね私には勝てないの。どうやってもそれは変わらない!だからアンタは諦めた!負け犬は負け犬。それでいいのよ!!さっさとらしく私の足を舐めて自分の負けを認めなさい!!」
「…………」
「ほら、どうぞ?……早くしなさい!!」
キセツは再び足をエンジェルの口元に近づける。
「さぁ!!」
「…………アハっ。…ハハッ、アハハハッ!!」
エンジェルは笑いだし、止まらない。
「フフッ、アハハハッ!」
「……なに笑ってんの?…とうとう気でも狂ったわけ?」
「…んなわけねぇだろ。バーーカッ!!」
「はぁ!?」
「はぁ!?じゃねぇよ!!このおバカさんが!!……なーに、本当に私が気でも狂ったとでも思ったわけ?バッカじゃないの!?それとも本気で私が負けを認めるとでも?そんなわけないじゃない!!なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ?アンタの方が私より弱いのに!!あーー、おかしくて笑いが止まらないわよ」
「なんなの?…さっきから好き勝手言って自分の置かれてる状況が分かってるの?アンタは!私に命乞いする立場なんだよ!!分かったら黙って跪けぇ!!」
感情を露わに激昂するキセツ。
だがそれはエンジェルも似たようで。
「はいはい、分かりましたよ。あ、だけど私としたことが跪くやり方を忘れちゃったよ〜♪テヘッ!」
急に甲高い声でぶりっ子の様な態度をとるエンジェル。
「バカかお前?」
「そうなの!私バカなの!…だーから、私の代わりに見本みーせて!?」
「あぁ?」
突然エンジェルはキセツの頭頂部にとんでもない勢いで踵落としを叩き込む。
衝撃でキセツの体勢は低くなり、見事にエンジェルに跪くような形になる。
「!!……(なんで!?なんで避けられなかった!おかしい…こんな事はあり得ない!!)」
キセツはふと顔を上げエンジェルを見ると騒然とする。
「(どういうことだ。何故かコイツの周りに流れる風の様子だけがおかしい…なんで?なんでヤツの動きが風を通して分からないの!?)」
「誰が頭を上げて良いって言った?」
さっきのぶりっ子の様な姿はもうない。
今度はエンジェルがキセツの頭を踏みつけ地面に擦り付ける。
「ぐうっ…………」
「あら、随分不服そうな顔ね?どうしたの?でもちょっとムカつく…私の可愛い顔見てそのリアクションはないんじゃないの!?」
エンジェルのかける力が強くなる。
「ううっ…………」
「なんか言いたげね?」
「……何をした!!なんで、なんで急にお前の周りだけ風の流れが変わったんだ!?そんな都合いい事普通はあり得ない!!お前が何かしたんだろ!?私にお前の動きを読ませないために!!何をしたぁ!!」
「煩いわねぇ……分からないの?そんなの決まってるじゃない。私が可愛いからに決まってるでしょ?」
「あぁ?」
「だから、あぁ?じゃないっ!!」
更にエンジェルがかける力は強くなる。
「私の可愛さに見惚れて周辺に流れる風がぜーんぶ私に惚れちゃったのよ!だからアナタの能力は使えなくなった。分かった?」
「分かるわけないだろ!!」
「分かりなさいっ!!」
再びエンジェルがかける力は強くなる。(3度目)
「……風が惚れた?…そんな事あるわけないでしょ!!エルフの血を継ぐものは風に好かれる。だけどただそれだけ。エルフは風を支配し自由に使える、それを言い換えた聴き心地のいい言い伝え。風は私にとって道具。意思も意識もそんなものは風に存在しない!!」
「あら、アナタは風の声が聞こえるんでしょ?さっき自分で言ってたじゃない」
「そんなの聞こえるわけがないだろう!!あれは風を利用してお前に流れる気の流れを察知していただけだ。バカかお前は!!子供かぁ!!」
「だーから、煩い!!」
再びエンジェルがかける力は(省略)。
「確かにアナタが言うように、風なんてものにそこまでの意思はないのかもしれない。だけどこの世に存在する限り、ありとあらゆる存在は私に惚れる運命でその権利がある。そう決まってるの。だって私の可愛さは世界一でも、宇宙一でもない。私は根元的に可愛いんだから♪だから私の可愛さに掛かればそこに意思があるとかないとかそんなのは関係ない。だってそれが運命でそもそもそういうもんなんだから。分かった?」
「おかしなことを言うなぁ!!」
キセツは強引に頭を起こし、立ち上がる。
「さっきからなんなんだ!!会った時と言ってる事も雰囲気だって全然違うじゃないか!お前っ!おかしいんだよ!!」
キセツの疑問も無視するようにエンジェルは話し続ける。
「私には好きな過ごし方が2つある。1つは私の事が好きな人と一緒に過ごす時間。もう1つは、まだ私の魅力に気づいてない可哀想な人を好きと思わせるために努力し続けるこの時間!!」
「……気分が悪い。アンタおかしいわよ。どうかしてるんじゃない?アンタの事を気に入ったなんて言った自分が恥ずかしい。もういいわ…気が変わった。アンタを食べるのはやめた。アンタなんか食べたら綺麗になるどころか醜くなりそうだから!アンタは私の手でメッタメッタに殺してあげる。細かく刻んで存在自体を分からなくさせてあげるわ!!」
「そんなに私のこと、嫌いなの?」
「嫌いだよ!!」
「うわぁぁぁん!!わぁぁぁぁん!……」
急に子供のように泣き出すエンジェル。
「酷いよ。そんな思ってもないことを言うなんてさ……私の事をこんなに堂々と嫌いだって言ったのはこれで2人目。…だけど安心していいよ。直ぐに私が強引にでも!私の事が好きだって正直に言えるようにしてあげるから!!だから、私の可愛さにさっさと惚れちゃいな?」
泣き止んだかと思ったら今度は急にとびっきりの笑顔を見せてキセツにウインクをする。
「(なんなのこの子……おかしい、イカれてる!!そんな言葉だけじゃ全然足りないくらい意味が分からない!!。なんなのよ!だけどそれだけじゃない。さっきから何故か震えが止まらない……私もどうかしちゃったのかしら?あんなに派手で綺麗な格好をして笑顔のフリをしていても、今の私には悍ましい化け物が不気味に微笑んでるようにしか見えない……ダメだ、こんなヤツの相手は私がするべきじゃない。
そうよ、こんなおかしなヤツの相手は同じくらいおかしいミラルダやヤークがやればいいんだ!!そうと決まったら私はもう関係ない!)」
エンジェルは自らの能力と魔法の力で空高く飛びあがろうとする。
「あれ?逃げるの?私をメッタメッタに殺すんじゃなかったけ?」
「またまた気が変わったんだよ!お前相手にかまってる暇なんて私にはないのよ!」
「いいじゃん、もっとかまってくれたってさ!!それに、まだ私の事を好きだって言ってないんだから逃すわけないでしょ?」
飛び立とうとするキセツの体に飛びつくエンジェル。
「っ!!ちょっと!邪魔よ!離れなさい!」
「なんで?このまま飛べばいいじゃん?その方があなたにとっても好都合でしょ。ほら、早く!私も一緒に飛びたーーーい!!」
「いいから早く私から離れなさい!」
エンジェルを振り落とそうと必死に抵抗するが、エンジェルの手は一向に離れる気配がない。
「ねぇねぇなんでそんなに嫌がるの?…あ、もしかして1人乗り専用!?そうなんだ〜そうなんでしょ?アナタの能力じゃ2人一緒に飛ぶ事はできない。だからこんなに私のことを拒否してるんでしょ〜?」
「だったらなんなのよ!!そんなに気になるなら私から離れてみなさい!そうしたらアンタの疑問の答えも明らかになるわよ!」
「えぇーーー。だってさ、そんなことしたらアナタ絶対、直ぐ飛んでここからいなくなっちゃうでしょ?私分かってるんだからね?……だから尚のこと私から離れられなくしてあげる♡」
エンジェルは背後から相手の左足に自分の左足をからめ、相手の右腕の下を通り自分の左腕を首の後ろに巻きつけて締め上げながらながら脇腹や首にダメージを与えていくコブラツイストでキセツを拘束する。
「うぅ……無駄よ、こんな奇妙な動きで私を倒せるとでも?」
「逃げれるもんなら逃げてもいいよ?ほーら、どうぞ」
エンジェルは体を伸ばし更に強く締め上げていく。
「うぁぁぁ!!……ぐっ、何度同じ事をしても無駄だ。それじゃ私は倒せないし殺さないわよ!!…」
「殺す気なんてそもそもないもん。死んでも私の事好きで居続けてくれるならそれでもいいかもだけど、アナタはまだ私のことを好きとは言ってないでしょ?だから私が殺すわけないじゃん。……だから早く好きって言ってよ?ね?」
「誰が……そんなことを言うもんですかっ!!」
更にキセツは締め上がっていく。
「ぐぁぁぁ!!……だから無駄だってば。いい加減諦めなさい!」
「それはこっちのセリフ。そんなに無駄だって言うならさ、アナタお得意の風を使った魔法でなんとか抜け出して見たら?」
「い、言われなくても、そのつもりよぉ!!」
キセツは締め上げながらも魔法は発動をする体勢を整えて魔法を発動しエンジェルからの脱出を試みる。
が、
「!?」
「ん?どうしたの?」
「なんで?何故魔法が発動しないの!?風よ!!私の言うことを聞きなさい!!道具なら道具らしく黙ってわたしの力になりなさい!!」
もう一度魔法を発動しようとするがこれも不発に終わる。
「あーあ。そんな言い方じゃ誰もアナタのことを好きになんてなってくれないよ。もっと私みたいに優しく接してあげなきゃ?ね、風さん?」
大気の風はエンジェルに応えるようにエンジェルの側にだけ優しいそよ風を吹かせる。
一方エンジェルに当たらないキセツの一部分だけには強く風が吹き荒れる。
「いやぁぁ!!」
「ほら、だから言ったじゃん。これで無駄なのがどっちか分かったんじゃない?既にここ一体の風は私の虜。アナタの指示にはもう従わないから風を使った魔法も使えない。さっきみたいに私の動きを読むことも出来ない。まぁ言っちゃうと、今の動きを読んだところで仕方がないんだけどね。……ほら、早く正直になった方が身のためだよ?一言言うだけでいいんだからさ」
「……誰が、…誰がアンタみたいな馬鹿を好きになんてなるもんですか!!自意識過剰も度がすぎるんだよ!この世のみんながお前のことを好きだと思ったら大間違いなんだよ!!!」
「……そ。分かってくれないんだ。……だけど悪いのは私じゃないよ。分かってる私のことを分かってくれないアナタが悪いんだからね…」
エンジェルの締めが一瞬緩くなる。
「!!…今だ!」
キセツがその隙をついて脱出しようと豪快に体を動かす。
「だから……消えて?」
エンジェルは器用に体を動かして、一度コブラツイストをほどくと、一瞬で真横からキセツの頭部を右脇下に抱え込み、自らの背中で両腕を拘束して相手の首を絞め上げる変型とも言えるドラゴン・スリーパーの態勢に入る。
本来ならあり得ない体の動きなのだがそれを可能とする理由がエンジェルの持つ異常なまでの体の柔らかさとその隠しきれない粘着性にあるだろう。
「うぅぁぁあぁ!!…ぐぅぅう、」
キセツは言葉にならない悲鳴をあげながらもがき苦しむ。
相手の頭部と首元をガッチリと締め上げるこの技はキセツの脱出という希望を失わせていく。
「アナタが悪いんだよ?アナタがさっさと自分の気持ちに正直にならないからいけないんだからね?」
「ぐぅぅ……」
「それとも、気が変わった?」
「…………」
キセツはまともに動かせない体ながらなんとか頭を縦に動かし自らの意思を伝えようとする。
「あらま、本当に?本当に私のことが好きなの?」
「…………すきだ、好きですから、ゆ、許して……」
「嬉しい!!ようやく素直な気持ちが言えたね!私の事を好きでいてくれて私も嬉しい!!」
「なら、…早く、、」
「うん。…でも時間切れ。惜しかったね」
エンジェルの締めは今までで1番強くなり、キセツの意識をどんどんと奪っていく。
「なん、で?……」
やがてキセツは意識を失い伸びてしまった。
「好きになってくれたのは嬉しいけど、私はもう好きじゃなくなっちゃった!ゴメンネ♡」
エンジェルの勝利を祝うかのようにエンジェルの側を風が吹く。
だがその風はさっきとは違い、少しだけ妙に冷たかったらしい。
○加島 友莉亜VS●キセツ
フィニッシュ技 魔天龍
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