五十九話 疏明美乃/ソメイヨシノ
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この頃の遥とヤヨイ。
ひたすら階段を上へ上へと登っていく。
先は見えず、分かるのは延々と段が先に続く様子だけ。
それをとにかく登り続けていく遥達。
敵が襲ってくるわけでもない時間が続いていく。
遥は次第にあくびもしだし登ることに飽きはじめている。
そんな様子を見かねたヤヨイが雑談ついでに話し出した。
「あの、遥さん」
「ん〜〜?どうした?何かあった?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど……」
「何?どうしたの?」
「今って暇じゃないですか?」
「そうね、めちゃくちゃ暇。正直言って退屈だわ」
「ですよね。だから私の質問に付き合ってくれません?」
「質問?」
「はい。まだ私って皆さんと共にするようになってから日が浅いじゃないですか。だからまだ流れて的に聞けてないこともあるんですよ。せっかくなのでこのタイミングに聞きたいなーって思って…ダメですかね?」
「いいんじゃない?暇だし。私が答えられる事なら答えてあげるわ」
「ありがとうございます!」
「でも聞きたいことなんてあるわけ?私達の事でそんなに気になることももうないでしょ。私達の事はおおよそ話してあるし、ヤヨイの能力なら聞かずとも気になる事は調べられるでしょ?」
「いや、皆さんの事は私、覗けませんから。忘れたんですか?」
「ああ…そう言えばそんな事も言ってたわね」
「皆さんのことは色々と大雑把に教えてもらいましたから、一緒に過ごしている内になんとなく人なりは分かったつもりです。だけど1人だけ。私の中でまだ謎多き人物がいるんです……」
「誰?そんな分かりにくい奴いたかしら?」
「エンジェルさんですよ!」
「ああ…エンジェル。そう……」
「え、なんですかこの感じ?変ですか?」
「いや、変じゃないよ。やっぱりそうか。て思っただけ」
「別に変とか変わってるとかそんな風に思ってるわけじゃないんです!ただ…」
「ヤンキーらしくない。でしょ?」
「そうです。そうなんですよ!個性はどうであれ他の皆さんはなんとなくイメージするヤンキーっぽいんですよ」
「そう?エンジェルも十分派手で見た目だけで言ったらそんなに変わらないと思うけど?」
「派手は派手ですけど!派手の種類がなんか違うんですよ。皆さんはどっちかっていうと、個性を貫いたカッコいい系の派手さなんです!」
「彼女も個性は貫いてるじゃない」
「貫いてますけど、エンジェルさんの場合はカッコいいじゃなくてヤバい匂いがするカワイイ系の派手さなんですよね〜……」
「ふふっ…やっぱりヤヨイは見る目があるわ」
「え?」
「私から見ても、ヤヨイが言ってる事全部その通りだと思うわよ。色々な意味も含めて。まず実際にエンジェルは可愛いしね」
「それはそうなんですけど…なんかその可愛さがヤンキーのソレじゃないんですよ。アイドルっぽい感じもするし…」
「正解。エンジェルは元々、売れない地下アイドルなのよ」
「地下アイドル。そうなんですか!?」
「うん。アイドルとしての人気はまぁ……想像に任せるけど、彼女自身としては人気がなかったわけじゃないのよ。噂によると他校には勝手に作られたあの子のファンクラブもあるらしいしね」
「なんですかそれ?」
「流石に悪名高いウチの学校まで出待ちするようなヤツはいなかったけど、一歩外に出歩けば大勢の男に絡まれるのは日常茶飯事だったらしいわよ」
「へぇー。そんなにモテてたなら、彼氏もいたんですかね?あ、でも、アイドルならそれもないか?」
「確かにそれもあるけど……ここだけの話、そういう関係も無ければ男性と一度も付き合ったことがないんですって」
「ええ!?そんなにモテるのに?」
「モテるのによ。彼女に言わせれば、今まで本気で好きになれるような人がいなかったからって言ってるけど、実際はどうだか……。だけどエンジェル自身、アイドルの仕事に誇りを持ってたからプロとしての在り方の方が大きかったんでしょうね。あの子はああ見えて、派手なのは見た目だけだから。意外と真面目でピュアな心を持ってる初心な乙女なのよ。そういうところが本当にかわいいんだけどねー」
「なんかその気持ち分かります。年齢とか関係なく、妹みたいに感じるというか…これを本人に言ったら怒られるかもしれませんがね」
「そんな事ないわよ。エンジェルのアイドル時代のキャッチコピー<不思議の国からやってきたみんなのの妹>だもの。別に間違ってないわよ。フフッ……」
「なんですかその、微妙にイタいキャッチコピーは…」
「エンジェル曰く、地下アイドルはそういうものらしいわ。考えるな感じろの精神で今までやってきたみたいだから。私達も細かい事を考えちゃだめよ」
「そんなもんですかね」
「そんなもんよ。だけどちょっと前にそんなアイドルも卒業しちゃったのよね……」
「あ、そうなんですか?」
「うん。表向きの理由としては<新しい道へ進んでいきたい>っていうありがちなやつだったけど。本当のところはそうじゃないみたい。私もよくは知らないけど…噂によると、本気で好きだと思える人が出来たみたい。まぁ、残念ながらそれが上手くいったって噂はまだ聞こえてこないけどね。」
「はぁ」
「でもその代わり、それらしき男の悲鳴だけは聞こえてきたりして?」
「え!?」
「フフッ……」
「よく分かりませんけど、冗談ですよね?……」
「……」
「なんで答えてくれないんですか!?」
「……とにかく!私が言いたいのは、あの子は見た目よりピュアな心を持った少女で、狙った獲物は逃がさない、意外と執着心が強い見た目通りのヤバい女ってこと」
「それ誤魔化せてます?」
「ご想像にお任せするわ。…でもきっと今頃、あの子が誰かと戦っているのなら私は対戦相手にちょっとだけ同情するわ」
「な、なんでですか?」
「エンジェルは喧嘩ってなると天使じゃなくて悪魔になるのよ。エンジェルなんてのは見た目だけ、だから性格が悪い。コロコロ変わって面倒くさい。最初はいつも自分が思った通りに動かしてるつもりなのに、気づいた時にはあの子の手のひらの上に転がされてる。タイミングとか間合いとか、相手の空気を読んで1番ムカつくタイミングでそれを仕掛けてくる。ようは自分のペースに持ち込むのがめちゃくちゃ上手いのよ。そうなったらもう後は彼女のペース。取り返すのは容易じゃない。御愁傷様ってやつよ…」
「じゃあ今頃、もしかしたら?」
「かもね…」
遥とヤヨイは目が合うと2人して上を向き、同時に合掌したのであった。。
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