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五十八話 明奴/ミント

閲覧感謝です!

貴重なお時間にお邪魔します……

エンジェル視点


別れ道を右へと進むエンジェル。


道なりに真っ直ぐと進んでいくとやがて道はなくなり行き止まりについた。


「え〜。ここまで来て何もなし!?」


仕方なくエンジェルが来た道を戻ろうと振り向くと、窓もない場所なのにも関わらず風を吹くのを感じる。


「ん?」


そよ風のような風が流れているのが分かる。

何故なら、大気の流れが、風の流れが目に見えて分かるからだ。


エンジェルはそれに驚く。


「うわぁ!何これ?おお、風が一方に向かって吹いてるのが分かる。でもなんで?あ、もしかして私もついに魔法がついに使えるようになった感じ?!」


事実に興奮しながらもエンジェルは風の流れに従うように来た道を戻っていく。


すると、さっきまでは気づかなかったもう一方へ進む道を見つけた。


「ふーん。ここに繋がるってわけね?じゃあ、行ってみよっか!」


エンジェルはまるで遊園地のアトラクションのように楽しんでいるようだ。

風に案内されるがまま進んでいくと、開けた場所に出る。


「おっ!ここってもしかして!」

「そう、闘技場よ」


目の前にはエンジェルを待っていた中性的な姿をした人物が。


「よく来たわね。歓迎するわ。ちょっと変わった転移者さん♪」

「…………」


「何、ダンマリ?せっかくこうやって待ってたんだからもうちょっとリアクションをしてくれてもいいんじゃないの?」

「え、……」


「え?」

「エルフだーーーー!!」


「はい?」


エンジェルの興奮度合いはピークを迎える。


「凄い、凄いよ!!本物だぁーーー!!やっぱりこれぞ異世界って感じ!?めちゃくちゃ美形で綺麗だしさ!!もうっ、最高!!」


手を上げて喜ぶエンジェル。


「リアクションをしてくれとは言ったけど、流石にはこれはオーバー過ぎじゃないの?」

「そんな事ないよ!だってアナタはエルフでしょ?違うの?」


「いや、違くはないけど……」

「でしょ?」


「でも私は純粋なエルフじゃない。人間とエルフの間に出来たハーフエルフってやつよ。気味が悪いでしょ?」

「うわ来た!何その異世界設定!もしかして禁断ってやつ?何それ!?めちゃくちゃ私のドストライクの世界観じゃん!!…やっぱりこの世界最高かよ!!」


「アナタ達転移者が変わってるとは聞いてたけど、これは想像以上ね……」

「そう?そんな事ないと思うけどな〜」


「いや変わってるわよ。私の姿を見てこんなに喜んでくれる人はアナタが初めてだもの」

「そうなの?」


「そうよ」

「はぁ……出たよ、それってさ、アナタが純粋のエルフじゃないからでしょ?ハーフだからって理由だけで気持ち悪いとか悍ましいとかって言われてるやつでしょ?」


「正解。随分私みたいな奴のことに詳しいのね?」

「そりゃあ、設定から考えてこれが王道でしょ」


「設定?」

「そう。私がいた世界じゃこの世界と違ってモンスターもなんていなければ魔法も使えない。だけどそれに憧れている人はいっぱいいるし、そんな物語は沢山ある。この世界は多くの人間が想像してきた世界が似ているの。だからなんとなくこの世界の事も分かるって事」


「なるほど。世界が違えば論理が違う。当たり前かもね」

「そうよ」


「それならアナタの世界には闘技場があるのかしら?」

「え!?なんでいきなりそんな物騒な質問が出てくるのよ!」


「だってそうでしょ?アナタさっきこの場所を見た時、驚いた後ちょっと喜んでいるふうに見えたから。流石にこの世界でも闘技場を見て喜ぶ人はそんなにはいないから」

「いやいや、こんなの無いわよ!昔は外国とかであったって話は聞いた事はあるけど今はないわよ!!そんなのあったら即問題よ!!」


「じゃあなんで?」

「それは……さっき言ったみたいに私のいた世界の物語ではこういう場所が多く出てくるの。だから、憧れてたっていうか……ね?」


「こんな所に憧れを持つなんてアナタ達転移者は血気盛んで大分野蛮なのね?」

「憧れてるからってそういうわけじゃ無いから!まぁ、完全に否定もできないけどさ……」


「ふん、アナタって面白いのね?」

「まぁね〜」


「否定しないなんてやっぱりアナタは変わってる。そうじゃなきゃ私の姿を見て綺麗だなんて言うわけがないもの」

「それは違うわ」


「え?」

「それは私が変わってるんじゃない。変わってるのはアナタの事をちゃんと見ようともしない奴らの方よ。だってそうでしょ?アナタがどんな理由で生まれて来ようが、どんな姿をしていようが、それがアナタなんだから。それを理解しようともせず頭ごなしに否定して文句を言うような奴の方がよっぽど変わってるって事!!だってアナタは美人で綺麗なんだから!それを否定する奴はただの嫉妬よ」


「……知ってるわ。そんなの最初から」

「そうなの?だったらもっと自分に自信を持てばいいのに。私の所の部長が言ってたわ。まずは自分に自信を持ちなさいって。だってアナタは強いんだからって。まぁ、私に言ったセリフじゃないんだけどね」


「それも知ってる」

「え?」


先程とは打って変わって雰囲気が変わり始めるハーフエルフ。


「私が強い事も……誰よりも美しい事も。私はとっくに自信に満ち溢れてる。……そうよ、アナタが言ったみたいにそれを否定する奴らは皆私に嫉妬してる。分かってるわ。だってそんな奴らの味は嫉妬に満ち溢れた酷く甘ったるい味がしたもの……」

「はぁ?……どうしたのよさっきから」


「何が?」

「何がって……怒ってるの?」


「怒ってる?私が?怒ってなんかない。寧ろ私は喜んでいる。だって私は初めて人に褒められた。そんなの嬉しいに決まってる!」

「ならいいんだけど……」


「うん。嬉しいわ。そして楽しみ!私を褒めた人間の味はどんな味がするのかしらね?」

「……ねぇ、さっきから何が言いたいの?」


「さっき私がこんな場所で喜ぶ奴はこの世界にもいないって話覚えてる?」

「覚えてるわ。さっきの話だもの」


「……私は大好き。ここでなら合法的に人を殺せるし、死体も好きに扱える。ここにいる奴らはそれを見て喜んでる!そして私はまたそれで綺麗になって強くなる。それをまた見て誰かが喜ぶ。そうして私を馬鹿にした奴を見返していくの。そうやってこの世界は出来てるの!!」

「だからさ!何が言いたいわけ?せっかくのエルフにこんな事は言いたくないけど、いちいち言い回しがややこしくてめんどくさいのよ!もっと分かり易く言いなさい!!」


「なら分かりやすく言うわね?私の名前はキセツ。カゼノ騎士団の団長。要するに敵よ。……私はアナタを殺すためにここに招待した。そして私はアナタを食べてまた一段と美しくなる!」

「だったら最初からそう言ってよね。ここで会った時点でなんとなくは覚悟してたけど……でも残念ね」


「残念?当たりじゃなくて?」

「残念よ。だってちょっと出会いが違えばこの世界で初めての友達になれたかもしれない。そしたら元の世界に戻った時に自慢できるでしょ?こんな性格な奴でも私は異世界に友達がいるってね」


「……自慢できるわよ。アナタは私の糧になれる。それが何よりの自慢でしよ?あの世で好きなだけ言いふらしていいわよ?」

「さっきから思ってたけどさ、……前言撤回。アンタ、キモいんだよ!!何勝手に人を美味しく頂こうとしてんのよっ!!」


「どうせ食べるなら美味しくいただきたいじゃない?当たり前でしょ?その方が私はもっと強く美しくなれるんだから!!」

「何そのキモい美容法は!!聞いたことないわ!!そんな変なものばっか食べて何が美容よ!美容ってのはね、人に迷惑をかけてまでするもんじゃないのよ。そもそも人を食べて美しくなるって、どんな世界よ!それともこれがその世界じゃ普通なわけ?」


「いいえ、私の能力よ」

「あっそ。あのさ、偏見かもだけどエルフならね、変なものばっか食べてないでもっと野菜を食べなさい!!それが1番簡単よ!!」


「……この世界のエルフはね、肉食なの。因みに私は雑食よ」

「あっそうですか!」


エンジェルは飛び上がり、キセツを狙って蹴り上げに行く。


だがそんなエンジェルの目には再び、風の流れが目に見えて分かるようになる。


風の流れを断ち切るように突っ込んでいくが、突っ切った瞬間エンジェルの体が切られるような衝撃を受ける。


「!!っ……」


エンジェルは衝撃でそのまま地面に落ちる。風による斬撃は特攻服の効果でダメージは防げたが、落下時受け身を取ることができずもろにダメージを受けてしまう。


エンジェルに追い打ちをかけるように顔面を踏みつけるキセツ。


「アナタ、自分が急に風の流れを目視出来ることに都合よく考えてない?例えば魔法が使えるようになったとか……」

「だってそうでしょ!?」


「残念!違います。それはアナタが特別だからじゃない。私が特別だから。私にはエルフの血が流れている。エルフは風の流れを読みそれを物体として具現化する事ができる。事象でしかない風を私なら様々な武器にする事が出来るってこと。さっきまでアナタが見ていたのは私の能力の一部。自分が特別だなんて思わないことね!」


「なーんだ、違うのか……」

「そんなにショック?」


「ショックよ、ショック。大ショック。だけど今はもうそんなのどうでもいいわ……」

「あらま……」


「余裕に色々と説明してくれちゃって…ムカつく。しかもさっきから、可愛い乙女の顔を偉そうに踏んづけてくれちゃってさ……アンタ何様なのよ!!こっちがこうなるまでにどんだけメイクに時間かけてると思ってんのよぉぉ!!」


踏みつけられたままエンジェルは強引に起き上がり足を退けさせる。


「風の流れが変わった?……アナタもしかして怒ってるの?」

「当たり前でしょ!!」


エンジェルは持っていたポーチから鏡を取り出し姿を確認する。


「ああ!!もう……こんなにしてくれちゃってぇ……ちょっと待ってなさい!!」


ポーチから大量のメイク道具を取り出すとその場でメイクを直し始める。


「こんな状況でもそんなに見た目が大事なの?気持ちは分からないわけじゃないけど、流石にもうちょっとタイミングを見たらどうなわけ?今は戦いの最中でしょ?」

「うるさい!」


使わなくなったメイク道具を投げつけるエンジェル。


「今大事なところなんだから話しかけんなっ!!」

「何よ……その態度。気に食わないけど、まぁ、いいわ。どうせ最後は私がいただくんだもの。それなら少しでも綺麗な方がいいか…」


そしてエンジェルの準備が整う。


「よぉし、出来た!!」

「あら、雰囲気変わった?」


「どうせだからガラッと変えてみたのよ。さっきまでは日常メイク。今の私はとびっきりの戦闘メイクよ。だからお望み通り相手してあげる。……私の可愛いさに太刀打ちできるかしらね?」

「かわいい……聞いたことない言葉だけど、実にいい!!1番私に似合いそうだ!!」


「そうかしら?私にはそう思えないけどね。アンタの姿は綺麗。だけど私と違って可愛くはない。可愛いは絶対。可愛いは正義で可愛いは最強。私のいた世界じゃそれが常識なのよー!!」


エンジェルは飛び込みがてらに1発ドロップキックを繰り出すがスルッと避けられてしまう。


「フン……」


その様子を鼻で笑って見せるキセツ。


「まだまだ!!」


エンジェルは素早く立ち上がると無謀にも、もう一発ドロップキックを繰り出すが今回も同じように避けられてしまう。


「フンっ……無駄よ」


倒れたエンジェルはそのままキセツの足元を払おうとするが、風を利用して空高く飛び上がられてしまう。


「潔く諦めたらどうなの?アナタの攻撃が私に当たる事はないんだから」

「だったらさっさっと降りてきなさいよ!この卑怯者!!」


キセツは不服そうな様子で降りてくる。


「そんな言い方はないんじゃない?これも戦術のひとつでしょ?何がいけないのよ」

「少しくらいは私に合わせなさいよ!!」


エンジェルはヤツ目掛けて思いつくだけの攻撃を片っ端から叩き込む。


「アナタ傲慢ね……分かったわ。そんなに言うなら私もアナタに合わせてあげるわよ。これならアナタも文句なしであの世へ行けるでしょ?」


キセツは余裕な表情を浮かべながら、次々と攻撃をかわしていく。


「ちょこまか動くなっての!!」

「動くわよ。動かなきゃ当たっちゃうんだから!」


何度やっても攻撃は当たらない。


「だから無駄だってば。私には風の流れが見えるの。だからアナタの動きは風が私に教えてくれる。それを辿ればアナタが何を考えてるかとか、次どの位置に攻撃を仕掛けてくるかとか全部丸分かりなのよ」

「そんなん知らないわよっ!!」


エンジェルは渾身の一撃をキセツの顔面に叩き込むが、僅かな瞬間に体を逸らされ避けられてしまう。


「ほらね、言ったでしょ?」


上半身を流れのままに起こしたキセツは、勢いのままエンジェルの額にデコピンをする。

その一撃はエンジェルの体ごと吹っ飛ばさせる。


「痛いわねぇ!!…あ、ちょっと!今のであざとか出来てないでしょうね?」


額を触り傷跡を確認する。


「大丈夫よ。ちゃんと加減しておいたから。本気出してたら今頃アナタの頭なんか吹っ飛んでるわよ」

「なにサラッと怖いこと言ってんのよー!」


「そんなんで怖がってていいわけ?これは殺しあいなのよ。死ぬ覚悟もない奴が私に敵うわけないでしょう?それが出来ないなら潔く諦めて負けを認めなさい。そしたら、命を見逃してあげることも考えてあげる」

「本当に?……」


エンジェルの目つきが変わる。


「あら、さっきまでの威勢はどうしたのよ?思ったより好感触だったみたいね。…ええ。本当よ。私は嘘をつかないわ」

「そんなこと言って、最終的には「考えてあげるって言っただけで見逃すとは言ってない」とかって言って私のことを騙すつもりなんでしょう!?」


「そんなつまらないことはしないわよ。一応、さっきアナタは私のことを認めてくれた。それに嘘はなかったみたいだから、そのお礼。色々言っても嬉しくなかったわけじゃないからさ。……どうするの?諦める?」

「本当に命は助けてくれるのよね?……」


「ええ。もちろん」

「……私を食べてこれ以上美しくならなくてもいいわけ?」


「確かにそれは残念だけど、まぁ、他にも代用が効くやつはそこら辺にいっぱいいるから暫くはそれで我慢することにするわ」

「……なら答えは決まってる。今の私じゃアナタを倒せない…。私だってね、命は惜しんだから……」


「そうね。私もそれが正しい判断だと思うわ。…じゃあ、私の足を舐めてちょうだい?これを以ってアナタの敗北を形づけるものとするわ」

「…………」


「なに、できないの?できるわよね〜?アナタがそうやって負けを認めれば命は助かるのよ。それともプライドが邪魔してこんな惨めなことは出来ない?」

「やるわよ……これで助かるならプライドなんか必要ない……」


「じゃあ、よろしく」


エンジェルの前に足を突き出す。


エンジェルはそれに合わせて跪く。


「…………」


ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


よろしければブックマーク、評価を頂けると、とても励みになります!



次回もお付き合い頂ければ嬉しい限りです。

勝手に祈ってお待ちしております。

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