五十五話 騒戯響/サワギキョウ
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「あ、……あの、好きです!!!私を弟子にしてください!!」
「は?」
言ってしまった……。本当はもっと上手く言うつもりだったのがこんなストレートになるなんて。人は本当に追い込まれるとなにをしでかすか分からない。
だけど言いたかった事は間違ってない。
色々と順序をすっ飛ばしてる気もするが……。
「ねぇ、なんかの間違いじゃない?」
「え?……いやそんなことありません!」
「だったらなんで私なのよ?私は弟子を取るほど有名でも何かに優れてる訳でもない。そもそもこの学校で弟子ってなんだか雰囲気違くない?」
話があまり噛み合わない。だけどそんな事より納得のいかない事がある。
「なに言ってるんですか!!」
「え?……何が」
「遥さんは十分に強いし有名じゃないですか!!それなのにそんなこと言わないでください。少なくても私の知ってる遥さんは人前じゃそんな弱気な発言はしてこなかった筈です!違いますか?」
「ん?…いやさ、強いって言っても威張ってた上級生を倒しただけ。しかもその事を知っているのは学園内か物好きなヤンキーだけよ。色々とちょっと私の事を買い被り過ぎなんじゃない?それにアナタの言っている事はよくわからないし…」
「え?……あの、桐生遥さんですよね?私、もしかして本当に間違ってます?」
「いや名前は間違ってないけど…他の事が色々と……」
「遥さんが所属していた団体で最年少兼女性として初めて団体シングル最強のベルトを獲ったあの桐生遥さんですよね?!」
「……はい。あっ、合ってますよ…はい」
私の熱量に彼女は少しついていけてない様だった。
「やっぱり…ほら!私は間違ってませんよ!私は貴方にずっと会いたかった。ファンとして、この学園の生徒としても」
「まさかね…バレてるなんて夢にも思ってなかったわ。どうりで2人して話が噛み合わないわけね」
「え?」
「私の過去を知ってる人がこんな所にいるなんて全く思ってなかったからさ」
「過去なんて!、そんな悲しい言い方で言わないでください……」
「過去は過去よ……私にとってもアナタにとっても」
「…………」
その言葉に私は何も返す事ができなかった。
色々と会ってみたのなら聞いてみたい事はいっぱいあった。
今までで1番辛かった試合はなんだったのか?とか、仲がいい選手は誰ですか?とか、なんで突然理由も言わずに引退したんですか?とか。
だけど、今の彼女の一言に私が聞きたかった全てが集約されている気がした。
「……アナタの言いたかった事はなんとなくわかった。最初のことだけど、」
「あ、はい。考えていただけましたか?」
「うん。まず、好き云々ってのは私の元ファンとして意味で合ってるわよね?」
「まだ元じゃありません……」
「そう……で、弟子の件についてなんだけど」
「はい」
「ハレ女の私としてはお断り。そもそもヤンキーの弟子って意味わかんないでしょ?兄弟分とかならともかくさ……」
「というとことは、もう1人のアナタとしてなら私を弟子にしてくれるってことですよね?」
「元プロレスラーの私の弟子になりたいって話なら……もっとお断りよ」
「え、なんでですか!?」
「生憎だけど私に教えられるなんてこと何もないし、資格もない」
「そんな……」
「だけど、どうしてもプロレスラーになりたいって言うなら私から団体側に口利きはしてあげる。と言っても自分勝手に辞めた私が口利きできる相手なんか殆どいないんだけどね……」
「それじゃ駄目なんです……」
「心配しなくても大丈夫よ。私は無理でも私の伝手にまだ現役で活躍してる奴がいる。そいつは私と違って近いうちに円満に団体を辞める予定なんだけど、そいつなら面倒見もいいし上手く団体側に紹介してくれるわ。私がいた団体ではないけれど、繋がりのある女子団体だからその辺も大丈夫。だから、私は伝手のある人物を自分の伝手で紹介してあげる。そこからどうなるかはアナタ次第。先輩として応援するわ。これから先も色々とあるだろうけど頑張って。…そういう事だから、私の事は諦めて」
「それじゃあ、駄目なんですよ!!!」
私は叫んだ。とにかく大きな声で叫んだ。
もう、言いたい事を言ってやる。
それで嫌われても構わない。
「…今ので何か不満かしら?」
「そうじゃないんですよ!!私は別にプロレスラーになりたいとかそういうわけじゃないんです!!」
「え、そうなの?」
「そうですよ。確かにプロレスラーの仕事は凄いしかっこいいって本気で思ってます。だけどアナタがそこにいないんじゃそんなの目指してもしょうがない!私はプロレスが好きです。でもそれ以上に、桐生遥!私はアナタのファンなんだ!私はプロレスラーとしてでもヤンキーとしてでもないアナタの弟子になりたいんですよ!!」
「……アナタ、そんなこと自分で言ってて変だと思わないの?」
「思ってますよ……だけどこれが私の本心なんです!」
「ヤンキーとしてでもプロレスラーでもない私なんかの弟子になってどうなりたいわけ?…何か夢や目標があって言ってるなら考え直したほうがいいと思うけど」
「そんなのはありません……私はただ!」
「じゃあ何がしたいの?」
「分かりません……」
「呆れた……。そんな見栄張った割にはいい加減な気持ちで言ったわけ?別に夢や目標を持てとかそんな無責任な事を言いたいわけじゃない。でも何も分からず、何も決められない今のままじゃ何も変わらないわよ。アナタはアナタで色々と考えて来たんだろうけど、今のままじゃプロレスラーにもヤンキーにもどっちにもなれないまま。そんなんじゃ私が教えられるものも教えられない。諦めてちょうだい」
そのまま彼女はその場を去ろうとした。
「そうですよ!!」
私の叫びに彼女は足を止める。
「……そんなの、私だってとっくに分かってます。でも…分からないんですよ…分からない事が分かるだけ……遥さんは強い。実力も人間としても強いんです。そんなアナタに私の気持ちなんか分からないでしょ……」
こんな事が言いたかったわけじゃない。
私の事をわかって欲しいとかそんな事でもない。
だけど、こんな言い方じゃ何も伝わらないし伝えられない。
でも今の私にはこんな言い方しかできなかった。
「分からないわよ。分かるわけないでしょ。心を読める超能力を持ってるわけじゃないんだし、私は別にアナタが言うみたいに特別なんかじゃない」
「私から見たら十分特別ですよ……」
「そんな事言ったら私から見てもアナタは特別だと思うけど?」
「誤魔化さないでください」
「別にそんなつもりはないわ」
「……強いからそんな事が言えるんです。自信があるから生きたい生きれるんです……遥さんが言うように私は変わりたかった。だけど、無理だった……」
「はぁ……」
溜め息をつく遥。
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