五十四話 璃奈莉愛/リナリア
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昔も今も私は何も変わらない。
小さい頃から何をしても普通かそれ以下か。
凄いね!とか、天才だね!みたいな上部だけでありきたりな褒め言葉すら私は貰ったことがない。
だからと言って何もできないわけじゃない。だからこそ余計に目立たず褒められる事はなかった。
親もそんな不器用な私を心配して、こんな私でも必ず何か得意な事があるんじゃないかと思い、様々な事を体験させ習わせてくれた。
音楽関係、スポーツ関係、文化関係、習い事とつくものは一通りやった思う。それ以外でも私が気になった事はなんでも体験させてくれた。
普通に考えたらこんなに恵まれた環境はないのだろう。それは幼い頃の私でもなんとなく分かっていた。
だから絶対、自分は親を裏切れない。だってきっと上手くいくから。そうやって両親に言われ自分でもそう言い聞かせた。
思いつくあらゆる事を片っ端からやってきた私。
すると、何をしても普通かそれ以下なそんな私が唯一、得意だと思えるものが見つかったのだ。
自分でもそう思ったし周りからもそれで初めて褒められた。
ようやく私が得意と誇れるものが見つかった。これで私と両親の努力は報われる。
家族してそう察した私達はとても喜んだ。
私はそれに絞って全ての時間と体力を注ぎ努力を惜しまなかった。だってこれが私の得意なものだから。何も辛くはない。
だけど……それも違った。上には上がいる。そんな事は覚悟していた。
でも実際にそれを思い知らされればそんな覚悟は呆気なく砕け散った。みるみると私は弱くなった。今まで出来ていたことすら出来なくなった。
そうして言われるんだ。
君は天才でもなければ凡人でもなかっただけだって。
そんな私の姿を見た両親は、諦めるなと、そう応援してくれた。私のために力になってくれるって。
だけど……そう言われるたびに私は思ってしまった。このままじゃ何をしたって繰り返すだけだって。
それで苦しむのはいつも私。分かっている事を分かっていないかのように知らされる。
そんなのはもう嫌だった。
私は荒れた。何もかもが嫌になって全てを反発しようとした。所謂反抗期。
だけど私の親からするとそれは不思議だったらしい。
ウチの子がおかしくなった。ウチの子はどうかしてる。ウチの子は何かに取り憑かれた。
そう言う度にまた私に言うんだ。
大丈夫、きっと上手くいくから。
いつ間にかその言葉が励ましや希望を与えるものではなくなっていた。
それはもう呪いだよ……
そんな私は親への反抗心で別に行きたくもなかったハレルヤ女学園に入学した。
言わずと知れた不良学校。そんな学校に娘が行こうとしてるのだから親は必死にそれを止めようとした。
親からしてみればいい学校に行ってほしいと思うのは必然だろう。
そんな所に自分の娘が行っては欲しくない。当たり前だ。
だけどその時の私はそれが嫌だった。
不良学校に行ったとしても私自身が別に不良になるってわけじゃない。
だから何かが変わるわけでもない。
ただ変化が欲しかった。
それだけ。
ハレ女に入学してから半年程経った頃、学校内がとても騒がしかった頃がある。
特に興味のない私にも噂は聞こえてきたほどだ。
とある2年生が突如として学園のトップになったって。
だからなんなんだ。私には関係ない。勝手にやっててくれ。
そんな事を思って学園内を歩いていると、噂の2年生を見かけた。
正直見た目からじゃとてもこの学園の生徒とは思えなかった。
不良になんて見えなかったし、なんて言ったってめちゃくちゃ綺麗だったから。
あと言えば、私が彼女を何処かで見たことがある気がしたぐらい。
学年が違えど同じ学園内にいるのだから当たり前と言えば当たり前。
だけどそうじゃなかった。
両親への反抗心が芽生えた頃。それと同時に新しい趣味にも出会っていた。
きっかけはネット動画。いつもなら興味も示さない、見る事もない。たまたまオススメに出てきた一つの動画。
何故かその日の私はそれが無性に気になった。
だから見てみた。
<桐生遥VS 麻戈沙莉 スペシャルシングルマッチ>
そんなタイトルが書かれたプロレスの動画。
プロレスなんか女子も男子も見た事もない。そもそも格闘技やスポーツ自体興味がない。なんとなくそこら辺のルールは分かるけど、よくは分からない。私の中でのプロレスのイメージはガタイのいい大人達が戦う格闘技。競技が違うだけで格闘技なんだからどれも似たり寄ったり。それが私のプロレスに対してのイメージだった。
だから初めて見たプロレスの試合に私はとても驚いた。
その時の衝撃はこれから先も忘れる事はないだろう。
私と殆ど年齢の変わらない女子が平然と戦っている。2人ともプロレスラーとは思えないほど細い体格でモデルみたい。
なのに私がイメージしていた通りのプロレスの試合が行われている。体と体がぶつかり合い、互いに技を受けあう。客観的に見れば避けれる攻撃も多いはずなのに敢えて受ける。そんな姿勢が私にとってはとても新鮮で刺激的だった。
最初はただ興味本位で見始めた筈が気づいた時には自分で調べて身漁るほど沼にハマってしまっていた。
プロレスが面白いと思ったのも勿論あるのだが1番の理由は、桐生遥の事が純粋にファンとして好きになった事が1番大きいと思う。
勝手にだけど、彼女は私の希望で、そして憧れの存在となった。
本当に凄いよ。
あの人は。
だって女子同士ならまだしも、性別も体格も年齢も、全く違う男性相手とまともに本気の真向勝負が出来る人間はこの人しかいないと思う。
誰にでもできる事じゃない。
試合から見えるそんな彼女の生き様のような物が私を虜にした。そして、彼女の試合を見ている間だけは難しい事を考えずに済んだ。
その時間が私にとって大切で小さな幸せを感じられる楽しい時間であったから。
だけど、やっと見つけたそんな小さな幸せさえも私の側からは逃げていく。
某日、<桐生遥VS月美弥葵>因縁の対決が決着するスペシャルマッチ。今までシングルマッチとしては一度も実現してこなかったこの組み合わせにファンはとても喜んだ。
勿論私もその1人。
残念ながら会場に行く事はできなかったが、配信もあるので私はそれを見ながら応援することにした。
しかし、その試合が行われることなかった。
本大会が始まる少し前、私は画面の前で待機していると突然画面が切り替わり団体のお偉いさんが出てきた。
私は何が起こっているのかよくわからないままそれを見ていると、ファンに告げられたのは月美弥葵の訃報だった。
それにより本大会の試合は中止、配信を含む全てのチケットの払い戻しがアナウンスされた。
そんな結末で因縁の戦いは因縁のまま終わることとなった。
そして後日。
再び私に衝撃が襲う。
団体側から急遽発表された<桐生遥卒業>という名の脱退兼引退のお知らせ。
詳しい理由も発表されないまま突然として、彼女はリングの上からも私の目の前からも姿を消したのだ。
それ以降私はわかりやすい程に落ち込み生きる希望を失った。
それこそ何も手がつかないほどに……。
これが俗にいう〇〇ロスってやつなんだと骨身に染みて分かった。。
そしてある日気がついた。
あの時、学校で見た噂の上級生は桐生遥なのだと。
普通に考えたらそんな偶然あるわけない。だけどあの姿がそっくりさんだとは私にはとても思えなかった。
色々と疑問は残ったまま、私はひとつの答えに辿り着
き彼女を探して回った。
「あの……遥さん!!、ですよね?…」
私は校内を歩く桐生遥を見つけ慌てて声をかけた。
周りには彼女と私以外誰もいない。
これがきっと彼女と話せる最初で最後のチャンスだと思ったからだ。
「なに?……」
彼女はダルそうに私の方へ振り向く。
その様子はイメージと違ったが驚く事はなかった。
「あ、あの、……」
話したいことはとっくに決まっている。だけど憧れの存在に会うと人は想像以上に緊張してしまう。あらかじめ用意していた言葉すらうまく出てこない。
「なに、どうしたの?……」
彼女の2回目の問いかけのプレッシャーに私は耐えられず、つい発した言葉が…
「あ、……あの、好きです!!!私を弟子にしてください!!」
「は?」
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